『天穂のサクナヒメ』における稲作パートは、そのあまりのリアルさから「農林水産省のホームページが攻略wikiになる」と話題になりましたが、その中でも特にプレイヤーを苦しめるのが「稲熱病(いもちびょう)」です。この病気にかかると、稲の葉や穂に褐色や灰色の斑点ができ、放置すると稲全体が枯れてしまい、お米の「量」や「味」などのステータスが大幅に低下してしまいます。
参考)【天穂のサクナヒメ】稲熱病(いもち病)の治し方・対策方法と原…
ゲーム内で稲熱病が発生しやすい時期は、主に「夏1」から「夏3」にかけての出穂期前後です。この時期に特定の気象条件や肥料環境が重なると、病気ゲージが一気に上昇します。
特に注意が必要なのは、「気温が低いのに湿度が高い」というジメジメした夏です。サクナヒメのステータス画面で「稲熱病」のゲージが少しでも青く表示され始めたら、すでに感染が始まっています。初期段階では目に見える変化は少ないですが、進行すると田んぼ全体の稲の色が悪くなり、取り返しのつかない減収につながります。原因を知ることは対策の第一歩ですが、ゲーム内では「カビが原因」と簡潔に説明されるのみで、その背後にある複雑なパラメータ変動(気温、湿度、栄養バランス)を理解していないと、毎年同じ病気に悩まされることになります。
参考)【サクナヒメ】病気一覧丨治し方と対策方法 - アルテマ
「農林水産省のいもち病解説ページ」には、菌の感染サイクルについて非常に詳しい図解があります。
不幸にも稲熱病にかかってしまった場合、自然治癒を待っていては手遅れになります。即座に治療を行う必要がありますが、その中心となるのが「肥料」への薬剤投与と「祈祷」による環境操作です。
最も効果的な治療法は、肥料に「秀日の妙薬(しゅうじつのみょうやく)」を混ぜて撒くことです。このアイテムは、稲熱病を含むカビ由来の病気(馬鹿苗病、縞葉枯病など)に対して特効薬として機能します。
参考)【天穂のサクナヒメ】稲の病気一覧|原因・治し方・対策方法まと…
秀日の妙薬の入手と使用法
秀日の妙薬は、主に探索で入手できるレアアイテムです。肥料に混ぜる際は、以下の手順で行います。
| 素材名 | 主な入手場所 | 効果 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 秀日の妙薬 | 金の丘(採集)、日恵千水峡(宝箱) | 稲熱病、馬鹿苗病などの治療・予防 |
採集派遣で「金の丘」を指定すると集めやすい |
| 剪枝の妙薬 | 水の沢(採集) | 塩害、過剰生育、高温障害の治療 | 稲熱病には効果が薄いので注意 |
| 壮盛の妙薬 | 木の森(採集) | しらた米、徒長などの生育不良改善 | 体質改善用で、菌を殺す効果はない |
特に「金の丘」は秀日の妙薬の入手確率が比較的高く設定されているため(約12%前後)、病気が流行る夏前には採集派遣を行ってストックを確保しておくことが重要です。
参考)【サクナヒメ】採集アイテムの入手率
祈祷による「日照り乞い」
肥料による治療と併せて絶対に行うべきなのが、都との取引で習得できる「日照り乞い」の祈祷です。稲熱病の原因の一つは「日照不足による湿気と低温」であるため、強制的に天候を晴れにし、気温を上昇させることで菌の活動を抑制できます。
参考)【天穂のサクナヒメ】稲作会議に関する情報まとめ &#8211…
日照り乞いを行うと、翌日の天気が晴れになり、気温が上昇します。これにより、田んぼの水分が蒸発しやすくなり、ジメジメした環境を改善できます。ただし、やりすぎると今度は「高温障害」や「干ばつ」のリスクが出てくるため、稲の状態を見ながら適度に行う必要があります。特に夏3の時期は自然と気温が上がるため、過度な日照り乞いは禁物です。
参考)天穂のサクナヒメ 稲作のコツをまとめたメモ - 3秒でげーむ…
この「薬」と「天気」の合わせ技こそが、サクナヒメにおける稲熱病治療の鉄則です。現実の農業でも、薬剤散布と水管理(中干しなどで湿度を下げる)を組み合わせて防除を行いますが、天候まで操れるのはサクナヒメならではの神の力と言えるでしょう。
稲熱病は一度発生するとステータス低下が避けられないため、「治す」ことよりも「防ぐ」ことが何倍も重要です。予防には、毎日の肥料管理と、春の田植え前に行う種籾選別が深く関わっています。
「トライフォース農法」の罠
インターネット上で有名な攻略法(という名の失敗例)に「トライフォース農法」と呼ばれるものがあります。これは、肥料のパラメータである「根肥」「葉肥」「穂肥」のすべてを常にMAX(三角形のグラフが最大)にする農法のことです。
参考)【サクナヒメ】トライフォース農法のやり方とデメリット
一見、栄養満点で最強の米ができそうですが、これは稲熱病の温床となります。特に「葉肥(窒素分)」が過剰になると、前述の通り稲が軟弱に育ち(過剰生育)、病気に対する抵抗力が著しく低下します。現実の農業でも、窒素肥料のやりすぎは「いもち病」の最大のリスク要因とされており、サクナヒメはこの点も忠実に再現しています。
参考)農業技術事典NAROPEDIA
対策としては、グラフを常に満タンにするのではなく、稲の成長段階に合わせて必要な栄養素だけを重点的に与える、あるいは適度に数値を抑えることが重要です。全てのパラメータを100%にする必要はありません。
塩水選(えんすいせん)による強力な予防
冬の終わりに行う「種籾選別」において、塩を使った「塩水選」を行うことは、稲熱病予防において最強の手段の一つです。
泥水選よりも比重の重い塩水で選別を行うことで、中身の詰まった優秀な種籾だけを残すことができます。さらに、塩には殺菌効果があるため、選別と同時に種籾の消毒が行われ、初期の病気抵抗力(防病ステータス)が大幅に向上します。
参考)【サクナヒメ】種籾選別のコツ丨泥のおすすめ配分 - アルテマ
塩水選を行った年は、稲熱病には強くなりますが、逆に塩害のリスクが高まります。これを防ぐために、田植え後の肥料に「剪枝の妙薬(塩害対策)」を混ぜたり、掛け流しで塩分を洗い流したりするケアが必要になります。あちらを立てればこちらが立たず、というジレンマもまた、本作の奥深いところです。
「クボタの農業情報サイト」では、実際の塩水選のメカニズムと比重の関係について詳しく解説されています。
ここまではゲーム内の攻略情報を中心に解説してきましたが、最後に少し視点を変えて、実際の農業における「稲熱病」の恐ろしさと菌の生態について深掘りしてみましょう。これを知ることで、なぜサクナヒメであのような対策が必要なのか、より深く理解できるはずです。
世界を飢えさせた「いもち病菌」
稲熱病の原因菌である Magnaporthe oryzae(マグナポルテ・オリザエ)は、人類の歴史において最も恐れられてきた植物病原菌の一つです。日本では江戸時代に発生した「享保の大飢饉」や「天明の大飢饉」の主因の一つとされ、冷夏によって爆発的に広まったこの病気が、数万人の餓死者を出す原因となりました。
参考)https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00322054/3_22054_4_imoti20130311.pdf
この菌は、湿った環境で胞子(分生子)を形成し、風に乗って周囲の稲へと飛散します。葉に付着した胞子は、水滴があれば発芽し、強力な酵素と物理的な圧力で稲の硬い細胞壁を突き破って侵入します。この「細胞壁を突き破る力」は非常に強く、その圧力はなんと自動車のタイヤの数倍にも達すると言われています。
ゲームと現実のリンク
サクナヒメの中で「夏の低温」が原因となるのは、現実において冷夏(ヤマセなど)が続くと稲の生育が遅れ、いつまでも柔らかい状態が続くため、菌が侵入しやすくなるからです。また、日照不足は光合成を阻害し、稲の体力を奪います。
ゲーム内で「雑草」を放置すると病気が増えるのも、雑草が風通しを悪くし、株元の湿度を高めてしまうためです(現実では雑草自体が菌の宿主になることもあります)。
現代農業での戦い
現在、日本の農業現場では、品種改良による「いもち病抵抗性品種」の導入や、サクナヒメにも登場するような「種子消毒」、そして航空防除などの薬剤散布によって発生をコントロールしています。しかし、いもち病菌も進化し続けており、抵抗性を破る「レース(菌の変異株)」が出現するため、人間と菌との知恵比べは今も続いています。
参考)いもち病とは?症状や、対策・予防方法、おすすめ農薬のご紹介
サクナヒメで私たちが体験している「日照り乞い」や「妙薬の調合」といった試行錯誤は、かつて私たちの先祖が必死の思いで行ってきた、自然の脅威に対する祈りと技術の歴史そのものなのです。そう思うと、ゲーム画面の病気ゲージが、単なるパラメータ以上の重みを持って見えてくるのではないでしょうか。
「シンジェンタジャパン」のサイトでは、いもち病の感染サイクルと防除の歴史について専門的な視点から学べます。

北海道庁戦前発行資料『昭和十年度冷害対策指導聚落実施成績』『稲熱病防除読本』『水稲地域別耕種改善規準並施肥規準』3冊セット 00527