「アブラムシに殺虫剤を撒けば大丈夫」と思っていると、虫が死んでもウイルス病は防げず、収量が半分以下になることがあります。
ダイコンアブラムシは体全体が灰白色の粉(ロウ物質)で厚く覆われており、白っぽい塊のように見えます。 体長は約1.7mmほどで、はがきの厚みにも満たない極小の虫ですが、大きなコロニーを形成するため視認しやすいのが特徴です。fmc-japan+1
ニセダイコンアブラムシはダイコンアブラムシよりもロウ物質が薄いため、真っ白には見えません。 腹部に緑黒の斑紋があり、幼虫は蝋が少ないため黄色がかって見えます。 この斑紋の有無が、最も確実な見分けポイントです。
参考)https://www.fmc-japan.com/wiki/vegetable/stink-bug/turnip-aphid
両種ともアブラナ科の作物に寄生しますが、寄生しやすい作物に少し差があります。 ダイコンアブラムシはキャベツへの寄生が多く、ニセダイコンアブラムシはハクサイ・ダイコンを好む傾向があります。 「ダイコン」という名前がついていても、ダイコンへの寄生はむしろ少ないというのは意外ですね。noukaweb+2
| 項目 | ダイコンアブラムシ | ニセダイコンアブラムシ |
|---|---|---|
| 体の色 | 灰白色・白粉が厚い | 淡黄色・白粉は薄い |
| 斑紋 | なし | 腹部に緑黒の斑紋 |
| 体長 | 約1.7mm | 約1.7mm |
| 主な寄生作物 | キャベツ・アブラナ科全般 | ハクサイ・ダイコン |
ダイコンアブラムシは周年発生し、特に4〜6月の春に発生がピークになります。 夏の盛夏期にはほとんど見られなくなりますが、ハウス栽培では秋から春にかけて発生が継続することが多いため要注意です。takii+1
繁殖の速さが恐ろしいところです。アブラムシは卵を産まずに直接幼虫を産む「胎生」で増えるため、約10日間で幼虫から成虫になり、成虫は毎日約5頭の幼虫を生み続けます。 つまり短期間で爆発的に個体数が増えるということです。
参考)アブラムシ対策の基礎知識|作物を害虫から守る予防・駆除方法 …
関東以南では卵を産まずに胎生の雌だけで越冬し、寒冷地でのみ卵越冬します。 暖冬が続くと越冬する個体数が増え、翌春の発生量が多くなる傾向があります。これは気候変動との関連でも近年注目されている点です。boujo+1
吸汁による直接被害よりも、ウイルス病の媒介による間接被害のほうが大きい——これがアブラムシ防除において最も重要な認識です。 殺虫剤でアブラムシを死滅させても、すでに口針から植物に注入されたウイルスは消せないのです。
参考)https://fppa.sakura.ne.jp/pdf/aphis_series1.pdf
ダイコンアブラムシもニセダイコンアブラムシも、モザイクウイルスをはじめとする複数のウイルス病を媒介します。 ウイルス病に感染した株は葉が奇形・萎縮し、最悪の場合は枯死して収量ゼロになります。植物ウイルスの約80%が昆虫などの節足動物によって媒介されるとされており、農業被害の主要因の一つです。jppa+1
アブラムシが媒介するウイルスの約80%は「非永続型」と呼ばれるタイプで、口針を挿すわずかな時間(30秒以上)でウイルスを取得・接種できます。 農薬が効いてアブラムシが死ぬ前に、ウイルスの接種が完了してしまうケースが少なくありません。これが防除を難しくしている本質的な理由です。
参考)http://jppa.or.jp/archive/pdf/64_07_30.pdf
農業病害虫の防除に関する参考情報(農林水産省):アブラムシ類を含む害虫リスクと対策の公的指針が確認できます。
農林水産省:指定有害動植物の見直しに係るリスク評価(ダイコンアブラムシ含む)
防除の基本は発生初期、コロニーを形成する前に手を打つことです。 コロニーが大きくなってから散布すると薬液が虫体に届きにくく、防除効果が落ちます。散布後1〜2日後に虫の生存状況を目視で確認するのが原則です。noukaweb+1
近年、有機リン系・ピレスロイド系・ネオニコチノイド系の農薬が効きにくくなった「抵抗性アブラムシ」の発生が問題になっています。 散布翌日も集団が生存している場合は抵抗性を疑いましょう。対策としては農薬のRACコードを確認し、系統の異なる殺虫剤をローテーション散布することが条件です。
具体的には、ピリジンアゾメチン誘導体(9B)のコルト・チェス、ジアミド系(28)のベネビア・ヨーバル、スルホキシミン系のトランスフォームなどをメインに使いながら、ネオニコチノイド系を補助的に組み合わせる体系が推奨されています。
ローテーション散布が基本です。
有機JAS認証農家の場合は、生物農薬や還元澱粉糖化物系の「エコピタ液剤」「粘着くん水和剤」なども選択肢になります。 ニセダイコンアブラムシについては、現時点で農薬に対する特別な抵抗性事例は報告されておらず、防除は比較的容易とされています。fmc-japan+1
ニセダイコンアブラムシの特徴と農薬選定の詳細はこちら(FMCジャパン):防除試験データを含む実用情報が参照できます。
FMCジャパン:ニセダイコンアブラムシの特徴と防除方法・効果的な農薬
農薬だけに依存するのは抵抗性リスクを高めます。そこで重要なのが、複数の手法を組み合わせたIPM(総合的病害虫管理)です。 天敵・物理・耕種的防除を組み合わせると、農薬使用量を減らしながら防除効果を維持できます。
生物的防除としては、コレマンアブラバチ・ヤマトクサカゲロウ・ナミテントウ幼虫などの天敵が有効です。 実際、天敵寄生蜂に寄生されたニセダイコンアブラムシは表皮が硬くなり淡褐色に変色するため、圃場で天敵の活動を目視確認することができます。takii+1
物理的防除では、シルバーマルチや黄色粘着テープが効果的です。 シルバーマルチは地面からの光の乱反射でアブラムシの飛来を忌避し、黄色テープはアブラムシの走光性を利用して捕獲します。施設栽培では防虫ネットを使用して有翅虫の圃場侵入を物理的に遮断するのも有効です。fmc-japan+1
耕種的防除として、ダイコン・ハクサイの苗床を圃場の近くに置かないことが基本です。 8月まきのダイコンではできるだけ早まきを避け、ソルゴーなどの障壁作物を間作して有翅虫の飛来を防ぐことも効果的です。 天敵環境を壊さない農薬ローテーションと組み合わせることが重要ですね。pref+1
農薬を使わない防除法の詳細(農家web):生物的・物理的・耕種的防除の実践方法がまとめられています。
アブラムシの排泄物(甘露)に黒いカビが繁殖した「すす病」は、葉面を黒く汚染し光合成を阻害します。 見た目が悪くなるだけでなく、光合成量の低下が直接的に収量を落とします。
さらに深刻なのが、すす病とウイルス病が同時に発生する複合被害です。この状況では作物の回復は難しく、圃場ごと廃棄せざるを得ないケースも出てきます。 モザイクウイルスに一度感染した株を治す農薬は存在しないというのが現実です。
ここで役立つのが「発生前からの予防」という発想です。育苗期後半〜定植当日の灌注処理が可能なベリマーク®SCなどの浸透移行性殺虫剤を使うと、定植後しばらくの間、根から成分が吸収されてアブラムシを寄せ付けません。 発生してから対処するよりも、発生させない体制を作ることがウイルス病対策の核心です。アブラムシ防除では「後手に回ったら負け」が原則です。
アブラムシが媒介するウイルスの種類と防除の仕組み(日本植物防疫協会):ウイルス媒介の詳細メカニズムを理解するための専門資料です。
日本植物防疫協会:ウイルス病を媒介するアブラムシ等に対する影響