ミツバ水耕栽培の土台は、培養液を「作物が吸える形」で安定供給することです。培養液は必須元素を水に溶かし、作物と狙う品質に合わせて濃度・pH・ECを組み立てます。培養液管理は、EC(電気伝導度=トータルの養分濃度の大まかな指標)やpH(水素イオン濃度)などをコントロールする技術で、環境制御と並ぶ重要項目です。
農業従事者の現場で一番起きやすいのは、「肥料を入れた/水を換えた」で安心して、ECとpHの推移を記録しないことです。ECは“今どれだけ溶けているか”のざっくり指標なので、同じECでもイオン組成がズレることがあります(だからこそ、定期測定+補正が必要になります)。養液栽培では、ECがイオンのグラム当量濃度にほぼ比例するという背景があり、管理指標として便利だから主流になっています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/380fdd7b356d9b6570012ba6440482a472ce686c
実務的には、まず「測定の頻度」と「変動の原因分解」を決めるのが先です。EC・pHが乱れる典型原因は、(1)原水の硬度やアルカリ度、(2)蒸発・補水、(3)吸収の偏り、(4)高温による微生物活動や根のストレスです。特にミツバは葉物で、短期で回転させやすい一方、ちょっとした管理のズレがそのまま見た目(葉色・軟弱・徒長)に出ます。
ここで「意外と見落とされる」ポイントを一つ。ECを上げれば生育が“必ず”良くなるわけではありません。ECは濃ければ浸透圧が上がり、根が水を吸いにくくなる方向にも働きます。したがって、過剰に濃い培養液で引っ張るより、温度・酸素・pHを整えた上で、狙う草丈と葉柄の太さに合わせてECをチューニングする方が、結果的に歩留まりが上がりやすいです。
参考:培養液・EC・pHが「何を意味し、なぜ管理指標になるか」の整理(培養液の定義、ECが総養分の指標になる理由、管理の重要性)
養液栽培研究会|培養液について
ミツバは大阪府内でも湛液型水耕栽培(deep-flow technique)での生産が多く、循環させた培養液を使いながら栽培槽で曝気して溶存酸素を確保する方式が使われています。実験条件としても、栽培槽でエアーポンプ曝気を行い、栽培槽と貯水槽間をポンプで常時循環させる設計が採用されています。
湛液型は管理がシンプルに見えて、実は「水温」と「酸素」と「有機物」が絡んだ途端に難易度が上がります。水温が上がると、根の呼吸量は増える一方で水中の酸素は不足しやすくなり、根のコンディションが落ちる方向に動きやすいからです。さらに、有機物を入れると微生物が酸素を使うので、曝気不足が一気に表面化します。
現場での点検は、難しい機器がなくても段階的にできます。例えば次の順で「詰まり」を潰すと、原因切り分けが早いです。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/89cf1fe14ff1890f4ae20ccfeacfc7ec175dd6e4
曝気は「入れているつもり」になりやすいので、定期的に装置を分解洗浄して性能を戻すのが効きます。湛液型は水量が多い分、トラブルが起きると復旧に時間がかかるため、予防の価値が大きい方式です。
ミツバは冷涼な気候を好み、生育適温が15~20℃とされ、高温・乾燥が苦手です。半日陰でも育つ一方で、暑さに弱いので夏は環境の作り方が品質を左右します。
水耕で特に効いてくるのが「培養液温度」です。研究では、春作の施設内平均気温が約15.2℃の条件、夏作が約28.7℃、秋作が約18.9℃で比較され、夏作では培養液温度が栽培後期に30℃以上に上がる場面が示されています。
そして重要なのが、有機質肥料のみを施用した区は夏作で生長が遅延・停止し販売規格に達せず、最終的に収穫できなかったという結果です。
この「夏だけ破綻する」現象は、土耕よりも水耕で強く出やすいです。理由は単純で、培養液は熱容量が大きく、一度上がった水温が下がりにくいからです。さらに、有機質肥料を分解して硝酸態窒素を供給する微生物(硝化菌など)の働きが高温で安定しない可能性が指摘されており、夏季は有機物が腐敗するリスクも上がります。
現場対策としては、冷却設備がない場合でも「上がりにくくする」施策は積めます。
「意外と効く」小技として、貯水槽を床に直置きするより、断熱材+隙間を作って放熱しやすくするだけでも日中ピークが少し下がることがあります(大規模なら当然、冷却・地中・地下水などの選択肢も検討領域です)。
ミツバの水耕栽培では、硝酸イオン濃度が高くなり得ることが課題として挙げられています。研究背景として、水耕栽培で生産したミツバの硝酸イオン濃度が約8,000ppmとなった報告がある、と示されています。
ここで“検索上位が触れがちだけど浅い”のは、「硝酸を下げる=肥料を薄くする」という短絡です。薄くすれば収量が落ちる可能性があり、商品としては本末転倒になりやすいからです。そこで独自視点として、現場のKPIを「収量」だけでなく「硝酸イオン濃度(品質)」も同時に置き、両立のための施肥設計として考えます。
実験では、施用する有機質肥料の割合が多いほど、収穫物の硝酸イオン濃度が低下しました。具体例として春作では、対照区が約5,900ppm、無機区が約4,400ppm、ハイブリッド50区が約3,000ppm、ハイブリッド100区が約2,500ppm、そして有機区が約300ppmという結果が示されています。
ただし、有機区は他区より生長が遅延し、草丈や地上部生体重が小さい傾向も出ています。
つまり現場で狙う現実解は、「有機100%」よりも「有機+化学の併用(ハイブリッド)」で、慣行と同等の生長を確保しつつ硝酸を下げる設計です。研究の要約でも、有機質肥料と化学肥料を併用すると慣行法と同等に生長し、作物体中の硝酸イオン濃度を慣行法に比べ低下させることができた、とされています。
さらに、有機質肥料のみを施用した水耕栽培では「培養液温度を約25℃以下で管理することが重要」と述べられており、温度が品質戦略の前提条件になります。
ここまでを踏まえ、農業従事者向けに運用へ落とすなら、次の考え方が実装しやすいです。
参考:ミツバ湛液型水耕栽培で「有機質肥料割合」と「硝酸イオン濃度」「夏の高温リスク」をデータで確認できる(春・夏・秋の比較、硝酸低減、25℃以下の重要性)
水耕栽培における施肥管理および栽培時期がミツバの収量および品質に及ぼす影響(PDF)
ミツバは発芽率が良くないため、多めに播いて間引きながら育てるのが基本です。生育適温は15~20℃とされ、冷涼を好み高温・乾燥が苦手なので、育苗段階から温度と乾燥を避ける設計が効きます。
水耕栽培の立ち上げでは、スポンジ播種は資材が少なく再現性が出やすく、作業も標準化しやすい方法です。
ただし、スポンジ播種は簡単に見えて、失敗パターンが決まっています。ポイントは「種を水没させない」「乾かさない」「根が伸びる前に栄養を濃くしない」の3つです。種は水中に沈めても発芽しないため、適度に湿った場所(スポンジの保水性+排水性)に置くのが適しています。
参考)水耕栽培でスポンジに種植えを行う方法は?
実務の手順としては、次の流れが事故を減らします(家庭向けでなく、圃場の作業標準として書きます)。
ミツバ水耕栽培は「設備が小さくても回る」反面、作業が属人化すると品質がブレます。種まき・育苗・定植の工程だけでも、温度帯・日々の補水・記録項目を決め、誰がやっても同じ結果に寄せると、収穫期の歩留まりが上がります。