アラニンアミノトランスフェラーゼ基準値と肝臓原因改善対策

健康診断で「アラニンアミノトランスフェラーゼ」の数値異常を指摘された農業従事者の方へ。この数値が示す肝臓の状態や、農作業特有のリスク、数値を改善するための食事や生活習慣について解説します。ご自身の肝臓は大丈夫ですか?

アラニンアミノトランスフェラーゼの数値

アラニンアミノトランスフェラーゼ解説
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肝機能の重要指標

肝細胞に含まれる酵素で、数値の上昇は肝細胞の破壊や炎症を示唆します。

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農業従事者のリスク

農薬の取扱や収穫期の不規則な食生活が数値に影響を与える可能性があります。

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改善へのアプローチ

抗酸化作用のある食事や、農作業とは異なる有酸素運動の導入が鍵となります。

アラニンアミノトランスフェラーゼ検査と肝臓の機能

 

アラニンアミノトランスフェラーゼ(Alanine Aminotransferase:略称ALT)は、以前はGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)と呼ばれていた酵素の正式名称です。この酵素は、主に肝臓の細胞内に存在し、アミノ酸の代謝、特にアラニンとケトグルタル酸からピルビン酸とグルタミン酸を生成する反応を触媒する重要な役割を担っています。通常、この酵素は肝細胞の中で働いていますが、肝臓になんらかの異常が生じ、肝細胞が破壊されると血液中に漏れ出します。そのため、健康診断や血液検査において、肝臓がダメージを受けているかどうかを判断する「逸脱酵素」としての指標となります。

 

参考)健康診断・人間ドック ALT(GPT) 肝臓に存在する酵素

農業従事者の皆様が受ける定期健康診断や人間ドックにおいて、この数値は肝機能評価の要となります。似た指標にAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)がありますが、ASTは肝臓以外にも心筋や骨格筋、赤血球にも多く含まれています。対してアラニンアミノトランスフェラーゼは、その大部分が肝臓に局在しているため、肝臓特異性が高く、肝臓の障害をより鋭敏に反映する指標と言えます。

 

参考)AST、ALT|「肝臓の病態」を読む検査

検査結果における基準値(基準範囲)の理解も重要です。一般的な医療機関では、アラニンアミノトランスフェラーゼの基準値は30U/L(単位/リットル)以下が望ましいとされています。かつては40U/L程度までを正常範囲としていた時期もありましたが、近年の研究により、30U/Lを超えると将来的な肝疾患リスクが高まることが判明し、より厳格な管理が推奨される傾向にあります。数値が50U/Lや100U/Lを超えている場合は、肝細胞が現在進行形で破壊されていることを意味し、早急な精密検査が必要です。特に農業経営においては、体が資本であり、肝臓という「沈黙の臓器」の警告を早期に察知することが、長期的な営農継続に不可欠です。

 

参考)ALTの基準値は?高くなる原因と下げるための対策を解説 - …

日本消化器病学会:NAFLD/NASH診療ガイドライン(PDF) - 肝機能数値と疾患リスクの詳細

アラニンアミノトランスフェラーゼが高い原因と疾患

アラニンアミノトランスフェラーゼの数値が高くなる原因は多岐にわたりますが、最も一般的な原因の一つが「脂肪肝」です。これは肝臓の細胞の中に中性脂肪が過剰に蓄積した状態を指します。従来、脂肪肝はアルコールの過剰摂取が主な原因と考えられていましたが、近年ではアルコールを飲まない人でも発症する「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」や、それが進行して肝炎や肝硬変に至る「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」が増加しています。農業従事者の方々の中には、収穫の繁忙期には食事時間が不規則になり、手早くエネルギーを補給できる炭水化物中心の食事や、即席食品への依存が高まるケースが見られます。また、一日の重労働を終えた後の晩酌を楽しみとしている方も多いでしょう。こうした習慣の積み重ねが、知らず知らずのうちに肝臓への脂肪蓄積を招き、数値を押し上げる主要因となっています。

 

参考)肝機能障害とは? AST、ALT、γ-GTPが高い原因と改善…

次に考えられる原因は「ウイルス性肝炎」です。B型肝炎やC型肝炎などのウイルス感染により、肝細胞が持続的に破壊されることで数値が上昇します。これらは自覚症状が乏しいまま進行することが多く、血液検査によってはじめて発覚することも珍しくありません。過去の医療行為や輸血などで感染しているケースもあれば、生活環境の中で感染することもあります。特に高齢の農業従事者においては、過去の集団予防接種等での感染リスクも考慮に入れる必要があります。

 

また、「薬剤性肝障害」も無視できない原因です。持病の薬だけでなく、日常的に服用している鎮痛剤、あるいは健康のためにと摂取しているサプリメントや漢方薬が、実は肝臓に負担をかけ、アラニンアミノトランスフェラーゼの上昇を招いている場合があります。肝臓は体内に入ったあらゆる化学物質を解毒・代謝する臓器であるため、特定の成分が体質に合わない場合、炎症反応として数値に現れます。「体に良い」と思って飲んでいるものが、逆効果になっている可能性も疑う必要があります。

 

参考)肝臓の数値異常を改善する方法|薬が負担に?原因と対処を解説

     

  • 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD):肥満、糖尿病脂質異常症が背景にあることが多い。
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  • アルコール性肝障害:長期的な多量飲酒による肝細胞の損傷。
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  • ウイルス性肝炎:B型、C型肝炎ウイルスなどによる慢性的な炎症。
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  • 薬剤性肝障害:医薬品、サプリメント、民間療法薬による副作用。

厚生労働省:肝炎対策について - ウイルス性肝炎の基礎知識と検査

アラニンアミノトランスフェラーゼ改善に効果的な食事

アラニンアミノトランスフェラーゼの数値を下げる、すなわち肝臓の炎症を沈静化させ、修復を促すためには、日々の食事が最も強力な「治療薬」となります。基本戦略は「高タンパク・低脂肪・高ビタミン」です。肝細胞の再生には良質なタンパク質が不可欠です。しかし、肉類(特にバラ肉や脂身の多い部位)には飽和脂肪酸が多く含まれており、脂肪肝を悪化させるリスクがあります。したがって、大豆製品(納豆、豆腐)、鶏のささみや胸肉、そして白身魚を積極的にメニューに取り入れることが推奨されます。

特に注目すべき栄養素として「タウリン」や「スルフォラファン」が挙げられます。

 

タウリンは、イカ、タコ、牡蠣、ホタテなどの魚介類に多く含まれ、肝臓の解毒作用を助け、肝細胞の再生を促進する働きがあります。また、胆汁酸の分泌を促し、コレステロールの排泄を助けるため、脂肪肝の改善にも寄与します。

 

一方、スルフォラファンはブロッコリーやブロッコリースプラウトに含まれる成分で、肝臓が持つ解毒酵素の生成を活性化させ、抗酸化作用によって肝臓の炎症を抑える効果が研究で示されています。自家用野菜としてこれらを栽培し、日常的に摂取できるのは農家の特権とも言えるでしょう。

 

糖質の摂取方法にも注意が必要です。特に果糖(フルクトース)を含む清涼飲料水や、過度な果物の摂取は、肝臓で直接中性脂肪に変換されやすいため、アラニンアミノトランスフェラーゼが高い状態では控えるべきです。白米やパンなどの精製糖質を減らし、食物繊維が豊富な玄米や雑穀米に置き換えることで、血糖値の急上昇を抑え、肝臓への脂肪蓄積を防ぐことができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

推奨食材 主要成分 肝臓への効果
ブロッコリースプラウト スルフォラファン 解毒酵素の活性化、抗炎症作用
牡蠣・イカ・タコ タウリン 肝細胞再生促進、中性脂肪排出
納豆・豆腐 大豆サポニン・タンパク質 過酸化脂質の生成抑制、肝細胞の材料
ゴマ セサミン アルコール分解促進、抗酸化作用

e-ヘルスネット(厚生労働省):脂肪肝の食事療法 - 具体的な栄養摂取基準

農作業の運動量とアラニンアミノトランスフェラーゼ

多くの農業従事者の方が抱く誤解に、「毎日体を動かして働いているから、運動不足ではない」というものがあります。確かに農作業は重労働であり、筋肉への負荷は高いものです。しかし、肝機能の改善、特に脂肪肝に由来するアラニンアミノトランスフェラーゼの数値を下げるために必要なのは、中腰での草取りや重いコンテナの運搬といった「無酸素運動(筋力トレーニング的要素)」や「労働的負荷」だけでは不十分な場合があります。肝臓に蓄積した脂肪を燃焼させるためには、脈拍が少し上がり、酸素を体内に取り込みながら行う、継続的な「有酸素運動」が必要不可欠です。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/culture/pdf/05_eiyo.pdf

農作業中の動きは、特定の筋肉を酷使したり、長時間同じ姿勢を保ったりすることが多く、これはエネルギー消費こそあれど、脂肪燃焼効率の良い有酸素運動とは異なります。また、繁忙期は活動量が増えますが、冬場などの農閑期には活動量が激減し、その期間に体重が増加して肝機能が悪化するという「季節性変動」も農業従事者特有のリスクです。実際、地域の健康診断データにおいて、農業従事者は筋肉量が多い一方で、内臓脂肪型肥満の割合が低くないという報告もあります。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/study/syoku_vision/kenko/pdf/houkoku.pdf

アラニンアミノトランスフェラーゼを下げるためには、農作業とは別に、ウォーキングやジョギング、水泳などの全身運動を取り入れることが理想的です。「仕事で疲れているのに運動などできない」と思われるかもしれませんが、1日20分程度の早歩き散歩から始めるだけでも、肝臓の代謝機能には良い影響を与えます。農作業を「運動」としてカウントせず、労働による身体的ストレスと、健康維持のための運動を切り分けて考える意識改革が、肝臓を守るためには重要です。

 

国立健康・栄養研究所:身体活動基準2013(PDF) - 労働と運動のエネルギー消費の違い

農薬取扱時の対策とアラニンアミノトランスフェラーゼ

農業従事者ならではの視点として、農薬の取り扱いと肝機能数値の関係についても触れておく必要があります。肝臓は、体に入ってきた異物を解毒する役割を担っているため、外部からの化学物質の影響を最も受けやすい臓器です。現代の登録農薬は厳格な安全性試験を経ており、通常の使用範囲内で直ちに肝障害を引き起こすものは稀ですが、長期間にわたる高濃度の曝露や、防護対策が不十分な状態での散布作業は、肝臓に過度な負担をかける可能性があります。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/council/sizai/attach/pdf/index-227.pdf

一部の有機リン系薬剤や特定の除草剤成分などは、代謝過程で肝臓の酵素系に影響を与えることが知られています。定期健康診断でアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)やγ-GTPの上昇が見られた場合、それがアルコールや肥満によるものなのか、あるいは業務で使用する薬剤の影響が否定できないのかを医師と相談することが重要です。特に、夏場の高温多湿な環境下での防除作業では、皮膚からの吸収(経皮吸収)のリスクが高まります。暑さのためにマスクや防護服を簡略化してしまうと、知らず知らずのうちに薬剤を体内に取り込み、解毒器官である肝臓を疲弊させてしまうリスクがあります。

 

参考)https://www.j-poison-ic.jp/wordpress/wp-content/uploads/nouyaku_180420.pdf

対策として、以下の点を徹底してください。

 

第一に、防除マスク、保護メガネ、不浸透性手袋、防除衣の完全着用です。これは急性中毒を防ぐだけでなく、長期的な肝臓への負担を軽減するためにも必須です。

 

第二に、散布作業後のシャワーと着替えの徹底です。皮膚に付着した成分を速やかに洗い流すことで、体内への侵入を最小限に抑えます。

 

第三に、散布作業期間中の休肝日の設定です。農薬の解毒でフル稼働している肝臓に、さらにアルコールの分解という仕事をさせないよう、散布前後は飲酒を控えることが、アラニンアミノトランスフェラーゼの数値を安定させるためのプロ農家の知恵と言えます。

 

農林水産省:農薬の適正使用と安全管理 - 使用者自身の健康管理

 

 


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