同じ農薬を3回以上続けると効かなくなります。
ブドウべと病は、5月から10月にかけて発生する糸状菌(カビ)による病害です。特に梅雨時期の多湿環境で爆発的に広がります。気温20~24℃で降雨が続くと、わずか7~10日で感染から発病まで進行するため、予防対策が遅れると手遅れになってしまいます。
葉に発生した場合、最初は淡黄色から淡緑色の不明瞭な斑点として現れます。4~5日後には葉裏の葉脈に囲まれた部分に白色のカビが密生し、遠目からでもはっきりと確認できる状態になります。若い葉では黄変して落葉し、成葉でも激しく発病すると落葉してしまうのが特徴です。
花穂や果房への被害も深刻です。
花穂に感染すると小花穂が褐変し、花流れ症状を引き起こします。穂軸が黒褐色に軟化腐敗すると、その年の収穫が大きく減少する可能性があります。果粒がごく小さい時期には白色のカビを生じますが、果粒が肥大してくるとカビを生じずに全体が褐変し、日焼けのような症状を示すため、他の病害と見分けにくくなります。
べと病は品種によって感受性が大きく異なることも重要なポイントです。ネオ・マスカット、甲斐路、マスカットオブアレキサンドリアなどの欧州系品種は非常に弱く、デラウエアやキングデラなどのアメリカ系品種は比較的強い傾向があります。自分の栽培品種の特性を理解して防除計画を立てることが成功の鍵です。
ブドウべと病の防除に使用される農薬は、作用機構によっていくつかのグループに分類されます。効果的な防除のためには、それぞれの特性を理解することが不可欠です。
保護殺菌剤として最も歴史があるのがボルドー液です。100年以上前から使用されている銅水和剤で、硫酸銅と消石灰の混合溶液として知られています。植物体表面に保護膜を形成し、病原菌の侵入を物理的に防ぐ仕組みです。耐性菌が発達しにくいため、現在でも基幹防除剤として重要な位置を占めています。ただし、果粉を溶脱させる性質があるため、大豆粒大期以降の散布は避ける必要があります。
浸透移行性殺菌剤の代表格がリドミルゴールドMZです。
有効成分メタラキシルMが植物体のすみずみまで浸透し、内部から病原菌を抑制します。マンゼブとの混合剤として市販されており、予防効果と治療効果の両方を持つのが大きな特徴です。散布後6時間で成分が吸収されるため、散布直後の降雨にも比較的強い耐雨性を示します。
CAA剤(カルボン酸アミド系殺菌剤)は近年注目されている系統です。オロンディスウルトラSCやランマンフロアブルが代表的な製品で、べと病菌の細胞膜合成を阻害することで高い防除効果を発揮します。予防効果だけでなく、感染初期の治療効果も持つため、発病後の緊急散布にも対応できる点が評価されています。散布後の耐雨性が高く、梅雨時期の防除に適しています。
QoI剤(アゾキシストロビンなど)は一時期広く使用されていましたが、現在は注意が必要です。耐性菌が全国各地で確認されており、山梨県、福岡県、兵庫県、茨城県など多くの産地で防除効果の低下が報告されています。耐性菌発生圃場では、QoI剤単剤の使用を避け、他系統薬剤へのローテーションが必須となっています。
山梨県によるQoI剤耐性菌調査(山梨県果樹試験場の詳細な調査結果を掲載)
べと病防除の成否は、予防散布のタイミングで9割が決まります。発病してからの薬剤散布では十分な効果が得られないため、先手を打った予防散布が絶対条件です。
防除開始時期は展葉5~6枚期が基本です。この時期は5月上旬頃に相当し、新梢が伸び始めて柔らかい組織が増える時期でもあります。べと病菌は新しく柔らかい組織に感染しやすい性質があるため、この段階で確実に予防散布を開始することが重要です。開始が1週間遅れるだけで、その後の防除が困難になるケースが多く報告されています。
散布間隔は10日を基本としてください。
5月下旬から7月下旬の収穫時期までは、降雨状況によって7~10日間隔に短縮します。梅雨時期に連日降雨が続く場合は、日中でも露が切れた時点で高温に注意しながら薬剤散布を実施します。次回散布予定日に降雨が予想される場合は、散布を延期せず降雨前に必ず散布することが鉄則です。
散布量も防除効果に大きく影響します。一般的には300リットル/10a以上の十分な散布量が推奨されています。葉裏への薬液付着が特に重要で、べと病菌は主に葉裏から感染するためです。手散布の場合は、葉表だけでなく葉裏にも十分に薬液が付着するよう散布角度を工夫します。葉表に付着した薬液が雨とともに溶け出して葉裏を流れることでも、ある程度の防除効果が期待できます。
収穫前日数と使用回数の制限にも注意が必要です。多くの農薬には「収穫○日前まで」「年○回以内」という使用基準が設定されています。防除暦を作成する際は、これらの制限を考慮して薬剤配置を計画します。収穫時期が近づくにつれて使用できる薬剤が限られてくるため、前半の予防散布を徹底することが後半の防除を楽にする秘訣です。
耐性菌の発達を防ぐためには、系統の異なる農薬をローテーションで散布することが必須です。同一系統の農薬を連続使用すると、わずか2~3シーズンで効果が著しく低下することがあります。
FRAC(殺菌剤耐性菌委員会)コードを確認する習慣をつけましょう。農薬のラベルや説明書には、作用機構を示すコードが記載されています。例えば、保護殺菌剤の銅剤は「M1」、CAA剤は「40」、QoI剤は「11」といった具合です。同じコードの農薬は同じ系統に属するため、連続使用を避けます。
効果的なローテーション例を紹介します。
1回目(展葉5~6枚期):ジマンダイセン水和剤(M3、保護剤)
2回目(10日後):リドミルゴールドMZ(M3+4、混合剤)
3回目(10日後):ランマンフロアブル(40、CAA剤)
4回目(10日後):アリエッティ水和剤(P7、ホセチル系)
5回目(10日後):ホライズンドライフロアブル(27+11、混合剤)
このように、系統が重複しないように組み合わせていきます。混合剤を使用する場合は、含まれる有効成分すべてがカウントされるため、次回散布で同じ系統を避ける配慮が必要です。
保護殺菌剤を防除体系の基本に据えることも重要な戦略です。銅剤(ボルドー液、Zボルドー)やジチオカーバメート系(ジマンダイセン、マンゼブ)は耐性菌リスクが低く、何度使用しても効果が低下しにくい特性があります。これらを防除暦の軸として配置し、浸透移行性剤や特効薬を要所に挟み込む構成が長期的に安定した防除効果を生み出します。
発病が確認された場合の対応も計画に含めます。発病初期であればCAA剤やホセチル系の治療効果を持つ薬剤が有効ですが、発病が広がってからでは手遅れです。被害部位は速やかに取り除いて園外に持ち出し、二次伝染源を断つことが被害拡大防止の鍵となります。
茨城県によるQoI剤耐性菌圃場での効果的な防除体系(実証試験に基づく具体的なローテーション例を掲載)
農薬防除だけでなく、栽培管理による耕種的防除を組み合わせることで、べと病のリスクを大幅に減らせます。複数の対策を重ね合わせることが、安定した生産につながります。
雨除け栽培は最も効果的な物理的防除法です。簡易雨除けを4月中旬に設置し、袋掛け後の7月下旬にビニールを除去する方法で、べと病の発生率を大幅に抑制できることが実証されています。茨城県の試験では、雨除け栽培と袋かけを併用することで、べと病だけでなくさび病や黒とう病に対しても高い防除効果が確認されました。露地栽培に比べて農薬散布回数を1/3~1/5に削減できた事例もあります。
適正な肥培管理も病害抑制に直結します。
べと病は新しく柔らかい組織に発生しやすいため、軟弱徒長を防ぐ栽培管理が重要です。窒素過多は新梢の徒長を招き、病原菌の侵入を容易にします。逆に肥効が切れてくると発病が助長されるため、バランスの取れた施肥設計が求められます。亜リン酸肥料の追肥がべと病被害を40~50%程度軽減する効果も報告されています。
枝の込み具合を調整することで、園内の湿度をコントロールできます。枝が込んでいる場合は切除や誘引を行い、風通しを良くすることで葉の乾きを早めます。密植や過繁茂は、べと病菌が好む多湿環境を作り出すため、適度な間隔を保つことが予防の基本です。
敷き藁やビニールマルチによる土壌からの感染防止も効果的です。降雨時に土壌中の病原菌が跳ね上がって葉に付着することを防げます。特に露地栽培では、地表面からの飛沫感染が重要な伝染経路となるため、物理的に遮断する対策が有効です。
休眠期の防除も翌年の発生量を左右します。落葉や剪定枝には病原菌が越冬しているため、これらを園外に持ち出して処分することで、翌春の一次伝染源を減らせます。発芽前の石灰硫黄合剤散布やICボルドーの使用も、越冬菌の密度を下げる効果があります。
収穫後の防除を省略しないことも大切です。収穫が終わると防除意識が低下しがちですが、この時期の発病を放置すると翌年への病原菌の持ち越し量が増えます。収穫後も最低1~2回の薬剤散布を実施することで、次シーズンの初期発生量を抑えられます。