リドミル系農薬を毎年使い続けると、翌シーズンは薬が全く効かなくなることがあります。
ショウガ根茎腐敗病の原因菌は、Pythium zingiberum(ピシウム・ジンジベルム)という糸状菌(卵菌類)です。 根や茎葉の地際部から感染し、暗緑色~褐色の水浸状変色が広がり、最終的に株が倒伏・枯死します。
参考)ショウガ根茎腐敗病について – 農業専門の中小企…
この菌が恐ろしいのは「拡散速度」にあります。 土壌水の移動によって遊走子が運ばれ、短時間で圃場全体に感染が拡大します。 遊走子濃度が非常に低い状態でも感染が成立するため、「まだ少ししかいないから大丈夫」とはなりません。
発病が集中するのは、梅雨明け前後の7月中下旬から10月中旬にかけてです(熊本県の事例)。 発病適温は20〜37℃で、気温の上昇とともに進展が加速します。 夏の高温多雨が重なる年は特に注意が必要ですね。
また、病原菌は土壌中で卵胞子として長期間生存し、圃場一度汚染されると作期をまたいで次作にも影響を及ぼします。 ショウガの洗い水が流れ込んだ排水溝にも長期間にわたって菌が生存した事例が確認されており、排水路の管理も重要です。jppa+1
罹病した根茎を貯蔵庫に持ち込むと、収穫時には気づかなくても貯蔵中に腐敗が進み、翌シーズンの種根茎ごと失うリスクがあります。 見た目が正常でも内部感染している可能性があるということですね。
参考)http://jppa.or.jp/archive/pdf/65_02_23.pdf
農薬は大きく2つのカテゴリに分かれます。①植付前の土壌くん蒸剤と②生育期の殺菌剤(灌水チューブ処理・粒剤)です。 単独使用ではなく、この2種類を組み合わせる「防除体系」が現在の標準的な考え方です。
参考)https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/5150.pdf
主な登録農薬(2025年時点)は以下のとおりです。boujo+1
【土壌くん蒸剤】
60kg/10aが標準的な使用量。
低温期使用の場合は事前に20日間以上のビニル被覆による予熱処理が効果を高めます。naro.affrc+1
【生育期殺菌剤】
500倍・1L/㎡が基本。
出芽揃い(8割程度出芽)時から灌注を開始するのが効果的。hokusan-kk+1
かつて卓効を発揮した臭化メチル剤は2013年に全廃となり、現在は使用できません。 代替体系の確立が各県で急ピッチで進んでいます。
これは今の農家にとって重大な転換点です。
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参考:ショウガ根茎腐敗病に登録のある農薬リストは農林水産省の農薬登録情報提供システムで最新情報が確認できます。
土壌くん蒸剤を使っても、生育期の薬剤処理を怠れば発病を抑えることはできません。 体系防除とは「土壌消毒→生育期ローテーション散布→発病株の即時撤去」という流れを1セットとして組むことです。
生育期処理の具体的なローテーション例は以下です。
ローテーションが基本です。 同じ農薬を連続して使うと、耐性菌が出現してその薬剤が全く効かなくなります。pref+2
熊本県農業研究センターの試験では、ランマンフロアブル1000倍・3L/㎡を発生前1回+3週間間隔で合計3回かん水チューブ処理することで、高い防除効果が得られています。 3週間間隔というのは東京〜静岡間(約150km)を時速50kmで走る時間に相当するほどの期間です。短いと感じるかもしれませんが、この間隔を守ることが重要です。
また、種ショウガ自体が保菌している場合、初発が早まります。 根茎の割口や表面の変色を必ず植付前に確認することが条件です。
多くの農家が「効いていた農薬が急に効かなくなった」と感じることがあります。
これが耐性菌の出現です。
長崎県や高知県などの産地では、メタラキシル(リドミル系)に対する耐性菌の発生がすでに確認されています。pref+1
痛いですね。
メタラキシル系を毎年同じほ場に使い続けると、薬剤に強い菌だけが生き残り、徐々に集団の中で耐性菌が増えていきます。 2006年の高知県農業技術センターの報告では、リドミル粒剤の効果低下が疑われる圃場が確認されており、現場では既に問題になっています。greenjapan+1
耐性菌のリスクは「お金」と「時間」の両方に直撃します。 農研機構のデータでは、根茎腐敗病の防除費用は10a当たり多額に上ることが示されており、耐性菌が出れば再防除のコストがさらに積み重なります。
参考)https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/hesodim/hesodim.pdf
対策として「作用性の異なる薬剤をローテーション使用する」ことが推奨されます。 具体的には:
参考)https://www.greenjapan.co.jp/ridomilgoldmz.htm
この3系統を順番に使い、同一成分の連続使用を1シーズン2回以内に抑えることが原則です。 農薬のラベルに記載された「使用回数制限」は、耐性菌予防のために設けられた重要な制約です。
必ず確認してください。
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参考:農研機構による土壌診断と防除薬剤選定の詳細情報
農研機構「健康診断に基づく土壌病害管理」ショウガ根茎腐敗病の事例(高知県)
農薬はあくまで「防除体系の一部」です。
これだけ覚えておけばOKです。
薬剤コストを抑えながら効果を最大化するために、耕種的防除(薬を使わない対策)との組み合わせが欠かせません。
温湯消毒は農薬を使わない種消毒として有効で、50℃・10分間の浸漬で十分な防除効果が得られます。 45℃・30分でも同等の効果とされており、自農場の設備に合わせて選択できます。 ただし、52℃以上・10分超になると種ショウガ自体へのダメージが出るため、温度管理が条件です。shikoku-shokubo+2
輪作の効果も大きいです。 大阪府立大学の調査では、6年以上輪作を継続した圃場からは菌が検出されなかったというデータがあります。 ただし実際には毎年同じ畑でショウガを作り続ける農家も多く、その場合は土壌くん蒸が現実的な選択肢です。
Pythium zingiberum が感受性を示す作物には、ミョウガ・インゲンマメ・エンドウなどが含まれますが、ナス・カブ・ダイコンを後作にすると圃場内の菌数が激減します。 カブやニンジンは不感受性に近く、ショウガの後作として最適な選択肢の一つです。
🌡️ 太陽熱消毒との組み合わせもあります。バスアミド微粒剤を使う際に、事前に農業用ビニル(厚さ0.05mm)で20日以上被覆して予熱処理を行うと、土壌温度が高まり防除効果が向上します。 薬剤だけでなく地温を上げる工夫が、農薬の使用量削減にもつながります。
これは使えそうです。
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発病した株は見つけ次第、圃場外に搬出し堆肥化処理を行うことが推奨されます。 Pythium zingiberum の菌糸は44〜46℃・60分間で死滅するため、適切に堆肥化することで圃場への再汚染リスクを下げられます。
参考:臭化メチル剤廃止後の代替防除技術の詳細(農林水産省・農研機構)
農林水産省「脱臭化メチル栽培マニュアル(熊本県露地ショウガ産地版)」