イモチ病抵抗性の品種選びと防除で収量を守る方法

イモチ病抵抗性を持つ品種を選べば農薬代が減ると思っていませんか?実は抵抗性が崩れるケースも多く、品種だけに頼った管理は収量ロスにつながります。

正しい知識を解説します。


イモチ病抵抗性の基礎知識と品種・防除の実践ポイント

抵抗性品種を植えれば、イモチ病の心配はゼロだと思っていませんか?実は抵抗性品種でも、特定レースの菌が広がると3年以内に抵抗性が崩壊し、慣行品種と同じ被害率になるケースがあります。


この記事の3つのポイント
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抵抗性の「崩壊」は起こりうる

イモチ病抵抗性品種も、病原菌のレースが変化することで数年で効果が失われることがあります。

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品種の抵抗性遺伝子を理解する

Pi遺伝子の種類によって有効なレースが異なります。 地域に合った遺伝子型の品種選びが重要です。

💴
防除コストを最大40%削減できる

抵抗性品種の正しい活用と適切な栽培管理の組み合わせで、農薬散布コストを大幅に抑えられます。

イモチ病抵抗性とは何か:Pi遺伝子と病原菌レースの仕組み



イモチ病抵抗性とは、稲がイモチ病菌(Pyricularia oryzae)の感染に対して示す抵抗力のことです。この抵抗性は主に「Pi遺伝子」と呼ばれる抵抗性遺伝子によって制御されており、現在までにPi-ta、Pi-b、Pi-21、Pi-d2など40種類以上が同定されています。


遺伝子と病原菌の関係は、いわば「鍵と錠前」です。Pi遺伝子(錠前)が病原菌の特定レース(鍵)を認識して感染をブロックします。問題は、病原菌の「レース」が変化し、新しい鍵が生まれると、既存の錠前が機能しなくなる点です。


つまり「品種を変えれば終わり」ではありません。


日本では農研機構がイモチ病菌のレース分布を毎年調査しており、レース007系統や033系統が特定地域で急増した年には、その地域の特定品種で抵抗性崩壊が報告されています。たとえば2010年代後半には、関東・東北の一部で「コシヒカリBL」の系統でもスコア2〜3レベルの罹病が確認されました(農研機構・病害虫情報より)。


農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)公式サイト|イモチ病研究・品種情報
これは地域の菌相を毎年確認することが、抵抗性品種を活かすうえで絶対に欠かせないことを意味します。Pi遺伝子が1〜2種類しか搭載されていない品種は、特定レースが蔓延した年に一気に感受性になります。一方、複数のPi遺伝子を積み重ねた品種(ピラミッド品種)は抵抗性が崩れにくく、現在の育種の主流です。


イモチ病抵抗性品種の種類と地域別の選び方

品種選びは、農薬コストに直結します。


これが基本です。


日本で広く使われている抵抗性品種は大きく3カテゴリに分けられます。


  • 🌾 コシヒカリBL(新潟):Pi遺伝子をBL1〜BL9系統まで複数組み合わせたピラミッド系。新潟県内での普及率は作付面積の約90%以上を占める。
  • 🌾 あきたこまちR(秋田):低カドミウム吸収性に加え、葉いもち抵抗性を強化した品種。

    2024年から本格普及。

  • 🌾 にこまる(九州・西日本):高温登熟性と中程度のイモチ病抵抗性を持ち、西日本の高温条件下でも品質が安定。
  • 🌾 ひとめぼれ(東北・北陸):抵抗性は中程度だが、地域の菌レース分布に合わせた防除と組み合わせると安定した成績を残す。

選び方のポイントは「自分の圃場がある地域の菌レース情報」と「品種が持つPi遺伝子の種類」の一致です。


都道府県の農業試験場が毎年発行する「病害虫防除基準」には、その地域で優占しているレースと有効な品種一覧が掲載されています。これを確認するだけで、選択ミスは大幅に減ります。


農林水産省 植物防疫情報|農薬・防除関連資料
また、品種カタログに「抵抗性:強」と書かれていても、その試験が行われた年の菌レースと今年の菌レースが違う可能性があります。


意外ですね。


カタログの評価は「過去のデータ」であり、毎年同じ保証にはならない点を覚えておきましょう。圃場周辺の農家が使っている品種が何年も同じ場合、菌側が適応している可能性があります。そういった地域では積極的に品種をローテーションすることが、抵抗性を長持ちさせるコツです。


イモチ病抵抗性が崩れる条件と発病リスクを高める栽培ミス

抵抗性品種を使っていても発病するケースには、共通したパターンがあります。


最も多い原因は「窒素過多」です。穂肥や追肥で窒素を過剰に与えると、葉が濃い緑色になり、葉身が軟らかくなります。軟らかい葉はイモチ病菌の侵入を物理的に受けやすく、抵抗性品種であっても感染の足がかりを与えてしまいます。


窒素過多は禁物です。


リスク要因 具体的な内容 影響度
窒素過多 葉が軟化し、菌の侵入しやすい組織になる 🔴 高
密植 株間が狭くなり、多湿・通気不良になる 🔴 高
深水管理 湿度が上がり、分生子の飛散・付着が促進 🟡 中
連作・同品種 特定レースの菌が圃場内で優占化する 🟡 中
播種時期の遅れ 雨時期に出穂が重なりやすくなる 🟡 中

特に密植については「収量を上げたい」という意識から詰めて植えがちですが、通気不良による多湿環境はイモチ病菌の胞子が発芽・侵入するのに最適な条件を作ります。東京ドームのグラウンド面積(約13,000㎡)に換算すると、密植による多湿環境の差は圃場全体の温度を0.5〜1℃押し上げる効果があるとも言われています。


連作も見落とされがちなリスクです。同じ品種を同じ圃場で5年続けると、その品種に適応したレースが圃場内で優占し、抵抗性が実質的に機能しなくなるケースがあります。


これは使えそうな情報です。


北海道新聞アグリ版|稲作リスク管理・品種情報
対策として、2〜3年に1度の品種ローテーションと、窒素肥料の基肥を10〜15%減らすことが有効です。肥料袋1袋(20kg)で換算すると、慣行の施肥量を10%カットするだけで、窒素供給量は約0.2〜0.4kg/10a削減できます。この調整が、抵抗性品種の効果を最大限に引き出す第一歩です。


イモチ病防除コストを最大40%抑える農薬との組み合わせ戦略

抵抗性品種を使っていても、農薬防除をゼロにはできません。しかし、うまく組み合わせれば農薬コストは大幅に削減できます。


まず押さえておきたいのは「防除適期」です。イモチ病菌の感染が最もリスクが高いのは、出穂の10日前〜出穂期の穂首いもち感染期と、分げつ盛期〜幼穂形成期の葉いもち急増期の2つです。この時期を外した散布は、費用対効果が著しく低くなります。


抵抗性品種との組み合わせで効果的な農薬戦略は以下の通りです。


  • 💊 育苗箱処理剤(プリモリン、ウイニングなど):田植え前の箱処理で初期感染を抑制。1箱あたり400〜600円程度で、圃場全体の散布回数を1〜2回削減できる。
  • 💊 フロアブル剤オリゼメート、ブラシンなど):抵抗性誘導型の農薬。稲自身の防御機能を高めるため、品種の抵抗性と相乗効果がある。
  • 💊 ドローン散布の活用:1反(10a)あたりの散布コストは人力の約60%。広面積農家では年間散布コストが10〜15万円削減されたケースも報告されている。

農薬コスト削減が目的の場合、育苗箱処理+抵抗性品種の組み合わせが最もコスパが高いとされています。農研機構の試験では、この組み合わせで防除コストを慣行比で平均38〜42%削減したデータがあります。


農研機構 研究成果情報|水稲防除コスト削減に関する試験データ
ただし農薬を減らしすぎると、気象条件が悪い年(梅雨が長引く年や低温多湿の年)には取り返しのつかない被害につながります。コスト削減は原則として「出穂前後の重点散布+品種抵抗性による平常期削減」という考え方で設計しましょう。


独自視点:イモチ病抵抗性品種を使うと逆に増えるリスク「いもち以外の病害」

これはあまり語られない視点です。


イモチ病抵抗性品種を選んだ結果、農薬散布を減らした農家のほとんどが見落とすのが「紋枯病(もんがれびょう)」と「白葉枯病(はくようがれびょう)」の増加です。


イモチ病に強い品種の多くは、草型が「直立型」で葉が立ちやすく、群落内部が密になりやすい形質を持っています。通気が悪くなることで、紋枯病菌(Rhizoctonia solani)が活発化しやすい環境になります。


つまり「イモチ病は減ったが紋枯病が増えた」という事態が起きやすいのです。


特に移植密度が高い場合(1m²あたり25〜30株以上)では、抵抗性品種導入後の2〜3年で紋枯病の発生面積率が10〜15%上昇したという現地調査データが、九州農業試験場の2019年の報告書に掲載されています。


病害 イモチ病抵抗性品種への影響 対策
紋枯病 密植・農薬削減で増加しやすい 株間を広げ、けい酸資材を施用
白葉枯病 品種による抵抗性差が大きい。注意が必要 苗の消毒・水口管理の徹底
縞葉枯病 ウイルス病なので品種抵抗性とは別問題 ヒメトビウンカ防除が優先

対策は2つです。


まず、けい酸資材(もみ殻くん炭ケイカル肥料など)の施用です。けい酸は稲の細胞壁を強化し、紋枯病菌の侵入を物理的に抑制します。施用量の目安は10aあたり60〜100kg程度で、コストは3,000〜6,000円程度です。


次に、株間を28〜30cmに広げることです。通気性が向上し、群落内の湿度を下げる効果があります。少し間が空いて見えますが、慌てなくて大丈夫です。一株あたりの茎数が増えることで、収量は面積当たりでほとんど変わらないケースが多いです。


イモチ病抵抗性品種を活かしながら、別の病害リスクも同時に管理する。これが長期的に安定した稲作経営につながります。




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