呼吸器の種類一覧と防毒・防じんマスク選び方!国家検定の区分は

農作業の安全を守る呼吸器には、防毒・防じん・電動ファン付きなど多くの種類があります。農薬の性状に合わせた正しい選び方や、意外と知らない交換時期の目安、最新の快適装備とは?

呼吸器の種類一覧

呼吸器の種類一覧と重要ポイント
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防じんマスク

粉剤や水和剤など「粒子」を防ぐ。国家検定の区分(DS2/RL2など)を確認。

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防毒マスク

乳剤やくん蒸剤など「ガス」を防ぐ。吸収缶の種類と破過時間に注意。

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電動ファン付き

送風により呼吸が楽で安全性が高い。夏場の熱中症対策にも効果的。

農薬の形状別・呼吸器の種類一覧と選び方

 

農作業、特に農薬散布において最も重要なのは、散布する薬剤の「形状」に合わせて適切な呼吸器(マスク)を選択することです。農薬は大きく分けて「粒子状(粉やミスト)」と「ガス状(蒸気)」の2種類が存在し、それぞれ対応する保護具が全く異なります。間違った選択をすると、有害物質を肺の奥まで吸い込んでしまう危険性があります。

 

  • 粒子状物質(粉剤・水和剤・液剤のミスト)
    • 対応マスク: 防じんマスク
    • 物理的なフィルターで空気中の粒子を捕集します。粉剤(粉)だけでなく、液剤を噴霧器で撒く際の「ミスト」も粒子に含まれます。家庭用の不織布マスクでは農薬の微粒子を防ぐことはできません。
  • ガス状物質(乳剤・くん蒸剤・揮発性の高い液剤)
    • 対応マスク: 防毒マスク
    • 活性炭などが入った「吸収缶」で有毒ガスを吸着・無毒化します。特に乳剤や、ハウス内でのくん蒸作業では必須です。ガスは目に見えないため、防じんマスクでは通り抜けてしまいます。

    多くの農家が誤解しているのが、「液体の農薬=防毒マスク」という単純な図式です。実際には、液体の農薬でも噴霧すればミスト(粒子)になりますが、その成分が揮発してガス化する場合や、溶剤として有機溶剤が含まれている場合は「防毒マスク」が必要です。迷った際は、必ず農薬ラベルの「保護具」欄を確認してください。「防護マスク着用」とあれば、より高性能なマスクが求められます。

     

    農林水産省:農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況(保護具の不備による事故例)

    国家検定の記号で見る呼吸器の種類一覧

    呼吸器には「国家検定」という厳しい基準があり、合格品には必ず等級を表す記号が記載されています。このアルファベットと数字の組み合わせを理解することで、そのマスクがどのような環境で使えるかが一目でわかります。ホームセンターで購入する際も、パッケージの裏にあるこの記号を必ずチェックしましょう。

     

    防じんマスクの区分(粒子捕集効率による分類)

    記号 意味 用途の目安
    D Disposable(使い捨て式) メンテナンス不要、衛生的。短時間の作業向け。
    R Replaceable(取替え式) フィルター交換可能。フィット感が高く、長時間作業向け。
    S Solid(固体粒子用) 粉剤、乾燥した粉塵など。
    L Liquid(液体粒子用) オイルミストを含む液剤散布、乳剤のミストなど。
    1 区分1(捕集効率80.0%以上) 一般的な粉塵作業。
    2 区分2(捕集効率95.0%以上) 農業用として推奨される最低ライン。
    3 区分3(捕集効率99.9%以上) ダイオキシン類やアスベストなど、極めて有害な物質用。

    農薬散布において推奨されるのは、「DS2」(使い捨て・固体用・区分2)以上、または「RL2」(取替え式・液体用・区分2)以上です。特に、オイルを含む乳剤を動噴で散布する場合は、油分でフィルターが劣化しないよう「L(液体用)」の規格を選ばなければなりません。「DS2」はホームセンターでよく見かけますが、液剤散布には「DL2」または「RL2」の方が安全です。

     

    防毒マスクの吸収缶の種類
    防毒マスクの吸収缶も、対象ガスによって色分けされています。

     

    • 黒色(有機ガス用): 乳剤、多くの農薬用。
    • 黄色(酸性ガス用): 土壌くん蒸剤(クロルピクリンなど)の一部。
    • 灰色(アンモニア用): 畜舎の清掃など。

    厚生労働省:防じんマスク及び防毒マスクの選定について

    電動ファン付き呼吸器の種類一覧:暑さと息苦しさを解消

    近年、農業現場で導入が進んでいるのが「電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)」です。これは、バッテリー駆動のファンがフィルターを通した清浄な空気をマスク内に送り込む仕組みの呼吸器です。従来のマスクとは一線を画すメリットがあり、特に夏場の過酷な散布作業において「革命的」とも言える快適さを提供します。

     

    1. 呼吸が圧倒的に楽(呼吸抵抗が少ない)

      従来のマスクは、自分の肺の力でフィルターを通して空気を吸い込む必要があり、息苦しさが課題でした。電動ファン付きなら、ファンが自動で空気を送ってくれるため、普段の呼吸と変わらない感覚で作業ができます。高齢の農業従事者にとっても身体的負担が大幅に軽減されます。

       

    2. 安全性が高い(陽圧効果)

      マスク内部の気圧が外気より常に高い状態(陽圧)に保たれます。万が一、顔とマスクの間にわずかな隙間ができても、内側から空気が吹き出すため、外の有害な農薬や粉塵が侵入してきません。

       

    3. 暑さ対策熱中症予防

      常に新鮮な空気がマスク内を流れるため、マスク内部の温度上昇や湿気を防ぐことができます。夏場のハウス内や炎天下での防除作業において、顔周りの不快感が劇的に改善されます。

       

    種類としては、マスクとファンが一体になった「コードレスタイプ」や、腰にバッテリーとファンを装着する「分離型」、顔全体を覆う「全面形」などがあります。初期投資は高くなりますが、健康被害のリスクと作業効率を考えれば、最も推奨される選択肢の一つです。

     

    独立行政法人労働者健康安全機構:電動ファン付き呼吸用保護具の導入メリット

    交換時期と保管:呼吸器の種類一覧表で見る寿命

    どれほど高性能な呼吸器を選んでも、フィルターや吸収缶の寿命が切れていれば、ただの「重たいお面」をつけているのと同じです。特に防毒マスクの吸収缶は、見た目では劣化が判断できないため、厳格な管理が必要です。

     

    • 防じんマスクの交換時期
      • 息苦しさを感じた時(フィルターが目詰まりしている)。
      • フィルターが破損、変形、著しく汚れた時。
      • 使い捨て式(D)は、原則として1回使い切りか、指定された使用限度時間を超えた時。洗濯して再利用することは絶対にできません(静電フィルターの性能が失われます)。
    • 防毒マスク(吸収缶)の交換時期:破過(はか)
      • 吸収缶がガスを吸着できる容量を超え、有毒ガスが漏れ出すことを「破過」と呼びます。
      • 破過時間: 各メーカーが公表している「破過曲線図」を参考に、ガスの濃度と作業時間から計算します。
      • 感覚的判断の危険性: 「臭いがしたら交換」という考えは危険です。農薬の中には無臭のものや、嗅覚を麻痺させるものがあります。必ず「使用時間の累積」を記録し、余裕を持って交換してください。開封後、使用していなくても空気中の水分やガスを吸着して劣化するため、有効期限(通常開封後6ヶ月程度)を守る必要があります。

      やってはいけない保管方法
      農薬庫の中にマスクを保管するのは厳禁です。保管中に揮発した農薬成分を吸収缶が吸着してしまい、いざ使う時に寿命が尽きている可能性があります。洗浄した面体とフィルターは、乾燥させた後、密封できるポリ袋に入れ、農薬とは別の清潔で湿度の低い場所に保管してください。

       

      密着性が命:呼吸器の種類一覧にはない「フィットテスト」

      カタログや一覧表で最適な種類のマスクを選んでも、現場でその効果を100%発揮できている農家は驚くほど少ないのが現状です。その最大の原因は「顔とマスクの隙間」です。どんなに高性能なフィルター(捕集効率99.9%)を使っていても、マスクと顔の間に隙間があれば、有害物質は抵抗の少ないその隙間から優先的に侵入します。これを防ぐために不可欠なのが「フィットテスト」です。

       

      自分で行う簡易チェック(シールチェック)
      マスクを装着するたびに、毎回必ず行うべきチェック方法です。

       

      1. 陰圧法: フィルターの吸気口を手のひらや専用カバーで塞ぎ、ゆっくり息を吸います。マスクが顔にピタッと吸い付き、空気が入ってこなければ合格です。
      2. 陽圧法: 排気口を塞ぎ、息を吐きます。マスク内圧が高まり、空気が漏れ出なければ合格です。

      意外な落とし穴:農家特有の事情

      • タオル: 首に巻いたタオルがマスクの「締めひも」や「面体」に挟まっていませんか?これは大きな隙間を作ります。
      • 髭(ヒゲ): 顎髭や無精髭は、マスクの接顔部の密着性を著しく低下させます。安全のためには、接顔部の髭は剃る必要があります。
      • 眼鏡: 眼鏡のツルがマスクのゴムと干渉し、隙間を作ることがあります。コンタクトレンズにするか、眼鏡対応の全面形マスク、あるいはオーバーグラスタイプの保護メガネを併用する工夫が必要です。

      2023年より、特定の化学物質を扱う事業所では年に1回の「フィットテスト」が義務化されました。個人の農家には義務はありませんが、自分の身を守るために、専用の「フィットチェッカー」や「定量的フィットテスト(専門機関での測定)」を一度体験し、自分の顔に合ったサイズ(S、M、L)と形状を知っておくことは、農薬の種類を選ぶこと以上に重要かもしれません。

       

      興研株式会社:フィットテストの実施方法と重要性

       

       


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