ミニトマトに「トマト」登録の農薬を使うと、農薬取締法違反になり出荷停止のリスクがあります。
トマトかいよう病は、細菌の一種であるClavibacter michiganensis subsp. michiganensisが引き起こす病害です。
参考)https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/523557.pdf
導管の中に入り込んだ菌が維管束で増殖し、茎や葉柄の髄部を侵していきます。
発病の初期症状は見落としやすいのが現実です。中位葉や下位葉に淡褐色の脱水症状が現れ、葉の周辺部からしおれはじめます。その後、葉全体が黄化・萎凋し、最終的に株が枯死することもあります。
果実にも症状が出ます。果面に直径2〜3mm(ハンコの朱肉程度の大きさ)の白い縁取りと褐色の小点が現れ、いわゆる「鳥目状」と呼ばれる特徴的な病斑が形成されます。
見た目が明らかに変わるため、収穫物の商品価値が大幅に下がります。
これは痛いですね。
発病に適した温度は25〜28℃で、トマトの生育適温とほぼ重なっています。つまり、生育が旺盛な時期ほど病気も進みやすいということです。
生育環境を整えるほど発病リスクも高まるという、農家にとって皮肉な条件です。
かいよう病の伝染経路は大きく3つあります。
広島県の調査では、発病拡大の主因は土壌伝染よりも管理作業による接触伝染の影響が大きいと報告されています。
農薬を散布しているのに発病株が増え続ける場合、多くはこの接触伝染が原因です。
農薬の基本は原則です。カスミンボルドーや銅剤は予防効果が中心で、すでに導管内に侵入した菌を撃退する治療効果は限定的です。
参考)かんきつ類やトマト、キウイまで襲う「かいよう病」の対策とは?…
発病してから慌てて農薬を増やしても、手遅れになるケースが多いのです。
北日本植物防疫協会の研究では、使用後のトンネルビニルや保温シート、育苗用下敷きシートなど前年の資材すべてでかいよう病菌の生存が確認されています。
参考)夏秋トマト栽培におけるトマトかいよう病の第一次伝染源とカーバ…
つまり、前作で発病がなかったからといって、安心できないということです。
J-STAGE:夏秋トマト栽培におけるトマトかいよう病の第一次伝染源とカーバムナトリウム塩液剤の防除効果(2024年)
現在、トマトのかいよう病に農薬登録がある主な薬剤は以下の通りです。ja-kamiina.iijan+1
| 薬剤名 | 成分 | 希釈倍数 | 使用時期 | 使用回数 |
|---|---|---|---|---|
| カスミンボルドー | カスガマイシン+塩基性塩化銅 | 1,000倍 | 収穫前日まで | 5回以内 |
| コサイド3000 | 水酸化第二銅 | 2,000倍 | 収穫前日まで | — |
| Zボルドー | 塩基性硫酸銅 | 400〜600倍 | — | — |
| ダゾメット粉粒剤 | ダゾメット | 土壌消毒 | 定植前 | — |
| カーバムナトリウム塩液剤 | メタム-ナトリウム | 灌注 | 収穫後 | — |
銅剤はかいよう病に対して予防的な効果を発揮します。
これが基本です。
注意点として、銅剤は果面に薬が付着しやすいため、収穫期は散布のタイミングに注意が必要です。
参考)https://www.ja-kamiina.iijan.or.jp/wp-content/uploads/2023/03/0b7e6fa2ae6a43f7f442f41097a4adaa.pdf
果実への付着が多いと外観が悪くなり、商品価値が下がります。
収穫直前の散布は避けましょう。
土壌消毒のダゾメット粉粒剤については、複数の試験事例を統計的に分析した結果、無処理区の発病割合19.6%に対し、土壌消毒区は5.6%まで抑制できることが示されています。
参考)http://jppa.or.jp/archive/pdf/66_05_01.pdf
東京ドーム約1つ分(10アール)の圃場で考えると、発病株を14%分(約140株規模)減らせる計算になります。
これは使えそうです。
また、収穫終了後にカーバムナトリウム塩液剤を灌注処理した試験では、後作トマトでの防除価が98以上という高い数値が得られています。
翌作の発病リスクを大幅に抑えるためには、今シーズンの収穫後の土壌消毒が条件です。
農薬取締法上、「トマト」と「ミニトマト」は別の作物として扱われます。
参考)農薬製品ラベルの適用作物名に「トマト」があれば「ミニトマト」…
「トマト」に登録のある農薬を「ミニトマト」に使用することは、農薬取締法で禁止されています。
農薬取締法に基づく農薬登録の適用外使用は、農作物等の信用失墜や出荷停止リスクにつながります。
参考)https://www.takii.co.jp/tsk/bugs/atm/disease/kaiyou/
「いつもトマトに使っているから大丈夫」という思い込みが、大きなトラブルの元になります。
農薬取締法上、「トマト」は果径3cm超のものを指し、果径3cm以下は「ミニトマト」と区分されます。
参考)https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/84837/2503_09_20_tomato.pdf
圃場でトマトとミニトマトの両方を栽培している場合は、それぞれ別の登録農薬を用意する必要があります。
ミニトマトのかいよう病に対しては、カスミンボルドーやカッパーシン水和剤などミニトマト登録のある薬剤を選ぶことが必要です。
参考)https://www.ja-kamiina.iijan.or.jp/wp-content/uploads/2023/03/d6376cfd169b5248f08b6714238cf003.pdf
農薬のラベルを必ず確認し、適用作物名に「ミニトマト」の記載があるものだけを使いましょう。
参考:農薬の適用作物に関するQ&A(クロップライフジャパン)
クロップライフジャパン:「トマト」登録農薬をミニトマトに使用できるか?の公式見解
農薬散布だけに頼った防除には限界があります。接触伝染を断ち切ることが、かいよう病制圧の核心です。
作業ごとの消毒を徹底するには、以下の手順が効果的です。jppa+1
特に重要なのがハサミの消毒です。群馬県での調査では、収穫ハサミを介した接触伝染が問題になっています。
参考)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/vt_s_3.pdf
ハサミ1本の消毒を怠ったことが圃場全体への蔓延につながります。
これが原則です。
農薬散布のタイミングは「予防」が基本です。発病前から定期的に銅剤を散布し、感染の足がかりを作らせないことが重要です。
病気が広がってからの散布では、すでに導管内に入り込んだ菌には届かないため、散布しても改善が見込みにくい状況になります。
消毒薬を圃場ですぐ準備できるよう、たとえばアグロカネショウの「スミクロックス」(有効塩素0.5%の次亜塩素酸カルシウム製剤)などを常備しておくと、作業中の消毒がスムーズになります。
使う前に希釈倍率(1,000〜2,000倍)と使用方法を確認するという、1つのアクションだけでリスクを大きく下げられます。
参考:施設栽培でのかいよう病診断と防除のポイント(専門誌iPlant)
iPlant:施設栽培におけるトマトかいよう病の診断と防除のポイント
参考:広島県農業技術センターによる防除方法の詳細
広島県:トマトかいよう病の発生と防除(PDF)