肉眼では見えないのに、農薬をまくと逆に被害が広がることがあります。
シクラメンホコリダニ(学名:Phytonemus pallidus)の雌成虫の体長は約0.23mm。 はがきの短辺(100mm)の約430分の1という極小サイズで、ルーペがなければほぼ確認できません。nogyo.tosa.pref.kochi+1
体色は淡褐色で半透明。 新葉の展開部やクラウン(株元の生長点)の隙間に潜み、柔らかい組織から樹液を吸います。 吸汁と同時に成長を阻害する物質を分泌するため、単なる栄養不足とは異なる独特の変形症状が現れます。cyclamen+1
これが厄介なところですね。
卵は楕円形で表面は平滑。 チャノホコリダニの卵(緑色・葉に固着)と見た目が異なるため、検鏡で区別できます。 ただし農家レベルで両種を目視で判別するのは現実的ではなく、被害症状から推測するのが実態です。
参考)形態情報 ホコリダニ類 : こうち農業ネ…
| 項目 | シクラメンホコリダニ | チャノホコリダニ |
|---|---|---|
| 雌体長 | 約0.23mm | 約0.25mm |
| 体色 | 淡褐色 | 淡黄緑色 |
| 卵の特徴 | 楕円形・平滑 | 緑色・気泡状点刻 |
| 発生ピーク | 7〜10月 | 4〜11月(梅雨明け後急増) |
判別には40倍以上の顕微鏡が必要です。
被害の初期症状は「新葉の萎縮」と「葉縁のカール」です。 これが進むと生長点が褐変して「芯止まり」になり、最終的に株が枯死します。 生育障害として片付けてしまうケースが多く、発見が遅れる原因になっています。pref.fukushima+1
新葉がなぜか小さい、と感じたら要注意です。
果実への被害も深刻で、幼果が褐変・奇形化します。 一見するとカルシウム欠乏や炭疽病と混同しやすいため、農薬を誤って散布するリスクがあります。発見から対処まで2週間以上空くと、ホコリダニの個体数は環境条件によって数十倍に増殖することも珍しくありません。
参考)https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/433112.pdf
ポイントは「生長点周辺に集中しているかどうか」です。
以下の症状が複数当てはまる場合は、シクラメンホコリダニを疑いましょう。
発生ピークは7〜10月です。 気温の上昇とともに密度が高まり、特に7月中〜下旬に最初のピークを迎えます。 9月下旬にも二度目のピークがありますが、こちらは7月の密度より少ないことが多いです。hro.or+1
育苗期の感染が後の収量を大きく左右します。
最も見落とされやすい感染経路は「ランナー」です。寄生株から発生したランナーを通じて子苗へ広がるルートが最も多いと推測されています。 1本のランナー苗が汚染されていると、その苗から展開した圃場全体に短期間で蔓延します。これが「定植後に急に被害が増える」メカニズムです。jstage.jst.go+1
つまり、育苗段階での防除が原則です。
また、シクラメンやイチゴを同じハウス内で管理すると交差寄生のリスクが高まります。 シクラメンはホコリダニが特に好む宿主植物であるため、同一施設での混在は避けるべきです。agri.hro+1
拡散を防ぐ行動チェックリストは以下の通りです。
農薬による防除では「コロマイト水和剤」(有効成分:ミルベメクチン)が実績を持ちます。 静岡県での試験では、シクラメンホコリダニ被害葉率が5%の時点で2000倍希釈・150L/10a散布し、10日後に被害葉率が1%まで低下、奇形果の発生もゼロになりました。 収穫前日まで使用できる点も現場での使いやすさにつながっています。
参考)コロマイトはどうやって使う? ─イチゴに付くハダニやシクラメ…
これは使えそうです。
一方、登録農薬が限られる場面での代替手段として注目されているのが「温湯灌注処理」です。 55℃(±2℃)の温湯を被害株のクラウンを中心に直接かけることで、花房が回復するなど被害を軽減できます。
処理後の効果持続期間は約1ヶ月です。
参考)https://agresearcher.maff.go.jp/seika/show/210018
温湯温度の目安は55℃が適温です。
ただし、57℃を超えると軽度な障害が現れ、60℃以上では灌注部位に明瞭な障害が発生します。 また、温湯灌注は農薬のような浸透移行性・残効性がないため、かけムラがないよう丁寧に行う必要があります。 経済的コストは農薬散布と大差ありませんが、労力は農薬散布の6倍かかる点を事前に考慮してください。
農薬以外では「高濃度炭酸ガス処理」も研究されています。定植前のイチゴ苗に高濃度炭酸ガスを処理することで、苗に寄生するシクラメンホコリダニへの防除効果が確認されています。 農薬使用回数を節約したい場合の育苗期対策として今後注目される技術です。
参考)イチゴのナミハダニおよびシクラメンホコリダニに対する高濃度炭…
以下が主な防除手段の比較です。
| 防除手段 | コスト | 効果持続 | 労力 | 農薬登録 |
|---|---|---|---|---|
| コロマイト水和剤 | 中 | 10日以上 | 低 | あり |
| 温湯灌注(55℃) | 農薬と同等 | 約1ヶ月 | 農薬の6倍 | 不要 |
| 高濃度炭酸ガス処理 | 機材費あり | 要検討 | 中 | 不要 |
| 天敵製剤 | 高め | 継続効果 | 中 | 不要 |
参考:農研機構「イチゴのシクラメンホコリダニに対する温湯灌注防除法」(温湯処理の適温・効果・労力の詳細データ)
https://agresearcher.maff.go.jp/seika/show/210018
天敵導入で注意すべきなのは「導入前の徹底防除」です。 害虫が多発生している状態では天敵の増殖が追いつかず抑制できないため、まず化学農薬で密度を下げてから天敵を放飼するのが基本です。 順番を間違えると初期投資(天敵製剤の費用)がそのまま損失になります。
参考)https://www.inochio-plantcare.co.jp/wp-content/uploads/930d0ce9753c9b596a5dd89cd16c95d1.pdf
導入タイミングが全てです。
農業現場でほとんど語られない視点として、「苗の購入元の防除履歴の確認」があります。シクラメンホコリダニはランナー苗で広がるため、 優良な苗業者であっても育苗時の防除体系が不十分であれば、購入した苗が「潜伏感染苗」になっているリスクがあります。自圃場での防除を完璧にしていても、外部から苗を購入した時点で再汚染されるケースが後を絶ちません。
参考)https://www.hro.or.jp/agricultural/center/result/kenkyuseika/gaiyosho/S59gaiyo/1983200.htm
苗の来歴確認は無料でできます。
具体的には以下の点を苗業者に確認するのが現実的です。
採苗ほでの防除として、42〜43℃の温湯に30〜60分イチゴ苗を浸漬する方法は、寄生虫を完全に死滅させることができると報告されています。 簡易処理法として「瞬間湯沸器を利用した予浸(5〜10分)+本浸(30〜50分)の二重容器処理」も有効です。 コストをかけずに実施できる点で、小規模農家にも導入しやすい方法です。
採苗ほ段階の対策が、収量を守る最後の砦です。
参考:北海道立農業試験場「いちごのシクラメンホコリダニ防除対策試験」(採苗ほの温湯処理と農家採苗ほのデータ)
http://www.agri.hro.or.jp/boujosho/sinhassei/html/77-79/0031.htm
参考:香川県病害虫防除所「シクラメンホコリダニ」(形態と被害画像の詳細)
https://www.pref.kagawa.lg.jp/byogaichubojo/byogaichu/syasin/yasai/yasai_gaityuu/sikuramenhokoridani.html