マラソン殺虫剤(マラソン乳剤)は、作物名と適用害虫名ごとに「希釈倍数」が登録で定められており、まずはここを外さないことが最大のコツです。
登録表では、たとえば「かんきつ(なつみかんを除く)」のハダニ類・アブラムシ類は1000~3000倍、カイガラムシ類・ハマキムシ類は1000~2000倍のように、同じ作物でも害虫で倍率レンジが分かれています。
「1000~3000倍」のように幅がある場合、現場では“どこに寄せるか”で効きと薬害リスクの体感が変わりますが、判断材料は①発生量、②葉が茂って薬液が届きにくいか、③幼虫・若齢など弱いステージか、④散布水量を確保できるか、の4つが基本になります。
一方で、倍率を濃くする発想だけに寄ると、別の落とし穴も出ます。マラソン乳剤は「残効は短い」とされ、長く効かせたいから濃くする、という方向は理屈として成立しにくい場面が多いです。
参考)https://www.greenjapan.co.jp/marason_n.htm
残効が短いタイプほど、同じ薬を続けるより「発生初期に当て切る」「葉裏や新梢など狙う場所に届かせる」ほうが実務的に効きやすく、倍率の微調整より散布精度の差が出やすいのが現場のリアルです。
希釈倍数でよくある勘違いとして、「1000倍=1Lに何mL?」の計算ミスがあります。1Lを基準にするなら、1000倍は1mL、2000倍は0.5mL、3000倍は約0.33mLといった感覚になりますが、実際の調製は10L・100L単位が多いので、事前に作業者間で統一した早見(メモ)を用意しておくとヒューマンエラーを減らせます。
また、薬液は「使用量に合わせて調製し、使い切る」ことが注意事項として明記されているため、余らせない段取りが安全面でも重要です。
参考)日農マラソン乳剤
使用時期は、単純に「いつ散布するか」だけでなく、収穫前日数(収穫◯日前まで)と使用回数制限を同時に満たす必要があります。
登録表では、稲は収穫7日前まで、だいこんは収穫14日前まで、きゅうり・トマトなどは収穫前日までなど、作物ごとに明確な線引きがあります。
同じ「収穫前日まで」でも、連日収穫する作型では散布タイミングが実質的に限られるため、収穫の谷間や、収穫対象の区画を分けて処理するなど、作業計画と一体で考えるのが安全です。
使用回数は「本剤の使用回数」と「マラソンを含む農薬の総使用回数」が別に管理されている点が実務で混乱しやすいポイントです。
たとえば、だいこんは本剤6回以内かつマラソンを含む農薬の総使用回数も6回以内、だいずは3回以内など、作物で上限が異なります。
さらに果樹では「休眠期から芽出直後までの回数制限」のような但し書きが付くケースがあり、同じマラソンでも時期区分で縛りが変わることがあるため、圃場の散布履歴を“作物別・成分別”に残す運用が役立ちます。
意外と見落とされるのが、「多発生時は効果が劣ることがあるので、初発生をみたら直ちに散布」といった注意書きです。
これは、発生が進んだ段階で一発逆転を狙うより、初期に叩くほうが効果が出やすい性格を示唆しており、使用時期の設計(見回り頻度・トラップ・発生予察)に直結します。
マラソン殺虫剤の注意事項で、農家さんの現場に直結するのは「ミツバチ」と「水系」と「混用」です。
ミツバチについては、巣箱やその周辺にかからない、受粉促進でミツバチ等を放飼中の施設や果樹園では使用を避ける、養蜂が行われている地区では飛散防止に努めるなど、具体的な行動が明記されています。
この手の注意は“近隣の養蜂家との連絡”まで含めて書かれているため、散布日程を共有するルール(口頭ではなく、地区の連絡網や紙で)を持っておくと、事故の予防に効きます。
水産動植物については、河川・養殖池などに飛散、流入しないよう注意し、散布後の水管理にも注意すること、器具や容器の洗浄水を河川等に流さないことまで示されています。
ここで効いてくるのが“圃場の排水経路”で、普段は意識しない小さな排水溝が、雨のタイミングで一気に水系へつながることがあります。散布前に「どこへ水が抜けるか」を一度歩いて確認し、排水口の位置と風向きをセットで見るだけでもリスクを下げられます。
混用については、石灰硫黄合剤やボルドー液などアルカリ性薬剤との混用回避が注意事項にあり、同日に“ついで散布”しがちな圃場では特に要注意です。
また、適用作物群の新品種へ初めて使う場合は薬害の有無を事前に十分確認するよう記載されており、普及指導センター等の指導を受けるのが望ましいとも示されています。
新品種・新しい台木・高温期などは、登録上OKでも現場で薬害が出ることがあるので、「小面積で試す→数日観察→問題なければ面積を広げる」という段階運用が安全側の現実解です。
マラソン乳剤はIRACの作用機構分類で1Bに位置づけられ、有機リン系として整理されています。
作用機構としてはコリンエステラーゼ活性を阻害し殺虫作用を示す、と説明されており、作用点が明確な薬剤です。
この「作用が出る理屈がはっきりしている」薬剤ほど、効かなかったときの原因切り分けができます。具体的には、①害虫の種類の取り違え、②散布ムラ(葉裏や新梢に当たっていない)、③発生ステージのズレ(多発生で間に合っていない)、④時期・倍率の登録逸脱、の順で確認すると、次回の改善につながります。
残効が短いという特性はデメリットに見えますが、見方を変えると「収穫が近い作型」「必要なタイミングだけ効けばよい局面」で扱いやすい面があります。
たとえば、収穫前日まで使用できる作物が登録表にあることは、タイミングがシビアな野菜で“最後の一手”として組み込みやすい条件になります(もちろん回数制限・適用害虫の一致が前提です)。
また、散布の狙いを「増殖の起点を潰す(初発生)」に置くと、短い残効でも被害を抑えやすい流れが作れます。
上位記事は希釈倍数や適用表の解説が中心になりやすい一方で、実際にトラブルを減らすのは散布前の段取りです。
そこで、マラソン殺虫剤に限らず“マラソン乳剤の注意事項に沿って事故を防ぐ”という目的で、現場で使えるチェックリストを置いておきます。
✅散布前チェック(3分で確認)
・🐝 近隣で養蜂が行われているか、関係機関や地域の農業団体等に確認したか。
・🐝 受粉目的でミツバチ等を放飼中の施設・果樹園ではないか(該当なら使用を避ける)。
・🌊 河川・水路・養殖池への飛散や流入のルートがないか(排水口、畦の切れ目、暗渠の出口)。
・🌬️ 風向きと風速は適切か(飛散して巣箱や水系に届く条件なら延期)。
・🧴 薬液は使い切れる量で調製する見込みか(余りの処理に困る量は作らない)。
・🧼 散布器具と容器の洗浄水を河川等へ流さない手順になっているか。
・🧪 アルカリ性薬剤(石灰硫黄合剤、ボルドー液など)との混用予定はないか。
✅散布中の工夫(効きやすさを上げる)
・🍃 葉裏や新梢など「害虫がいる場所」に当てる(倍率より先に“当て方”を疑う)。
・📏 登録表の散布液量(L/10a)のレンジを意識して、薬液が届く水量を確保する。
・🕒 初発生を見たら直ちに散布、という注意書きの意味を“見回り頻度”に落とし込む。
✅散布後チェック(事故を残さない)
・🌊 散布後の水管理に注意する(流入・流出が起きない管理になっているか)。
・🧴 余った薬液が出ていないか、出た場合に不適切処理をしない体制か(そもそも作らない)。
・📝 本剤の回数と、マラソンを含む農薬の総使用回数を作物ごとに記録する。
有用:公的な登録表(希釈倍数・使用時期・回数)を確認する部分の参考リンク
農薬登録情報提供システム(日農マラソン乳剤)