莢に褐斑病が発生すると商品価値がゼロになります
エンドウ褐斑病は、糸状菌(カビ)の一種であるAscochyta pisiという病原菌によって引き起こされる重要な病害です。この病気は、葉や茎だけでなく、収穫物である莢や種子にまで被害を及ぼすため、農業生産者にとって深刻な脅威となっています。
病原菌は20種類以上存在する褐斑病菌の中でもエンドウに特化した系統であり、他の作物には感染しません。
つまりエンドウ特有の病害です。
病原菌は柄子殻という構造を形成し、その中に分生子(胞子)を作り出すことで次々と伝染を繰り返していきます。
この病気が厄介な点は、種子伝染するという特性にあります。感染した種子を播種すると、発芽直後から病原菌が活動を開始し、幼苗期から被害が拡大していくのです。さらに、前作の罹病した茎葉上で菌糸や柄子殻の状態で越冬し、翌年の伝染源となります。
降雨は発病を著しく助長する要因です。冷涼で多雨の年には特に多発する傾向があり、気温が20〜25℃前後で湿度が高い条件下では急速に病勢が進行します。排水不良な湿地や重粘土のほ場では発生が特に激しくなることが知られています。
エンドウ褐斑病の初期症状を見逃さないことが、被害拡大を防ぐ鍵となります。葉に最初に現れる症状は、淡褐色で不整形の病斑です。病斑の輪郭は明瞭で、周囲との境界がはっきりしているのが特徴的です。この点が他の病気との見分けポイントになります。
病斑が進行すると、表面に黒い小さな粒々が見えてくることがあります。これが柄子殻と呼ばれる病原菌の胞子を作る器官で、ここから大量の胞子が放出されて二次感染を引き起こすのです。降雨時や湿度が高いときには、この伝染が急速に進みます。
茎での症状も特徴的です。節間部に発病することが多く、褐色から暗褐色の楕円形病斑を形成します。病斑の周縁は黒褐色、中心部は淡褐色で、ややくぼんだ状態になります。茎が大きく侵されると、水分や養分の通導が阻害され、上部の生育不良や枯死につながります。
莢に発生した場合は最も深刻です。莢の表面に赤褐色でくぼみのある病斑が生じ、この部分は黒褐色のシミ状となって商品価値を著しく損ないます。出荷規格を満たせなくなり、経済的損失が大きくなります。種子が侵されると表面が暗褐色に変色し、次世代の種子伝染源となってしまうのです。
農業害虫や病害の防除・農薬情報サイトでは、エンドウ褐斑病の詳細な写真が掲載されており、症状の見分け方を学ぶ参考になります。
エンドウ褐斑病の発生には、いくつかの重要な環境条件が関係しています。発病適温は25℃前後とされており、比較的冷涼な気候を好む病原菌です。これはエンドウの生育適温である15〜20℃よりやや高い温度帯であり、春先から初夏にかけての気温上昇期に発病リスクが高まります。
湿度条件も発病の大きな要因です。降雨は発病を助長し、特に長雨が続く梅雨時期や秋雨の時期には爆発的に増加することがあります。雨水によって病原菌の胞子が飛散し、植物体表面が濡れることで胞子の発芽と侵入が促進されるためです。
排水不良な湿地や重粘土のほ場では、土壌水分が過剰となり根の活力が低下します。植物体の抵抗力が弱まった状態では病原菌の侵入を許しやすくなり、発病が著しくなります。
ほ場の排水性改善は基本的な対策といえます。
種子伝染が主要な一次伝染源となることも見逃せません。感染した種子を使用すると、発芽直後から病原菌が活動を開始し、ほ場全体への蔓延につながります。また、前作の罹病残渣に形成された柄子殻や菌糸が越冬し、春先の伝染源となるのです。
つまり初期防除が極めて重要です。
連作を続けると、土壌中の病原菌密度が年々高まり、発病リスクが増大していきます。3〜4年以上の輪作体系を組むことで、土壌中の病原菌密度を低く保つことができます。
エンドウ褐斑病の防除で最も重要なのは、健全種子の使用です。種子消毒を徹底することで、種子伝染による初期感染を防ぐことができます。チウラム剤やベノミル剤による種子粉衣処理が効果的とされており、播種前の処理が必須です。
トップジンM水和剤は、予防効果と治療効果を併せ持つ基幹防除剤として広く使用されています。優れた浸達性と浸透移行性により、すでに感染した病斑部分にも効果を発揮し、病勢の進行を止めることができます。発病初期に散布することで高い効果が得られます。
ベンレート水和剤も同様に、予防と治療の両面で効果を示す殺菌剤です。早め早めの散布が重要で、下位葉に病斑を認めたら速やかに薬剤防除を開始しましょう。特に梅雨入り前や秋雨時期の予防散布が効果的です。
STダコニール1000やアミスター20フロアブルなど、幅広い病害に効果を示す総合殺菌剤も選択肢となります。ダコニールは保護殺菌剤として病原菌の侵入を防ぎ、アミスターは浸透移行性により内部まで浸透して効果を発揮します。
薬剤耐性菌の出現を防ぐため、異なる系統の薬剤をローテーション散布することが推奨されます。QoI剤(アミスターなど)は耐性菌が出現しやすいため、1作1回程度の使用に留めましょう。ベンゾイミダゾール系(ベンレート、トップジンMなど)との組み合わせが効果的です。
エンドウには褐斑病と褐紋病という、見た目が似た2つの病害が存在します。両者を見分けることは適切な防除対策を行う上で重要です。病斑の形状や色合いに微妙な違いがあり、注意深く観察することで区別できます。
褐斑病の病斑は小型で、輪郭が明瞭な淡褐色の不整形です。病斑の大きさは比較的小さく、周縁がはっきりしているのが特徴です。一方、褐紋病の病斑は黒褐色の小斑点から始まり、拡大すると周辺部が淡褐色で内部が黒色から紫褐色の同心円状病斑となります。
莢での症状にも違いがあります。褐斑病では直径2〜5mm程度で中央部が薄い赤褐色でへこみ、周辺部が濃色の病斑を生じます。褐紋病では病斑がより大きく、輪紋状の模様が明確に見られることが多いのです。
発生条件も若干異なります。褐斑病は発病適温が25℃で冷涼多雨条件で多発するのに対し、褐紋病も同様に多湿条件を好みますが、やや広い温度範囲で発生します。両方とも種子伝染する点は共通しており、健全種子の使用が両病害の防除に有効です。
実際のほ場では両病害が混発することもあり、その場合は両方に効果のある薬剤を選択する必要があります。トップジンM水和剤やベンレート水和剤は両病害に登録があり、同時防除が可能です。初期診断で迷った場合は、専門機関に病斑サンプルを持ち込んで同定してもらうと確実です。
耕種的防除を基本として、化学的防除と組み合わせた総合的な病害管理が効果的です。まず、ほ場の排水性を改善することが基本となります。高畝栽培や明渠の設置により、過剰な土壌水分を速やかに排除できる環境を整えましょう。
連作を避けることも重要な予防策です。エンドウの連作は褐斑病だけでなく、立枯病や根腐病などの土壌病害のリスクも高めます。3〜4年以上の間隔を空けて、イネ科作物やアブラナ科作物との輪作体系を組むことで、病原菌密度を低く保てます。
前作の罹病残渣は確実に処分することが必要です。収穫後のほ場に残った茎葉には病原菌が越冬しており、翌春の伝染源となります。残渣は集めてほ場外に持ち出すか、深く耕起して土中に埋め込むことで伝染リスクを減らせます。
株間を適切に確保し、通風と採光を良好に保つことも予防につながります。密植状態では湿度が高まり、病原菌の活動が活発化します。適正な栽植密度を守り、下葉が黄化したら早めに除去して風通しを確保しましょう。
育苗期から注意を払うことが大切です。育苗ハウス内は湿度が高くなりがちで、発病リスクが高まります。換気を十分に行い、灌水は午前中に済ませて夕方までに葉面を乾かすよう心がけましょう。定植前に発病苗を徹底的に除去することで、本圃への持ち込みを防げます。
生育初期の予防散布も効果的です。播種後から本葉展開期にかけて、予防効果の高い保護殺菌剤を散布しておくことで、初期感染を抑制できます。特に降雨前後の散布を意識すると、効果が高まります。