園芸療法デメリットと費用の負担は?導入の失敗を防ぐ対策

園芸療法の導入を検討する農業従事者に向けて、見落としがちなデメリットやコスト、リスクを徹底解説します。収益化の課題や現場の負担など、きれいごとではない現実を知り、失敗を防ぐ準備をしませんか?

園芸療法のデメリット

記事の概要
💰
費用の負担

設備投資や維持費、保険料など見えにくいコストが経営を圧迫する可能性

⚠️
事故のリスク

アレルギーや感染症、転倒など、一般農業とは異なる安全管理が必要

📉
収益化の壁

生産効率の低下や専門スタッフ確保の難しさなど、事業継続の課題

近年、農業の多角化や地域貢献の一環として「園芸療法」や「農福連携」が注目されています。土に触れ、植物を育てる行為が心身の健康に良い影響を与えることは広く知られていますが、農業のプロである皆様が事業として導入する場合、趣味の園芸とは全く異なる「壁」に直面することがあります。

 

農業従事者の視点から見ると、園芸療法は単なる「癒やしの提供」ではなく、厳密な安全管理、コスト計算、そして「生産」とは異なる評価軸が求められる複雑な事業です 。特に、「良い作物を作る」ことを生業としてきた方にとって、療法としての園芸は時にストレスや矛盾を感じる要因にもなり得ます。

 

参考)園芸療法とは?効果とデメリット・課題、やり方を紹介 - Sp…

この記事では、あえて園芸療法の「デメリット」や「課題」に焦点を当て、導入前に知っておくべき現実的なリスクを深掘りします。これらの情報を事前に把握することで、無用なトラブルや経営上の失敗を回避し、持続可能な形での導入を検討するための一助としてください。

 

園芸療法デメリット:導入にかかる初期費用と維持の負担

園芸療法を本格的に導入する場合、最も大きな障壁となるのが金銭的なコストです。既存の畑やビニールハウスをそのまま開放すれば良いと考えがちですが、対象者が高齢者や障がい者である場合、バリアフリー化や専用設備の導入は避けて通れません。

 

特に高額になりがちなのが「レイズドベッド(立ち上がり花壇)」の設置です。車椅子の方や、腰を曲げるのが辛い高齢者が作業しやすいように、地面から高さを上げた花壇が必要になります。

 

  • レイズドベッドの導入コスト:

    一般的な木製のレイズドベッドでも、耐久性や防腐処理が施されたものは高価です。車椅子対応のテーブル型レイズドベッドの場合、1台あたり数万円から、オーダーメイドや高機能なものでは10万円近くすることもあります 。これを複数台設置し、通路を舗装整備するだけで、初期投資は数百万円規模になることも珍しくありません。

     

    参考)https://item.rakuten.co.jp/nakataniweb/10000109/

  • 維持管理費用の発生:

    設備を作って終わりではありません。毎年の種苗代、培養土の入れ替え費用、肥料代などはもちろん、療法用の道具(握力が弱くても使える剪定バサミや軽量化されたジョウロなど)も人数分揃える必要があります。

     

  • 保険料の負担:

    外部から人を受け入れる以上、事故への備えは必須です。一般的な農業用保険ではなく、観光農園や体験農園に対応した「施設賠償責任保険」や「生産物賠償責任保険」への加入が必要となります 。規模や補償額によりますが、年間数万円〜数十万円のランニングコストが上乗せされます。

     

    参考)https://shiryo.ja-kyosai.or.jp/noubai/lp01.html

以下の表は、園芸療法導入時に想定される費用の概算です。これらが収益に見合うかどうか、シビアな計算が求められます。

 

項目 費用の目安 備考
レイズドベッド(1台) 5万円 〜 10万円

車椅子対応・防腐処理済みの場合
参考)テーブルレイズドベッドで多くの人がガーデニングを楽しめる環境…

バリアフリー通路整備 100万円 〜 砂利道をコンクリートや舗装にする工事
賠償責任保険(年間) 1万円 〜 5万円

農園の規模や補償限度額による
参考)https://www.be-farmer.jp/assets/file/support/subsidy/insurance_kyouei_pamphlet.pdf?d=20241218002913

療法用園芸ツール 1セット 5,000円 〜 誰でも使いやすいユニバーサルデザイン製品
消耗品(苗・土・肥料) 年間 数万円 〜 作付け計画により変動

日本園芸療法学会(JHTS) - 園芸療法に関する学術的な情報や資格認定について
※園芸療法の学術的な定義や、研究データに基づく効果と課題について詳しく知ることができます。

 

園芸療法デメリット:専門知識と資格を持つ人材確保の壁

園芸療法を「ただ植物を一緒に育てること」と捉えていると、現場で大きな躓きを経験します。園芸療法には、対象者の身体機能や精神状態を把握し、適切なプログラムを立案・実施・評価できる専門的なスキルが必要です 。

しかし、日本において「園芸療法士」は国家資格ではなく民間資格であり、その認知度はまだ発展途上です。そのため、以下のような人材面の課題がデメリットとして挙げられます。

 

  • 有資格者の不足と採用難:

    園芸療法士の資格を持つ人材は決して多くありません。地方の農園であればなおさら、即戦力となる専門家を採用するのは困難です。農業従事者自身が資格を取得しようとする場合、数十万円の受講費用と、数百時間の実習時間を要することが多く、本業の農作業と並行して取得するのは極めて重い負担となります 。

     

    参考)受講内容詳細

  • 専門性のミスマッチ:

    医療・福祉の知識がない農業スタッフが対応すると、認知症の方への不適切な対応や、リハビリテーションの視点が欠けた指導を行ってしまうリスクがあります。逆に、福祉スタッフに農業を任せると、植物の管理が行き届かず枯らしてしまい、それが利用者のストレスになる(逆効果になる)という「園芸療法のジレンマ」もしばしば発生します 。

     

    参考)https://ameblo.jp/mimosa-ot-ht/entry-12848631215.html

  • 人件費の高騰:

    利用者一人ひとりに寄り添うためには、一般的な観光農園よりも手厚い人員配置が必要です。マンツーマンに近いサポートが必要な場合、参加費だけで人件費を賄うことは難しく、補助金や助成金頼みの運営になりがちです。これが事業の持続可能性を損なう大きな要因となります。

     

兵庫県立淡路景観園芸学校 - 園芸療法の定義と教育
※公的な教育機関として園芸療法課程を持ち、専門的な人材育成の内容やカリキュラムの詳細が確認できます。

 

園芸療法デメリット:植物毒や感染症など予期せぬ事故のリスク

プロの農家であれば当たり前に回避できる危険も、園芸療法の参加者にとっては重大な事故につながる可能性があります。特に高齢者や免疫力が低下している方を受け入れる場合、安全管理のハードルは格段に上がります。

 

  • 植物による中毒・アレルギー:

    花壇によく植えられる植物の中には、毒性を持つものや強いアレルギーを引き起こすものがあります。

     

    • スイセン、スズラン: 球根や葉を誤食すると重篤な中毒症状を引き起こします。認知症の方が野菜と間違えて口にするリスクを常に考慮しなければなりません。
    • プリムラ・オブコニカ、ウルシ科植物: 触れるだけで皮膚炎(かぶれ)を起こす植物は、療法用の花壇からは排除する必要があります。
  • 土壌由来の感染症

    土の中には様々な細菌が存在します。

     

    • 破傷風菌 小さな傷口から感染し、最悪の場合は死に至ります。参加者には事前のワクチン接種確認や、厚手の手袋着用などの徹底が必要です。
    • レジオネラ菌: 腐葉土堆肥の粉塵を吸い込むことで感染するリスクがあります。高齢者は重症化しやすいため、堆肥の取り扱いには細心の注意が求められます。
  • 熱中症と身体的事故:

    夢中になって作業をすることで、水分補給を忘れ、熱中症になるケースが後を絶ちません。また、不整地での転倒、剪定バサミによる怪我など、農業現場には危険がいっぱいです。これらを防ぐための見守りスタッフが必要となり、結果として運営コスト(負担)を押し上げます 。

     

    参考)企業の農業参入の8割が赤字? 農業総合支援企業が教える成功へ…

JA共済 農業者賠償責任共済 - 農業経営における賠償リスク
※農作業中や生産物による対人・対物事故を補償する保険の詳細。園芸療法導入時のリスクヘッジとして参考になります。

 

園芸療法デメリット:農業経営における収益化の難しさと現場の負担

これは一般的にあまり語られない、しかし農業従事者にとって最も切実な「独自のデメリット」です。それは、「生産効率の追求」と「療法のプロセス」が相反するという点です。

 

農業経営の基本は、高品質な作物を、効率よく、大量に生産し、市場に出荷して利益を得ることです。しかし、園芸療法はこの真逆を行くことがあります。

 

  • 「失敗」の定義の違いによるストレス:

    農家にとって、曲がったキュウリや虫食いのキャベツは「B級品」「出荷不可」であり、ある種の「失敗」です。しかし、園芸療法においては、参加者が自分で育てたこと自体が重要であり、形が悪くても「成功」とされます。

     

    自分の農場で「売り物にならない作物」が作られていく様子を見ることは、プロの農家として心理的な葛藤やストレスを感じる原因になり得ます。「もっとこうすれば良く育つのに」と手を出してしまえば、参加者の自立支援という療法の目的を損なってしまうのです。

     

  • 生産スペースの犠牲と収益性の低さ:

    園芸療法を行うスペースは、営利栽培のスペースを削って確保することになります。その面積あたりの収益性を比較すると、療法としての利用料収入は、効率的に作物を生産・出荷した場合の売上に見劣りすることがほとんどです 。

     

    参考)http://www.jpgreen.or.jp/therapy/hiroba/discussion.pdf

    「手間はかかるが儲からない」という構造になりやすく、善意で始めたものの、本業の経営を圧迫し、最終的に撤退を余儀なくされるケースも少なくありません。

     

  • 現場スタッフの疲弊:

    農作業の合間に利用者の相手をする、という兼務体制は多くの場合破綻します。「忙しい収穫期に、利用者のトイレ介助や話し相手をしなければならない」という状況は、現場スタッフに過重な負担を強います。これが原因で従業員が離職してしまうリスクも、見逃せないデメリットの一つです。

     

導入を成功させるためには、この「生産」と「療法」を明確に切り分け、療法部門単独で採算が取れるビジネスモデルを構築するか、あるいは完全な社会貢献活動(CSR)として割り切るかの経営判断が不可欠です 。

 

参考)https://www.jht-assc.jp/wp-content/uploads/vol.11_5