庭の雑草対策や法面の保護として、グランドカバープランツを導入する農家やガーデナーが増えています。その中でも特によく耳にするのが「イワダレソウ」と「ヒメイワダレソウ」です。名前は非常に似ていますが、この二つは植物学的な特性も、環境に与える影響も、そして法的な扱いにおける注意点も全く異なります。
単なる「品種違い」と軽く考えて植えてしまうと、後から取り返しのつかない繁殖に悩まされたり、知らず知らずのうちに地域の生態系を乱してしまったりするリスクがあります。ここでは、それぞれの植物としての明確な違いから、導入する際のメリット・デメリット、さらにはあまり知られていない土壌化学的な作用までを深掘りして解説します。
まず、この二つの植物を見分けるための物理的な特徴について詳しく見ていきましょう。園芸店やホームセンターでは混同されて販売されているケースも稀にありますが、以下のポイントを押さえておけば確実に見分けることができます。
原産地と分類の違い
最も根本的な違いは、その「生まれ」にあります。
草丈と茎の伸び方
グランドカバーとして利用する際に、最も重要となるのが草丈(高さ)と茎の性質です。
| 特徴 | イワダレソウ(在来種) | ヒメイワダレソウ(外来種) |
|---|---|---|
| 草丈 | 高い (15cm〜20cm) | 低い (5cm〜10cm) |
| 茎の太さ | 比較的太く、しっかりしている | 細く、緻密に分岐する |
| 被覆密度 | やや粗い(隙間ができやすい) | 非常に高い(マット状になる) |
| 葉の形 | 丸みを帯びた倒卵形 | 小さく、ギザギザが鋭い |
イワダレソウは在来種特有のおおらかさがあり、茎が太く、立ち上がるように伸びる傾向があります。そのため、完全に地面を隠すには時間がかかり、踏みつけられた時の復元力もヒメイワダレソウに比べるとやや劣ります。
一方、ヒメイワダレソウはその名の通り「姫(小さい)」サイズですが、茎が非常に細く、地面を這うように緻密に広がります。この性質が、雑草を物理的に遮断する「マルチング効果」を生み出す要因となっています。
花の特徴と開花時期
花にも決定的な違いがあります。両者ともランタナを小さくしたような可愛らしい花を咲かせますが、よく観察すると構造が異なります。
この「花密度の高さ」がヒメイワダレソウの人気の一つですが、それは同時に大量の種子を生産する可能性を示唆しており、管理上の注意点にもつながります。
以下のリンクは、実際にイワダレソウとヒメイワダレソウを比較したブログ記事です。写真付きで違いが分かりやすく解説されています。
イワダレソウとヒメイワダレソウの比較写真と詳細な特徴(野草風薫)
農業従事者や広い庭を持つ人々が、なぜ在来種のイワダレソウではなく、あえて外来種のヒメイワダレソウ(またはその改良種)を選ぶのでしょうか。その最大の理由は、圧倒的な「繁殖力」と「耐踏圧性」にあります。
芝生の10倍とも言われる驚異の伸長速度
ヒメイワダレソウの成長速度は凄まじく、条件が良ければ1株で1シーズンに1平方メートル以上を覆い尽くすことも珍しくありません。この速度は一般的な芝生(高麗芝など)の約10倍から20倍とも言われています。
強力な耐踏圧性と「踏まれるほど強くなる」性質
多くの植物は、人や車に踏まれると茎が折れて枯れてしまいますが、ヒメイワダレソウは「耐踏圧性」が極めて高い植物です。
管理の手間:刈り込みの必要性
「植えっぱなしでOK」という宣伝文句を見かけますが、これは半分正解で半分間違いです。確かに肥料や水やりはほとんど不要ですが、その強すぎる繁殖力を制御するための「刈り込み」は必須です。
以下のリンクでは、実際にヒメイワダレソウを植えた際の管理の大変さや、具体的な成長の様子が記録されています。
ヒメイワダレソウ(リッピア)の管理記録とグランドカバーとしての実力
ヒメイワダレソウを導入する前に、必ず知っておかなければならないのが「法的・環境的なリスク」です。単に「よく増える便利な植物」として扱うには、あまりにも影響力が大きすぎるため、国(環境省)も注意を喚起しています。
生態系被害防止外来種リストへの指定
ヒメイワダレソウ(Lippia canescens)は、環境省及び農林水産省が作成した「生態系被害防止外来種リスト」において、「重点対策外来種」に類する扱いを受けています(地域や自治体によって呼び方は異なりますが、警戒すべき種であることは共通しています)。
栽培者が守るべきモラルとルール
このリストに掲載されている植物を扱う場合、栽培者(農家・所有者)には以下の責任が伴います。
特に注意すべきは「種(タネ)」
ヒメイワダレソウの最大のリスクは「種」ができることです。鳥が実を食べたり、雨で流されたりして、意図しない場所(遠く離れた自然保護区など)で発芽する可能性があります。これが、後述する改良品種「クラピア」との決定的な違いとなります。
以下の環境省の公式サイトでは、生態系被害防止外来種リストの詳細や、外来種対策の考え方が解説されています。
ヒメイワダレソウの「雑草抑制力」は魅力的ですが、「環境リスク」は怖い。このジレンマを解消するために開発されたのが、改良品種である「クラピア」です。
クラピア:種を作らない不稔性の改良種
クラピアは、日本の在来種イワダレソウをベースに、宇都宮大学の故・倉持仁志先生が長年の研究の末に開発した品種です。最大の特徴は、「種を全く作らない(不稔性)」という点です。
コストと目的による使い分け
では、すべてクラピアにすれば良いかというと、コスト面での課題があります。
| 項目 | ヒメイワダレソウ(リッピア) | クラピア(K7, K5など) |
|---|---|---|
| 価格 | 安価(1ポット 100円〜200円) | 高価(1ポット 500円〜600円) |
| 入手方法 | ホームセンター、ネット通販 | 認定特約店のみ(種苗法登録品種) |
| 種子の有無 | あり(こぼれ種で増える) | なし(完全不稔性) |
| 環境リスク | 高い(逸出の恐れあり) | 極めて低い |
| おすすめの場所 | 完全に隔離された庭、鉢植え | 農地、法面、公園、広い庭 |
種苗法(しゅびょうほう)による制限
クラピアは種苗法で登録された品種であり、「株分け」や「挿し木」で勝手に増やして譲渡・販売することは法律で禁止されています(自家増殖も制限される場合があります)。一方、ヒメイワダレソウにはそのような法的な増殖制限はありません(ただし、前述の通り環境的配慮は必要です)。
「安く済ませたい」という理由でヒメイワダレソウを選ぶ場合は、絶対に外に漏らさない管理体制が必要です。一方、「環境への配慮」や「法面の土留め」を重視するなら、初期投資は高くてもクラピアを選ぶのが、長期的には賢明な選択と言えます。
以下の記事では、種苗法に関する注意点や、ヒメイワダレソウが環境省のリストに含まれている背景について触れられています。
最後に、検索上位の記事ではあまり深く触れられていない、しかし農業従事者にとっては極めて重要な生理現象について解説します。それは、イワダレソウ属が持つ「アレロパシー(多感作用)」です。
天然の除草剤「アレロパシー」とは
アレロパシーとは、植物が根や葉から特定の化学物質(アレロケミカル)を放出し、周囲の他の植物の成長を阻害したり、微生物の活動に影響を与えたりする現象のことです。セイタカアワダチソウやクルミの木が有名ですが、実はイワダレソウやヒメイワダレソウも強いアレロパシー活性を持っています。
知られざるリスク:自家中毒と土壌の「忌地(いやち)」化
この強力な作用は、諸刃の剣でもあります。
対策としての土壌更新
この問題を回避するためには、数年に一度、エアレーション(穴あけ)を行って土壌中のガス交換を促したり、枯れ込んだ部分は一度剥がして新しい土を入れたりするなどのメンテナンスが有効です。
「雑草が生えない魔法の植物」として導入されがちですが、その足元の土壌の中では、激しい化学的な攻防が行われていることを理解しておく必要があります。将来的にその場所を畑に戻したり、別の植物を植えたりする計画がある場合は、この「土壌への残留効果」も考慮に入れておくべきでしょう。
以下のアレロパシーに関する詳細な解説では、植物が放出する化学物質のメカニズムや、農業における活用とリスクについて学術的な視点で書かれています。

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