障がい者を受け入れるほど、あなたの農園の生産効率は上がります。
「ユニバーサル農業」という言葉は、全国的にはまだなじみが薄いかもしれません。しかし浜松市では、2005年(平成17年)の「浜松市ユニバーサル園芸研究会」発足以来、20年以上にわたってこの言葉が行政用語として定着しています。一般的に農福連携と呼ばれる取り組みが、静岡・浜松では「ユニバーサル農業」と呼ばれているのです。
ユニバーサル農業とは、バリアフリーの発展形である「ユニバーサルデザイン」の考え方を農業に取り入れたものです。つまり年齢・障害の有無・性別・国籍にかかわらず、あらゆる人が農作業に参加できる環境を整えていく取り組みを指します。浜松市の公式定義によれば、「園芸療法や高齢者の生きがいづくりとして知られる農業・園芸活動の効用を、農業経営の改善や多様な担い手の育成に活かしていこうとする取り組み」とされています。
重要なのは、「福祉のための農業」ではなく「農業経営を強くするための取り組み」であるという視点です。つまりボランティアでも慈善事業でもなく、農家が経営戦略として障がい者・高齢者を農業の現場に組み込み、経営を改善していくアプローチです。これが浜松モデルの核心です。
農福連携との違いは微妙ですが、国の農林水産省が使う「農福連携」が農業と福祉の双方の課題解決を主軸にしているのに対し、浜松市の「ユニバーサル農業」は農業経営の活性化・発展を重点に置いている点で、農業者側の視点がより前面に出ているといえます。
浜松市では令和7年度から10年間の農業振興ビジョンにおいても、「ユニバーサル農業(農福連携)の推進」を基本施策の一つとして明確に位置づけており、国の政策動向(令和6年5月の食料・農業・農村基本法改正で農福連携が法律に明記)とも歩調を合わせています。
浜松市公式ページ:ユニバーサル農業の定義・活動分野・推進体制の詳細が確認できます。
浜松市が全国から視察者を集める先進地である背景には、単なる偶然ではなく、3つの明確な強みがあります。
① 20年という圧倒的な実績の厚み
浜松市の取り組みは、2004年(平成16年)の浜名湖花博を契機に始まりました。翌年に「浜松市ユニバーサル園芸研究会」が発足し、その後「ユニバーサル農業研究会」へと発展。2024年度に取り組み開始から20周年を迎え、全国規模の「ユニバーサル農業20周年記念シンポジウムinはままつ」が開催されました。国が農福連携を本格推進し始めるよりずっと前から、浜松市は独自に道を切り拓いてきたのです。20年の積み重ねがあります。
② 多様な農産物を年間通じて栽培できる恵まれた環境
浜松市は温暖な気候と年間約2,350時間という長い日照時間に恵まれており(政令指定都市中でも上位水準)、野菜・果物・花卉など多種多様な農産物を年間を通して栽培できます。これがユニバーサル農業の推進にとって非常に有利に働きます。季節を問わず農作業があるということは、障がいのある方々に年間を通じた就労機会を提供しやすいことを意味します。また品目が多様なほど、個人の特性に合わせた作業の選択肢も広がります。
③ 産・官・学・福の強固な連携ネットワーク
浜松市ユニバーサル農業研究会には、農業者7経営体・障害福祉サービス事業所2事業所を中核に、NPO法人しずおかユニバーサル園芸ネットワーク・聖隷クリストファー大学(リハビリテーション学部)・静岡県立農林環境専門職大学・とぴあ浜松農業協同組合・社会保険労務士法人・民間企業など計19団体が参画しています。行政(浜松市農業水産課・健康福祉部)も事務局として加わり、定例会・年1回のシンポジウム・就労体験会などを通じて、農業者と福祉側のニーズを継続的にマッチングさせる仕組みが整っています。これが他地域にはない浜松モデルの強みです。
研究会メンバー構成と活動内容の詳細はこちらで確認できます。
浜松市ユニバーサル農業研究会について|浜松市公式ホームページ
浜松市ユニバーサル農業の象徴的な存在が、浜松市中央区(旧南区)で江戸時代初期から13代続く農家を母体とする「京丸園株式会社」です。同社は農福連携の先駆けとして第48回日本農業賞大賞を受賞し、海外(インドなど)からも視察が訪れます。
京丸園の代表・鈴木厚志氏が強調するのは、「障がいのある人のために農業をやるのではなく、農業経営を強くするために障がい者雇用を戦略的に使う」という考え方です。この30年間でユニバーサル農業に取り組んだ結果、作付面積は2倍、売上は10倍に成長しています。
その中核にあるのが「作業分解」という手法です。複雑な農作業を細かく分解してシンプルな工程の組み合わせにすることで、誰もが100点を取れる仕事を設計します。具体的には、「きれいに洗って片付けて」という曖昧な指示を「スポンジで5回こすってAの位置に10個ずつ重ねて置く」という明確な指示に変換します。これはつまり、農作業の標準化・可視化であり、障がい者に限らず、パートスタッフや新人でも迷わず仕事ができる環境を作ることでもあります。
結果として、一日に2万5,000本のミニちんげんを出荷できる生産体制が整いました。これは浜松市内で京丸園にしか実現できない数字です。障がい者の特性(単純作業の繰り返しが得意・動作がゆっくり)が、そのまま商品の差別化と生産量の拡大につながっています。これは使えそうです。
農業従事者の方が「障がい者雇用は難しそう」と思っている場合、まず作業分解の実践から始めることをおすすめします。難しい仕事を細分化していくプロセス自体が、農園全体の作業効率を見直す好機にもなります。
農業専門メディアによる京丸園取材記事。作業分解・賃金決定・採用方法の詳細が読めます。
ユニバーサル農業ってどんなこと?浜松市「京丸園株式会社」で聞きました|アグリポート
農業経営視点からのユニバーサル農業の解説。京丸園代表によるインタビュー記事です。
浜松市内には京丸園以外にも、さまざまな連携スタイルでユニバーサル農業を実践する農園・事業所が存在します。農業従事者にとって参考になる事例を見ていきましょう。
野沢園(果樹農園)×NPO法人えんしゅう生活支援net
浜松市浜名区細江町でみかんを中心とした果樹農業を営む野沢園では、生活訓練事業所「ワークセンター大きな木」を通じて高次機能障がい者をリハビリの一環で受け入れています。主な作業は除草作業です。注目すべき成果は、障がい者の受け入れを開始して以降、農園で害虫の発生が抑えられ、除草剤の使用量が従来の5分の2に減少したという点です。参加者にとってはリハビリ効果のある就労機会になり、農園にとっては農薬コストの削減と環境負荷の低減が実現しました。農薬5分の2削減というのは原則です。
CTCひなり株式会社(特例子会社モデル)
IT企業・伊藤忠テクノソリューションズの特例子会社として、2010年(平成22年)に浜松市内にオフィスを開設。障がい者を現地採用し、農産物の収穫補助・定植・作業場清掃などの軽作業を複数の農家から請け負います。一方で、生産物・加工品を親会社グループに販売し、農家に安定した販路を確保する仕組みも作りました。企業の障がい者雇用率を満たしながら農業に労働力を供給するという、都市と地方をつなぐ連携モデルです。
あずきのむら(浜松市内)
農薬や肥料・除草剤を使わない「自然栽培」を中心にした農福連携事業所です。利用者一人ひとりのレベルやペースに合わせて、体力仕事から細かい軽作業まで多様な選択肢を用意しています。見学のみの参加も受け付けており、農業未経験者でも入りやすい間口の広さが特徴です。
これらの事例から見えてくるのは、農家側が「受け入れコスト」ではなく「経営への恩恵」として福祉連携を捉えている点です。除草剤削減・安定労働力・農薬コスト削減・差別化商品開発など、農業経営にとって実質的なメリットが生まれています。厳しいところですね、農業経営の現実を変えるヒントがここにあります。
浜松市内のユニバーサル農業取り組み事例が動画・記事で公開されています。
ユニバーサル農業インタビュー動画・記事|浜松市公式ホームページ
「ユニバーサル農業に取り組んでみたいが、費用面が不安」という方のために、利用できる主な支援制度をまとめます。
農林水産省:農山漁村振興交付金(農福連携型)
農福連携に関する最も代表的な国の補助金です。令和8年度予算でも継続されており、主な内容は以下のとおりです。
厚生労働省:農業法人等への障害者雇用助成金
障害者を雇用する農業法人は、厚生労働省の「特定求職者雇用開発助成金」(最大120万円)や「障害者介助等助成金」なども活用できます。農業に従事する障がい者と伴走する「第2号ジョブコーチ(職場適応援助者)」の育成費用への補助もあります。
浜松市のサポート体制
浜松市では市独自のサポート体制として以下を整備しています。
補助金を活用する場合は、申請時期(農山漁村振興交付金は通常年度前半に公募)を逃さないことが大切です。浜松市農業水産課または静岡県西部農林事務所に相談することで、最新の公募情報と申請サポートを受けることができます。補助金には期限があります。
農福連携向け補助金の詳細と申請先が整理されています。
農福連携補助金の全国向け解説記事。申請できる複数メニューを一覧で確認できます。
農福連携で人材不足を解決!導入の流れや活用事例を紹介|みのるー
「20年の実績がある浜松市の事例はわかった。でも自分の農園でどこから始めればいいか」という疑問は、多くの農業従事者が持つ正直な感想です。実は、ユニバーサル農業は「完璧な準備が整ってから始めるもの」ではありません。小さな一歩から始められます。
ステップ1:自農園の作業を30分で分解してみる
まず紙とペンを用意して、農園の日常作業を書き出してみてください。「草取り・収穫・選別・袋詰め・ラベル貼り・運搬」のように分けていきます。次に、各作業に「体力が必要か」「細かさが必要か」「判断が必要か」の3軸でレベルをつけます。この作業マップが、ユニバーサル農業への入口であり、農園全体の業務効率化の地図になります。つまり作業分解が第一歩です。
ステップ2:浜松市内の相談窓口に1本電話する
浜松市農業水産課(産業部)または認定NPO法人オールしずおかベストコミュニティに問い合わせるだけで、農福連携コーディネーターが農園の状況に合わせた相談に応じてくれます。費用は無料です。「まだ具体的なプランがない」段階でも構いません。
ステップ3:「お試しノウフク」で小さく試す
いきなり雇用契約を結ぶ必要はありません。浜松市が整備している「お試しノウフク」プログラムを活用することで、農業者と福祉事業所が試験的に連携体験ができます。お互いの期待とギャップを事前に確認した上で、本格的な連携に進むかどうかを判断することができます。これは使えそうです。
ステップ4:「障がい者のためではなく、経営のため」という視点を持つ
京丸園の鈴木代表が繰り返し強調するのが、「福祉的な思いがなければユニバーサル農業に取り組めないと思わないでほしい」というメッセージです。農業経営を強くするための手段として農福連携を捉えることが、長続きする取り組みの条件です。農業者として正直に「経営を良くしたい」という動機で参加することが、双方がWin-Winになる関係の出発点になります。
最後に、浜松市内の農業従事者にとって最も大きなアドバンテージを再確認しておきましょう。浜松市は20年分の事例・ノウハウ・連携ネットワークがすでに整っている都市です。京丸園を始めとする先行農園が積み上げてきた知見を、研究会や見学ツアーを通じて直接学べる環境があります。全国どこの農業従事者よりも、浜松市内の農業者は低いコストと短い時間でユニバーサル農業を始められる立場にあります。これはお得ですね。
浜松市でユニバーサル農業が広がることで、地域農業の担い手不足が解消され、農業者・障がいのある方・地域社会の三者すべてが利益を得る循環が生まれます。あなたの農園が、次の20年の浜松農業を形作る一員になれるかもしれません。
農福連携全国フォーラム2025の開催地として選ばれた浜松市の取り組みの背景が確認できます。
農福連携全国フォーラム2025 in はままつ|農福連携等応援コンソーシアム
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