一季なりイチゴの花芽分化は、短日・低温・窒素状態を組み合わせて判断します。冷やした日数だけで定植せず、花芽を検鏡し、苗を弱らせる窒素切り過ぎも避けます。四季なりには長日で花芽形成が促進される品種があり、一季なりと同じ処理条件にはできません。一季なり「あまおう」の窒素管理・四季なり「なつあかり」の長日処理
イチゴ栽培において、収益を左右する最大のイベントといっても過言ではないのが「花芽分化(かがぶんか)」です。これが予定通りに進まないと、クリスマス商戦に間に合わなかったり、収穫の谷間(中休み)が長引いたりと、経営に直結するダメージを負うことになります。しかし、近年の気候変動により、従来の「カレンダー通りの管理」では花芽が来ないケースが急増しています。ここでは、イチゴが生殖成長へと切り替わるための絶対的な条件と、温度が及ぼす影響について深堀りしていきます。
参考リンク:タキイ種苗|イチゴの生理生態と花芽分化の基礎知識
最初に、一季なりと四季なりを分けます。一季なりの促成用品種では、秋の短日・気温低下に、苗の窒素状態を組み合わせて花芽分化を誘導します。短日、低温、低窒素は別々に記録し、どれか一つを満たせば必ず分化するという扱いにはしません。福岡県の「あまおう」育苗試験でも、自然日長が短くなっても培土中の窒素が多いと分化が遅れることを説明しています。
一方、四季成り性品種「なつあかり」では、夏植え前の長日処理によって花芽分化が促進され、秋の出蕾株率と年内収量が高まりました。東北農業研究センターの2008~2010年の研究では、白熱灯による24時間日長の効果が高く、間欠光処理は効果が低いという結果です。四季なりだから高温下でも無条件に花芽ができるわけではなく、一季なり向けの短日処理をそのまま当てはめることもできません。「なつあかり」の定植前長日処理、2010年度成果
関連用語・資料:栄養成長 / 短日植物 / 参考リンク:セディアグリーン|イチゴの花芽分化と日長反応のメカニズム
25℃は、一季なり品種で秋の花芽分化を考える目安ですが、全品種に共通する一本の境界線ではありません。福岡県の試験報告は、平均気温が25℃付近まで下がると短くなった日長に反応すると説明する一方、窒素の残り方による遅れも扱っています。気温だけから分化の有無を判定しないことが重要です。福岡県試験報告の考察
低温を与える方法も区別します。短日夜冷は、昼に光を受け、夜に冷却と暗期を与える処理です。連続低温暗黒処理は、昼夜を通して暗い冷蔵庫内に置く処理で、昼の光合成条件まで異なります。沖縄の2001年「さちのか」試験では、8時間日長・夜温15℃の短日夜冷は開花・収穫を早めましたが、10℃で15日間の連続低温暗黒処理は、休眠打破親株由来苗で無処理より20日以上遅れました。低温暗黒区では定植2週間後の葉数が少なく、クラウン径が小さくなる傾向もあり、研究者は受光量不足による光合成量の低下を要因として考察しています。農研機構「沖縄に適したイチゴの短期栽培技術の確立」結果9
この比較が示すのは「冷やすほど、長く暗く置くほどよい」ではないということです。冷却温度、日長、日中の採光、処理期間、苗の充実度をセットで確認します。
関連用語・資料:イチゴの花芽分化 / 短日処理 / 窒素 / 植物ホルモン / 【農業DX12】環境制御のケーススタディ【2023年にイチゴ… / 促成栽培 / 休眠 / 参考リンク:アグリテックラボ|イチゴの花芽分化条件と温度管理の徹底解説
育苗後半の窒素管理は、苗を飢餓状態にする作業ではありません。前半に生育に必要な窒素を与え、後半は残効と苗の状態を調べながら過剰と欠乏の両方を防ぎます。福岡県筑後分場の2019・2020年「あまおう」試験では、直径9cmポットに培土約300mLを用い、窒素260mg/鉢の被覆肥料を6月下旬に一度に施す区と、合計約280mg/鉢を4回に分ける区を比較しました。両区とも8月中旬以降の葉柄中硝酸イオン濃度がおおむね40~50ppmとなり、花芽分化と収量に有意差はなく、早期出蕾・心止まりも発生しませんでした。これは普通促成栽培の結果で、夜冷苗への施肥量の推奨ではありません。福岡県「あまおう」の育苗期における省力的施肥法、2022年
切り過ぎも逆効果になります。同報告は既報を引用し、9月上旬からの極端な低窒素条件は花芽分化・発育を抑制し、定植期の葉柄中硝酸イオン濃度10ppm以下では第一次腋花房の早期出蕾や心止まりが発生しやすいと整理しています。そのうえで育苗後半は10~100ppmの範囲を維持する必要があるとしています。この数値は同報告の分析方法と管理体系に対応し、葉色、培土の窒素濃度、別方式の簡易測定値と置き換えません。同報告「考察」
関連用語・資料:光合成 / 追肥 / 育苗 / 定植 / https://ibseikaken.amebaownd.com/posts/54807756/ / 灌水 / 参考リンク:茨城生科研|育苗期後半の窒素管理と不時出蕾のリスク
夜冷の実施日は、収穫目標から逆算した計画と、検鏡で確認した進み具合を結び付けて考えます。沖縄県農試園芸支場の2001年「さちのか」試験は、8時間日長・夜温15℃で短日夜冷を行い、10月16日に処理を終えて定植しました。以下の開始日は、原資料にある「9月26日=開始16日後」「10月11日=開始15日後」と終了日から読み取った日付です。農研機構掲載の試験方法9・結果9
| 処理区 | 処理暦 | 途中の花芽確認 | 10月16日の定植時 |
|---|---|---|---|
| 短日夜冷36日区 | 9月10日開始と読める。10月16日終了・定植 | 9月26日は10%が分化。10月5日は全株が肥厚中期~がく片形成期 | 頂花房は雄ずい形成期。第1次腋花房も肥厚初期~後期 |
| 短日夜冷20日区 | 9月26日開始と読める。10月16日終了・定植 | 10月11日に全株が分化し、肥厚初期~がく片形成期 | 頂花房はがく片形成期~雄ずい形成期 |
36日区は7月27日挿し苗・8月8日鉢上げであり、処理期間以外の育苗履歴まで同一の比較ではありません。休眠打破親株由来苗では、無処理に比べて頂花房の開花・収穫が36日区で35~40日、20日区で約25日早まりました。ただし、36日区と20日区の年内収量差は小さく、36日区は1月の収量が少なくなりました。頂花房の早進を、後続花房の連続収穫や総収量の増加と同一視できません。同資料、結果9B
年によって比較相手の自然分化も変わります。2002年の試験では、8月下旬以降の最低気温が前年より0.5~1.5℃低く、無処理区でも定植時に全株が分化していました。その年は20日夜冷による分化促進効果が明瞭ではありませんでした。沖縄の10月定植の結果を、本土の8~9月定植の共通日程にはしません。同資料、2002年試験の考察
関連用語・資料:未分化 / 芽かき / イチゴの夜冷処理を開始しました。 / 鉢上げ / 炭疽病 / イチゴ定植に向け花芽検鏡開始! / 参考リンク:福岡県農業総合試験場|イチゴの花芽検鏡診断マニュアル(PDF)
気温が下がっても、根が傷んで吸水・吸肥できなければ苗の状態は整いません。温度計の位置とともに、根の色、培土の乾湿、定植先の地温を確認します。栃木県の2016年資料は、高温時の早出し作型では定植数日前から寒冷紗等で地温を下げ、定植前日に圃場へ十分潅水する管理を示しています。これは定植床の準備であり、処理中の苗を夕方に大量潅水する話とは分けます。栃木県資料、定植前後の管理
同資料の地下水利用夜冷では、16時に被覆し8時に開放、日長は8時間を目安とします。潅水は朝の開放後に行い、夕方の被覆前には極力行いません。水分が多い状態で処理を始めると温度低下が悪く、徒長の原因にもなるためです。したがって「夜冷効果を高めるため夕方に冷水を与える」を一般手順にはできません。同資料「夜冷育苗・処理中の管理」
関連用語・資料:根圏 / 植物生理学 / ポリポット / 培地 / 気化熱 / 循環扇 / 参考リンク:根の生態系における温度変化が植物機能に与える影響(英語論文要約) / 参考リンク:愛知県|局所冷却技術による花芽形成の安定化