湛水直播栽培 水稲省力化と雑草防除技術

湛水直播栽培で水稲の省力化を図りつつ、苗立ち安定と雑草防除を両立するための最新技術と現場の工夫をまとめます。どこまで省力化できますか?

湛水直播栽培 水稲省力化の実践

湛水直播栽培の全体像
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省力化とコスト削減

育苗・田植え作業を省略し、湛水直播栽培なら春のピーク作業を平準化しながら労働時間と機械コストを抑えられます。

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苗立ちと水管理のポイント

播種後の落水期間や水深管理が苗立ちの安定を左右するため、ほ場の排水性と入排水のスピードを事前に整えることが重要です。

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雑草防除と新技術の活用

鉄コーティングや無コーティングの新技術、適期除草剤散布を組み合わせることで、直播特有の雑草リスクを抑えながら収量を確保できます。

湛水直播栽培 水稲省力化と作業体系の基本


湛水直播栽培は、代かき後に湛水状態またはヒタヒタ水の土壌へ種もみを直接播種していく水稲の栽培方式で、育苗と田植えを省略できるのが大きな特徴です。
従来の移植栽培では、育苗箱の準備・播種・出芽管理・運搬・田植え機作業といった工程が連続し、春の短期間に労力が集中していましたが、湛水直播栽培では播種時期を前後に分散できるため、作業ピークの緩和と人員計画の立てやすさにつながります。
また、直播専用の播種機や田植機アタッチメント、ドローンやラジコンヘリによる表面散播など、機械化選択肢が増えており、経営規模やほ場条件に合わせて省力化の程度を設計できる点も実践上のメリットです。
湛水直播栽培の作業体系は大きく「耕起・代かき」「播種」「播種後の水管理」「中干し・追肥」「収穫」の流れで考えることができ、移植栽培と比べて各ステージで注意すべきポイントが微妙に異なります。


参考)https://www.pref.akita.lg.jp/uploads/public/archive_0000008703_00/z45-1.pdf

特に、播種後から苗立ちまでの管理は、移植のように活着した苗が存在しないため、土中の酸素状態や水深、薬剤の効き方がダイレクトに種子と幼芽に影響し、安定した苗立ちを確保するための技術が省力化メリットを活かす前提条件になります。


参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/zikamaki/z_kenkyu_kai/pdf/24chokuha.pdf

そのため、作業時間だけでなく、ほ場の排水設備や用水路の整備など、インフラ面の見直しとセットで湛水直播栽培を導入することが、中長期的な経営安定につながります。


参考)広報誌「NARO」

湛水直播栽培 苗立ち安定の播種条件と種もみ処理

湛水直播栽培では、播種時の土壌状態と播種深度、種もみの処理方法が苗立ち安定に直結し、失敗すると欠株やムラが一気に広がって収量低下を招くため、事前の設計が重要です。
一般に、代かき後1〜2日程度おいて泥を落ち着かせ、ヒタヒタ水または一時落水状態で播種することで、種子周辺の酸素供給を確保しながら土と密着させ、播種深度0.5〜1.0cm程度に収めるのが安定した出芽の目安とされています。
水深が深すぎたり、土が軟らかすぎる状態で播種すると、種もみが沈み込みすぎて出芽が遅れ、逆に土が乾きすぎると乾燥障害で出芽がそろわないため、地域の土性や排水性に合わせて「田面の硬さ」と「水深」を経験的に微調整することが実践上のコツになります。
種もみ処理では、鉄コーティング、カルパーなどの被覆剤を利用した湛水直播栽培が普及しており、鉄コーティング籾は湛水条件でも種子周囲に酸素を供給しやすく、鳥害軽減と苗立ち安定に寄与します。


参考)https://www.pref.miyagi.jp/documents/10908/fever2-202203.pdf

一方で、農研機構が提案する「かん湛!」のように、無コーティング種子と代かき同時播種を組み合わせた新しい湛水直播栽培技術も登場していて、30アールを1時間で播種できるほどの高能率と資材コスト削減を両立できる点が注目されています。

種子消毒については、チウラム水和剤の粉衣処理などが推奨され、乾もみ重量の0.5%前後の薬剤を5〜6倍希釈して湿粉衣する方法が紹介されており、病害リスクの高い直播ほ場では消毒の有無が苗立ちに大きく影響します。


参考)https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/515136.pdf

湛水直播栽培 雑草防除と水管理の実際

湛水直播栽培の大きな課題として、移植栽培に比べて初期生育が緩やかで、イネより雑草が先に勢いづきやすいことから、雑草害が発生しやすい点が多くの技術解説で強調されています。
特に、ノビエなど湛水条件でも生育する多年生・一年生雑草は、生え始めのタイミングを逃すと除草剤の効果が十分に発揮されず、その後の補除草も手間がかかるため、「播種後の水深管理」と「初期除草剤の残効期間」をセットで考える必要があります。
雑草防除指針では、播種直後から数日間は初期除草剤の効果を確保するために湛水を保ち、その後自然落水させて出芽を促す体系や、本葉1〜1.5葉期に再入水して一発処理除草剤を施用する体系など、地域や資材に応じた具体的なパターンが示されています。
水管理のポイントとして、播種後5〜10日程度の落水期間を設けて土壌を酸化状態に保ち、その後出芽のそろいを見ながら徐々に湛水へ移行する方式が秋田県などで技術解説されています。

カルパー被覆籾では、苗立ちまでの間に田面が白く乾き切らない程度に走水しながら、湛水状態を避けて薬害リスクを抑える管理が推奨されており、ひび割れが入っても内部まで真っ白になるほど乾かさない、といった具体的な水分感覚が現場技術として蓄積されています。


参考)田植えをしないお米づくりが当たり前に? ──日本で広がる「直…

このように、雑草防除と水管理は別々のテーマではなく、「除草剤の効く水深」「種子と幼芽に必要な酸素量」「田面の乾き具合」という三つの条件を同時に満たすバランス調整の技術として捉えることで、湛水直播栽培の安定性が一段と高まります。


参考)湛水直播栽培のポイント |営農情報|農業機械専業メーカー|井…

湛水直播栽培 新技術とドローン活用による営農戦略

湛水直播栽培では、ドローンやラジコンヘリによる表面散播方式が普及しつつあり、短時間で広面積に播種できるため、家族経営や兼業農家でも大区画ほ場を少人数で管理しやすくなるというメリットがあります。
ドローン播種は圃場条件を問わず空から均一に散播できる一方で、風向きや風速、飛行高度によって播種ムラが生じやすく、湛水面に浮いた籾の偏りや畦際の播種不足など、従来とは違うチェックポイントが必要になるため、初年度は試験区を設けて散布パターンを検証する農家も増えています。
また、ドローンは播種だけでなく、初期〜中期の除草剤散布や追肥散布にも利用できるため、湛水直播栽培と組み合わせることで「田に入らない管理」が進み、ぬかるんだほ場での作業負担や機械の沈み込みリスクを大きく減らせる点も中山間地などで評価されています。
一方で、農研機構の「かん湛!」のような代かき同時播種機は、トラクタ作業の延長線上で耕起・代かき・播種を連続して行えるため、ドローンとは異なる方向で省力化と高精度播種を両立する技術として注目されています。

無コーティング種子を浅い土中に播く方式では、資材コストを抑えつつ出芽を安定させるため、作業速度や代かきの仕上がり、トラクタの走行パターンなど、オペレーターの熟練度が収量に直結しやすく、地域の営農指導組織が実証ほ場でノウハウ共有を進めている例も見られます。

このように、湛水直播栽培は単なる「田植えの手抜き」ではなく、ドローン・専用播種機・ICT水管理システムを組み合わせた新しい水稲経営モデルへと発展しつつあり、機械投資と労働力配分をどう設計するかが中長期の収益性を左右します。

湛水直播栽培 中山間地・不耕起ほ場での独自活用アイデア

湛水直播栽培は平坦な大規模ほ場向けの技術と見られがちですが、実際には不耕起V溝直播や乾田直播との組み合わせにより、中山間地や団地化が進んでいない小区画ほ場でも活用できる可能性が報告されています。
不耕起V溝直播では、湛水状態のほ場にV字溝を切り、その溝に種もみを落としていくため、表層の残さを撹拌しすぎずに土中へ種子を配置できることから、土壌侵食リスクの低減やトラクタの踏圧負担の軽減が期待されています。
残さの吹き寄せを避けるために、代かき時の水位を適正に保ちつつ、圃場の高低差を意識した走行パターンを工夫することで、V溝内の出芽ムラを抑えた事例もあり、地形条件の厳しい地域ほど「耕さない直播」の価値が高まる側面があります。
中山間地では、用水確保のタイミングや排水路の容量が限られるため、湛水直播栽培を導入する際には、従来の「一斉代かき・一斉田植え」から、「水が来た田から順に代かき・播種し、出芽後の入水タイミングも田ごとにずらす」といった柔軟な水利用設計が有効です。

また、直播連作ほ場では初期害虫の発生リスクが高まるため、山際や森林に近い田では、鉄コーティングや種子消毒に加えて、本田での防除体系をあらかじめ組み込んでおくことが、湛水直播栽培の安定化に欠かせません。

こうした条件不利地域での試みは、まだ検索上位の記事には多く取り上げられていませんが、小区画や棚田での湛水直播栽培は「人手不足でも棚田を守る手法」としてのポテンシャルもあり、地域ごとの実践事例を掘り起こしていく価値があります。

湛水直播栽培の技術解説と種もみ処理、雑草防除体系の詳細
水稲湛水直播栽培の手引き(農林水産省)
湛水直播栽培のポイントやほ場水分・水管理の図解解説
湛水直播栽培のポイント(井関農機)
湛水直播栽培における雑草防除の考え方と地域指針
湛水直播栽培における雑草防除の考え方(千葉県)
直播栽培の新技術「かん湛!」と無コーティング湛水直播の概要
直播栽培最前線「かん湛!」(農研機構)




イネの直播栽培―乾田耕起直播・乾田ばらまき・不耕起穴まき・湛水ばら