農業経営において、最も頭を悩ませる課題の一つが病害防除です。特にイチゴ栽培における「炭疽病(たんそびょう)」と「萎黄病(いおうびょう)」は、発生すれば苗の大量廃棄に直結し、翌シーズンの収量を決定的に損なう深刻なリスク要因です。ここで紹介する「ベリーポップすず(品種名:MYAGMIE-1)」の最大の特徴は、これら二つの難防除病害に対して「複合抵抗性」を持っている点にあります。
従来の主要品種の多くは、どちらか一方には強くても、両方に強い抵抗性を持つものは稀でした。例えば、「かおり野」は炭疽病には強いものの、他の病害への警戒が必要な場合があります。しかし、ベリーポップすずは、三重県と三好アグリテック株式会社の共同育成により、炭疽病および萎黄病の両方に対して「強い抵抗性」または「抵抗性」を有することが確認されています。これにより、高温多湿な日本の夏場における育苗管理の難易度が劇的に下がります。
具体的に、この複合抵抗性が農家の現場にどのような利益をもたらすかを深掘りします。
ただし、抵抗性があるからといって「絶対に感染しない」わけではありません。菌密度が高まれば発病する可能性は残るため、基本的な耕種的防除(罹病残渣の処分や排水対策)は継続する必要がありますが、万が一感染が発生した場合でも、蔓延速度が遅く、被害を最小限に食い止めやすいという現場の声も聞かれます。
以下のリンクでは、開発元である三好アグリテック株式会社が公表している、各品種の抵抗性評価や特徴が詳しく解説されています。
ベリーポップ すず - 三好アグリテック株式会社(品種の詳細スペックや抵抗性データが確認できます)
参考)ベリーポップ すず
新品種を導入する際、栽培のしやすさと並んで重要なのが「果実品質(食味・日持ち)」です。種子繁殖型イチゴのパイオニアである「よつぼし」と比較することで、ベリーポップすずの食味特性がより鮮明になります。市場評価を左右する「味」と「硬さ」について、具体的なデータと感覚的な特徴を解説します。
まず、味の傾向ですが、ベリーポップすずは「甘味が強く、酸味が少ない」という特徴があります。
これに対し、「よつぼし」は甘味・酸味・風味のバランスが取れた「四つ星」級の美味しさが売りであり、適度な酸味が全体の味を引き締めています。対照的に、ベリーポップすずは「甘さへの特化」を感じさせる食味設計となっており、濃厚な甘みを好む消費者にダイレクトに訴求できます。
次に、流通における最大の武器となる「硬さ(果実硬度)」についてです。
ベリーポップすずの果実は、「よつぼし」よりも硬く、しっかりとした肉質を持っています。
以下のリンクでは、果実の断面や具体的な糖度などの特徴が写真付きで紹介されています。
ベリーポップ すず/ MYAGMIE-1 < いちご:旬の果物百科(果肉の赤さや断面の様子、食味の詳細レビューがあります)
参考)ベリーポップ すず/ MYAGMIE-1 < いちご:旬の果…
「ベリーポップすず」は、F1種子(一代交配種)から育てられる「種子繁殖型イチゴ」です。これは、従来のランナー(栄養繁殖)で苗を増やす方式とは根本的に異なる栽培体系を可能にし、農家の労働環境を一変させるポテンシャルを秘めています。特に、イチゴ栽培で最も過酷とされる育苗期間の労働負担軽減について詳述します。
従来の栄養繁殖では、収穫終了後の春から夏にかけて親株を管理し、ランナーを伸ばして子苗、孫苗を確保する必要がありました。この期間は高温多湿であり、炭疽病などの病害リスクが最も高まる時期です。また、親株の管理スペースや潅水の手間、ランナー整理などの作業は膨大で、休む間もないのが実情でした。
一方、種子繁殖型であるベリーポップすずには以下の圧倒的なメリットがあります。
さらに、ミヨシグループなどの種苗メーカーから「セル苗」の状態で供給を受ける体制が整いつつあります。農家は、定植時期に合わせて苗を注文するだけで済み、育苗という高リスクかつ高労働な工程をアウトソーシング(外部化)できるのです。これは、規模拡大を目指す法人農家や、新規就農者にとっても参入障壁を下げる大きな要因となります。
以下の資料は、三重県が公開している技術資料で、種子繁殖型品種の特性や抵抗性についての公的な試験結果が含まれています。
炭疽病および萎黄病に抵抗性をもつイチゴ種子繁殖型品種「MYAGMIE-1」(PDF)(三重県による公的な品種特性データと抵抗性試験の結果)
参考)https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001037012.pdf
農家にとって最も気になるのは、やはり「どれだけ獲れるのか(収量)」と「いつから獲れるのか(収穫時期)」でしょう。ベリーポップすずは、単に病気に強いだけでなく、興行的なパフォーマンスにおいても既存の主力品種に引けを取らない、あるいは凌駕するデータが出ています。
まず「収穫時期」についてです。
ベリーポップすずは「極早生(ごくわせ)」に近い早生性を持ち、花芽分化が早いため、促成栽培において年内収穫(11月下旬〜12月)が可能です。
次に「収量性」についてです。
草勢(株の勢い)が非常に強く、連続して花を咲かせるスタミナがあります。
注意点としては、草勢が強すぎるがゆえに、窒素過多になると「チップバーン(葉先枯れ)」や「奇形果」が発生するリスクがある点です。しかし、これは施肥設計を適切に管理(やや控えめにする等)することでコントロール可能です。また、電照栽培(長日処理)への反応も良いため、厳寒期の草勢維持にはLED補光や電照が有効です。
以下のリンクは、種子繁殖型イチゴの栽培技術に関する公設試の研究成果です。セル苗の直接定植技術など、収量確保のための具体的な技術指標が示されています。
イチゴ種子繁殖型品種のセル苗本圃直接定植技術(宮城県)(種子繁殖型品種の具体的な栽培カレンダーや収量データが参照できます)
参考)https://www.pref.miyagi.jp/documents/52206/r05gijutu04.pdf
最後に、ベリーポップすずの「硬さ」という物理的特性を、どのように経営戦略に組み込むかという独自の視点で解説します。多くの農家ブログや種苗会社のパンフレットでは「輸送に強い」という記述にとどまりがちですが、この「硬さ」は直売所経営やeコマース(産地直送通販)において、利益率を直接左右するパラメーターになります。
昨今の農業経営では、市場出荷だけでなく、メルカリShopsやポケットマルシェ、食べチョクといった「BtoCプラットフォーム」を活用する農家が急増しています。ここで発生する最大のリスクが「配送中の事故」です。完熟イチゴは非常にデリケートで、到着時に果汁漏れや潰れがあると、即座に返金対応や代替品発送を迫られます。これは送料や箱代が無駄になるだけでなく、レビュー評価の低下を招き、ブランド毀損につながります。
ベリーポップすずは、果皮が硬く弾力があるため、この「配送リスク」に対する耐性が極めて高い品種です。
また、硬い果肉は「冷凍イチゴ(フローズンベリー)」や「ドライフルーツ」への加工適性も高いことを示唆しています。解凍後のドリップが出にくい、乾燥しても形が崩れにくいといった特性は、B級品や規格外品を6次産業化商品として高単価で販売する際の強みにもなり得ます。
このように、「硬さ」という単純な物性を、「通販でのクレーム対策」や「廃棄ロス削減」、「完熟ブランディング」という経営課題の解決策として捉え直すことで、ベリーポップすずは単なる新品種以上の価値を農家にもたらす戦略的ツールとなります。
種子繫殖型イチゴの開発と事業展開 - ミヨシグループ(開発背景や今後の種子繁殖型イチゴの展開ビジョンについて)
参考)種子繫殖型イチゴの開発と事業展開