都市型農業は「都市内または都市近郊で行われる農業」で、消費地に近いことから鮮度の高い農産物を短い輸送距離で供給できる点が大きなメリットとされています。
輸送に伴うエネルギー消費やフードマイレージを抑えられるため、環境負荷の低減や温室効果ガス排出削減にもつながる取り組みとして注目されています。
都市部に畑や農園を配置することで、ヒートアイランド現象の緩和や雨水の保水・地下水涵養、生物多様性の保全といった「都市のインフラとしての緑地機能」も期待されています。
参考)https://iwaponline.com/bgs/article-pdf/2/1/1/740597/bgs0020001.pdf
また、市民農園や体験農園を通じて、子どもから高齢者までが土に触れる機会を持ち、食育・健康づくり・地域コミュニティ形成の場になっている事例も多く報告されています。
参考)都市農業の振興・市民農園について:農林水産省
一方で、都市型農業には独特のデメリットも存在します。
参考)Re+ │ 地域と楽しむ、挑戦する。新しい農業のカタチをつく…
代表的なのは「土地確保の難しさ」と「地価・地代の高さ」で、採算性を確保するには高付加価値作物の生産や観光・体験と組み合わせた収益源の多角化が求められます。
参考)https://www.mdpi.com/2073-4395/12/3/601/pdf?version=1646034584
技術面では、農業用水の確保に水道水を使わざるを得ず、水コストが経営を圧迫するケースや、高層建築物による日照不足・ビル風の影響が課題になるケースが指摘されています。
さらに、堆肥臭や農薬散布、農機の騒音などが近隣住民との摩擦要因になりやすく、「都市住民の農業への理解と合意形成」が不可欠な条件になっています。
参考)コミュニティ再生の場として期待高まる「都市農業」とは 国内外…
こうしたメリット・デメリットを踏まえると、農業従事者が都市に進出する際には「単に作る」だけでなく、体験・教育・観光・福祉など多面的な価値を設計に組み込むことがポイントになります。
そのため、都市型農業を検討する際は、作付け計画よりも前に「地域の課題」「自分の強み」「都市住民のニーズ」を洗い出すワークショップ的なプロセスを挟むと、失敗リスクを減らせます。
参考)https://www.table-source.jp/column/urbanfarming-casestudy/
都市農業の定義や多面的機能、制度面の整理に役立つ公式資料。
都市型農業の代表例として広く紹介されているのが、水耕栽培やLEDを活用した垂直農法を組み合わせた「都市型植物工場・垂直農場」です。
土を使わずに養液で栽培するため、屋内・地下・ビル内スペースなど、従来農地として使われてこなかった場所を生産空間へ転換できる点が大きな特徴です。
日本国内でも、地下空間を利用したレタスやハーブの垂直農場が稼働しており、LED照明と水耕栽培を組み合わせて高効率な周年栽培を実現しています。
参考)地下農場とは。都市農業の生産効率向上に期待高まる地下農場の事…
海外では、モジュール式の水耕栽培タワーを屋上・バルコニー・屋内に設置し、需要に応じて拡張できる「モジュラー水耕栽培システム」が都市部で普及しつつあります。
参考)モジュラー水耕栽培システム:都市型垂直農業の未来 - Mii…
一方で、設備コストが高く、電力に依存するため、電気料金の変動や停電リスクへの備えが不可欠です。
そのため、単に葉物野菜を量産するだけでは投資回収が難しく、レストラン併設・体験型ツアー・サブスクリプション制の会員サービスなど、体験やストーリーを組み合わせた事業設計がよく見られます。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/frym.2023.1060155/pdf
近年は、IoTセンサーで温度・湿度・照度・EC・pHなどを常時計測し、クラウド上でデータ管理する仕組みを導入する事例も増えています。
参考)スマート市民農園事業
こうした「見える化」により、未経験者でもマニュアルに沿って運用しやすくなり、農業法人だけでなく不動産・飲食・福祉分野の企業が参入しやすい形に進化しています。
モジュール型水耕栽培タワーの構造や拡張性の考え方に触れたいときに参考になる記事。
農業従事者にとって、屋上やベランダは「販路開拓と情報発信のショールーム」として活用しやすい都市型農業の入り口です。
ビルやマンションの屋上・空きスペースを活かしたアーバンファーミングは、家庭菜園層や企業の福利厚生ニーズとも相性がよく、比較的小規模な初期投資で始められます。
屋上・ベランダ菜園で実践的に意識したいポイントは次の通りです。
農家にとっては、屋上菜園を「体験・研修のサテライト」と位置づけ、本圃との二拠点運用にする発想も有効です。
たとえば、郊外の圃場で生産した苗を都心屋上で育ててもらい、収穫体験やオンライン講習会と組み合わせたサービスにすることで、ブランド発信と収益化を同時に狙えます。
近年は、テレワーク普及を背景に、自宅ベランダやシェアオフィスのテラスを利用した小型アーバンファームのニーズが高まっています。
この流れに合わせて、農業者側が「ベランダ菜園スタートパック」や「月額制の苗・培地・レシピ提供サービス」といったキットビジネスを立ち上げることで、都市型農業を新たな販路開拓とファンづくりの場として活かすことができます。
屋上・ベランダを活用した家庭菜園・アーバンファーミングの基礎的な注意点をまとめたガイド。
家庭菜園の秋!ベランダや屋上など、空きスペースを有効活用
参考)家庭菜園の秋!ベランダや屋上など、空きスペースを有効活用した…
日本では、農林水産省や自治体が中心となって、市民農園や体験農園を通じた都市農業振興が推進されており、レクリエーション・生きがいづくり・教育の場として広く利用されています。
小面積の区画を貸し出し、利用者が自ら農作業を行う形態と、農家が作付計画や指導を担い、利用者は収穫体験を中心に参加する形態の両方が存在します。
海外の研究では、都市農業が必ずしも大量の食料供給を担わなくても、「フードジャスティス」や「コミュニティのレジリエンス」への貢献が大きいと評価されています。
参考)https://foodsystemsjournal.org/index.php/fsj/article/download/143/137
具体的には、低所得地域における生鮮食品アクセスの改善や、地域住民が自らの食の問題を話し合い行動する場として、コミュニティガーデンが機能しているという報告があります。
参考)https://www.mdpi.com/2071-1050/8/5/409/pdf?version=1461580358
日本国内でも、都市農業をコミュニティ再生の拠点として活用する事例が増加しており、空き地を使ったオープンスペースや会員制ガーデンなど、多様な形態が見られます。
農業従事者にとっては、「収穫体験+直売+カフェ+ワークショップ」のように、都市住民の滞在時間を伸ばすコンテンツを組み込むことで、単なる区画貸しから一歩進んだ地域拠点づくりが可能になります。
市民農園制度や優良事例が整理されている行政資料。
農林水産省「都市農業の優良事例集」
参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/tosi_nougyo/attach/pdf/t_okonau-3.pdf
スマート農業技術は、広大な圃場だけでなく、都市型農業とも相性がよく、IoTセンサーや自動潅水、遠隔監視システムを備えた小規模都市農園の事例も増えています。
姫路市の「スマート市民農園事業」では、ファームボットや環境モニタリング装置を使い、外出が難しい人でも遠隔操作で農業体験ができる仕組みを検証しており、福祉・教育と農業DXを組み合わせた先進事例となっています。
都市型農業のビジネスモデルとして注目されているのは、次のようなパターンです。
参考)消費者との距離が近い?!話題の都市型農業について徹底解剖! …
| モデル | 概要 | 農業者の役割 |
|---|---|---|
| サブスク制都市農園 | 月額会費で区画・指導・収穫体験を提供し、追加料金で加工品やレシピも販売する形態。 | 作付計画・技術指導・イベント企画を担い、体験価値をデザイン。 |
| BtoB提携型アーバンファーム | レストラン・ホテル・企業食堂などに隣接した都市農園で、メニュー連動の生産とストーリーマーケティングを行う。 | 安定供給と品質管理に加え、シェフや企業と共にメニュー開発・プロモーションを行う。 |
| 教育・研修特化型農園 | 学校・企業研修・医療福祉施設向けに、農作業を通じた学びやリハビリプログラムを提供するモデル。 | カリキュラム設計や安全管理を担い、指導者としてのスキルが求められる。 |
農業従事者にとっての独自の攻めどころは、「データとコミュニティを自前で持つ」ことです。
たとえば、都市型農園の会員情報・収穫データ・アンケート結果を蓄積し、季節ごとのニーズ分析や栽培品目の最適化に活かすことで、他業種には真似しにくい強みを築けます。
また、オンラインコンテンツと組み合わせて「ハイブリッド農園」として展開することも可能です。
現地体験に加えて、栽培ノウハウの動画配信やオンライン相談、デジタルクーポン付きの収穫ボックス配送をセットにすれば、立地に縛られない収益源を都市型農業から生み出せます。
スマート市民農園事業の概要や、教育・福祉と連携した都市農業DXの方向性を知るのに役立つページ。
最後に、都市型農業へ新たに踏み出す農業従事者向けに、「どこから始めるか」「どうスケールさせるか」を戦略的に考える視点を整理します。
ポイントは、①都市の課題を軸にコンセプトを決める、②小さくテストしデータを取る、③コミュニティと制度を味方につける、の三段階です。
都市型農業は、食料供給だけでなく、まちづくり・教育・福祉・観光・防災を横断する「プラットフォーム」としても活用しうる存在です。
その一方で、都市ごとに人口構成や土地利用、住民意識が大きく異なるため、他地域の成功事例をそのままコピーするのではなく、「自分の地域らしさ」と「自分の経営の強み」をかけ合わせた設計が不可欠になります。
農業従事者が都市型農業に取り組むとき、重要なのは「作物」よりも先に「物語」と「関係性」をデザインすることだと言えます。
どのような都市課題に応え、どんな人たちとどんな時間を共有したいのか──その問いに対する答えがはっきりしていれば、技術選定(水耕栽培・垂直農法・屋上菜園・市民農園など)は後からでも追いつきます。