近年、猛暑の影響でイチゴ栽培における高温障害が深刻化しています。イチゴは本来、冷涼な気候を好む作物であり、生育適温は18℃〜25℃程度とされています。しかし、近年の日本の夏は施設内温度が40℃を超えることも珍しくなく、この環境変化がイチゴの生理機能に甚大なダメージを与えています。
高温障害の最も恐ろしい点は、単に「葉が焼ける」といった可視的な被害だけでなく、植物体内のエネルギー収支を狂わせ、将来の収量をごっそりと奪っていく「見えない被害」にあります。農業従事者にとって、このメカニズムを正しく理解し、適切なタイミングで対策を講じることは、経営を安定させるための必須条件と言えるでしょう。
本記事では、単なる日除け対策にとどまらず、植物生理学に基づいた「なぜ高温が悪いのか」という根本原因から、最新の環境制御技術を用いた具体的な解決策までを深掘りします。
農研機構によるイチゴ栽培の基礎知識と防除マニュアルには、基本的な病害虫防除の体系が網羅されています。
イチゴが高温障害を起こす最大の生理学的要因は、「呼吸消耗」による炭水化物の欠乏です。植物は光合成によってエネルギー(炭水化物)を生成する一方で、呼吸によってエネルギーを消費して生命活動を維持しています。
このエネルギー収支の赤字が続くと、イチゴは体内の貯蔵養分を使い果たし、新しい根を作る力がなくなります。その結果、根の活性が低下し、水分や栄養分の吸収が滞ることで、地上部の萎れ(しおれ)やチップバーン(葉先枯れ)が発生します。特にチップバーンは、カルシウム欠乏が原因ですが、土壌中にカルシウムがあっても、高温による根の吸水阻害や、蒸散流の乱れによって生長点までカルシウムが届かないことで引き起こされます。
また、夜温(夜間の温度)が高いことも致命的です。昼間に作ったわずかな光合成産物を、夜間の高い呼吸量で使い切ってしまうため、果実や花芽に回すエネルギーが枯渇します。これが、果実肥大の不良や糖度低下の根本的な原因となります。
育苗期は、翌シーズンの収量を決定づける最も重要な期間ですが、同時に一年で最も高温となる時期でもあります。ここで最も警戒すべきは、高温と多湿が重なることで爆発的に広がる「炭疽病」と、生理障害である「チップバーン」です。
炭疽病の発生メカニズムと防除
炭疽病菌(Colletotrichum spp.)は、25℃〜30℃の高温かつ多湿条件を好みます。特に注意が必要なのは「雨」と「灌水」による泥はねや水滴移動です。胞子は水滴とともに飛散し、潜伏感染します。
チップバーンの回避策
育苗期のチップバーンは、根の張りが不十分な時期に急激な蒸散が起こることで発生します。
栃木県農業試験場の資料では、育苗期の高温対策として遮光や送風の具体的な効果が示されています。
イチゴ栽培において「花芽分化」は、収穫開始時期を決める最大のイベントです。日本で主流の一季成り性品種の場合、花芽分化のトリガーとなるのは「低温」「短日(日が短くなること)」「低窒素」の3条件です。しかし、近年の残暑は、このうち「低温」条件の達成を著しく阻害しています。
高温による分化阻害(座止)
一般的に、平均気温が25℃以上の日が続くと、花芽分化は抑制されます。特に感応期である8月下旬から9月上中旬にかけて高温が続くと、植物体は生殖成長(花を作るモード)に切り替わることができず、栄養成長(葉やランナーを作るモード)を続けてしまいます。これを「座止(ざし)」や「分化遅延」と呼びます。
具体的な悪影響
対策としての窒素コントロール
気温をコントロールできない露地や簡易ハウス育苗の場合、「低窒素」条件をより厳密に作り出すことが重要です。これを「窒素中断(窒素切り)」と呼びます。花芽分化予定日の30〜40日前から追肥を止め、植物体内の窒素レベルを下げることで、高温条件下でも花芽分化を誘発しやすくします。葉色が濃い緑色から、やや淡い緑色(黄緑色)に抜けてくるのが適期のサインです。
無事に花芽分化を確認し、定植を行った後も油断はできません。9月下旬〜10月上旬の定植直後は、まだ残暑が厳しく、ハウス内温度が急上昇しやすい時期です。この時期の高温障害は、初期収量と果実品質に直結します。
定植後の活着不良(根付きの悪さ)
定植直後の苗は、根が切断されたり、新しい土壌環境に馴染んでいなかったりするため、吸水能力が極端に低い状態です。この状態で高温に晒されると、蒸散量が吸水量を上回り、強制的な脱水症状に陥ります。
奇形果の発生メカニズム
定植後の高温は、花粉の稔性(受粉能力)を低下させます。イチゴの受粉適温は20℃〜25℃ですが、30℃を超えると花粉の発芽率が著しく低下し、さらに35℃を超えると雌しべの受精能力も失われます。
受粉が不完全だと、種(そう果)が入らない部分の果肉が肥大せず、ボコボコとした「奇形果」になります。また、「先青果(さきあおが)」と呼ばれる、果実の先端が熟さずに緑や白のまま残る現象も、高温による窒素過多や成熟異常が原因の一つです。
ミツバチの活動も高温下では鈍ります。ハウス内温度が30℃を超えると、ミツバチは訪花活動を止め、巣箱の温度を下げるための扇風行動に専念してしまいます。これが受粉不良に拍車をかけます。したがって、開花期以降は換気を徹底し、ミツバチが働きやすい25℃以下の環境を維持することが、正品率向上の鍵となります。
これまでの慣行的な対策に加え、近年注目されているのが、局所的な温度制御技術です。ハウス全体を冷房するのはコスト的に非現実的ですが、イチゴの生長点である「クラウン(株元)」だけを狙って冷却することで、効率的に高温障害を回避する技術が確立されつつあります。
クラウン冷却(局所冷却)の効果
クラウン冷却とは、株元に這わせたチューブに地下水やチラー(冷却水循環装置)で作った冷水を流し、生長点付近の温度を直接下げる技術です。
気温が高くても、感応部位であるクラウン部が冷えていれば、植物は「秋が来た」と感知し、スムーズに花芽分化へ移行します。これにより、温暖化が進む中でも早期出荷が可能になります。
地温の上昇も抑えられるため、高温期でも根の呼吸消耗が抑えられ、白い健全な根を維持できます。これにより、定植後の活着が早まり、肥料吸水も安定します。
高機能遮光資材と塗布剤
従来の黒色遮光ネットは、光を遮りすぎて光合成を阻害するデメリットがありました。現在は、赤外線(熱線)だけを効率よくカットし、光合成に必要な可視光線は通す「遮熱資材」や、ハウスのフィルムに直接塗布する「遮熱剤」が登場しています。
最新の施設園芸技術については、JA全農や各都道府県の技術情報が参考になります。

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