アグリビジネスとは簡単に?企業の農業参入から見る具体例と将来性

アグリビジネスという言葉をご存知ですか?これは単なる農業ではなく、生産から販売までを統合した事業のことです。本記事では、アグリビジネスの基本的な意味から、具体的な企業の参入事例、そして今後の将来性や課題までを分かりやすく解説します。あなたの農業経営のヒントが見つかるかもしれません。新しい農業の形について一緒に考えてみませんか?

アグリビジネスとは?簡単に解説

アグリビジネスの全体像
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生産だけじゃない

農業(1次産業)を中心に、農業資材の製造、農産物の加工(2次産業)、流通、販売(3次産業)までを含む幅広い経済活動の総称です。

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多様なプレーヤー

農家や農業法人はもちろん、異業種から参入する企業、研究機関、行政などが関わり、巨大な産業を形成しています。

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新たな価値創造

テクノロジーの活用や新しいビジネスモデルにより、食料問題や地方創生といった社会課題の解決にも貢献する可能性を秘めています。

アグリビジネスの基本的な意味と6次産業化との関係

 


「アグリビジネス」という言葉を耳にする機会が増えましたが、具体的にどのような意味なのでしょうか。アグリビジネスとは、英語の「Agriculture(農業)」と「Business(ビジネス)」を組み合わせた造語です 。その名の通り、農業に関連する幅広い経済活動全体を指す言葉で、単に農作物を生産するだけでなく、その前後の段階もすべて含みます 。
具体的には、以下の3つの領域に大別されます。


  • 川上:農業資材分野
    種苗、肥料、農薬農業機械などの開発・製造・販売を行う産業。

  • 川中:農業生産分野
    農家や農業法人が行う、米、野菜、果物、畜産物などの生産活動。

  • 川下:農産物処理・流通分野
    収穫された農産物の加工、貯蔵、運搬、卸売、小売などを行う産業。


このように、畑や田んぼから私たちの食卓に届くまでの、すべての工程に関わるビジネスがアグリビジネスなのです 。
ここでよく似た言葉として「6次産業化」があります。6次産業化とは、農業者(1次産業)が、農産物の加工(2次産業)や流通・販売(3次産業)にも自ら取り組むことを指します 。1次、2次、3次を「足す」のではなく「掛け合わせる」(1×2×3=6)ことで、新たな付加価値を生み出し、農業者の所得向上を目指す経営形態です 。
両者の違いを簡単にまとめると以下のようになります。
アグリビジネス 6次産業化
視点 農業関連の「産業全体」を広く捉える言葉 「農業者自身」が経営を多角化する取り組み
主体 農業者、一般企業、研究機関、行政など様々 主に農業者(農家、農業法人など)
範囲 資材開発から消費まで、非常に広範囲 生産、加工、販売の一体化が中心

つまり、アグリビジネスという大きな枠組みの中に、6次産業化という具体的な手法が含まれている、と理解すると分かりやすいでしょう。アグリビジネスは産業構造全体を指すのに対し、6次産業化は農業者が主体となって付加価値を高めていく経営戦略そのものを指すのです。

以下の農林水産省のページでは、6次産業化の詳しい定義や支援策について解説されています。

 

農林水産省:6次産業化の推進

アグリビジネスの具体例:異業種から参入した企業の成功事例


近年、日本の農業が抱える後継者不足や耕作放棄地の増加といった課題を解決する担い手として、異業種からアグリビジネスに参入する企業が注目されています。国内の食・農関連の市場規模は113兆円にも上るといわれ、ビジネスチャンスを秘めた巨大市場であることも、企業を惹きつける理由の一つです 。ここでは、様々な業界から農業に参入し、成功を収めている企業の具体例を見ていきましょう。
🛒 小売業からの参入:イオン

大手スーパーマーケットのイオンは、2009年に「イオンアグリ創造株式会社」を設立し、本格的に農業に参入しました 。全国に広がる自社の店舗網という強力な販売チャネルを活かし、農場で生産した野菜を「イオンの農場」ブランドとして販売しています。天候不順などで野菜の価格が高騰した際も、自社農場から安定した価格で供給できるため、消費者にとっても大きなメリットがあります。これは、生産から販売までを一貫して手掛けるアグリビジネスの典型的な成功例と言えるでしょう。
🚆 運輸業からの参入:JR九州

鉄道会社のJR九州は、2009年に「JR九州ファーム」を設立しました 。鉄道事業で培ったノウハウや、駅ビルなどの不動産事業との連携が強みです。例えば、大分県ではニラや甘しょ(さつまいも)を生産し、グループ会社の飲食店で利用したり、駅ナカの店舗で販売したりしています 。自社の経済圏の中で生産から消費までを完結させるモデルを構築しています。
💡 製造業からの参入:パナソニック

家電メーカーのパナソニックは、自社の技術力を活かして農業分野に参入しています 。植物工場向けのLED照明や環境制御システムなどを開発・提供するほか、シンガポールでは自社で野菜工場を運営し、高付加価値な野菜を生産・販売しています。エレクトロニクス技術と農業を組み合わせた「スマート農業」の分野で、存在感を発揮しています。
🍅 食品メーカーからの参入:カゴメ

トマト加工品で知られるカゴメは、ポルトガルで加工用トマトの生産から始まった企業であり、農業とは深い関わりがあります。近年では、生食用トマトの生産・販売にも力を入れており、栽培が難しい高糖度トマトなどを安定的に供給しています 。長年の品種開発で培った知見とブランド力が、大きな強みとなっています。
その他にも、以下のような多様な企業がアグリビジネスに参入しています。


  • 建設業:公共事業の減少などを見据え、新たな収益源として農業に参入。重機の活用や土地造成のノウハウを活かすケースも 。

  • 人材派遣業:農業の担い手不足という課題に対し、自社で人材を育成・派遣する形で農業に参入 。

  • IT企業:AIやIoT技術を活用したスマート農業ソリューションを提供し、農業のDXを推進。


これらの事例から、各企業が自社の持つ経営資源(技術、販路、ブランド、人材など)を農業と掛け合わせることで、新たな価値を創造していることが分かります。

アグリビジネスが抱える課題と今後の将来性


大きな可能性を秘めるアグリビジネスですが、その道のりは決して平坦ではありません。多くの課題が存在する一方で、それを上回る将来性も期待されています。

アグリビジネスが直面する主な課題


アグリビジネスに取り組む上で、避けては通れない課題がいくつかあります。


  • 担い手不足と高齢化 😟

    日本の農業が抱える最も深刻な問題です。農業従事者の平均年齢は高く、若者の新規就農も十分とは言えない状況が続いています。これはアグリビジネスに参入する企業にとっても、安定した労働力の確保が難しいという課題に直結します 。

  • 低い労働生産性 🏃‍♂️

    日本の農業は、狭い農地で集約的に行われることが多く、欧米の大規模農業と比較して労働生産性が低いと指摘されています。ある調査では、米国の40分の1というデータも示されており、収益性を高める上での大きな障壁となっています 。

  • 初期投資と収益化 💰

    農地の確保、ハウスや農業機械の導入など、アグリビジネスの開始には多額の初期投資が必要です。また、農作物の栽培には時間がかかり、投資を回収して収益化に至るまでには、長期的な視点が不可欠です。

  • 自然環境のリスク 🌦️

    農業は、台風、干ばつ、冷害といった自然災害や天候不順の影響を直接的に受けます。植物工場などの施設型農業である程度リスクを低減することは可能ですが、依然として大きな不確定要素です。

  • 法規制と制度 📜

    農地の所有や貸借に関しては、農地法などの法律で様々な規制が定められています。異業種からの参入を促進するために規制緩和が進められていますが、手続きの複雑さなどが参入障壁となるケースもあります。



アグリビジネスの明るい将来性



多くの課題がある一方で、アグリビジネスにはそれを乗り越えるだけの大きな可能性があります。


  • 市場の拡大 📈

    ある市場調査によれば、日本のアグリビジネス市場は2025年から2035年にかけて年平均3.1%で成長すると予測されています 。世界の人口増加に伴う食料需要の増大や、国内における食の安全・安心への関心の高まりが、市場の成長を後押しします。

  • 食料安全保障への貢献 🌾

    食料の多くを輸入に頼る日本にとって、国内の食料自給率を高めることは重要な国家課題です。企業の参入によって耕作放棄地が活用され、生産性が向上することは、国の食料安全保障に大きく貢献します 。
  • 高付加価値化へのシフト

    消費者のニーズは、単に安いものから、品質の高いもの、安全性が確認できるもの、健康に良いものへと変化しています 。独自の栽培方法やブランディングによって、高付加価値な農産物を提供できれば、大きな収益機会が生まれます。
  • テクノロジーの進化 🤖

    後述するスマート農業の技術革新は、生産性の飛躍的な向上や省力化を可能にし、従来の農業が抱える課題を解決する切り札として期待されています。


課題は多いものの、それらを克服するための技術や社会のニーズも同時に存在しており、アグリビジネスは今後ますます重要な産業になっていくと考えられます。

アグリビジネスを加速させるスマート農業とDXの役割



農業従事者の高齢化や人手不足といった深刻な課題を解決し、アグリビジネスの成長を加速させる鍵として、「スマート農業」と「農業DX(デジタルトランスフォーメーション)」が大きな注目を集めています。これらは、従来の経験と勘に頼った農業から、データに基づいた科学的な農業へと変革をもたらすものです 。

スマート農業が実現する未来の農業



スマート農業とは、ロボット技術やICT(情報通信技術)、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)といった先端技術を活用して、農業の超省力化や高品質生産を実現する新しい農業の形です 。

具体的には、以下のような技術が実用化されつつあります。


  • 🛰️ GPS搭載の自動操舵トラクタ:

    GPSからの位置情報に基づき、ハンドル操作を自動化する技術です。熟練者でなくても数センチ単位の精度で真っ直ぐな畝立てや耕うんが可能になり、作業の効率化と負担軽減に繋がります 。夜間作業も可能になるため、作業時間を有効に活用できます。

  • 🚁 ドローンによる農薬散布・生育診断:

    ドローンを使えば、広大な圃場でも短時間で均一に農薬や肥料を散布できます。また、特殊なカメラを搭載して上空から撮影することで、作物の生育状況や病害虫の発生箇所をピンポイントで特定し、きめ細やかな管理が可能になります 。

  • 🌡️ 圃場センサー(IoT):

    水田や畑に設置したセンサーが、土壌の水分量や温度、EC値(電気伝導度)などを24時間自動で計測し、データをクラウドに送信します 。スマートフォンやパソコンからいつでも圃場の状態を確認でき、水やりのタイミングなどを遠隔で管理することが可能です。

  • 📸 AIによる収穫予測・病害虫診断:

    作物の画像をAIが解析し、収穫時期や収穫量を高い精度で予測します。これにより、計画的な出荷や人員配置が可能になります。また、葉の色や形の変化から病害虫の種類を特定し、早期の対策を促すシステムも開発されています。

農業DXがもたらす経営変革


スマート農業によって収集された様々なデータ(生育、気象、土壌、作業記録、市況など)を連携・分析し、経営の意思決定に活用するのが「農業DX」です 。
例えば、過去の販売データと今年の生育予測データをAIで分析することで、どの作物を、いつ、どれくらい、どこに出荷すれば最も利益が高くなるかをシミュレーションできます。これにより、経験の浅い新規就農者でも、熟練経営者のような的確な判断を下せるようになります。

また、生産から加工、流通、販売までの全工程のデータを一元管理することで、サプライチェーン全体の無駄をなくし、収益性を最大化することも可能です。消費者は、スマートフォンで商品のQRコードを読み込むだけで、その農産物が「いつ、どこで、誰によって、どのように育てられたか」というトレーサビリティ情報を確認できるようになり、食の安全・安心に繋がります。

スマート農業と農業DXは、単なる作業の効率化に留まらず、農業のビジネスモデルそのものを変革し、アグリビジネスの可能性を大きく広げる原動力となるのです。

以下のJ-STAGEの論文では、スマート農業の最前線について詳しく解説されています。

 

J-STAGE: スマート農業の動向と展望

アグリビジネスと地域活性化:意外なSDGsへの貢献


アグリビジネスは、単に企業の利益追求や食料生産の効率化に留まらず、地域社会の活性化や、世界的な目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも大きく貢献するポテンシャルを秘めています。ビジネスとしての側面だけでなく、その社会的な意義に目を向けることで、アグリビジネスの新たな価値が見えてきます。

アグリビジネスがもたらす地域への恩恵


企業が地域に進出してアグリビジネスを展開することは、その地域に様々なプラスの効果をもたらします。


  • 雇用の創出と移住促進 👨‍🌾

    新たな農場や加工施設ができることで、地元に多様な雇用が生まれます。これにより、若者が地元に定着しやすくなるほか、農業に関心を持つ都市部の人々の移住・定住のきっかけにもなります。

  • 耕作放棄地の解消と景観保全 🏞️

    担い手不足で荒れてしまった耕作放棄地を企業が再生・活用することで、農地が本来持つ多面的な機能(食料生産、洪水防止、生態系保全など)が回復し、美しい田園風景が守られます。

  • 地域経済の活性化 🤝

    企業の農業参入は、種苗、肥料、農機具などの関連産業や、農産物を使ったレストラン、観光業など、地域の様々なビジネスに波及効果をもたらし、地域経済全体の活性化に繋がります。

  • アグリツーリズムによる交流人口の増加 👨‍👩‍👧‍👦

    農業体験や収穫体験、農家民宿(ファームイン)といったアグリツーリズム(グリーンツーリズム)は、都市と農村の交流を促進します 。地域の魅力を知ってもらうことで、関係人口の増加や農産物のファン獲得に繋がります。

アグリビジネスとSDGsの意外な関係


アグリビジネスの取り組みは、SDGsが掲げる17の目標の多くに貢献できます。
SDGsの目標 アグリビジネスによる貢献の例

目標2: 飢餓をゼロに
スマート農業などによる生産性向上を通じた、食料の安定的供給 。

目標8: 働きがいも経済成長も
農業分野での新たな産業と雇用の創出。アグリツーリズムによる地域経済の活性化。

目標9: 産業と技術革新の基盤をつくろう
スマート農業技術の開発・導入による農業インフラの強靭化。

目標11: 住み続けられるまちづくりを
耕作放棄地の活用による国土保全。地方への移住促進による持続可能なコミュニティ形成。

目標12: つくる責任 つかう責任
需要予測に基づく計画生産や、規格外野菜を活用した加工品開発によるフードロス削減。

特に、意外な貢献として「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」が挙げられます。これは、農地の上に太陽光パネルを設置し、農業と発電を両立させる取り組みです。売電による安定収入を確保しながら農業を続けられるため、農業経営の安定化に繋がると同時に、再生可能エネルギーの普及(目標7: エネルギーをみんなに そしてクリーンに)にも貢献します。

このように、アグリビジネスは経済的な価値だけでなく、持続可能な社会を築くための重要な社会的価値を創造する活動でもあるのです。

 

 


実践・アグリビジネス2