多くの農業従事者やユーザーが気になっている「食べチョク社長」こと秋元里奈氏の現在の年収ですが、結論から申し上げますと、公式には公開されていません。しかし、過去のインタビュー発言や、スタートアップ企業の資本政策、現在の会社の規模感から、ある程度の数値を論理的に推測することは可能です。
まず、確実なデータとして残っているのは、創業初期の数字です。秋元社長は過去にテレビ番組『セブンルール』に出演した際、創業1年目の年収は100万円程度、3年目(2019年頃)でようやく360万円になったと発言しています。これは、当時勤めていたDeNA時代の年収(推定600万円〜800万円)と比較すると、半分以下の水準です。多くの起業家と同様に、創業期は役員報酬を極限まで削り、その分をシステム開発や農家さんへのサポート費用に回していたことがわかります。
では、サービスが急拡大し、認知度が飛躍的に高まった2025年現在はどうでしょうか。一般的に、シリーズC(数十億円規模の資金調達を行う段階)クラスのスタートアップ企業の社長の年収相場は、1,000万円〜1,500万円程度と言われています。しかし、後述するように運営会社の株式会社ビビッドガーデンは「利益よりも成長」を優先する赤字先行型の投資を行っているため、秋元社長自身の現金給与(キャッシュ)はそこまで高額に設定されていない可能性が高いです。おそらく、600万円〜1,200万円のレンジに収まっているのではないかと推測されます。
一方で、「資産」という観点で見ると話は別です。秋元社長は創業社長であり、会社の株式(自社株)を相当数保有していると考えられます。将来的に株式会社ビビッドガーデンがIPO(新規上場)を果たした場合、保有している株式の価値は数億円〜数十億円規模になる可能性があります。つまり、現在の「年収(フロー収入)」は会社員時代と同等かそれ以下かもしれませんが、将来的な「資産(ストック収入)」としての期待値は非常に高い状態にあると言えます。これは、私たち農業経営者が、毎年の手取り収入は変動しても、育て上げた農地やブランド、設備という「資産」を持っていることと構造が似ています。
株式会社ビビッドガーデン コーポレートサイト
企業情報ページでは、最新の資金調達情報や事業概要が確認でき、会社の規模感を把握するのに役立ちます。
「食べチョク」の運営会社である株式会社ビビッドガーデンの経営状態について、不安を感じている登録農家さんもいらっしゃるかもしれません。実際、インターネット上の検索ワードには「赤字」や「決算」といった言葉が並びます。2022年10月期の決算公告によると、当期純損失は約6億6500万円と、前の期に比べて赤字幅が拡大しています。
しかし、この赤字を「経営が危ない」と捉えるのは早計です。これはスタートアップ企業特有の「Jカーブ」と呼ばれる成長戦略の一環だからです。
具体的には、以下のようなポジティブな理由による赤字と言えます。
つまり、稼いだ利益を内部留保として貯め込むのではなく、「農家さんがより売りやすくなるための仕組み」に全額以上を再投資している状態です。評判に関しても、一部で「手数料が高い(20%)」という声がありますが、この手数料は上記のような集客・システム維持に使われています。自社でECサイトを構築し、広告費をかけて集客する場合のコスト(CPA)と比較すれば、決して高すぎる金額ではないという見方もできます。
秋元里奈氏インタビュー記事(クライス&カンパニー)
こちらでは、事業成長の裏側にある組織作りの苦労や、人材への投資意欲について語られており、赤字の理由が「人への投資」であることが読み取れます。
以下の表は、一般的な企業の赤字と、スタートアップの戦略的赤字の違いをまとめたものです。
| 項目 | 一般的な経営不振による赤字 | 食べチョク(スタートアップ)の赤字 |
|---|---|---|
| 主な原因 | 売上が減少し、固定費を賄えない | 売上は急増中だが、それ以上に投資している |
| 資金繰り | 銀行融資が受けられず苦しい | ベンチャーキャピタルから数億円単位で調達できている |
| 目的 | 特になし(結果的な赤字) | 市場シェアを独占し、将来の圧倒的利益を目指す |
| 農家への影響 | サービス終了のリスク | ユーザー数が増え、将来的にさらに売れやすくなる |
秋元里奈社長の強みは、その異色の経歴にあります。神奈川県相模原市の農家に生まれながら、慶應義塾大学理工学部を卒業後、IT大手のDeNA(ディー・エヌ・エー)に入社しました。DeNAでは、Webサービスのディレクターや営業チームのリーダー、新規事業の立ち上げを経験しています。
この「農家の娘」としての原体験と、「ITメガベンチャー」で培ったWebマーケティングやUI/UX(使い勝手)への知見が、現在の食べチョクのシステムに色濃く反映されています。例えば、生産者ページのデザインが直感的で更新しやすい点や、LINEを使った通知システムなどは、IT企業出身者ならではの実装スピードです。実家の廃業した農地を見て「農業を稼げる産業にしたい」と一念発起し、安定したDeNAのキャリアを捨てて起業したストーリーは、多くのメディアで取り上げられ、食べチョク自体のブランドストーリーとして消費者の共感を呼んでいます。
また、検索ワードで頻出する「結婚」についてですが、現時点では独身であると公言されています。インタビューやSNSの発信を見る限り、現在は「365日食べチョクのことしか考えていない」というほど仕事に没頭されているようです。
有名なエピソードとして、「365日、食べチョクTシャツを着ている」というものがあります。これは単なるパフォーマンスではありません。
このように、プライベートな時間やファッションさえも事業成長のリソースに充てている姿勢が、多くの投資家や生産者からの信頼(評判)に繋がっています。
秋元里奈 note(公式ブログ)
社長個人のnoteでは、経営に対する考え方や日々の活動が綴られており、Tシャツのエピソードや仕事への向き合い方がより深く理解できます。
ここまでは社長や会社について解説してきましたが、最後に、私たち生産者がこのプラットフォームを使って自身の年収をどう上げるか、という実益的な視点で解説します。検索上位の記事にはあまり書かれていない、現場視点での「食べチョク攻略法」です。
食べチョクは「生産者の顔が見える」ことが最大の特徴ですが、単に「美味しい野菜」を出品するだけでは埋もれてしまいます。秋元社長がDeNAで培ったマーケティング手法を、私たちも応用する必要があります。
秋元社長が「廃業した実家の畑」というストーリーで共感を得たように、商品ページでは「なぜこの品種を作ったのか」「どんな苦労があったか」という物語を記載してください。スペック(糖度や大きさ)よりも、「あなたから買いたい」と思わせる情緒的な価値が、高単価での販売を可能にします。
一般消費者向け(B2C)だけでなく、飲食店向けのマッチングサービス「食べチョクPro」への登録も重要です。一度契約が決まれば、定期的な大口注文が見込めます。これは経営の安定化に直結し、年収のベースアップに寄与します。
食べチョクの機能にある「投稿」や「お礼メッセージ」を徹底活用しましょう。新規顧客を捕まえるコストは、既存顧客に再購入してもらうコストの5倍と言われます(1:5の法則)。一度買ってくれたお客様に、手書きの手紙や丁寧な返信をすることでファン化し、広告費をかけずに売上を作り続ける基盤を作りましょう。
単品だけでなく、「朝食セット」「BBQセット」などの利用シーン提案型の商品を作ります。また、価格設定を3段階(例:3,000円、5,000円、10,000円)用意すると、真ん中の価格帯が最も選ばれやすくなる心理効果(極端の回避性)を利用して、客単価をコントロールすることが可能です。
食べチョクというプラットフォームは、社長自身が高い熱量を持って運営しており、今後も成長が見込めます。その波にうまく乗り、ただ手数料を払うだけでなく、プラットフォームの機能を使い倒すことこそが、農家としての年収アップへの近道となるでしょう。