イチゴの花芽分化の温度と条件とは?短日と窒素や夜冷の仕組み

イチゴの収穫時期を決定づける花芽分化。その繊細なメカニズムには、温度や日長、そして窒素レベルが複雑に関係しています。近年増加する25℃の壁による遅れや、定植の失敗を防ぐための具体的な対策とは?
イチゴの花芽分化を制する重要ポイント
🌡️
25℃の壁と低温条件

平均気温25℃以上では分化が阻害。15〜25℃の「感応域」管理がカギ。

🌑
短日と窒素コントロール

日長13時間以下に加え、体内の窒素レベルを下げることでスイッチが入る。

❄️
夜冷処理と根圏温度

近年の猛暑対策として、株元や夜間の物理的な冷却が必須技術に。

イチゴの花芽分化の温度と条件

イチゴ栽培において、収益を左右する最大のイベントといっても過言ではないのが「花芽分化(かがぶんか)」です。これが予定通りに進まないと、クリスマス商戦に間に合わなかったり、収穫の谷間(中休み)が長引いたりと、経営に直結するダメージを負うことになります。しかし、近年の気候変動により、従来の「カレンダー通りの管理」では花芽が来ないケースが急増しています。ここでは、イチゴが生殖成長へと切り替わるための絶対的な条件と、温度が及ぼす影響について深堀りしていきます。

 

参考リンク:タキイ種苗|イチゴの生理生態と花芽分化の基礎知識

イチゴの花芽分化の仕組みと短日の関係

 

イチゴは本来、四季の移ろいを感じ取って成長モードを切り替える植物です。春から夏にかけての気温が高く日が長い時期は、ランナー(匍匐茎)を伸ばして株を増やす「栄養成長」を優先します。そして、秋になり気温が下がり日が短くなると、子孫を残すために花を作り実をつける「生殖成長」へとシフトします。このスイッチが入る瞬間こそが花芽分化です。

 

このスイッチを入れるための主要な因子の一つが「日長(日の長さ)」です。イチゴは「短日植物」に分類され、日長が一定時間より短くなると花芽を作ろうとします。

 

  • 限界日長:一般的に約13時間以下​
  • 感受部位:葉(成熟した葉が光を感じ取る)

しかし、日長だけで決まるわけではありません。ここには温度との強力な相互作用が存在します。日長が短くなっても、気温が高すぎればスイッチは入りませんし、逆に気温が十分に低ければ、日が長くてもスイッチが入ることがあります。

 

この「日長」と「温度」の組み合わせによる反応パターンは以下のようになります。

 

条件 反応
高温・長日 栄養成長(ランナー発生)
高温・短日 花芽分化が抑制される(品種による)
適温・短日 花芽分化(最も一般的なパターン)
低温 日長に関わらず花芽分化(自動的)

特に重要視すべきは、日本の秋口(9月〜10月)の環境です。自然条件では、日長は徐々に短くなりますが、残暑が厳しいと「短日条件は満たしているのに温度条件が満たされない」というジレンマに陥ります。これが近年の花芽分化遅延の主たる原因です。

 

参考リンク:セディアグリーン|イチゴの花芽分化と日長反応のメカニズム

イチゴの25℃の壁と低温条件のポイント

イチゴの花芽分化において、温度はアクセルにもブレーキにもなる最強の因子です。多くの研究や栽培マニュアルで示されているのが「平均気温」の指標です。特に意識すべきは「25℃」というラインです。

 

温度帯によるイチゴの反応分類:

  • 25℃以上(高温域)
    • 反応:強力なブレーキ 。​
    • 解説:平均気温が25℃を超えている環境下では、いくら短日処理(シェードなど)を行っても、また窒素を切っても、花芽分化はほぼ完全に阻害されます。植物ホルモンのバランスが栄養成長側に固定されてしまうためです。近年の9月は夜温が下がらず、平均気温が25℃を下回らない日が続くため、自然条件での分化が非常に難しくなっています 。

      参考)【農業DX12】環境制御のケーススタディ【2023年にイチゴ…

  • 15℃〜25℃(感応域)
    • 反応:条件付きで分化。
    • 解説:この温度帯においてのみ、イチゴは「短日」に敏感に反応します。つまり、気温がこの範囲に収まっている時期に、夕方を暗くして日長を短く感じさせることで、人為的に花芽を誘導できるわけです。多くの促成栽培品種(とちおとめ、あまおう、紅ほっぺなど)は、このゾーンでの管理が勝負となります。
  • 5℃〜15℃(低温域)
    • 反応:無条件で分化(自動的花成)。
    • 解説:気温がここまで下がると、日長が長くても(電照していても)、イチゴは花芽を作ります。冬場のハウス栽培で電照を行っても花が止まらないのは、ベースの気温がこの範囲にあるためです。
  • 5℃以下(休眠域)
    • 反応:生育停止・休眠。
    • 解説:花芽分化は止まりませんが、植物体自体の活動が低下し、矮化(わいか)してロゼット状になります。

    重要なのは、「平均気温」だけでなく「夜温」の管理です。昼間が30℃あっても、夜温がしっかり下がれば平均気温は下がります。しかし、熱帯夜が続くと平均気温が高いまま推移し、いつまでたっても花芽が来ない「ボケ」た苗になってしまいます。

     

    参考リンク:アグリテックラボ|イチゴの花芽分化条件と温度管理の徹底解説

    イチゴの窒素遮断と栄養成長のコントロール

    温度と日長に次ぐ第三の因子、それが「植物体内の窒素(チッソ)濃度」です。これを専門的には「C/N比(炭素率)」という概念で説明します。

     

    • C(炭素)光合成で作られる炭水化物(エネルギーの貯蓄)。
    • N(窒素):根から吸収される肥料分(体を作る材料)。

    植物は、N(窒素)が多い状態では「体を大きくしよう」とする栄養成長が優先されます。逆に、Nが減り、C(炭水化物)が相対的に多い状態(C/N比が高い状態)になると、「子孫を残そう」とする生殖成長、つまり花芽分化に向かいます 。

    実践的な窒素コントロールの手順:

    1. 窒素切りのタイミング
      • 花芽分化させたい時期の約2〜3週間前から、追肥をストップし、水を控えめにします。これを「窒素切り」と呼びます。
      • 親株からの切り離しや、ポットでの育苗期間中に、意図的に肥料切れの状態を作り出します。
    2. 葉色での判断
      • 窒素が効いている葉は濃い緑色をしており、光沢があります。
      • 窒素が抜けてくると、葉色は淡い黄緑色(ライムグリーン)に変化し、葉が立たずに少し垂れ下がるような姿になります。また、葉の縁がわずかに赤みを帯びることもあります。これがいわゆる「花芽が来る顔」です。
    3. 失敗のリスク
      • 切りすぎ:極端に窒素を切りすぎると、花芽は分化しますが、その後の花の発育に必要なエネルギーが不足し、貧弱な花(不時出蕾や奇形果)になったり、定植後の活着が悪くなったりします 。

        参考)https://ibseikaken.amebaownd.com/posts/54807756/

      • 残りすぎ:逆に、定植直前まで窒素が残っていると、定植後の灌水で一気に吸い上げられ、再び栄養成長に戻ってしまい、第1花房が飛ぶ(つかない)原因になります。

    近年の高温環境下では、植物の代謝が活発で窒素の吸収も良くなるため、従来よりも意識的に窒素レベルを下げておかないと、高温による分化阻害を助長してしまいます。

     

    参考リンク:茨城生科研|育苗期後半の窒素管理と不時出蕾のリスク

    イチゴの花芽分化が遅れる原因と夜冷処理

    「検鏡(けんきょう)してみたけれど、まだ未分化だった……」
    定植予定日が迫る中、この結果に焦る生産者は少なくありません。花芽分化が遅れる最大の原因は、やはり近年の「9月の高温」です。特に夜間の温度が下がらないことが致命的です。

     

    花芽分化が遅れることによるデメリット:

    • 収穫開始の遅延:11月〜12月の単価が高い時期に収穫できない 。​
    • 過繁茂:分化していない状態で定植し、ハウス内の良環境(水・温度)を与えると、巨大な葉ばかりが茂る「木ボケ」状態になり、実がつかない。
    • ランナー発生:定植後に再びランナーが出てきてしまい、芽かき作業に追われる。

    これに対抗するための強力な武器が「夜冷(やれい)処理」などの人為的な処理です。自然の気候に頼らず、強制的に花芽分化スイッチを入れる技術です 。

     

    参考)イチゴの夜冷処理を開始しました。

    主な処理方法とその特徴:

    1. 株冷(スポット夜冷)
      • 方法:クラウン(株元)部分にだけ冷たい空気を当てるパイプを通し、局所的に冷却する。
      • メリット:施設コストが比較的安価で、定植後の活着も良い。
      • デメリット:冷却効率が外気温に左右されやすい。
    2. 夜冷庫(暗黒低温処理)
      • 方法:夕方から翌朝まで、苗を冷蔵庫のような真っ暗な低温室(13℃〜15℃程度)に入れる。
      • メリット:外気に関係なく確実に温度と短日(暗黒)条件を作り出せるため、計画的な出荷が可能。
      • デメリット:苗の出し入れ(入庫・出庫)の労働負担が非常に重い。専用施設の導入コストが高い。
    3. 断根・鉢上げ
      • 方法:根を切ることで水分と窒素の吸収を断ち、植物にショックを与える。
      • メリット:コストがかからない。
      • デメリット:高温期に行うと萎れのリスクが高く、病気(炭疽病など)の感染リスクも上がる。

    必須作業:花芽検鏡(はなめけんきょう)
    どのような処理を行うにせよ、最終的な確認は人間の目で行う必要があります。実体顕微鏡を使い、生長点を剥き出して、その形がドーム状に盛り上がり、ガク片の形成が始まっているかを確認します。未分化のまま定植することは、ギャンブルに近い行為です 。

     

    参考)イチゴ定植に向け花芽検鏡開始!

    参考リンク:福岡県農業総合試験場|イチゴの花芽検鏡診断マニュアル(PDF)

    イチゴの根圏温度と株元の微気象の盲点

    多くの生産者が「気温(室温)」に注目しますが、実はイチゴが温度を感じ取っている部位において、意外と見落とされがちなのが「クラウン(株元)」および「根圏(根が張っている土壌部分)」の温度環境です。

     

    植物生理学的に、温度感知の主役は葉や生長点ですが、根の周辺環境も植物全体のホルモンバランスに多大な影響を与えます。特に、ポット育苗において、黒いポリポットを使用している場合、日中の直射日光でポット内部の土壌温度は40℃近くまで上昇することがあります。

     

    ここが独自の視点:根圏温度の「熱慣性」による遅れ
    空気の温度は、日が沈めば比較的速やかに下がります。しかし、土(培地)の温度は一度温まると冷めにくい性質(熱慣性)を持っています。

     

    例えば、夕方6時に外気温が24℃まで下がったとしても、ポット内部の培地温度はまだ30℃近い状態が数時間続くことがあります。イチゴの生長点であるクラウンは、まさにこの「熱い培地」の直上に位置しています。

     

    • クラウンへの輻射熱:培地からの熱が直接クラウンに伝わり、局所的な温度が下がらない。
    • 根の呼吸消耗:根圏温度が高いと、根の呼吸が激しくなり、貯蔵した炭水化物(C)を無駄に消費してしまう。これによりC/N比が上がらず、花芽分化が遅れる。
    • 灌水温度の影響:夕方に温かい水(タンクに溜まっていた水など)を与えてしまうと、夜間の培地温度が下がらず、夜冷効果がキャンセルされてしまう。

    対策としての「微気象」管理:

    • 培地の冷却:夕方に井戸水などの冷たい水で灌水し、培地温度を物理的に下げる「夕水(ゆうみず)」の効果は見逃せません。気化熱を利用してクラウン周辺の温度を奪います。
    • ポットの色:白黒ダブルのポットや、遮熱資材を使用し、日中の培地温上昇を防ぐ。
    • クラウンへの風:夜間、循環扇の風が直接苗に当たるようにし、葉面境界層の熱を吹き飛ばして放熱を促進する。

    「気温は24℃まで下がっているのに、なぜか花芽が来ない」という場合、この株元数センチの微気象が高温のまま維持されているケースが非常に多いのです。温度計を空中にぶら下げるだけでなく、実際にポットの土に棒温度計を挿して、夜間の地温を測ってみることを強くおすすめします。

     

    参考リンク:根の生態系における温度変化が植物機能に与える影響(英語論文要約)
    参考リンク:愛知県|局所冷却技術による花芽形成の安定化

     

     


    【特選 糖度12度の別世界 いちご】常識を超えた甘さ「絶品」夏イチゴ【苺番星 いちばんぼし】 特選 M(60粒)【八ヶ岳かさはら農園】ギフト 農園化粧箱 生食・ケーキ等のスイーツ作り ギフト いちご 【朝摘み保証】Strawberry 【冷蔵】