高温期の散布でパラフィン系展着剤を使うと薬害リスクが高まります。
パラフィン乳剤は、パラフィンを主成分として界面活性剤で乳化させた展着剤です。代表的な製品として「アビオンE」があり、パラフィン含有率24%の製剤として広く使用されています。パラフィンは石油由来の天然成分で、作物の表面にワックス層を形成する特性を持っています。
この展着剤の最大の特徴は、殺菌剤や殺虫剤などの農薬と混用することで、薬剤の付着性と耐雨性を劇的に向上させる点にあります。通常の展着剤が界面活性剤のみで構成されているのに対し、パラフィン系展着剤はワックス成分により農薬を固着させる作用を持っています。
つまり効果が長持ちするということですね。
パラフィンを界面活性剤で乳化させた乳剤型の製剤は、水に均一に分散しやすく、散布液の調製も簡単です。使用前に容器をよく振ってから所定量を5~10倍の水で薄め、その後農薬散布液に混合します。この事前希釈の作業により、散布液全体にパラフィンが均一に分散され、安定した効果が得られます。
和歌山県果樹試験場の研究によると、パラフィン系展着剤を加用したマンゼブ剤400倍液は、散布後1か月以内であれば累積降雨量が500mm程度に達するまで高い効果を維持することが実証されています。500mmという数値は、一般的な梅雨期の1か月分の降雨量を大きく上回る量です。
和歌山県果樹試験場の研究報告では、パラフィン系展着剤の耐雨性に関する詳細なデータが公開されています
パラフィン系展着剤の希釈倍率は、作物や農薬の種類によって異なりますが、一般的には500~2000倍の範囲で使用されます。果樹類や茶では500~2000倍、野菜類や花き類では500~1000倍が標準的な使用倍率となっています。
具体的な散布液の調製方法として、10リットルの水に対して5~20mlのパラフィン乳剤を加えます。例えば1000倍希釈の場合、10リットルの水に10mlの原液を混合することになります。
10mlは大さじ2杯分に相当する量です。
計量には小さじやスポイトを使用すると正確に測れます。
和歌山県の試験では、パラフィン系展着剤の希釈倍数が500倍から1500倍の間であれば耐雨性向上効果に差はないことが確認されています。つまり使用者は薬剤費を考慮しながら、最も経済的な希釈倍率を選択できるということですね。この柔軟性は、大規模栽培を行う農家にとって大きなメリットとなります。
混用する際の順番も重要なポイントです。基本的な混用順序は、①展着剤→②液剤・水溶剤→③乳剤・フロアブル→④水和剤の順番になります。展着剤を最初に入れることで、後から加える農薬の分散性が向上し、凝固や沈殿のリスクを減らせます。
ただし、パラフィン系展着剤は一般的な界面活性剤系の展着剤とは異なり、最後に混合することを推奨するメーカーもあります。理由は、パラフィン成分が先に入った農薬を覆ってしまうことで、農薬の分散を妨げる可能性があるためです。使用する製品のラベルをよく確認してから混用してください。
パラフィン系展着剤の最も優れた特性は、卓越した耐雨性にあります。特にカンキツ黒点病の防除では、その効果が顕著に現れます。黒点病は温州みかんの主要病害で、発生すると果実の外観が損なわれ、販売価格が大きく低下してしまいます。
従来、黒点病の防除にはマンゼブ剤(ジマンダイセン水和剤など)600倍液が使用されてきました。この薬剤は散布後の累積降雨量が200~250mmに達するまで効果が持続します。しかし近年、250mm以上の集中豪雨が増加傾向にあり、薬剤が流されてしまう事例が増えています。
和歌山県果樹試験場の研究によると、マンゼブ剤600倍液にパラフィン系展着剤1500倍を加用することで、累積降雨量が500mm程度まで高い効果を維持できることが実証されました。
これは通常の約2倍の耐雨性です。
さらにマンゼブ剤の濃度を400倍に上げて(温州みかんのみ使用可能)パラフィン系展着剤を加用すると、さらに優れた効果が得られます。
令和3年の試験では、3回目と4回目の散布日の間に600mm以上の降雨があるという極端な多雨条件でしたが、パラフィン系展着剤を加用したマンゼブ剤400倍液は高い防除効果を示しました。発病果率は無処理区の10分の1以下に抑えられています。この結果から、近年の異常気象下でも安定した防除が可能であることが分かります。
パラフィンによるワックス層は、雨水を弾く撥水性を持っています。この撥水効果により、農薬の層が雨で流されにくくなり、長期間にわたって病害虫の発生を抑制できます。また、糸状菌胞子や細菌類が作物表皮へ付着・侵入するのを妨げる物理的バリアとしても機能します。
iPLANTの研究記事では、パラフィン系展着剤による黒点病の防除メカニズムが詳しく解説されています
パラフィン系展着剤は優れた効果を持つ一方で、使用条件によっては薬害を引き起こすリスクがあります。
最も注意すべきは高温時期の散布です。
気温が30℃以上の高温時にパラフィン系展着剤を使用すると、葉焼けや新梢への薬害が発生しやすくなります。
高温時に薬害が発生する理由は、散布液の水分が急速に蒸発することで、葉の表面に高濃度の薬剤とパラフィンが残留するためです。このため、パラフィン系固着剤を使用する場合は梅雨期までの散布に制限されることが一般的です。夏季の防除では、一般的な界面活性剤系の展着剤に切り替える必要があります。
散布は早朝または夕方の涼しい時間帯に行うことが基本です。日中の高温時を避けることで、薬害リスクを大幅に低減できます。特にバラや果樹の幼苗など、薬害に敏感な作物では、希釈倍率を1500~2000倍に薄めることで安全性を高められます。
また、パラフィン系展着剤は特定の農薬との混用に注意が必要です。石灰硫黄合剤、有機リン剤、マシン油乳剤との混用は効果を減じたり、薬害を起こす原因となります。和歌山県の研究でも、マンゼブ剤にマシン油乳剤とパラフィン系展着剤を同時に加用すると効果が低下する傾向が確認されています。
浸透性の強い農薬と混用する場合も慎重な判断が必要です。パラフィンのワックス層により浸透性が過度に高まり、薬害が発生する可能性があります。具体的にはキノキサリン系などの農薬との混用では、事前に少量でテストすることをおすすめします。
散布直後の降雨は効果を低下させるため避けるべきですが、散布後に薬液が乾けば、その後の雨には強い耐性を示します。天候を確認してから散布を行うことが大切です。
パラフィン系展着剤の大きな特徴の一つは、有機JAS規格に適合している点です。パラフィンは石油由来ですが、安全な成分として認められており、有機農産物の生産に使用できる数少ない展着剤の一つとなっています。
有機栽培では使用できる農薬が限られているため、使用可能な農薬の効果を最大限に引き出すことが重要です。パラフィン系展着剤は、有機JAS規格で認められている銅剤(ボルドー液など)や微生物農薬の効果を高めることができます。
特に有機銅水和剤との組み合わせで優れた効果が報告されています。日本植物防疫協会の資料によると、リンゴ斑点落葉病に対して有機銅水和剤(オキシンドー水和剤80)1500倍にパラフィン系展着剤1000倍を混用すると、単用散布の場合と比べて発病が6割程度にまで減少します。
つまり約4割の防除効果向上です。
特別栽培農産物の認証を目指す場合、展着剤は節減対象農薬の使用回数にカウントされないという利点もあります。展着剤自体には殺虫・殺菌作用がないため、化学農薬の使用回数削減目標を達成しながら、防除効果を高められます。この特性は、特別栽培農産物としての付加価値を高めたい農家にとって有効です。
有機栽培や特別栽培で使用する際は、パラフィン系展着剤が有機JAS適合製品であることを製品ラベルで確認してください。アビオンEなどの代表的な製品では、ラベルに「有機農産物の日本農林規格(有機JAS)に適合した展着剤」と明記されています。有機認証を受けている圃場では、この表示のある製品のみを使用する必要があります。
有機栽培での使用例として、カンキツのかいよう病や黒点病に対する銅剤との混用、野菜類の病害防除における微生物農薬との混用などがあります。銅剤は単独では耐雨性が低い傾向がありますが、パラフィン系展着剤を加用することで、雨による流亡を大幅に減らせます。
アビオン公式サイトでは、有機JAS適合の展着剤としての詳細情報と使用方法が掲載されています