疎植栽培の最大のデメリットとしてまず押さえておきたいのが、穂数不足による収量低下のリスクです。 疎植にすると一株あたりの空間と作土量が増えるため分げつ期間が長引きますが、株間を広げすぎると全体としての穂数が確保できず、標準密度に比べて減収するケースが報告されています。
福井県などの試験結果では、疎植の程度を強めるほど「標準比91〜96%」といった水準まで収量が落ち込んだ区もあり、過度な疎植は確実に収量面のリスクを伴うことが示されています。
一方で、適度な疎植では標準密度と同等〜わずかに低い程度に収まり、密植区ほどの収量は出ないものの大きな差が出ない場合もあります。 この「適度な疎植」と「やり過ぎの疎植」の境目は、品種や作期、土壌条件によって変わるため、上位記事の一般論だけを鵜呑みにせず、自分の圃場で試験区を設けて株数を少しずつ振ってみることが重要です。
参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030851529.pdf
また、北海道などでは行政資料で「疎植栽培は収量・品質の変動が大きく、良食味米を安定的にねらう技術ではない」と明記されており、コシヒカリなどのブランド米産地でも、収量より食味安定を優先する経営体では疎植導入に慎重な判断が求められます。 「省力・低コストだから」という理由だけで一気に株数を減らすと、数年分の平均収量で見ると逆にトータル収入を下げる可能性がある点は、現場で意外と見落とされがちなデメリットです。
参考)青森県における水稲疎植栽培の子実収量と玄米品質の変動要因
疎植栽培は「一粒一粒に光が当たるから品質向上」と語られることが多い一方で、条件を外すと乳白粒や心白粒などの発生を助長する場合があることが、技術相談事例や試験研究で指摘されています。 疎植では株あたりの養分供給量が増え、分げつ期間が長引くことで遅れ穂が増えやすく、圃場内で登熟ステージがバラつくと、収穫時に未熟粒・過熟粒が混ざって品質が不安定になりやすいのです。
特に早生品種はもともと生育期間が短く、一株あたりに過度な負担をかけると、十分な登熟期間が確保できずに乳白粒が増えやすいとされています。 東北や北陸の試験では、「疎植区では密植区に比べて収量はほぼ同等でも、登熟歩合や1等米比率がわずかに劣る」という結果が出ており、「量は取れたが等級が落ちて手取りが減った」という、現場ではかなり痛いパターンも起こりうることがわかります。
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さらに、疎植では光環境が良くなることで窒素の効きが強く出やすく、肥培管理を密植時と変えないまま株数だけ減らすと、過繁茂ぎみになりモミ数過多・倒伏リスクの増加につながるとの報告もあります。 倒伏は見た目以上に品質へ悪影響を及ぼし、地面に接した部分で着色粒や胴割れが増えるため、「疎植=品質が良くなる」と単純化せず、施肥量・時期の見直しをセットで検討する必要があります。
参考)https://hokkaido-nosan.or.jp/_sys/wp-content/uploads/h29_kosto.pdf
疎植栽培の導入理由として「苗箱が減って省力化」「田植えがラクになる」といった点がよく挙げられますが、雑草管理や病害虫対策の面では、むしろ手間が増えるケースが少なくありません。 疎植では株間が広くなり光が地表まで入りやすくなるため、カヤツリグサ類やノビエなどの雑草が発生しやすく、こまめな中干しや除草作業が必要になると指摘されています。
また、苗が少ないぶん一本一本の株に対する期待収量が大きくなるため、欠株や初期生育のムラがそのまま収量に直結しやすいというデメリットもあります。 寒冷地や冷水田など、もともと分げつが出にくい条件では、疎植を強めるほど株の回復余地がなくなり、「一部の弱い株が最後まで追いつけず、圃場全体の収量を引き下げた」という事例も報告されています。
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病害虫については、一般的には「風通しが良くなりいもち病などが減る」とされますが、乳苗疎植や稚苗疎植など省力技術と組み合わせた場合、苗箱あたりの苗密度が高くなることで育苗期の病害虫リスクが高まる側面もあります。 実験では、疎植条件で葉いもち斑数自体は減るものの、苗箱処理剤の効き方や薬剤濃度の推移が密播条件と異なり、防除スケジュールを見直さないと一時的に発病が増える場面もあったと報告されています。
参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030910166.pdf
さらに、疎植では株が少ない分、鼠害や鳥害を受けた際のダメージが相対的に大きくなり、局所的な食害が全体収量に与える影響が増すという現場の声も聞かれます。 苗代から本田までの一連の防除体系を「疎植仕様」に組み替えないと、省力化どころか「雑草と病気に追われて忙しくなった」という、皮肉な結果になりかねません。
疎植栽培のデメリットを語るうえで見落とされがちなのが、「品種・地域・気象との相性によって結果が大きくブレる」という点です。 青森県の研究では、標準栽植密度の約53%まで株数を減らした区の収量比が、その年の移植後11〜50日の平均気温と強く相関しており、同じ疎植条件でも年によって収量が大きく変動することが示されています。
試験結果を詳しく見ると、「コシヒカリ」では疎植区で密植区を上回る収量を示した一方、「ひとめぼれ」ではほぼ同等またはやや劣る程度で頭打ちになっているなど、品種によって疎植の向き・不向きが明確に分かれています。 また、寒冷地・高標高地・冷水田など分げつ発生が緩慢な環境では、「無理な疎植で収量や品質が安定しないリスクがある」と複数のマニュアルが注意喚起しており、地域一律で同じ株数を採用するのは危険だといえます。
参考)水稲疎植栽培|お役立ちツール|営農情報|農業ソリューション製…
北海道の技術資料では、疎植栽培を「収量・品質の変動が大きく、良食味米栽培技術ではない」とした上で、労働力や育苗施設に制約がある経営に限定して導入を検討するよう促しています。 これは裏を返せば、「労働力に余裕があり、品質とブランド性で勝負する産地では、あえて疎植を選ぶ必要は薄い」とも解釈でき、経営戦略によって最適な株数は変わることを示しています。
気象変動が激しくなる近年では、冷夏・高温登熟・豪雨など異常気象に対して、疎植区の方が収量の振れ幅が大きくなる傾向も指摘されています。 「平年並みの年だけを見ると疎植が有利に見えるが、悪条件の年も含めた5年平均で見ると密植より不利だった」という事例もあり、短期的なコスト削減に目を奪われると長期収益で損をする可能性がある点は、中長期の営農計画上のデメリットと言えるでしょう。
参考)https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/nourin/nosui/files/R3s3.pdf
疎植栽培は「苗箱が減ってコストダウン」「移植作業が早く終わる」といったメリットばかりが注目されますが、経営全体で見ると、必ずしもトータルコストが下がるとは限りません。 苗箱や田植え時間が削減される一方で、雑草管理、追肥の微調整、収穫時期の見極めなど、きめ細かな管理にかかる労力や技術レベルへの要求が高まり、作業の難易度が上がることがしばしばあります。
農水省の疎植栽培マニュアルでは、「10ha経営で年間約50万円の経済効果が見込まれる」とする一方で、導入にあたっては出穂遅れ・減収・品質低下といったリスクを十分理解し、地域の試験データや指導機関の技術情報を参照することが強く推奨されています。 地方自治体のマニュアルを見比べると、「苗箱40%減で省力効果大」と評価する県もあれば、「収量・品質の変動が大きく、良食味米には不向き」と慎重な県もあり、政策レベルでも評価が割れているのが現状です。
参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/info/pdf/sosyoku_140328.pdf
現場での一つの工夫として、すべての圃場を一律に疎植化するのではなく、労働力が逼迫する遠方圃場や、もともと地力が高く収量に余裕のある田んぼだけ疎植を採用し、ブランド米や販売単価の高い圃場は従来の密植〜標準密度を維持するといった「圃場ごとの密度戦略」が有効です。 また、密苗や高密度播種苗と疎植を組み合わせた技術では、収量が若干低下する一方で、育苗や移植作業の労力削減効果が大きく、トータル収益ではほぼ同等という報告もあり、自分の経営でどの工程がボトルネックかを見極めたうえで、密植と疎植を使い分ける発想が欠かせません。
参考)https://www.yanmar.com/jp/agri/cases/38609.html
最後に、疎植栽培のデメリットを抑えるうえで重要なのは、「株数だけをいじる単発の技術」としてではなく、品種選定・施肥設計・防除体系・作業労力と一体で設計することです。 疎植のリスクとメリットを冷静に見極めながら、自分の圃場と経営条件に合った「ちょうどいい密度」を探ることが、今後の不安定な気象環境下で生き残るための鍵と言えるでしょう。
疎植栽培のデメリットと注意点の詳細な試験結果や導入マニュアルは、以下の公的資料が参考になります。(収量・品質の変動や経営効果を検討する際の参考リンク)
農林水産省「疎植栽培マニュアル」
クボタ「水稲疎植栽培 お役立ちツール」
福井県「疎植条件が水稲の収量品質に及ぼす影響」
参考)https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/noushi/kikaku/bulletin_d/fil/41_2.pdf
J-STAGE「青森県における水稲疎植栽培の子実収量と玄米品質の変動要因」
北海道農政部「水稲の低コスト・省力化技術のススメ」疎植栽培の注意点