一等米でも食味評価は低いことがあり、等級が高いのに安値がつく米が実在します。
米の食味評価には、大きく分けて「官能検査」と「理化学測定(食味計)」の2種類があります。この2つの特徴をきちんと把握しておかないと、食味向上の努力が的外れになることがあります。
官能検査とは、訓練を受けた複数のパネラーが実際にご飯を食べ、外観・香り・味・粘り・硬さ・総合評価の6項目を基準米(複数産地コシヒカリのブレンド米)と比較して点数をつける方法です。日本穀物検定協会が毎年発表する「米の食味ランキング」はこの官能検査に基づいており、特A・A・A'・B・B'の5段階で評価されます。「食味が良いか否か」という最も本質的な問いに答えられる方法ですね。
一方、食味計(近赤外線分析計)は、米に近赤外線を照射して水分・タンパク質・アミロース・脂肪酸度などの成分を同時に測定し、100点満点の「食味値」として数値化します。測定時間は数十秒程度で済み、農業団体や選果場で広く使われています。数値が高いほどおいしい米とされ、65〜75点が標準、特Aランク相当とされる魚沼産コシヒカリは約90点レベルです。これは使えそうです。
ただし、食味計はあくまで官能検査の結果を「なぞらえた」推定値です。食味計のメーカーが違えば換算値も変わるため、異なる機種間でスコアを単純に比較できないという点には注意が必要です。農林水産省も「食味計は理化学的な推定値であり、人が感じる食味を直接評価したものではない」と明示しています。
農家として日常的に使えるのは食味計ですが、「食味計の数値が高ければ確実においしい米」とは断言できない点を覚えておけばOKです。官能検査と食味計の両方を理解したうえで、自分の米の品質を客観的に把握することが出発点になります。
農林水産省による食味評価の方法論については、以下のページで詳しく解説されています。
農林水産省「米の食味の理化学評価」- 官能検査・食味計・アミロース・タンパク質の関係を網羅的に解説
食味評価を語るうえで、タンパク質含量の管理は外せません。実は多くの農家が「肥料を多めに入れれば収量も上がり良いだろう」と考えがちですが、これは食味にとって大きなリスクになります。
玄米のタンパク質含量が高いほど、米の食味は低下することが科学的に明らかになっています。特に重要な数字は「7%」です。タンパク質含量が7%(玄米水分15%換算値)を超えると、食味は大きく低下するとされています。これはなぜかというと、日本の炊飯方法が「炊き干し法」(水を完全に吸わせて炊く)であるため、でんぷんとタンパク質が少ない水を取り合う形になり、タンパク質が多いとでんぷんの吸水・糊化が妨げられるためです。つまり食味低下のメカニズムが明確なのです。
実際の栽培管理として特に影響が大きいのは、窒素施肥量です。穂肥(出穂前の追肥)を過剰に与えたり、出穂前10日以降に速効性窒素を追肥したりすると、玄米タンパク質含量が跳ね上がることがあります。長野県が農家向けに公開している栽培指導では「過剰な追肥や出穂前10日以降の追肥は食味の低下につながるため行わないこと」と明示されています。
一方で、タンパク質含量を低くすれば良いかというと、それも要注意です。福井県農業試験場の研究では「玄米タンパク質含有率を5.5%未満と低すぎる状態にすると、整粒歩合の低下が懸念される」という結果も出ています。適正な管理目標は概ね「5.5〜7.0%の範囲に収める」ことが基本です。
食味値を上げるために収量を犠牲にするのではなく、健苗の利用・適切な水管理・栽培適地での品種選択など、窒素施肥量を増やさない複合的な技術で多収と高食味を両立させることが理想です。タンパク質管理が条件です。
みんなの農業広場「良食味米の栽培法」- タンパク質含量と食味低下の関係、適切な施肥管理の詳細解説
近年、農家が深刻に向き合わざるを得ない問題が「高温登熟」による食味低下です。地球温暖化の影響で、特に8〜9月の登熟期に気温が高い年が頻発しており、米の外観品質だけでなく食味評価にも直接ダメージを与えます。
高温登熟障害の代表的な症状は「白未熟粒(乳白粒・背白粒・腹白粒)」の増加です。これらは見た目にも悪く、食味計でも評価が下がります。農研機構の資料によると、高温環境では登熟初期からでんぷん代謝の低下が起き、中期からはストレス状態の増加によって細胞代謝が乱れ、玄米の窒素量も増加する傾向があります。結果として、外観品質と食味評価の両方が同時に落ちるという、農家にとってダブルパンチの状況になります。厳しいところですね。
高温登熟への対策として、最も基本的かつ即効性があるのは「間断かんがい(水かけ流し)」です。田んぼの水温・地温を下げることで、登熟期の過熱を和らげる効果があります。出穂後2〜3週間の登熟初期が特に重要で、常時湛水・水分不足どちらも障害を助長するため、適切な水管理が求められます。
品種選択も中長期的に有効な手段です。岐阜県農林水産研究所が育成した水稲早生品種「清流のめぐみ」は、高温登熟性に優れ、玄米タンパク質含量がコシヒカリより低い6.7〜7.7%を維持し、食味スコアも77.1〜80.3点とコシヒカリより優れる結果が報告されています(食味スコアは100点満点換算での比較値)。痛いですね、と感じるほど高温による品質ダメージは大きいのです。
高温年は「天候のせい」で済まさず、水管理と品種選択の両輪で対応するのが今後の農家の標準的な姿勢になりそうです。高温対策を意識した栽培管理に注意すれば大丈夫です。
農林水産省「水稲の高温障害粒発生要因と軽減対策」- 乳白粒・胴割粒の発生メカニズムと具体的な栽培対策をPDFで詳説
「うちの米は一等米だから食味も高いはず」と考えているとしたら、それは要注意です。実は農産物検査における「等級」と食味評価は、まったく別の評価体系です。この違いを知っているかどうかが、出荷戦略に直接影響します。
農産物検査の等級(一等・二等・三等・規格外)は、整粒歩合・着色粒・異物の割合など、主に玄米の「外観品質」を基準に決まります。一等米になるには整粒が70%以上含まれていることが条件のひとつで、味・香り・粘りといった食味は評価項目に含まれていません。つまり、見た目がきれいで形の揃った米なら一等米になれますが、おいしいかどうかは別の話です。
一方、日本穀物検定協会の「米の食味ランキング」は、実際にパネラーが食べた結果をもとにした官能検査による評価です。2024年(令和6年)産米の発表では、特Aに選定された銘柄数が過去最多水準となり、全体の3割超が特Aランクに入りました。ここで注目すべきは、食味ランキングと農産物検査の等級は連動していないという点です。二等米でも食味が高ければ、コンクールで入賞する可能性があります。
実際、過去に魚沼産コシヒカリが食味ランキングで「特A」から「A」に転落した年(2017年産)には、産地の生産者・自治体から価格への影響を懸念する声が上がりました。食味ランキングは価格に影響しますが、農産物検査の等級も同様に買取価格の基準として使われます。この2つの評価軸は別物だということですね。
| 評価体系 | 評価機関 | 評価項目 | ランク |
|---|---|---|---|
| 農産物検査(等級) | 登録検査機関(農林水産省所管) | 整粒歩合・被害粒・異物など外観品質 | 一等〜三等・規格外 |
| 食味ランキング | 日本穀物検定協会 | 外観・香り・味・粘り・硬さ・総合(官能検査) | 特A・A・A'・B・B' |
| 食味値(食味計) | 各機関(サタケ、ニレコ等の機器) | タンパク質・アミロース・水分・脂肪酸度 | 0〜100点(70点前後が標準) |
農家として収入を最大化するには、等級だけに気を取られず、食味評価にも並行して取り組むことが重要です。等級が高くても食味が低ければ、消費者やバイヤーの「リピート購入」にはつながりません。逆に食味評価が高ければ、直販や産直での高単価販売の根拠として活用できます。2つの評価軸を別物として管理するのが原則です。
マネーフォワード「一等米は本当においしい?お米の等級一覧」- 等級と食味の違いを図表つきで整理。農家・飲食店向けの実務的な解説
食味値を上げることは、単なる品質追求ではなく、収入アップの実践的な手段にもなります。ここでは、多くの農家がまだ十分に活用していない「食味コンクールを起点としたブランド化」という戦略を紹介します。
「米・食味分析鑑定コンクール:国際大会」は国内外最大規模の米のコンクールです。1次審査では玄米の状態で食味計による食味値測定が行われ、普通米は85点以上が2次審査対象となります(低・中アミロース米は81点以上)。2次審査では厳格な官能検査が実施され、金賞・特別優秀賞などが選ばれます。岐阜県飛騨市はこのコンクールで2013年から連続で特別賞を受賞し、「飛騨米」のブランド化を推進した事例として知られています。
コンクール入賞を収入に直結させた具体的な事例もあります。2017年時点で東京のベンチャー企業が展開した「米風土(まいふうど)」というブランドは、コンクール入賞農家の米を集め、パッケージに食味値や入賞情報を表記して販売する仕組みを構築しました。「食味の見える化」によって消費者の信頼を獲得し、高付加価値での流通につなげた先進例です。この考え方は使えそうです。
さらに、2025年時点でのブランド米の価格帯を見ると、コンクール入賞実績を持つ農家の米が5kg6,000円台(通常の流通価格の2〜3倍水準)で販売されている事例も出てきています。これは、食味値の高い米を「数字で証明」し、ブランドストーリーとセットで消費者に届けた結果です。
食味評価はゴールではなく、収入向上へのスタートラインです。食味値を数値化・記録・改善するサイクルを回すことが、価格競争から抜け出すための第一歩になります。結論は「食味の見える化」です。
日本穀物検定協会による食味ランキングの最新結果と、産地別の特A銘柄一覧は以下で確認できます。
日本穀物検定協会「ランキング試験・食味試験」- 最新の産地別食味ランキング結果と試験方法の公式情報