ナガイモ炭疽病の原因・症状と防除対策を徹底解説

ナガイモ栽培で深刻な被害をもたらす炭疽病。その症状や発生原因、効果的な防除方法を農業従事者向けに詳しく解説します。見逃しがちな感染経路とは?

ナガイモ炭疽病の症状・原因と防除対策

薬剤散布を毎年繰り返しているのに、炭疽病の被害が逆に拡大していた農家が3割以上います。


🌿 この記事のポイント
🔍
炭疽病の症状と見分け方

葉・茎・塊根に現れる特徴的な病斑を早期に見つけることが被害拡大を防ぐカギです。

⚠️
発生原因と感染経路

種いもや罹病残渣を通じた一次伝染、雨による二次伝染のメカニズムを解説します。

効果的な防除・農薬対策

適切なローテーション散布や耕種的防除で、薬剤耐性菌の発生を抑えながら被害を最小化できます。

ナガイモ炭疽病の症状と他の病害との見分け方


ナガイモ炭疽病は、Colletotrichum dematium(コレトトリカム属)などの糸状菌が原因で起こる病害です。葉・葉柄・茎・塊根のいずれにも発生しますが、最初に気づきやすいのは葉の症状です。


葉では、はじめ淡黄褐色の小さな斑点が現れ、やがて中央部が灰白色〜灰褐色に変わり、周囲が暗褐色〜黒褐色の縁で囲まれた病斑に拡大します。病斑の大きさは直径3〜10mm程度で、はがきの角にある小さな切り欠きほどの大きさをイメージするとわかりやすいです。病斑上には、湿度が高い条件下で橙色〜サーモンピンクの分生子塊(胞子の固まり)が肉眼でも確認できます。


これが炭疽病の大きな特徴です。


茎や葉柄では、暗褐色の長楕円形の病斑が形成されます。病斑が茎全体を取り囲むように広がると、そこから先の部分が枯れ上がります。


これは「胴枯れ」と呼ばれる状態です。


被害が激しい年には、ほ場全体が焼けたように見えることもあります。


塊根(収穫物)への感染も見逃せません。表面に黒褐色のくぼんだ病斑が発生し、腐敗が進むと商品価値を大きく損ないます。出荷後に症状が進行するケースもあり、クレームにつながるリスクがあります。


他の病害との見分け方として、褐色腐敗病は葉ではなく主に塊根の内部が腐敗するため区別できます。
黒斑病は葉に黒い小点が散在しますが、炭疽病ほど明確な縁取りが出ません。橙色の胞子塊が見えたら、炭疽病と判断してほぼ間違いありません。


つまり「橙色の胞子塊」が確認の決め手です。


ナガイモ炭疽病の発生原因と感染が広がる条件

炭疽病菌は、前作の罹病残渣(りびょうざんさ)や感染した種いもの中で越冬します。これが一次伝染源となり、春から夏の気温上昇とともに胞子を飛散させて新たな感染を引き起こします。


発生に最も関係するのは、気温と降雨の組み合わせです。気温25〜30℃で降雨が続く条件が、菌の増殖と胞子の飛散に理想的な環境になります。梅雨の時期から盆前後にかけて発生が多いのはこのためです。1日の降水量が10mmを超える雨が3日以上続くような状況では、感染リスクが急激に上がります。


感染経路として特に注意したいのが種いもの持ち込みです。外見上は健全に見えても、内部に炭疽病菌が潜伏している種いもが一定の割合で存在します。自家採種を繰り返しているほど、この一次伝染源が蓄積されていきます。


意外ですね。


また、ムカゴ由来の種いもは一般に病害の持ち込みリスクが低いとされますが、ムカゴを採取したほ場自体が汚染されていた場合はその限りではありません。採種ほ場の管理状況を確認することが原則です。


密植や過繁茂によるほ場内の多湿環境も発生を助長します。つるが絡み合って通気性が落ちると、葉面の乾燥が遅れ、胞子が発芽しやすい状態が長く続きます。施肥管理も重要で、窒素過多による軟弱な生育は感染しやすい組織を作り出します。


発生リスク要因 具体的な状況 リスクレベル
降雨 雨期の連続雨天(3日以上) 🔴 高
気温 25〜30℃の高温 🔴 高
種いも 自家採種の継続使用 🟠 中〜高
ほ場管理 密植・過繁茂・窒素過多 🟠 中〜高
残渣処理 前作の罹病残渣の放置 🔴 高

ナガイモ炭疽病に対する農薬・薬剤防除のポイント

炭疽病の薬剤防除で最も重要な原則は、「発病前〜発病初期の予防散布」です。発病が広がってからの散布では治療効果が限られ、被害を食い止めることが難しくなります。


これが基本です。


主に登録のある薬剤グループとして以下が挙げられます。


  • 🟢 銅水和剤(ボルドー液、コサイド3000など):予防効果が高く、耐性菌リスクが低い
  • 🔵 テブコナゾール系(オンリーワンフロアブルなど):浸透移行性があり、発病初期にも効果的
  • 🔵 アゾキシストロビン系(アミスター20フロアブルなど):予防・治療両面の効果を持つ
  • 🟡 マンゼブ系(ジマンダイセン水和剤など):広域スペクトルで多病害に対応

薬剤耐性菌の発生を防ぐため、同一系統の薬剤を連続使用しないローテーション散布が不可欠です。具体的には、「銅剤 → アゾキシストロビン系 → 銅剤 → テブコナゾール系」のように、異なる作用機序の薬剤を交互に使うことで耐性菌の発生リスクを下げられます。


散布のタイミングは、6月下旬〜7月上旬(梅雨入り頃)から開始し、10〜14日おきに繰り返すのが一般的な目安です。ただし降雨が多い年は散布間隔を縮めることも検討します。散布後6時間以内に雨が降ると薬効が大きく低下するため、天気予報の確認は必須です。


農薬の使用にあたっては、必ず農薬登録の最新情報(農林水産省・農薬登録情報提供システム「pesticide.maff.go.jp」)で、ナガイモへの適用を確認してください。登録のない農薬を使用すると農薬取締法違反になります。


参考:農林水産省 農薬登録情報提供システムでナガイモへの適用農薬を確認できます。


農林水産省 農薬登録情報提供システム

ナガイモ炭疽病を防ぐ耕種的防除と圃場管理の実践

薬剤だけに頼らない耕種的防除は、長期的に炭疽病被害を抑制するうえで欠かせない取り組みです。


これは使えそうです。


最も基本的かつ効果的なのが健全種いもの使用です。自家採種を続けているほ場では、毎年少量でもウイルス・糸状菌の汚染が蓄積します。3〜5年に一度は農業試験場や種苗会社から認定種いも・無病種いもを購入し、ほ場をリセットすることを検討してください。費用はかかりますが、数年分の農薬代と収量ロスを考えると十分に元が取れます。


輪作(りんさく)も有効な手段です。ナガイモを同じほ場で毎年続けると、土壌中の炭疽病菌密度が年々蓄積されます。3〜4年に一度、麦類やイネ科作物と輪作することで土壌の菌密度を下げることができます。


収穫後の罹病残渣の処理も徹底してください。炭疽病菌は罹病残渣の中で翌年まで生存できます。罹病した茎葉はほ場外に持ち出して焼却するか、深く土中に埋め込む(20cm以上)ことで越冬菌密度を下げられます。


放置は厳禁です。


排水管理も見落としがちなポイントです。ほ場内に水がたまる箇所があると、多湿環境が局所的に生まれ、そこを起点に感染が広がります。ほ場の傾斜と排水溝を定期的に確認し、水はけの良い状態を維持することが条件です。

  • 🌱 健全種いも・認定種いもの使用(3〜5年に1回リセット)
  • 🔄 3〜4年ごとのイネ科作物との輪作
  • 🗑️ 収穫後の罹病残渣の圃場外搬出・焼却
  • 💧 排水管理の徹底(水たまりをつくらない)
  • ✂️ 密植を避け、通気性を確保する栽植密度の調整

参考:農研機構によるナガイモ・ヤマノイモの病害に関する技術情報(耕種的防除を含む)が掲載されています。


農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)

ナガイモ炭疽病の「見逃しやすい発生パターン」と収量への影響

現場で長年ナガイモを栽培している農業従事者でも見落としやすいのが、「梅雨明け後の再感染」のパターンです。梅雨期に薬剤散布を徹底して一旦症状が落ち着いても、8月の高温多湿期に入ると残存菌が再び増殖し、二次的な感染ピークが来ることがあります。


8月に入ったから安心、ではありません。


特に気をつけたいのがムカゴへの感染です。ムカゴに炭疽病菌が感染すると、そのムカゴを翌年の種いも用に使うことで翌年以降の一次伝染源となります。ムカゴの表面に黒褐色の病斑や変色がないか、収穫時に必ず確認してください。


収量への影響について具体的に見てみましょう。炭疽病が発生したほ場では、葉面積の20%以上が罹病すると光合成能力が著しく低下し、塊根の肥大が妨げられます。試験データによると、発病が激しいほ場では無防除区と比較して収量が30〜50%程度減少するケースも報告されています。1反(約10アール)あたりの収量が平均1.5トンとすると、最悪の場合750kgもの収量ロスが発生します。金額に換算すると数万円規模の損失になります。


痛いですね。


また、塊根への感染が起きた場合は、出荷基準を満たさない規格外品が大幅に増加します。JAや市場への出荷で等級が落ちると、単価が20〜40%程度下がるケースもあります。早期発見・早期対処が経営リスクの低減に直結します。


もう一点、見落とされがちな視点があります。それは隣接ほ場からの飛来感染です。自分のほ場で完璧に管理していても、隣接するほ場に感染株があれば、雨滴と風によって胞子が飛び込んでくる可能性があります。地域全体での防除情報共有や、農業共済・農業共済組合を通じた情報取得も、実は経営上の重要なリスク対策のひとつです。


参考:都道府県農業試験場や病害虫防除所が発行する「病害虫発生予察情報」は、地域ごとの発生リスクを知るうえで非常に有用です。


農林水産省 病害虫・雑草の防除に関する情報(発生予察情報リンクあり)






住友化学 殺菌剤 ダコニール1000 250ml