収穫後の貯蔵中にサツマイモの塊根が傷つくだけで、2~3割が腐敗廃棄になる。
サツマイモ黒斑病は、糸状菌(カビ)の一種であるセラトシスティス菌によって引き起こされる土壌病害です。この病気は塊根の表面に黒い病斑を形成し、内部まで腐敗を広げるという特徴があります。
発病初期には緑がかった黒褐色の病斑が現れますが、病気が進行すると黒色がより強くなり、表面がくぼんだ円形の病斑となります。病斑の大きさは直径2~3cm程度で、中心部には短い毛のような黒いカビが密生するのが典型的な症状です。
黒あざ病と混同されやすいですが、黒斑病は塊根内部まで腐敗が進むため、被害はより深刻になります。表面だけの病斑にとどまる黒あざ病とは明確に区別する必要があるでしょう。
この病気で腐敗したサツマイモは、自身を守るためにファイトアレキシンという物質を生成します。この物質には肝臓毒性のあるイポメアマロンや、呼吸器症状を引き起こす4-イポメアノールが含まれており、人や家畜に有害です。実際に腐敗したサツマイモを与えた家畜で中毒事例も報告されているため、発病した塊根は飼料としても使用できません。
商品価値がゼロになるということですね。
黒斑病の最大の問題は、栽培期間中の圃場での防除が極めて困難な点にあります。そのため予防的な対策が何よりも重要になるのです。
黒斑病の主な感染経路は2つあります。1つ目は、病気に感染している種芋から採取した苗を圃場に定植することで伝染するパターンです。もう1つは土壌中の病原菌が塊根の傷口から侵入して発病する土壌伝染です。
土壌伝染で特に問題になるのは、害虫による食害跡からの感染です。ハリガネムシ(コメツキムシの幼虫)やコガネムシ類の幼虫といった土壌害虫が塊根を食べた際にできる傷口から、病原菌が侵入して発病します。ネズミによる食害も同様に感染の入り口となります。
収穫作業中についた傷も要注意です。収穫時に塊根表面に傷がつくと、そこから病原菌が侵入し、貯蔵中に発病することがあります。収穫時点では外見上健全に見えても、貯蔵してから数週間後に突然黒斑病が現れるケースは珍しくありません。
病原菌の発育には温度条件が大きく関わります。黒斑病は10℃以下および35℃以上の環境では発病しないという特徴があります。つまり発病しやすい温度帯は10~35℃の範囲です。また病原菌は熱に弱く、45℃で30分間、または47~48℃では10分以内で死滅することが知られています。この性質を利用したのが後述する温湯消毒という防除方法です。
圃場で黒斑病が発生しやすくなる条件としては、土壌中の病原菌密度が高い状態が挙げられます。発病した圃場で連作を続けると、土壌中の病原菌がどんどん増殖し、翌年以降の発病リスクが高まります。
連作を避けることが基本ですね。
黒斑病は地上部の茎や葉からは判断できないため、収穫時に塊根の状態を注意深く観察することが重要です。収穫したサツマイモの表面に直径2cm程度(500円玉くらい)の黒色の円形病斑があり、その中心部に黒く短い毛のようなものが突出している場合は黒斑病の可能性が高いです。
病斑部分は表面がくぼんでおり、触ると柔らかくなっているのが特徴です。病気が進行すると病斑はさらに大きくなり、塊根内部の腐敗も進みます。
確実に判断したい場合は、病斑部分を含めて塊根を切断してみましょう。内部まで黒く変色し腐敗が進んでいる場合、黒斑病で間違いありません。さらに切断面から腐敗臭がすることも黒斑病の特徴的なサインです。
一方、表面に黒いかさぶた状の病斑があっても内部まで腐敗していない場合は、黒あざ病である可能性が高いです。黒あざ病は表面のみの被害にとどまるため、皮を厚めに剥けば食用にできることもあります。内部まで腐るかどうかが判断のポイントですね。
貯蔵中のサツマイモも定期的にチェックする習慣をつけましょう。収穫時には症状が見られなくても、貯蔵してから2~3週間後に突然発病することがあります。特に収穫時に傷がついた塊根や、害虫被害のあった圃場で収穫したサツマイモは注意が必要です。発病した塊根を見つけたら速やかに取り除いて、他の健全な塊根への伝染を防ぎましょう。
黒斑病の防除で最も重要なのは、病原菌を圃場に持ち込まないことです。そのために種芋の選抜と消毒が基本となります。
まず種芋を選ぶ際には、病徴のない健全な塊根だけを厳選します。表面に黒い病斑がないか、腐敗の兆候がないかを丁寧に確認してください。少しでも怪しい種芋は使用を避けるのが原則です。
健全な種芋を選んだ後は、必ず消毒処理を行います。消毒方法には温湯消毒と農薬消毒の2種類があります。
温湯消毒は、47~48℃のお湯に種芋を正確に40分間浸漬する方法です。温度管理が重要で、46℃以下では病原菌が十分に死滅せず、49℃以上になると種芋自体にダメージを与えてしまいます。
温度計で正確に測りながら実施しましょう。
農薬消毒の場合は、ベンレート水和剤を種芋重量の0.4%で粉衣するか、トップジンM水和剤やベンレート水和剤の希釈液に20~30分間浸漬します。使用する農薬のラベルに記載された希釈倍率と処理時間を必ず守ってください。
苗の定植前にも同様の消毒が効果的です。苗の場合は、苗の基部約10cm(手のひら1つ分くらい)を47~48℃の温湯に15分間浸します。または農薬希釈液に規定の時間浸漬してから定植します。
温湯消毒なら病原菌を確実に防げますね。
種芋や苗を消毒しても、苗床の土壌が病原菌に汚染されていては意味がありません。苗床には無病地の心土を使用するか、クロルピクリン剤などで土壌消毒を実施しましょう。健全な苗を育てることが、黒斑病対策の第一歩です。
茨城県の農業技術情報サイトでは、黒斑病の詳細な症状写真と防除方法が掲載されています。
収穫後の黒斑病対策として極めて効果が高いのがキュアリング処理です。キュアリングとは、収穫したサツマイモを高温多湿条件下に一定期間置くことで、傷口にコルク層を形成させる処理のことを指します。
具体的な処理方法を説明します。収穫後、できるだけ早く(理想は収穫当日か翌日)塊根をキュアリング庫に積み込みます。庫内の温度を33±2℃(最適温度は33℃)、湿度を90~95%に設定し、この条件を4日間(約100時間)維持します。
この期間中に塊根の傷口や表皮下にコルク層が形成され、病原菌の侵入を物理的にブロックできるようになります。
つまり傷口がかさぶたのように治るイメージですね。
キュアリング処理が終わったら、庫内を換気して温度を下げます。その後は温度13~15℃(長期貯蔵には13~14℃が最適)、湿度90%以上の条件で貯蔵を続けます。温度が10℃以下になると低温障害が発生するため注意が必要です。
ただしキュアリング処理には殺菌効果はありません。処理前にすでに病原菌が塊根内部に侵入していた場合、貯蔵中に発病する可能性があります。したがって収穫作業では塊根に傷をつけないよう丁寧に扱うことが前提となります。
キュアリング設備がない小規模農家でも簡易的な処理は可能です。収穫したサツマイモをビニールハウス内に並べ、日中の太陽熱で庫内温度を30℃前後まで上げ、夜間は保温資材で覆って温度を維持する方法があります。
湿度は散水や濡れたシートで調整できます。
工夫次第で対策できるということですね。
キュアリング処理を実施すれば、黒斑病だけでなく軟腐病などの他の腐敗性病害の発生も大幅に抑制できます。収穫後の貯蔵ロスを減らし、出荷可能な期間を延ばすことで農業所得の向上につながる重要な技術です。
農業資材メーカーのサイトでは、キュアリング処理の効果とその実施方法について、写真付きで詳しく解説されています。
黒斑病が発生した圃場では、土壌中の病原菌密度を下げるために輪作が効果的です。黒斑病が認められた圃場では、最低でも1~2年間はサツマイモの栽培を休止し、他の作物を栽培しましょう。
輪作に適した作物は、マメ科以外の作物です。特にトウモロコシは植え付け時期や収穫時期がサツマイモと重ならないため、作業の効率化という点でも相性が良い選択肢です。イネ科作物全般が輪作体系に組み込みやすいでしょう。
逆にマメ科作物は黒斑病の病原菌を減らす効果が低いため、輪作には不向きです。またサツマイモと同じヒルガオ科の作物も避けるべきです。
輪作と併せて重要なのが、土壌害虫とネズミの徹底的な防除です。黒斑病の土壌伝染の多くは、これらの食害による傷口から病原菌が侵入することで起こります。害虫や獣害を防げば、黒斑病のリスクも大幅に下がるということですね。
ハリガネムシ(コメツキムシの幼虫)やコガネムシ類の幼虫といった土壌害虫には、定植前の土壌処理が有効です。ダントツ粒剤やダーズバン粒剤などの粒剤を畝に処理することで、土壌害虫の密度を下げられます。これらの薬剤は定植の1~2週間前に施用するのが効果的です。
ネズミ対策としては、殺鼠剤の設置や忌避剤の使用が考えられます。圃場周辺の草刈りを徹底してネズミの隠れ場所を減らすことも予防につながります。収穫が近づいたら圃場を定期的に見回り、ネズミの食害痕がないか確認しましょう。
定植前の土壌消毒も検討する価値があります。クロルピクリン剤を使った土壌消毒は、黒斑病の病原菌だけでなく土壌害虫も同時に防除できる利点があります。マルチ被覆と組み合わせることで消毒効果がさらに高まります。ただし土壌消毒は環境への配慮も必要なため、使用方法を守ることが大切です。
複数の対策を組み合わせることで、黒斑病の発生リスクを最小限に抑えられます。
予防に勝る治療なしということですね。
農業害虫・病害の防除情報サイトでは、黒斑病の発生生態と総合的な防除方法について体系的にまとめられています。