施設栽培では3年5~6作の連作で障害発生のリスクが急増します。
塩類濃度障害とは、土壌中の塩類濃度が植物の許容値を超えることで発生する生育障害のことです。土壌溶液中に含まれる硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カリ、硫酸カリなどの塩類が過剰に蓄積すると、作物は根から水分や養分を正常に吸収できなくなります。これは根圏の浸透圧が高まることで、植物が土壌から水を吸い上げる力が弱まるためです。
施設栽培では特にこの障害が発生しやすい環境が整っています。ハウス内は雨による自然の洗い流し効果がなく、高温による水分蒸発で塩類が地表面に集積しやすいからです。連作を繰り返すと、施肥した肥料成分のうち作物が吸収しきれなかった分が土壌に残留し、年々蓄積していきます。
つまり塩類の過剰状態です。
土壌中の塩類濃度はEC(電気伝導度)という指標で測定されます。EC値はmS/cmという単位で表され、この数値が高いほど土壌中に塩類が多く含まれていることを意味します。一般的な農作物の適正EC値は0.4~1.0mS/cm程度とされており、1.0mS/cmを超えると濃度障害のリスクが高まります。
露地栽培と異なり、施設栽培は閉鎖的な環境で集約的な栽培が行われるため、塩類集積による濃度障害が作柄不安定化の主因となっているのです。肥料を多く投入する高収量栽培ほど、この問題に直面しやすくなります。
塩類濃度障害の最大の原因は、施肥量が作物の吸収量を上回ることにあります。特に施設野菜栽培では連作が中心で、施肥回数と数量が多いため、植物が吸収する以上の肥料成分が土壌に残留します。化成肥料は速効性がある反面、塩類濃度が非常に高く、過剰施用により短期間で土壌の塩類集積が進行してしまいます。
肥料の種類によっても塩類集積の程度は異なります。例えば塩化カリや硫酸カリなどのカリ肥料、硝酸態窒素を含む肥料は、残留しやすい塩類成分を多く含んでいます。これらの肥料を毎作継続的に施用すると、土壌中の硫酸イオンや塩素イオンが急速に増加していきます。
ハウス土壌の調査結果によると、大体3年5~6作の連作で限界ECに達すると報告されています。
土壌水分が少ないほど、また土壌が酸性になると障害が起きやすくなるという特徴もあります。乾燥状態では塩類の濃度が相対的に高まり、根への影響が強くなるためです。さらに施設内は外気との自由なガス交換が行われないため、酸性土壌では亜硝酸の揮散、土壌反応の高い土壌ではアンモニアガスの揮散により、ガス障害が作物に現れることもあります。
堆肥の多投も原因の一つとなります。堆肥自体は有機物として土壌改良効果がありますが、過剰に施用すると堆肥に含まれる塩類成分が蓄積します。適切な量を守らないと、有機質資材であっても塩類集積を加速させることになるのです。
土壌のCEC(陽イオン交換容量)が低い砂質土壌では、保肥力が弱いため塩類濃度障害が発生しやすいという特性があります。砂土では1.0~1.5mS/cm、低地土や埴壌土では2.5~3.0mS/cmで濃度障害が起こりうるとされており、土壌の種類によって耐性が異なることも理解しておく必要があります。
塩類濃度障害の代表的な症状として、まず葉色が濃くなることが挙げられます。窒素過多の状態になると、葉が濃緑色を呈し、巻き上がったような姿になります。一見すると健康そうに見えますが、これは異常なサインです。日中に作物がしおれる現象も頻繁に観察されます。根が塩漬け状態になって水分を吸収できないため、晴天時に水分不足の症状を示すのです。
発芽障害も重要な指標となります。種子が発芽しない、または発芽率が著しく低下する場合、土壌のEC値が高すぎる可能性があります。播種14日後の様子を観察すると、塩化加里区では発芽率の低下が顕著に見られるという報告もあります。
生育不良です。
根の生育状態を確認することも診断に役立ちます。塩類濃度が高い土壌では、根が褐変したり、細根の発達が悪くなったりします。根が傷むことで地上部への養水分供給が滞り、株全体の樹勢が低下します。適当な灌水を行っているにもかかわらず水分吸収機能が低下している場合は、塩類障害を疑う必要があります。
ひどいときには作物が枯死に至ります。土壌溶液中の塩類濃度が限界を超えると、浸透圧の関係で根から水分が逆に奪われてしまい、植物は生存できなくなります。これは肥料焼けとも呼ばれる現象で、回復が困難な状態です。
他の障害との見分け方も重要です。窒素欠乏では下葉から黄化が始まりますが、塩類障害では全体的に濃い緑色を維持したままで生育が停滞します。病害虫による被害とは異なり、圃場全体に均一に症状が現れる傾向があるのも特徴です。ガス障害との区別では、被覆ビニールについた水滴のpHを測定する方法があります。アルカリ性であればアンモニアガス障害、酸性であれば亜硝酸ガス障害と判定できます。
EC値の測定は塩類濃度障害を予防する上で最も基本的な管理項目です。多くの植物の生育に適したEC値は0.2~0.4mS/cmとされており、施肥前のこの範囲であれば基準施肥量で問題ありません。しかしEC値が0.8mS/cm以上になると、濃度障害などの悪影響が現れやすくなります。
施肥前のEC値に応じた施肥量調整が重要になります。EC値が0.4~0.7の場合は基準施肥量の2/3、0.8~1.2の場合は1/2、1.3~1.5の場合は1/3、1.6以上では無施用とするなど、数値を確認して段階的に施肥量を減らしていく必要があります。
数値で判断が可能です。
土壌診断の方法としては、専門機関に依頼する方法と簡易キットを使用する方法があります。専門機関による土壌分析では、基本セット10項目で6,600円程度から、EC測定単体であれば550円~1,000円程度で実施できます。JAや自治体によっては組合員向けに割引料金や無料サービスを提供している場合もあります。
土壌診断では、EC値だけでなくpH、硝酸態窒素、交換性塩基(カリ、石灰、苦土)、有効態リン酸、CEC(陽イオン交換容量)なども併せて測定することで、総合的な土壌管理が可能になります。EC値が高い場合、同時に測定される硝酸態窒素の値も高くなっている傾向があり、窒素施肥の過剰が塩類集積の主因であることが多く確認されます。
採土方法も診断精度に影響します。圃場内の複数箇所(5~10地点)から深さ15cm程度の表土を採取し、混合したものをサンプルとします。地表面だけでなく、下層土の塩分濃度も重要で、上層より下層のEC値が高い場合は、湛水除塩などの対策が必要になります。
定期的な土壌診断の実施が推奨されており、3年に1回を目安にpH検査・EC検査を行い、pH6.0~6.5、EC0.4~1.0mS/cmを維持することが理想とされています。特に施設栽培では年1回の診断が望ましいでしょう。
土壌分析の料金案内 - 日本土壌協会
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塩類濃度障害への対策として最も基本的なのは、土壌診断に基づいた適正施肥です。土壌中に残存している肥料成分を測定し、その結果に応じて施肥量を調整することで、新たな塩類の蓄積を防ぎます。特にリン酸やカリが過剰に蓄積している場合は、これらの施用を大幅に削減または一時停止することで、肥料コストの削減と塩類集積の抑制を同時に実現できます。
湛水除塩は即効性のある対策方法です。圃場に水を溜めて土壌中の塩分を水に溶かし出し、排水することで塩類を洗い流します。縦浸透法では、湛水した水が地下へ浸透する際に土壌中の塩分を下方に押し流し、溶出法では土壌中の塩分を湛水中に溶脱させた後に圃場から排水します。代かき作業を2~3回繰り返すことで、高塩分濃度の土壌でも効果的に除塩できます。
水で洗い流す方法です。
ただし湛水除塩には大量の水が必要で、水利条件が整っていない場合は実施が困難です。また排水した水の塩分濃度が高いため、排水先への環境配慮も必要になります。土壌の透水性が低い場合は、弾丸暗渠や心土破砕を併用することで除塩効果を高めることができます。
肥料の選択も重要な予防策となります。塩類集積を起こしにくい緩効性肥料や、硫酸イオンや塩素イオンの少ない肥料を選ぶことで、長期的な塩類蓄積を抑制できます。有機質肥料は化成肥料に比べて塩類濃度が低く、土壌の物理性や微生物環境の改善にも寄与するため、継続的な作物生育に適しています。
ただし有機質肥料も過剰施用すれば塩類集積の原因となるため注意が必要です。化成肥料の塩類濃度は堆肥とは比較にならないほど高いものの、堆肥を10aあたり2トン以上施用するような場合は、堆肥由来の塩類蓄積も考慮しなければなりません。
CECを高める土壌改良も有効です。堆肥などの有機物やゼオライト、ベントナイトなどの粘土鉱物を施用することで、土壌の保肥力を高め、急激な塩類濃度の上昇を緩和できます。特に砂質土壌では、粘土鉱物の客土により保肥力を改善する効果が期待できます。
輪作や間作による塩類吸収も一つの手段です。耐塩性の強い植物を栽培して土壌中の塩類を吸収させる方法で、緑肥作物の導入も効果的です。連作年数が長いほど塩類集積が進行するため、可能であれば異なる作物を組み入れた輪作体系を確立することが理想的です。
施肥方法の改善では、全面施肥ではなく局所施肥にすることで、土壌全体の塩類濃度上昇を抑えられます。また元肥を減らして追肥中心の施肥体系に変更することで、作物の生育に応じた必要最小限の施肥が可能になります。
施設栽培は塩類濃度障害が最も発生しやすい栽培形態です。ビニールハウスやガラス温室などの施設内では、雨が直接土壌に降り注がないため、自然の除塩作用が働きません。露地栽培であれば降雨により塩類が下層へ洗い流されますが、施設内では人為的に除塩対策を講じない限り、塩類は蓄積し続けます。
施設内の高温環境も塩類集積を加速させる要因です。土壌表面からの水分蒸発が激しく、水とともに上昇してきた塩類が地表面に析出します。白い結晶が土壌表面に現れる現象は、塩類集積が進行している視覚的なサインです。
連作がほぼ前提です。
経済性を重視した施設栽培では、同一作物の連作が一般的に行われます。トマト、キュウリ、イチゴなどの施設園芸品目では、年間を通じて同じ作物を栽培する周年栽培や、年に複数回の作付けを行う多毛作が実施されます。この栽培体系では施肥回数と施肥量が必然的に多くなり、塩類集積のリスクが高まります。
施設野菜栽培における連作年数と塩類集積の関係を見ると、シュンギクのハウス栽培では連作年数の長い地域ほど、土壌中の水溶性イオンのうち硫酸イオンの割合が高くなることが確認されています。これは硫酸根を含む肥料の連用により、特定のイオンが選択的に蓄積していることを示しています。
施設土壌の特性として、CECが低下しやすいという問題もあります。有機物の分解が速く進むため、適切な堆肥施用を行わないと土壌の保肥力が低下し、塩類濃度の変動が大きくなります。この状態では少量の施肥でもEC値が急上昇し、濃度障害を引き起こしやすくなるのです。
施設栽培で塩類濃度障害を回避するためには、作付け間隔を活用した除塩が重要になります。夏季の高温期にビニールを外して太陽熱消毒と併せて湛水除塩を行う、あるいは栽培と栽培の間に十分な期間を設けて除塩作業を実施するなど、計画的な土壌管理が求められます。
イチゴ栽培では、ECの適正値を生育初期で0.8mS/cm、開花肥大期で調整するなど、生育ステージに応じたEC管理が推奨されています。作物ごとに許容できるEC値の範囲が異なるため、栽培する作物の特性を理解した上での管理が必要です。
土づくりと土壌診断⑤ 施設栽培の土壌管理ーその1ー - アグリウェブ
施設栽培における土壌管理の具体的な方法と塩類濃度障害の詳細について解説されています。