「穴が多いほど苗がたくさん育てられてお得だ」と思っていませんか?実は288穴トレイは容量が少なすぎて、間違った管理をするとまるごと1枚分の苗を枯らすことがあります。
288穴セルトレイの「容量」について、正確な数値を知らないまま使っている農業従事者は意外と多いものです。農林水産省が定めた育苗トレイの標準規格によると、288穴のセル1個あたりの容量は約9cc(約9mL)と定められています。これは一般的な紙コップ1杯(約200cc)のわずか20分の1以下という小ささです。
そしてトレイ1枚全体に使う培土量は、覆土を含めて約2.6リットルが目安となります。ペットボトル(500mL)換算で約5本分、とイメージすると現場でも把握しやすいでしょう。
規格の詳細をまとめると以下のとおりです。
| 規格 | セル配列 | セル高さ | セル上部寸法 | セル下部寸法 | 底穴径 | セル容量 | 1トレイ培土量 |
|------|----------|----------|-------------|-------------|--------|----------|--------------|
| 128穴 | 8×16 | 44.0mm | 31.0mm | 18.0mm | 12mm | 約25cc | 約3.2L |
| 200穴 | 10×20 | 44.0mm | 26.0mm | 12.0mm | 9mm | 約14cc | 約2.8L |
| 288穴 | 12×24 | 38.5mm | 21.5mm | 9.0mm | 7mm | 約9cc | 約2.6L |
この数字を見て「128穴と比べて容量が3分の1以下か」と驚く方も少なくありません。つまり穴数が増えるほど、1セルが保持できる培土・水分・肥料の量は劇的に少なくなるということです。
容量が小さいということは、それだけ乾燥・過湿・肥料切れのリスクが高まることを意味します。288穴ならではのこの特性を理解しておくことが、育苗の成功率を高める第一歩です。
参考:育苗トレイの標準規格(農研機構)
https://www.naro.go.jp/org/iam/kinpuro/youshiki/ikubyotorei.html
容量が約9ccと小さい288穴セルトレイは、どの作物にも万能というわけではありません。結論から言えば、播種から定植までの育苗期間が比較的短く、細根の作物に向いています。
代表的な対応作物は以下のとおりです。
- 根深ネギ(長ネギ):農研機構が288穴標準セルトレイを使ったネギの播種・育苗・移植システムとして公式に推奨。10aあたり約50枚のトレイで育苗できます。
- タマネギ:岩手県農業研究センターの試験では、288穴で加温育苗60日程度(無加温育苗は約70日)とされています。定植時の目安は葉数3枚・根数12本前後・葉鞘径4mm程度です。
- 小豆・枝豆(育苗初期のみ):発芽率を確保しポット上げまでの短期育苗に使うケースがあります。
一方、白菜・キャベツ・ブロッコリーなど葉菜類の一般的な育苗には128〜200穴が推奨されることが多く、288穴では容量が小さすぎて定植前に根が詰まりやすいというデメリットもあります。
これが重要な理由です。容量の小さいトレイで育てると、育苗期間が長くなるほど根鉢(セル内に形成される根の塊)が崩れやすくなり、移植後の活着率が下がる可能性があります。目的に合ったトレイを選ぶことが、収量の安定につながります。
おはら野農園の実践記録でも「成長が遅く小さな苗でポットに上げる種は288穴に、反対に成長が早く、ポット上げも早い種は128穴のセルトレイを使う」という使い分けが紹介されています。この視点は現場でそのまま参考にできます。
参考:農研機構「288穴セルトレイによるネギの播種・育苗・移植システム」概要
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/010768.html
容量が約9ccしかないからこそ、培土の充填と播種の方法を間違えると、その後の全工程に影響が出ます。1枚あたりの培土量約2.6Lを均一に詰めることが前提です。
培土の選択と水分調整が最初の関門です。 288穴向けには市販のネギ・野菜専用培土を使い、使用前に手で握って「固まるが水が滴り落ちない程度」の水分量になっているかを確認します。乾燥した培土をそのままセルに詰めてから灌水しても、培土が水をはじいて均一に染み込まないことがあるため注意してください。
土詰め後の手順は以下の流れが基本です。
1. セルトレイに培土を山盛りにのせ、ブラシの背などで均一にすり切る
2. 5cmほどの高さからトレイを2〜3回軽く落として床土を締める
3. 凹んだ箇所があれば培土を補充してもう一度すり切る
4. セルの底から水が染み出るまでしっかり灌水する
播種前には穴開けローラーまたはアクリルプレスで、各セルに深さ3mm程度の播種穴を均一に開けます。この深さのばらつきが発芽ムラの主な原因のひとつになります。
播種はハンドシーダー(ポットル)を使うと、Lコートされたネギ種子を1穴1粒で効率よく落とせます。播種後は種子が完全に隠れる程度(3mm目安)までバーミキュライトまたは同質の培土で覆土し、トレイのふちが見えるまでしっかりすり切ります。覆土が多すぎると根渡り(隣のセルへ根が伸びてしまう)の原因になります。これは見落としがちなポイントです。
参考:タキイ種苗「培土使用量の目安」(50L袋あたりの穴数別充填枚数)
https://www.takii.co.jp/material/baido_support/pdf/008.pdf
288穴セルトレイ育苗でもっとも失敗の多いポイントが、かん水の管理です。1セルあたり約9ccという容量の小ささは、培土の乾燥スピードを大幅に速めます。
128穴のセル容量は約25ccですから、288穴はその約3分の1以下しかありません。同じ天候・温度条件でも、288穴はより早く乾燥します。厳しいですね。
特に注意が必要な場面と対策を整理します。
- 発芽直後:子葉展開までの時期が最も乾燥に弱い。覆土が乾いているだけで発芽不良になることがある。
- 育苗後半:根鉢が形成されて培土の保水力が下がるため、1日複数回のかん水が必要になるケースもある。
- トレイ端部:トレイの一番端のセルはかん水ムラが生じやすく、乾燥から生育遅れが起きやすい。
農研機構の資料では、288穴セルトレイを使ったネギ育苗において「底面灌水方式」が推奨されています。底面灌水とは、トレイを水を張ったパレットや育苗箱に置き、セルの底穴(7mm径)から水を自然吸水させる方法です。毎日1回、セル底から1〜2cmまで水が上がる程度に灌水することで、過湿を防ぎながら均一に水分を届けられます。
逆に上からのシャワー灌水だと、覆土が流れたり培土が水をはじいたりして、生育ムラの原因になりやすいです。育苗後半はかん水を減らして苗を慣らしていくことも大切です。ただし定植前日は例外で、しっかり灌水して根鉢を安定させます。
茨城県農業研究センターのマニュアルでも「定期的にセルトレイの下穴を観察し、セルの下部だけ乾いているときは底面給液を行う」「午後3時以降は潅水を行わない」という具体的な管理基準が示されています。
参考:井関農機「セルトレイ育苗 トラブルとその対処法」(発芽ムラ・肥料切れ・徒長・生育ムラの対策を詳解)
https://www.iseki.co.jp/products/ikubyou/ikubyo_siryou/pdf/celltrray_trouble.pdf
「穴が多くて容量が小さいトレイなんて手がかかるだけでは?」と思う方もいるかもしれません。ところが288穴セルトレイは、正しく使えば128穴や200穴と比較してトレイ枚数・育苗面積・培土コストを大幅に削減できる、省力・低コスト資材です。これは使えそうです。
農研機構の試験データでは、10aのネギ育苗に必要なセルトレイ枚数は以下のように比較されています。
| トレイ種類 | 10aあたり必要枚数 | 育苗に必要な面積 |
|-----------|-----------------|----------------|
| 200穴 | 約80枚前後 | 約12〜13㎡ |
| 288穴 | 約50枚 | 約8.3㎡ |
288穴を使うことで、トレイ枚数を30〜40%削減し、育苗面積も35〜40%以上狭くなります。育苗ハウスの限られたスペースを有効活用できるうえ、培土・トレイ購入コストも抑えられます。
また、全自動ネギ移植機(ヤンマー、イセキ等の農水省規格対応機)は288穴標準セルトレイに最適化されているため、機械植えの精度が高くなります。その結果、定植後の活着率が安定し、生育のばらつきが減るという付帯効果もあります。
コスト計算の具体例として、タキイ培土50Lの袋では288穴トレイを約16枚充填できます(1袋あたり培土使用量の目安)。1枚で288株育てられるため、50L1袋で約4,600株分の苗を仕込める計算です。128穴トレイの場合は約16枚で約2,000株分ですから、288穴の苗生産効率の高さがわかります。
省力化という観点では、セル数の多さが移植機の稼働効率にも直結します。トレイ交換の回数が少なくなるため、移植作業全体のスループットが上がります。大規模農家であればあるほど、この差が積み重なって年間の労働時間削減に響いてきます。
参考:ネギ育苗・移植マニュアル(BASF minorasu)
https://minorasu.basf.co.jp/80556
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