汚泥肥料は肥料取締法上、「下水汚泥肥料」「し尿汚泥肥料」「工業汚泥肥料」「混合汚泥肥料」「焼成汚泥肥料」「汚泥発酵肥料」などいくつかの種類に細かく分類されており、それぞれ原料や製造工程が異なります。 例えば下水汚泥肥料は下水処理場由来、し尿汚泥肥料は浄化槽やし尿処理施設由来、工業汚泥肥料は食品工場など産業系排水処理から出た汚泥を利用するのが特徴です。
混合汚泥肥料は複数由来の汚泥をブレンドしたもので、栄養バランスや物性(粒の固さ・水分)を整えやすく、地域資源の一括利用という意味でも活用が進んでいます。 焼成汚泥肥料は高温で焼成することで病原菌や雑草種子を死滅させつつ、リン酸などの無機成分を濃縮したタイプで、悪臭を抑えたい圃場や住宅地近くで好まれています。 汚泥発酵肥料は堆積型好気発酵などで完熟させたコンポストで、有機質肥料として土づくり効果を重視する農家に選ばれています。
参考)https://www.sbmc.or.jp/05_investion/DATA/3-1.pdf
意外と知られていないのが、水産加工場などの副産物を混ぜ込んだ「水産副産物発酵肥料」や魚由来の汚泥発酵肥料で、魚粉由来の窒素と汚泥由来のリンが同時に補える高付加価値製品として登録されている事例もあります。 また各都道府県は第二種肥料の登録製品一覧を公開しており、「汚泥発酵肥料」や商品名ごとの原料・成分が検索できるため、自分の地域でどんな汚泥肥料が作られているかを確認してから選ぶことができます。
参考)https://www.pref.hiroshima.lg.jp/eco/i/i1/tourokuseido/tourokuseihin/html/seihin2hiryou.html
| 汚泥肥料の種類 | 主な原料・由来 | 特徴・主な用途 |
|---|---|---|
| 下水汚泥肥料 | 下水処理場の余剰汚泥 | 地域下水を資源化した一般的な汚泥肥料。土壌改良と基肥に利用。 |
| し尿汚泥肥料 | し尿処理・浄化槽汚泥 | 有機物が多く、完熟させることで臭気を抑えた土づくり用肥料に。 |
| 工業汚泥肥料 | 食品工場等の産業排水処理汚泥 | 原料由来で成分が安定しやすく、特定作物向け配合も可能。 |
| 混合汚泥肥料 | 複数種汚泥のブレンド | 物性・成分を調整しやすく、ペレット化された製品も多い。 |
| 焼成汚泥肥料 | 汚泥を高温焼成して製造 | 病原菌・雑草種子を確実に不活化し、においも少ないタイプ。 |
| 汚泥発酵肥料 | 汚泥を好気発酵で完熟コンポスト化 | 有機質堆肥として土壌改良効果が高く、茶や野菜産地での利用事例も多い。 |
汚泥肥料の種類ごとに窒素・リン酸・カリの含量や有機物量、pHなどが異なるため、作物や圃場条件に応じて「どのタイプを基肥にし、どのタイプを土づくり用にするか」を分けて設計すると失敗が減ります。 一覧表や登録データベースを見ながら、自分の地域で入手しやすい種類と、狙う作物との相性を照らし合わせて検討してみると実務的です。
参考)汚泥肥料のメリット・デメリットと危険性について理解しよう
汚泥肥料の分類と定義、公定規格の原文を確認したい場合に有用です。
汚泥肥料の最大のメリットは、窒素・リン酸・カリに加え、有機物と微量要素をまとめて供給できる点で、特にリン酸は輸入依存度が高いため国産資源としての価値が注目されています。 有機物が多い汚泥発酵肥料や下水汚泥肥料は、土壌の団粒構造を発達させて「ふかふかの土」に近づける効果があり、保水性・通気性の改善や根張りの向上が期待できます。
一方で、デメリット・危険性としてまず挙げられるのが重金属(カドミウム・鉛・クロム・水銀・ニッケルなど)や有機汚染物質が微量ながら混入している可能性で、長年使い続けると土壌中に蓄積し得る点です。 特にカドミウムはコメなどに移行しやすく、過去には「カドミウム米」が社会問題になったことから、現在の汚泥肥料には厳しい含有基準が設けられています。
参考)https://www.mdpi.com/2071-1050/13/4/2317/pdf
におい・粉じんも実務上のデメリットで、乾燥粉末タイプは散布時に粉が舞い上がり、作業者や近隣住民の不快感やトラブルにつながることがあります。 そのため近年はペレット化や焼成によってにおいと粉じんを抑えた製品が増えており、機械散布しやすい粒状肥料として、茶園や果樹園などで採用が広がっています。
参考)下水汚泥肥料を正しく理解しよう!_ シリーズ「資源循環型の土…
意外なポイントとして、フランスなどの農業国では下水汚泥の約8割が農業利用されているのに対し、日本では肥料として利用されるのは全体の1割程度にとどまると報告されており、「安全性への不安」よりも「情報公開や理解の不足」がボトルネックとの指摘があります。 日本でも成分分析やトレーサビリティを徹底した製品が増えれば、メリットを活かしつつリスクを抑える利用が進むと考えられます。
参考)https://www.nilim.go.jp/lab/eag/pdf/20231214_5_2_sankoushiryou.pdf
日本の汚泥肥料は肥料取締法にもとづき、カドミウム・水銀・ひ素・鉛・クロム・ニッケルなどの「含有を許される有害成分の最大量」が公定規格で細かく定められており、この基準を超える製品は登録・販売できません。 登録済み肥料の鑑定データベースでは、汚泥肥料ごとに窒素・リン酸・カリの含量とともに、重金属の分析結果やその他制限事項が一覧できるようになっており、安全性の確認に活用できます。
安全性評価のポイントは、「単位重量あたりの濃度」だけでなく、「施用量と継続年数を踏まえた土壌への蓄積量」を見ることです。 同じ基準値ギリギリの肥料でも、毎年大量に施用すれば土壌中の蓄積は早く進みますし、逆に施用量を抑えたり、他の有機質肥料と組み合わせてバランスを取ればリスクは小さく抑えられます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9906581/
また、国や自治体は汚泥資源肥料利用推進事業などを通じて、「重金属や肥料成分の分析」「肥料流通の仕組みづくり」「利用マニュアル整備」といった支援を行っており、こうした枠組みの中で製造・供給される汚泥肥料は、従来よりも管理水準が高くなりつつあります。 実際、茶園や牧草地を対象にしたフィールド試験では、基準値内の下水汚泥肥料を適切な量で使った場合、作物の重金属濃度が食品安全基準を超えない範囲で収まることが報告されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/f511776c89f3a1c103acf683bbbae894f5c39004
汚泥肥料と重金属基準、安全性に関するQ&Aを整理している一般向け解説です。
下水汚泥肥料は、野菜や米、茶など幅広い作物で試験・実用利用されており、土壌有機物量や微生物多様性を高めることで、収量や品質向上につながった事例が複数報告されています。 例えば茶園に新規下水汚泥肥料を施用した研究では、茶葉収量の維持とともに土壌中の有機炭素や有効態リンが増加し、長期的な土づくり資材としての有効性が示されています。
民間製品レベルでは、牛ふんと下水汚泥などを混合発酵させた「アサギリMIX」やペレットタイプの汚泥発酵肥料が、連作障害に悩む野菜農家や、大根の加工用産地、果樹産地などで使われています。 実際に、連作障害で収量低下が著しかった大根産地で下水汚泥肥料を導入したところ、病害の発生が抑えられ、土壌分析でも有機物と微生物量の増加が確認されたと報告されています。
参考)「下水汚泥肥料」を選ぶメリットとは? 農家・環境・作物にも優…
化成肥料中心だった圃場に汚泥発酵肥料を数年連用すると、団粒構造の発達や浸透性の改善により、「草抜きが楽になった」「土が柔らかく鍬が入りやすい」といった作業性の変化も現れやすくなります。 一方で、即効性の窒素供給は化成肥料ほど強くないため、「土づくり用のベース」として汚泥肥料を使い、不足分を化成肥料や他の有機肥料で補う設計が現実的です。
| 項目 | 汚泥肥料中心 | 化成肥料中心 |
|---|---|---|
| 土壌有機物 | 増えやすく団粒構造が発達しやすい。 | 長期連用で低下しがちで、物理性が悪化することも。 |
| 即効性 | 窒素の利きはやや穏やかで中長期型。 | 即効性が高く、追肥などで細かな調整がしやすい。 |
| 環境負荷 | 廃棄物削減・CO₂削減に寄与するが、使いすぎると流亡リスクも。 | 製造・輸送にエネルギーを要し、資源依存度も高い。 |
活用にあたっては、まず試験的に一部圃場で使い、作物や土壌の反応を1〜2作追いかけてから本格導入する段階的なアプローチが安全です。 その際、pHやEC、リン酸蓄積なども同時にチェックしておくと、土壌改良効果と潜在的なリスクをバランスよく見極められます。
汚泥肥料は単なる「安い肥料」ではなく、下水処理場・廃棄物処理施設と農地を結ぶバイオマス循環の要として位置づけると、その価値がはっきり見えてきます。 国土交通省や農林水産省は、2030年までに下水汚泥資源の肥料利用を倍増させる目標を掲げ、重金属分析や流通体制整備への支援を通じて、地域ぐるみの循環型モデルを後押ししています。
国土交通省は「下水汚泥肥料を入手可能な下水処理場一覧」を公開しており、どの処理場でどのような形態の汚泥肥料が入手できるかを確認できます。 さらに、各都道府県の肥料登録検索システムやFAMICの鑑定データベースを使えば、「肥料種類に汚泥肥料、住所に自県名」を入れて、地域内で登録されている汚泥肥料銘柄を一覧することも可能です。
参考)上下水道:下水汚泥肥料を入手可能な下水処理場の一覧 - 国土…
独自の視点としては、汚泥肥料を「リン鉱石代替の戦略資源」と見なす考え方があります。リン鉱石の多くを輸入に頼る日本では、下水汚泥中のリンを肥料として回収・再利用することが、肥料価格高騰リスクへの備えにもなり得るからです。 また、非食用のエネルギー作物や法面緑化への利用は、食の安全性への懸念を抑えつつ大量の汚泥を受け止める受け皿となり、地域全体でのバイオマス循環の安定性を高める選択肢として注目されています。
参考)https://www.mdpi.com/1420-3049/26/14/4371/pdf
地域での入手先や循環モデルの具体例を知るのに役立つ情報源です。