肥料でいう「カリ」はカリウム(K)のことで、肥料の三大要素(窒素・リン酸・カリ)の一つとして扱われます。カリは植物体の“骨格を作る材料”というより、細胞液中でカリウムイオンとして存在し、たんぱく質・炭水化物の合成や移動・蓄積などの反応を進める役(補酵素的な働き)を担う、と整理すると理解しやすいです。
また、葉からの水分の蒸散調節にも関わるため、根や茎を丈夫にし、病害虫や寒さに対する抵抗力を支える方向に効いてきます。だからカリは「効いたかどうか」が草丈だけでは判断しにくく、品質・日持ち・倒れにくさ・ストレス耐性の差として後から効いてくることが多い要素です。
現場での言い換えをすると、カリは「糖やでんぷんを作って運び、必要な場所へ配る力」を支えます。光合成と関係が深い、と説明されるのはこの流れがあるからで、開花・結実が進みやすい、根や茎がしっかりする、といった評価につながります。実際に、カリが不足すると葉の黄化や縁枯れ、果実品質低下が起こり得る点は複数の解説で共通しています。
カリ欠乏の典型は「古い葉」から症状が出ることです。カリは植物体内で移動しやすい成分のため、足りなくなると古葉から新しい部位へ回そうとして、古葉の先端から縁にかけて黄化し、進むと縁が枯れていきます。
この「古葉の縁」がポイントで、窒素欠乏のような全体的な淡色化と混同しないための手掛かりになります。さらに欠乏が進むと、新芽が大きくならない、葉色が暗緑寄りになる、根の伸びが悪くなる、根腐れが起きやすい、といった形で株全体の“踏ん張り”が落ちます。
果菜類では「収量が同じでも品質が落ちる」入り方をすることがあり、見栄えや食味の低下として現れることがあります。例えばトマトでは維管束が黒くなるような症状が出て、見た目が悪くなると説明されています。
現場で迷うのは「欠乏っぽいのに、実は土にカリはある」ケースです。ここで大事なのは、カリは土壌中の形態や水分条件により“使える速さ”が変わり、さらに株側も生育ステージで要求量が変わる点です。症状だけで即断せず、「どの葉位から出たか」「最近の乾燥・多雨」「追肥のタイミング」を合わせて見ると判断ミスが減ります。
カリは不足が怖い一方で、「盛れば盛るほど良い」要素ではありません。カリには作物が必要以上に吸収してしまう「ぜいたく吸収」を起こしやすい性質があり、過剰施肥が続くと土壌中の苦土(マグネシウム)や石灰(カルシウム)とのバランスが崩れ、作物に悪影響が出るとされています。
しかも厄介なのが、カリ過剰そのものの症状が派手に出ない場合があることです。通常の栽培ではカリウム過剰症は出にくいが、極端な過剰ではカルシウムやマグネシウムの吸収が悪くなる、と解説されています。
つまり、見えている症状が「カルシウム欠乏っぽい」「マグネシウム欠乏っぽい」時に、原因が“Ca/Mgを入れていない”だけでなく、“カリを入れすぎて入り口を塞いだ”可能性が出てきます。ここを見落とすと、対策としてCa/Mg資材を足しても根本が直らず、コストだけ増えます。
実務的には、次の考え方が安全です。
ここでの意外ポイントは、「カリは安全そうに見えるから過剰が起きる」ことです。窒素は徒長で分かりやすいのに対し、カリは“効かせたい気持ち”で積み上がりやすい。結果として、ぜいたく吸収→Ca/Mgの吸収阻害→品質低下、という遠回りの損が出ます。
カリ肥料の代表格は「塩化カリ」と「硫酸カリ」で、どちらもカリ成分は速く効く水溶性です。両者の大きな違いは“副成分”で、塩化カリには塩化物イオン(塩素)が伴います。塩素は、馬鈴しょなどで収量や品質低下につながることがある、とされています。
さらに塩化カリは土壌EC(電気伝導度:塩類濃度の指標)を高めやすく、耐塩性が弱い作物では出芽への影響が心配される、という整理も現場的に重要です。
一方で、塩化カリは世界流通の主体であり、硫酸カリは塩化カリに硫酸を反応させて製造されるため、一般に硫酸カリの方が肥料コストが高いと説明されています。だから「塩化カリで問題が出る作物・土・時期」だけ硫酸カリに寄せ、それ以外は塩化カリでコストを抑える、という発想が成り立ちます。
地域の作物例として、北海道では水稲・麦類・牧草は塩化カリ、馬鈴しょ・豆類・野菜は硫酸カリが使われる傾向が紹介されています。これは“塩素に弱い作物は避ける/塩類リスクを下げる”という実務判断の典型例です。
もう一つ、見落とされがちな選択肢が「けい酸加里」です。けい酸加里は水稲向けのケイ酸肥料としても使われる銘柄があり、カリ成分がく溶性のため“ゆっくり効く”タイプとされています。ゆっくり効くことで、ぜいたく吸収を起こしにくく、作物の健全な生育に役立つ、という位置づけです。
速効き(塩化カリ/硫酸カリ)と緩効き(けい酸加里)を「同じKでも効き方が違う」と理解すると、追肥設計の自由度が上がります。
カリの話は通常「三大要素」「品質」「欠乏・過剰」で終わりがちですが、関連知識として知っておくと判断が一段上がるのが“セシウム吸収との関係”です。研究機関の発表では、カリウム施肥が土壌から樹木への放射性セシウム吸収を抑制する効果が示された、とされています。
さらに、農作物でも土壌からの放射性セシウム吸収を抑えるためにカリウム施肥が効果を上げている、という前提が明記されています。ここは一般の「肥料カリとは」記事の検索上位で深掘りされにくいテーマですが、カリが“土壌中の陽イオンの競合”という別の顔を持つことを示す具体例です。
もちろん通常の栽培で放射性物質対策を前面に出す場面は多くありません。しかし、カリ施肥が「収量品質」だけでなく「吸収の競合を通じた抑制」という機構面の働きも持ち得ると知っておくと、土壌診断値や交換性カリの意味づけを理解する助けになります。
現場の実務に落とすなら、「カリを入れる=生育を良くする」だけではなく、「入れ方によって、吸収のバランスを組み替える操作でもある」という視点です。ぜいたく吸収でバランスを崩すのも同じ“吸収の競合”で起きますから、良い面と悪い面をセットで覚えるのが安全です。
肥料の種類選定や施肥設計に迷ったら、まずは不足と過剰の両方を疑い、作物の塩素感受性と土壌ECリスクを横に置いて判断してください。最後に、カリは有機物にも多く含まれるため、堆肥・稲わら・スラリー等の投入歴がある圃場ほど「化学肥料のカリは減らせる余地がある」一方で、「減らしすぎると土壌中カリが下がりすぎる」ので、定期的な土壌診断が重要だという整理も押さえておくと事故が減ります。
カリの役割・ぜいたく吸収・塩化カリ/硫酸カリ/けい酸加里の違い(副成分・EC・塩素影響)
https://agriport.jp/field/ap-13530/
カリの植物体内での働き、欠乏症(古葉の縁の黄化〜縁枯れ)、極端な過剰でCa/Mg吸収が悪くなる点
https://www.sc-engei.co.jp/fertilizer/working/K/
カリウム施肥が放射性セシウム吸収抑制に有効という研究発表(独自視点の関連知識)
https://www.ffpri.go.jp/press/2017/20171221/index.html