竹チップを自作する際、最も重要なのが「粉砕機(チッパー・シュレッダー)」の選定と正しい使用方法です。竹は非常に繊維が強く、硬度もあるため、一般的な家庭用の枝シュレッダーでは歯が立たないことが多く、故障の原因となります。竹専用、あるいは竹に対応した強力な粉砕機を選ぶことが、成功への第一歩となります。
粉砕機の種類と特徴
粉砕機には主に「カッター(ナイフ)式」と「ギア式」、そして「ハンマー式」があります。それぞれの特徴を理解し、目的に合わせて選ぶ必要があります。
| 種類 | 特徴 | 適した用途 |
|---|---|---|
| カッター(ナイフ)式 | 高速回転する刃で切削する。細かく均一なチップが作れるが、刃のメンテナンスが頻繁に必要。 | 発酵肥料、飼料作り、マルチング |
| ギア式 | ギアで押しつぶしながら砕く。音は静かだが、仕上がりは粗くなる傾向がある。繊維が繋がりやすい。 | 荒いマルチング、焚き付け燃料 |
| ハンマー式 | 叩いて砕く方式。石などの異物に強く、耐久性が高い。粉状(パウダー)にしやすい機種も多い。 | 土壌改良材、急速発酵用 |
竹チップ作りの手順と注意点
伐採した直後の「生竹」は水分を多く含んでいます。粉砕機によっては生竹に対応しているものもありますが、水分が多いと機械内部で詰まりやすくなります。効率よくチップにするには、伐採後、葉を落として枝を払い、一定期間(2週間〜1ヶ月程度)乾燥させて水分を抜くのが理想的です。ただし、乳酸発酵を狙う場合は、糖分が多い冬場の生竹をすぐに粉砕する方が良い場合もあります。
粉砕機に竹を投入する際は、必ず保護メガネと手袋を着用してください。竹は跳ね返りが強く、破片が飛んでくる危険性があります。また、節の部分は硬いため、機械の負荷を確認しながらゆっくり投入するのがコツです。太すぎる竹は、あらかじめナタで縦に割っておくと機械への負担が減り、スムーズに粉砕できます。
竹を処理すると、機械の刃(ブレード)は予想以上に早く摩耗します。切れ味が悪くなると、粉砕能力が落ちるだけでなく、燃費の悪化やエンジンの焼き付きにつながります。使用後は必ず刃のチェックを行い、必要であれば研磨や交換を行うことが、長く機械を使う秘訣です。
竹チップ作りは、単に竹を砕くだけではなく、その後の用途(肥料にするのか、マルチにするのか)を見据えて、粒度を調整できる機械を選ぶことが重要です。
リンク先には、粉砕機の種類ごとの詳細な選び方やメンテナンス方法について、専門的な視点から解説されています。
粉砕機とは?種類や選び方から破砕機との違い、活用方法まで
参考)粉砕機とは?種類や選び方から破砕機との違い、活用方法までを紹…
竹チップをそのまま畑に撒く場合と、土壌改良材としてすき込む場合では、期待できる効果と注意点が大きく異なります。特に注意が必要なのが「C/N比(炭素率)」と「窒素飢餓」の問題です。これらを理解せずに大量の竹チップを畑に入れると、かえって作物の生育を阻害してしまう可能性があります。
マルチングとしての活用(土の表面に敷く)
竹チップを土の表面に敷き詰める「マルチング」は、最も手軽で効果的な活用法の一つです。
5〜10cm程度の厚さに敷き詰めることで、日光を遮断し、雑草の発芽と成長を強力に抑えます。ビニールマルチと違い、数年かけて分解され土に還るため、撤去の手間がありません。
土壌の水分蒸発を防ぎ、夏場の乾燥から作物を守ります。また、冬場は地温の急激な低下を防ぐ断熱材の役割も果たします。
雨天時の泥はねを防ぐことで、土壌由来の病原菌が作物の葉に付着するのを防ぎ、病気のリスクを低減します。
土壌改良材としての活用(土に混ぜる)
竹チップは多孔質(無数の小さな穴が空いている構造)であり、土に混ぜることで通気性と排水性を劇的に改善します。
竹チップの隙間が微生物の住処となり、土壌微生物が活性化します。これにより、土の粒子が団子状に固まる「団粒構造」が形成され、ふかふかの土になります。
竹は炭素(C)が非常に多く、窒素(N)が少ない素材です。C/N比は200以上とも言われます(堆肥の理想は20〜30)。生の竹チップをそのまま土に混ぜると、土中の微生物が竹を分解するために、土の中にある窒素を大量に消費してしまいます。これが「窒素飢餓」です。
これを防ぐためには、生の竹チップをすき込む際に、石灰窒素や鶏糞、硫安などの窒素肥料を一緒に添加するか、次項で解説するように十分に発酵させてから使用する必要があります。
注意すべき害虫対策
竹チップはカブトムシやコガネムシの幼虫にとって格好の餌場となることがあります。これらの幼虫は作物の根を食害する可能性があるため、果樹の根元などに厚く敷く場合は注意が必要です。定期的に様子を確認するか、木酢液などを散布して忌避対策を行うと良いでしょう。
リンク先には、竹チップによるマルチング効果や、C/N比が高い資材を使用する際の窒素飢餓のリスクと対策について、研究データに基づいた詳細が記載されています。
農地における生竹チップマルチングの効果と窒素飢餓への注意点
参考)https://soil.en.a.u-tokyo.ac.jp/jsidre/search/PDFs/23/8-11.pdf
竹チップを良質な肥料(竹堆肥)に変えるには、適切な発酵プロセスが不可欠です。竹自体には肥料成分(窒素・リン酸・カリ)はあまり含まれていませんが、発酵させることで土壌微生物を爆発的に増やし、植物が栄養を吸収しやすい環境を作る「土壌の活力剤」としての機能が高まります。
竹チップ堆肥の自作レシピ
失敗しない竹チップ堆肥の基本的な作り方は以下の通りです。
作成手順
ブルーシートの上で竹チップと米ぬかをまんべんなく混ぜ合わせます。米ぬかが竹チップの表面をコーティングすることで、微生物が活動しやすくなります。
水を少しずつ加えながら混ぜます。最適な水分量は、「手で強く握ると団子状に固まり、指の隙間から水がじわりと滲む程度(水滴は落ちない)」です。これが水分60%の目安です。水分が少なすぎると発酵が進まず、多すぎると腐敗します。
混ぜた材料を山積みにし、上からブルーシートを被せます。空気を含ませるために、あまり強く踏み固めないようにします。冬場は発酵熱が逃げないように、毛布や断熱材で覆うのも効果的です。
数日〜1週間ほどで微生物の活動により内部の温度が60℃以上に上昇します。この高温により、雑草の種や病原菌が死滅します。温度が上がったら、酸素を供給するために山を崩して混ぜ直す「切り返し」を行います。これを1週間〜10日おきに繰り返します。
1ヶ月〜3ヶ月ほど繰り返し、温度が上がらなくなり、竹の形状が崩れて黒っぽく変色し、森の土のような良い香りがしてくれば完成です。白い菌糸が回っているのは良質な発酵の証拠です。
発酵のポイント
竹の分解は時間がかかります。完全に土のようになるまで待つ必要はありません。「半熟」の状態でも、発酵熱が落ち着いていれば土壌改良材として使用できます。ただし、未熟な状態で苗の直下に施用すると、ガス障害や再発酵による熱害が出る可能性があるため、作付けの2週間以上前に土に混ぜておくのが安全です。
リンク先には、竹チップの発酵過程における温度変化や、米ぬかを使った具体的な発酵促進の方法について詳しく解説されています。
SDGS 竹を粉砕・発酵させた堆肥の効能と発酵の手順
参考)SDGS 竹を粉砕・発酵させた堆肥の効能とその魅力 &#82…
竹チップを導入する際にネックになるのが、粉砕機の導入コストです。しかし、長い目で見れば購入肥料や資材のコストカットにつながり、さらには自治体の補助金を活用することで初期投資を抑えることが可能です。
コストシミュレーション
肥料を購入する場合、年間数万円の出費が継続的に発生しますが、自作すれば材料費はほぼ無料(米ぬかはコイン精米所で無料入手可能な場合も多い)です。放置竹林の整備費用を業者に委託する場合のコスト(数十万円〜)を考えれば、自分で機械を購入して処理する方が経済的な場合も多くあります。
補助金・助成金の活用
日本全国の多くの自治体では、「竹林整備」「里山保全」「バイオマス利用」などの名目で、粉砕機の購入費に対する補助金制度を設けています。
購入費用の1/2〜2/3程度、上限10万〜50万円程度が一般的です。
「市内の竹林整備に使用すること」「近隣住民と共同利用すること」「農業従事者であること」など、自治体によって条件が異なります。
購入ではなく、自治体やシルバー人材センターが粉砕機を1日数千円で貸し出しているケースも増えています。まずはレンタルで機械の性能や作業の大変さを体験してから、購入を検討するのも賢い方法です。
必ずお住まいの自治体の「農林課」や「環境課」のホームページを確認するか、窓口で「竹粉砕機の購入補助金はありますか?」と問い合わせてみましょう。
リンク先には、粉砕機の導入におけるコストパフォーマンスや、機種による性能の違いと価格帯についての情報が掲載されています。
カルイの粉砕機は竹も割れる粉砕効率|農機具店による徹底解説
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竹チップの活用法として、近年特に注目されているのが「乳酸発酵」を利用したアプローチです。これは通常の堆肥化(好気性発酵)とは異なり、空気を遮断して行う「嫌気性発酵」であり、農業だけでなく畜産や環境浄化の分野でも応用が進んでいます。
竹サイレージ(乳酸発酵竹パウダー)の作り方
この方法は、漬物を作る原理と同じです。竹にはもともと自然界の乳酸菌が付着しており、糖分も含まれているため、条件を整えるだけで良質な乳酸発酵が起きます。
通常のチップよりも細かい「パウダー状」にするのが理想です。表面積が増え、発酵が進みやすくなります。
水分を約40〜50%に調整し(生竹ならそのままで良い場合も)、厚手のビニール袋やフレコンバッグに詰め込みます。この時、空気を徹底的に抜くことが最大のポイントです。空気が残っていると雑菌が繁殖し、腐敗します。
冷暗所で1ヶ月〜3ヶ月程度保管します。開封した時に、ヨーグルトのような甘酸っぱい香りがすれば成功です。
独自視点:農業以外への多目的な活用
この「乳酸発酵竹パウダー」は、単なる肥料以上の効果を持っています。
牛や豚の飼料に数%混ぜることで、腸内環境が整い、健康増進や肉質の向上が報告されています。竹の繊維質が整腸作用を促し、排泄物の臭いが軽減される効果も確認されています。
乳酸発酵した竹パウダーは、アンモニア臭などの悪臭を中和・分解する能力に優れています。生ゴミ処理機に入れたり、仮設トイレの消臭剤として利用したり、家畜舎の敷料(ベッド)として使うことで、劇的に環境を改善できます。
畑にすき込むことで、土中の病原菌(フザリウム菌など)の増殖を抑える拮抗作用が期待されています。化学農薬を使わない土壌消毒の一環として、有機農家の間で密かに注目されている技術です。
竹を単に「燃やす・捨てる」厄介者から、「乳酸菌の塊」として捉え直すことで、農業の枠を超えた資源循環が可能になります。特に冬場(12月〜2月)の竹は糖分が最も高く、この時期に伐採・粉砕したものが最も発酵に適しています。
リンク先には、竹チップの乳酸発酵製品の開発事例や、それが畜産や農業にどのような高付加価値をもたらすかについての国の研究成果が示されています。
竹の新型竹粉機の研究開発成果を利用した六次産業化の促進
参考)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/pdf/tsiryo1.pdf