窒素を多く与えるほど花蕾が大きく育つと思っていたら、実は発病リスクが跳ね上がっていたかもしれません。
ブロッコリー花蕾腐敗病は、食用にする花蕾の一部に水浸状の病斑が現れることから始まります。 その後、病斑は褐色から黒色へと変色し、症状がひどい場合は花蕾全体が腐敗して商品価値がゼロになります。 収穫を断念せざるを得ないケースも現場では珍しくありません。asahi-agria+1
被害の深刻さはデータにも出ています。北海道での調査では、花蕾腐敗症状の発生が全病害の中で最も多く、7月5半旬〜8月3半旬に集中して起きていました。 この時期は降水量が多く、最低気温が高く、昼夜の温度差が小さい気象条件が重なります。 つまり夏期の多雨・高温が最大の発生誘因ということですね。
参考)https://www.hro.or.jp/upload/19688/1911.pdf
群馬県渋川市(標高500m・平均気温25℃前後)の9月収穫圃場でも多発が確認されており、冷涼地だから安心とは言い切れません。 発病後に収穫を断念した事例が実際に報告されています。 損失は収量だけでなく、労力と農薬コストも含めた経営ダメージになります。
参考)9月収穫のブロッコリーに発生した細菌病−花蕾腐敗病−|論文誌…
| 症状ステージ | 見た目の変化 | 商品性 |
|---|---|---|
| 初期 | 花蕾の一部が水浸状に | △ 部分廃棄で対応できることも |
| 中期 | 褐色〜黒色に変色・悪臭なし | ✕ 出荷不可レベルになりやすい |
| 重症 | 花蕾全体が腐敗・崩壊 | ✕ 収穫を断念するケースも |
「くさいから軟腐病だろう」と判断すると対策を間違えます。花蕾腐敗病は悪臭がないケースが多く、軟腐病菌(Pectobacterium carotovorum)とは病原が異なります。
北海道の試験では60菌株の病原細菌が確認され、数種のシュードモナス菌(Pseudomonas spp.)とエルビニア菌1種が病原として同定されました。 複数の細菌が混在して発症するため、「1種の農薬で完全に防げる」という期待は持ちすぎないほうが現実的です。
これが条件です。
さらに、黒すす病を想定した殺菌剤を散布していた農家の圃場で花蕾腐敗病が多発した事例も報告されています。 黒すす病は糸状菌が原因ですが、花蕾腐敗病は細菌性です。
狙う病原が違えば農薬の種類も変わります。
使う薬剤のターゲットを確認しましょう。
参考:花蕾腐敗病の病原細菌と同定方法の詳細(北海道立総合研究機構)
ブロッコリー花蕾腐敗病の総合防除対策(北海道立総合研究機構)
多くの農家が「窒素をしっかり入れると花蕾が大きくなる」と考えています。それは正しいのですが、花蕾の窒素濃度が高いほど花蕾腐敗病の発病リスクが高まるという裏の顔があります。
北海道の試験データによると、花蕾腐敗病は花蕾のサイズが大きく、窒素(N)・リン酸(P)濃度が高く、Ca/N比が低い花蕾で発生しやすいことが明確になっています。 特にCa/N比が0.2を下回ると発病率が急増し、0.3以上では発病率が10%以下に抑えられるというデータがあります。 数値イメージとしては「Ca量が窒素量の3割以上」を保つ感覚です。livedoor+1
花蕾の窒素濃度は5%で十分とされており、定植後約1ヶ月目の中位葉の葉柄硝酸態窒素が約800mg/100g(生重)を超える場合は追肥なしで構いません。 排水性が悪い圃場では発病がさらに助長されます。 窒素管理と水はけの2点が発病抑制の基本です。
ポリマルチを使用した圃場は裸地圃場より発病が多かったという報告もあります。 マルチによる肥効の増大が窒素過多を招いた可能性があります。 マルチ使用圃場では特に施肥量に注意が必要ですね。
参考:基肥減肥によるブロッコリー花蕾腐敗病抑制の試験結果(香川県)
基肥減肥はブロッコリー花蕾腐敗病を抑える(香川県農業試験場)
農薬と施肥を整えても、品種選定を誤ると防除効率が大きく下がります。
これは意外な盲点です。
北海道の品種比較試験では、花蕾腐敗病の発生に明確な品種間差異が確認されています。 「サリナスアーリー」「マグナム」「まり緑」の3品種は「緑嶺」「ハイツ」「雷鳴」などの弱品種と比べて発病が有意に少なかったという結果が得られています。 しかもこれら3品種は規格内収量でも「緑嶺」「ハイツ」を上回りました。
群馬県での現地事例では、同じ作型・同じ圃場環境でも、早生種「プライム」は周辺の他品種と比較して発病が多かったことが記録されています。 品種の細菌性病害への感受性が収量を大きく左右するということです。一方で高温時に生理障害(不整形花蕾やリーフィ)が出やすい品種もあるため、作型と品種の相性を合わせて確認することが大切です。iplant-j+1
品種を選ぶ際は種苗会社のカタログだけでなく、地元の農業試験場や普及センターが公表している地域適応性データを参照するのが確実です。タキイ種苗やサカタのタネなど大手種苗会社の病害虫情報ページも品種ごとの耐病性を調べる手がかりになります。
参考)https://www.takii.co.jp/tsk/bugs/abr/disease/kurogusare/
防除対策は「農薬を撒けば終わり」ではありません。
タイミングと組み合わせが効果を決めます。
①銅(塩基性硫酸銅)水和剤の散布
銅水和剤は花蕾腐敗病に対して最も防除効果が高い薬剤として試験で確認されています。 散布タイミングは出蕾始(花蕾が約1cmに肥大した時期)の前後に2〜3回が基本です。 花蕾肥大中期以降の散布は青白色の薬斑が残る恐れがあるため、早めの対応が原則です。 登録農薬としては「マスタピース水和剤」(塩基性硫酸銅)が花蕾腐敗病に対応しており、収穫前日まで使用できます。ja-kamiina.iijan+1
②カルシウム資材の土壌施用と葉面散布
カルシウム資材の葉面散布で花蕾のカルシウム濃度が高まり、発病が軽減されることが試験で証明されています。 土壌に炭酸カルシウムを100kg/10a施用し、さらに葉面散布を2回行う組み合わせが北海道の総合防除対策として採用されています。
効果的ですね。
③生物農薬の活用
長野県ではシュードモナス・フルオレッセンス水和剤(生物農薬)による花蕾腐敗病の防除効果が報告されています。 化学農薬の使用回数を減らしたい有機農家や減農薬栽培農家にとって選択肢になります。効果は銅剤より若干劣るデータもありますが、組み合わせ利用も視野に入れられます。
参考)http://jppa.or.jp/onlinestore/shuppan/images-txt/2023/2023_1109.pdf
参考:生物農薬によるブロッコリー花蕾腐敗病防除の詳細(植物防疫77巻11号)
生物農薬を活用したブロッコリー花蕾腐敗病防除対策(日本植物防疫協会)
以下、収集した情報をもとに記事を出力します。