芝生が美しい緑の絨毯(じゅうたん)を形成するためには、個々の株が独立して成長するのではなく、横方向への広がりが不可欠です。この横方向への拡大を担う器官こそが「匍匐茎(ほふくけい)」です。一般的にガーデニング用語では「ランナー(Runner)」とも呼ばれますが、植物学的には「ストロン(Stolon)」と定義されます。
匍匐茎は、親株の根元から地表に沿って水平に伸びる茎のことを指します。最大の特徴は、茎の途中にある「節(ノード)」から新しい葉と根が発生することです。この節が地面に接触し、水分と養分を感知すると、そこから不定根が伸びて新たな株(子株)として定着します。つまり、匍匐茎は単なる茎ではなく、「移動するクローン工場」としての機能を持っています。
一方で、よく混同されるのが「地下茎(ちかけい/Rhizome)」です。両者の決定的な違いは、「地表を這うか、地中を潜るか」にあります。
農業従事者や芝管理のプロフェッショナルにとって、この違いを理解することは極めて重要です。なぜなら、匍匐茎主体の芝は、物理的な踏圧(踏みつけ)によって茎自体が損傷しやすいため、競技場や放牧地での利用には耐久性の面で品種選定がシビアになるからです。逆に、地下茎を持つ品種は、地中の茎が守られているため、表層が剥げても再生しやすいという特性があります。
匍匐茎を持つ芝の密度を劇的に高めるためには、植物の生理反応を利用した「処理」が必要です。単に放置して伸ばすだけでは、密なターフは形成されません。ここで重要になるのが「目土(めつち)」と「刈り込み」の相互作用です。
まず、匍匐茎の節から発根させるための「目土」の重要性について解説します。
匍匐茎は空中に浮いている状態では、節から根を出すことができません。根は湿気と土壌の接触刺激によって誘導されるため、伸びてきたランナーに対して薄く土(砂)を被せる作業が必須となります。これを「目土入れ」と呼びます。
特に、新しく伸びた若い匍匐茎は乾燥に弱いため、目土で覆うことには以下の3つのメリットがあります。
次に、「刈り込み」による繁殖刺激です。
植物には「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」という性質があります。これは、茎の先端(頂芽)にある成長点が優先的に成長し、側面の芽(側芽)の成長を抑制するというホルモン作用です。芝刈りによって匍匐茎や直立茎の先端をカットすると、この頂芽優勢が打破されます。その結果、抑制されていた側芽がいっせいに動き出し、「分げつ(ぶんげつ)」と呼ばれる枝分かれが爆発的に起こります。
| 管理方法 | 芝の状態 | 匍匐茎の変化 |
|---|---|---|
| 放置 | 上にばかり伸びる | ランナーが太く長くなるが、枝分かれせずスカスカになる。 |
| 週1回の刈り込み | 適度な密度 | 先端が止まることで、横方向へのエネルギー配分が増える。 |
| 低刈りと頻度増 | 高密度(ターフ) | 常に頂芽が切られるため、無限に分げつを繰り返し、網の目状に絡み合う。 |
農業的な視点で見ると、これは作物の「摘心(てきしん)」と同じ原理です。高品質な芝を生産する農家は、出荷前に頻繁な刈り込みを行い、根マットを強固に仕上げます。一般家庭でも、匍匐茎が活発に動く5月~9月の成長期に、あえて低めに刈り込み、直後に薄く目土をすることで、驚くほど早く裸地を塞ぐことが可能です。
芝生の密度を上げるための成長メカニズムと手入れのポイント
埼玉県:校庭芝生化マニュアル(目砂とランナー伸長の相関について記述あり)
匍匐茎は芝生の拡大に不可欠ですが、管理範囲を超えて伸びる場合や、不健全な伸び方をした場合は、適切な「除去」と「対策」が必要です。ここでは、特に問題となりやすい「浮きランナー」と「越境ランナー」の処理について深掘りします。
1. 浮きランナー(フローティングランナー)の脅威
浮きランナーとは、サッチ(枯れた芝の層)や既存の芝の葉の上に乗り上げてしまい、土に接触できずに空中で成長してしまった匍匐茎のことです。これが多発すると、以下のような深刻なデメリットが生じます。
対策方法:
浮きランナーが発生した場合、上から踏みつけても効果はありません。最も確実な方法は「垂直切断(バーチカルカット)」です。専用の機械やレーキを使って、浮いているランナーを物理的に切断し、除去します。その後、たっぷりと目土を入れて、残った茎を土に埋め込むことで、正しい位置での発根を促します。
2. 越境ランナーの遮断(エッジ処理)
匍匐茎の生命力は凄まじく、花壇や通路、隣家へと侵入します。これを防ぐために、物理的な遮断が必要です。
農業用の「あぜ板」や専用の「根止めストッパー」を地中深さ15cm~20cmまで埋め込むのが一般的ですが、完全に防ぐことは困難です。なぜなら、匍匐茎は障害物に当たると、それを乗り越えるか、隙間を見つけて潜り込む性質があるからです。
プロのテクニック:ターフカッターによる断根
最も効果的なのは、定期的な「エッジ切り」です。ターフカッターという半月状の刃を持つ道具を使い、芝生の境界線を垂直にザクザクと切断していきます。
この作業のポイントは、「親株からの栄養供給を絶つ」ことにあります。越境したランナーは親株から水や養分をもらって生きていますが、境界線で切断されると、越境した先で独立して生きなければならなくなります。しかし、花壇や砂利道では十分な水分が得られないため、切断された先端部分は自然に枯死するか、容易に引き抜けるようになります。
除草剤(グリホサート系など)を筆でランナーの先端に塗るという裏技もありますが、匍匐茎を通じて親株まで薬液が逆流し、必要な芝生まで枯らしてしまうリスクがあるため、推奨されません。物理的な切断こそが、最も安全で確実な管理法です。
芝生のランナーの正しい手入れとトラブル対策
芝のほふく茎(ランナー)の基礎知識と処理の必要性
ここまでは庭園管理の視点でしたが、ここでは「農業土木」としての匍匐茎の活用について、検索上位にはない独自視点で解説します。
農地や水田の畦畔(けいはん)、ため池の堤防において、匍匐茎を持つ芝は単なる緑化植物ではなく、「防災資材」として極めて重要な役割を果たしています。
特に注目されているのが、「センチピードグラス(ムカデシバ)」や「バミューダグラス(ティフトン)」といった強力な匍匐茎を持つ品種の機能性です。
1. 土壌緊縛力(ソイルバインディング)による法面保護
匍匐茎は地表を網の目のように覆いますが、その各節から伸びる根は地下深く(品種によっては50cm以上)まで侵入し、土壌粒子を強力に抱え込みます。これにより、大雨による法面(のりめん)の崩壊や、表土の流出を防ぐ「天然のアンカー」となります。
コンクリートで固めるよりもコストが安く、かつ生態系を維持できるため、近年の農業農村整備事業(多面的機能支払交付金活動など)では、匍匐茎植物の導入が推奨されています。
2. アレロパシー作用による雑草抑制
これは非常に興味深い特性ですが、センチピードグラスなどの一部の匍匐茎植物は、「アレロパシー(他感作用)」という化学物質を根や茎から放出します。この物質は、他の植物(特にイネ科以外の雑草)の発芽や成長を阻害する働きがあります。
農業現場では、草刈りの労力が最大の負担の一つです。しかし、強力な匍匐茎とアレロパシーを持つ芝で畦畔を被覆してしまえば、カメムシの温床となる雑草を排除しつつ、年間の草刈り回数を劇的に減らすことができます。これを「カバープランツ農法」と呼びます。
| 品種名 | 匍匐茎の太さ | 特徴と農業メリット |
|---|---|---|
| センチピードグラス | 太い | 酸性土壌や痩せ地に強い。アレロパシーが強く、省管理型緑化の主役。種子繁殖も可能。 |
| ティフトン419 | 細く緻密 | 成長スピードが極めて速い。踏圧に強いため、農道の補強や家畜の放牧地にも適する。 |
| ノシバ(野芝) | 非常に太い | 日本在来種で環境適応力が最強。根が深く張るため、大規模な堤防の崩落防止に使われる。 |
このように、匍匐茎は単に「横に伸びる」だけでなく、その強靭なネットワーク機能によって国土保全にも寄与しています。芝を選ぶ際は、美観だけでなく、こうした「機能的特性」も考慮に入れると、より目的に合った管理が可能になります。
山口県:やまぐち型畦畔法面緑化工法(センチピードグラスの活用事例)
農林水産省:畦畔管理の省力化に向けた芝生導入の実証
芝生を数年間管理していると、徐々に密度が低下し、病気にかかりやすくなることがあります。これは匍匐茎の「老化」が原因です。
匍匐茎は無限に伸び続けることができますが、根元の古い部分は徐々に木質化し、養分の通り道(導管・師管)が詰まってきます。また、古い根が地中で過密状態(ルートマット)になると、新しい根が伸びるスペースがなくなり、芝全体が窒息状態に陥ります。
これを防ぎ、匍匐茎を若返らせるための外科手術が「更新作業(リノベーション)」と「エアレーション」です。
1. 匍匐茎の切断による若返りホルモンの誘導
植物には、傷つけられた組織を修復しようとする際に、サイトカイニンなどの細胞分裂を促進するホルモンが分泌される性質があります。
「スライシング」や「バーチカルカット」と呼ばれる作業は、芝生に対して垂直に刃を入れ、地中の古い匍匐茎や根をズタズタに切断します。一見、芝を痛めつけているように見えますが、これがスイッチとなります。
切断された古い匍匐茎の断面からは、猛烈な勢いで新しい根と芽が再生し始めます。これを「萌芽更新(ほうがこうしん)」と呼びます。農業でナスやトマトの枝を切り戻して収穫期間を延ばすのと全く同じ原理です。
2. エアレーション(コアリング)による呼吸の確保
エアレーションは、ローンパンチなどの器具を使って地面に穴を開け、土壌を円柱状に抜き取る作業です。この作業の真の目的は、単に空気を入れるだけでなく、「古い匍匐茎と根を物理的に間引く」ことにあります。
抜き取った穴(コア)の分だけ、地中には新しいスペースが生まれます。そこに新しい目土が入ることで、匍匐茎は再び新鮮な土壌環境に出会い、若々しい根を伸ばすことができるのです。
実施のタイミングと注意点
これらの更新作業は、芝へのダメージが大きいため、芝の体力が最も充実している時期に行う必要があります。
更新作業を行った直後は、芝生が一時的にボロボロの見た目になりますが、ここでたっぷりと水と肥料を与えることで、1ヶ月後には以前よりも遥かに緻密で鮮やかな緑の匍匐茎ネットワークが復活します。この「破壊と再生」のサイクルを恐れずに実行することが、10年、20年と続く美しい芝生を作る秘訣です。
芝生の更新作業とサッチ除去の重要性について
高麗芝のエアレーションと若返りのメカニズム

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