農薬希釈の計算方法と希釈倍率や薬量の便利な早見表とアプリ

農薬散布で失敗しないための正しい計算手順と、現場で役立つ水量・薬量の早見表を公開。展着剤の順番や比重の意外な落とし穴、無料アプリの活用法まで、プロが知っておくべき知識を網羅しています。あなたは正確に計算できていますか?

農薬希釈の計算方法

農薬希釈の計算方法
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計算の基本公式

倍率と液量から薬量を算出

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農薬希釈の計算方法と倍率から薬量を求める基本公式

 


農業現場において、農薬の希釈は最も頻繁に行われる作業の一つですが、同時に計算ミスが起きやすい工程でもあります。適切な濃度で散布しなければ、害虫や病気の防除効果が得られないばかりか、濃度が高すぎれば「薬害」を引き起こし、作物を枯らせてしまうリスクさえあります。ここでは、現場で迷わず正確に計算するための基本公式と、計算機がない場合でも使える暗算のテクニックを深掘りします。

まず、基本となる計算式は非常にシンプルです。必要な「薬量」を求めるには、作りたい「散布液の総量」を「希釈倍率」で割るだけです。しかし、現場ではリットル(L)とミリリットル(ml)、あるいはグラム(g)が混在するため、単位換算で混乱が生じます。以下の公式を頭に入れておきましょう。

     

  • 基本公式(L換算): 散布液量(L) ÷ 希釈倍率 = 必要薬量(L)
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  • 実用公式(ml換算): 散布液量(L) × 1000 ÷ 希釈倍率 = 必要薬量(ml または g)

例えば、1000倍希釈の農薬を使って、100リットルの散布液を作りたい場合を考えます。

実用公式に当てはめると、「100(L) × 1000 ÷ 1000(倍) = 100」となり、必要な薬剤は100ml(または100g)となります。これは非常に計算しやすい例ですが、例えば「希釈倍率2000倍」で「散布液量15リットル(背負い式動噴)」の場合はどうでしょうか。「15 × 1000 ÷ 2000 = 7.5」。つまり、7.5mlの薬剤が必要です。

現場でよくある間違いの一つに、「水100リットルに薬剤100mlを入れる」のか、「薬剤100mlを入れてから水を足して合計100リットルにする」のかという疑問があります。厳密な化学実験では後者(メスアップ)が正しい濃度調整ですが、農業現場における1000倍や2000倍といった高倍率の希釈では、この誤差は1%未満であり無視できる範囲です。したがって、実務上は「決まった量の水に薬剤を添加する」方法(外割計算に近い手法)で問題ありません。ただし、ドローン散布などで用いられる8倍希釈や16倍希釈といった「高濃度少量散布」の場合は、この誤差が大きくなるため、必ず最終容量を意識して調整する必要があります。

また、計算を間違えないためのコツとして、「倍率係数」を覚える方法も有効です。

     

  • 1000倍希釈の場合:水1Lあたり薬剤1ml
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  • 2000倍希釈の場合:水1Lあたり薬剤0.5ml
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  • 500倍希釈の場合:水1Lあたり薬剤2ml

この「水1リットルあたりの薬量」を基準値として覚えておけば、あとはタンクの容量(L)を掛けるだけで済みます。例えば500リットルのタンクで2000倍希釈を作るなら、「500 × 0.5 = 250ml」と瞬時に算出可能です。スマホを取り出して計算機アプリを叩く前に、この係数暗算法を使うことで、現場での作業スピードは格段に上がります。特に手袋をしていてスマホを操作しにくい状況では、頭の中だけで完結する計算術が重宝します。

希釈計算においてさらに注意すべきは、乳剤(液体)と水和剤(粉末)の扱いの違いです。計算上算出された「100」という数字が、液体の場合はml、粉末の場合はgを指します。しかし、計量カップで粉末を測る際、「100mlの目盛りまで入れれば100gだろう」と考えるのは危険です。これについては後述のセクションで詳しく解説しますが、計算結果の単位が「体積(ml)」なのか「重量(g)」なのかを常に意識することが、正確な農薬調製の第一歩です。

お客様相談に多い 「農薬の量り方・希釈液の作り方」について(日本曹達株式会社)

※農薬メーカーの視点から、正しい計量方法や希釈液の作り方、展着剤の混用順序などが解説されています。

農薬希釈の計算方法に役立つ便利な無料アプリ


基本の計算式を理解していても、複数の薬剤を混用する場合や、散布面積から必要な液量を逆算する場合など、複雑な計算が必要なシーンは多々あります。また、人間である以上、疲れている時などは単純な計算ミスをしてしまう可能性もゼロではありません。そこで活用したいのが、農薬希釈計算に特化した無料のスマートフォンアプリです。近年は農薬メーカーや農業メディアが非常に使いやすいアプリをリリースしており、これらを導入することで計算ミスをほぼゼロにすることができます。

おすすめのアプリとして、まず挙げられるのが「農薬希釈くん」です。

このアプリの最大の特徴は、そのシンプルさと操作性の良さにあります。希釈倍率と作りたい液量を入力するだけで必要な薬量を表示してくれる機能に加え、「散布面積」と「10aあたりの散布量」から必要な総液量と薬量を計算する機能も備えています。「1反(10a)あたり150リットル撒きたいけれど、うちは3反5畝あるから…」といった、暗算では面倒な計算も一瞬で終わります。また、計算結果を履歴として保存できるものもあり、防除日誌をつける際の補助ツールとしても優秀です。

次に、「農薬調整支援アプリ」などのメーカー系アプリも強力です。

これらは単なる計算機だけでなく、農薬のデータベースと連携している点が強みです。農薬名を選択するだけで、その農薬の登録情報(適用作物や希釈倍率)を自動で参照し、計算に反映させてくれるものもあります。ラベルの文字が小さくて読みにくい場合や、現場で倍率を忘れてしまった場合に、アプリ内で検索してそのまま計算できるのは非常に大きなメリットです。さらに、混用適否(混ぜてはいけない組み合わせ)の情報が含まれているアプリもあり、安全な散布計画を立てる上で役立ちます。

アプリを使用する際のポイントとして、「オフラインで使えるかどうか」も確認しておきましょう。中山間地域や圃場の奥まった場所では、電波が入らないことがあります。データベース参照型のアプリは通信が必要な場合がありますが、単純な計算機能のみのアプリであれば、機内モードでも動作するものが多いです。事前にインストールし、電波のない場所で一度動作確認をしておくことをお勧めします。

また、アプリに頼りきりになることの弊害も理解しておく必要があります。スマホのバッテリー切れや故障、あるいは極端な高温・低温でスマホが動作しない状況も農業現場では起こり得ます。アプリはあくまで「検算用」や「効率化ツール」として位置づけ、基本的には自分の頭や電卓でも計算できるようにしておくのがプロの姿勢です。「計算結果がなんとなくおかしい(桁が一つ違うなど)」と直感的に気づける感覚は、日頃から数値を意識していないと養われません。アプリが出した数字を鵜呑みにせず、「大体これくらいの量になるはず」という予測と照らし合わせる習慣をつけましょう。

最後に、独自視点として「自作のスプレッドシート活用」も推奨します。Googleスプレッドシートなどで独自の計算シートを作成し、スマホのショートカットに置いておく方法です。これなら、自分の圃場の面積をあらかじめ入力しておき、「倍率」を入れるだけで自分専用の散布計画が出力されるシステムを構築できます。既成のアプリではカバーしきれない、特殊なタンク容量や独自の散布ルールがある場合は、こうしたDIYアプローチも検討してみてください。

農薬希釈くん(Google Play)

※シンプルで使いやすい定番の希釈計算アプリ。倍率計算、面積計算に対応しており、多くの農家に利用されています。

農薬希釈の計算方法で使える水量と薬量の早見表


現場で最も頼りになるのは、実はハイテクなアプリではなく、ラミネート加工して作業場の壁に貼ってある「早見表」だったりします。濡れた手でも確認でき、起動時間も不要だからです。ここでは、一般的によく使われる希釈倍率(500倍、1000倍、2000倍)と、代表的なタンク容量(背負い動噴からSS用タンクまで)に対応した早見表を掲載します。これをスクリーンショットに撮るか、印刷して現場に置いておくと便利です。

▼農薬希釈早見表(薬量の単位:ml または g)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水量 (L) 500倍 1000倍 2000倍 4000倍
10 L
(小型噴霧器)
20 ml 10 ml 5 ml 2.5 ml
15 L
(背負い動噴)
30 ml 15 ml 7.5 ml 3.75 ml
20 L
(大型背負い)
40 ml 20 ml 10 ml 5 ml
100 L
(ローリータンク)
200 ml 100 ml 50 ml 25 ml
300 L
(小型SS)
600 ml 300 ml 150 ml 75 ml
500 L
(中型SS)
1,000 ml
(1L)
500 ml 250 ml 125 ml
1000 L
(大型SS)
2,000 ml
(2L)
1,000 ml
(1L)
500 ml 250 ml

この表を使う際のポイントは、自分の持っている計量器具の最小目盛りを確認しておくことです。例えば、2000倍希釈で15リットルのタンクを使う場合、必要な薬量は「7.5ml」です。しかし、手元の計量カップが10ml単位の目盛りしかなければ、7.5mlを正確に測ることは困難です。この場合、スポイトを用意するか、より精密なメスシリンダーを導入する必要があります。大雑把に「まあ10ml弱くらい」と目分量で入れると、濃度が30%以上ズレることになり、これはプロの仕事としては失格です。

また、早見表には「ボトル1本使い切り」の視点も書き加えておくと便利です。例えば、500ml入りの農薬ボトルを1本丸ごと使い切るには、1000倍希釈なら500リットルの水が必要です。「タンク満タン(500L)に対してボトル1本(500ml)」という覚え方は、計量の手間を省き、薬剤への接触リスクを減らす賢い方法です。自分の使っているタンク容量に合わせて、購入する農薬のサイズ(100ml規格か、500ml規格か)を選ぶのも、効率化の重要なテクニックです。

さらに、早見表の余白には「使用頻度の高い殺虫剤殺菌剤の倍率」をメモしておきましょう。「ダントツは2000倍」「アミスターは1000倍」など、主要な薬剤の倍率が併記されていれば、いちいちラベルの裏を確認する手間も省けます。ただし、適用作物によって倍率が変わる場合がある(例:野菜は1000倍だが果樹は2000倍など)ので、その点には注意書きが必要です。

農薬希釈早見表(JAなんぽろ)

※PDF形式でダウンロードできる早見表。印刷して作業場に掲示するのに適しています。

農薬希釈の計算方法における面積と散布液量の関係


「希釈倍率は合っているのに、農薬が足りなくなった」あるいは「大量に余ってしまった」。このような経験はないでしょうか?これは「農薬希釈」の問題ではなく、「散布液量」の見積もりの問題です。農薬のラベルには、希釈倍率だけでなく「10a(アール)あたりの使用液量」も記載されています。通常は「100〜300L/10a」と幅を持たせて書かれていますが、この範囲内で適切に撒くことが、効果を安定させる鍵となります。

計算手順としては、まず「希釈倍率」よりも先に「必要な総液量」を算出するのが正解です。

     

  1. 散布面積を確認する: 自分の圃場が何アール(a)あるのか正確に把握します。例えば、300坪=約10a(1反)です。
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  3. 基準散布量を決める: 作物の大きさや繁茂状況によりますが、野菜類なら10aあたり150〜200リットル、果樹なら300〜400リットル程度が目安です。
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  5. 総液量を計算する: 面積(a) × 基準散布量(L/10a) ÷ 10 = 必要な総液量(L)。

例えば、5a(約150坪)の畑に、10aあたり200リットルのペースで散布したい場合、「5 × 200 ÷ 10 = 100リットル」の希釈液が必要になります。この100リットルという数字が出て初めて、前述の希釈倍率の計算に入ることができます。多くの失敗例は、この「総液量計算」を飛ばして、タンクの容量だけで考えてしまうことから生じます。「とりあえずタンク満タン(500L)作ろう」と考えた結果、実際には300Lしか必要なく、200Lもの廃液処理に困るというケースは後を絶ちません。農薬の廃棄は環境負荷もコストもかかるため、面積からの逆算は必須です。

ここで独自の実践的テクニックを紹介します。「自分の歩行速度とノズル吐出量を知る」ことです。

動噴の圧力を一定にし、ノズルを全開にした状態で、1分間に何リットル出るか(吐出量)を測ってみてください。例えば「毎分3リットル」出るとします。10a(1000㎡)に150リットル撒きたい場合、散布には「150 ÷ 3 = 50分」かかります。10aの畑を50分かけて歩くペース配分を身体で覚えるのです。

最近普及しているドローン散布では、この考え方がさらにシビアになります。ドローンは「10aあたり0.8〜1.0リットル」という超高濃度少量散布を行います。通常の100〜200倍の濃度(8倍〜16倍希釈)で散布するため、少しの計算ミスや散布ムラが致命的になります。ドローンの場合は、飛行速度と散布幅、ポンプの吐出量がプログラムで制御されていますが、入力する「希釈倍率」と「単位面積あたりの薬量」の整合性が取れていないと、設定通りに飛びません。面積計算をおろそかにすることは、近代農業においてはコスト増だけでなく、防除失敗に直結することを肝に銘じましょう。

無人航空機による農薬等の空中散布に関するQ&A(農林水産省)

※ドローン散布における高濃度少量散布の基準や、面積あたりの使用量に関する公的な指針が記されています。

農薬希釈の計算方法と展着剤や比重の注意点


最後に、計算機やアプリでは教えてくれない、しかしプロなら知っておくべき「化学的・物理的な」注意点を解説します。これを知らないと、計算上の数字は合っていても、実際の散布液の濃度が狂っていたり、十分な効果が得られなかったりします。

一つ目は「比重(密度)」の落とし穴です。

農薬希釈の計算では、便宜上「水和剤1g = 1ml」として扱うことが多いですが、これは厳密には間違いです。水和剤や顆粒水和剤は、空気を含んでいるため「嵩比重(かさひじゅう)」は水よりも軽いことがほとんどです。つまり、計量カップの「10ml」のラインまで水和剤を入れても、重さは10gなく、5〜6gしかないということがザラにあります。

逆に、乳剤の中には比重が1より重いものもあります。少量の散布なら誤差で済みますが、大規模な農家が計量カップ(体積)だけで粉剤を測っていると、実際には規定量よりも薄い濃度で撒き続けていることになりかねません。粉末や粒剤は、必ず「電子天秤(はかり)」を使って「重量(g)」で測るのが鉄則です。面倒でもハカリを農薬庫に常備してください。

二つ目は「展着剤と混合順序」の重要性です。

複数の農薬を混ぜる(混用する)場合、投入する順番を間違えると、成分が凝固したり、分離したりして、ノズル詰まりや薬害の原因になります。

基本の順序は、覚えやすい語呂合わせで「展・乳・水(てんにゅうすい)」と覚えましょう。

     

  1. 展着剤(最初に溶かす): 展着剤は界面活性剤であり、水と油(農薬)を馴染ませる役割があります。一番最初に入れて水に馴染ませておくことで、後から入れる農薬の分散を助けます。
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  3. 乳剤・液剤(次に溶かす): 油性の成分を含むものは、展着剤の助けを借りて乳化させます。
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  5. 水和剤・フロアブル(最後に溶かす): 粉末や懸濁液は、水中に分散・浮遊している状態を作ります。これらを先に入れると、溶け残りが底に沈殿したり、乳剤の油分を取り込んでダマになったりしやすいのです。

ただし、近年登場している一部の機能性展着剤(パラフィン系など)や、特殊な製剤(ジャンボ剤など)では、順序が異なる場合があります。必ずラベルの「使用上の注意」を読み、「最後に加えること」と書かれていないか確認してください。

また、希釈水を作る際、最初に少量の水で農薬を「予備溶解(ドロドロに溶かす)」してから、タンクの大容量の水に投入する方法も強く推奨します。いきなりタンクに粉末をドサッと入れると、底の方で溶け残りの塊ができ、吸水口を塞いだり、最初の噴射時だけ超高濃度液が出たりするトラブルの元になります。

「計算は完璧、でも溶かし方が雑」では意味がありません。丁寧な調製作業こそが、計算された農薬の効果を100%引き出す鍵なのです。

農薬を混用する場合、水に溶かす順番を教えてください(農薬工業会)

※「展・乳・水」の基本ルールと、例外ケースについて動画付きで分かりやすく解説されています。

 

 


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