農薬トラブルの多くは「成分の良し悪し」より、ラベルの読み落としから始まります。ラベルは農薬取締法にもとづく“使ってよい条件の一覧表”で、登録番号、種類、名称、性状、有効成分と含有量、内容量、適用病害虫の範囲と使用方法、最終有効年月などが表示されます。さらに効果・薬害・安全上の注意も含め、記載内容はすべて守らなければなりません。
ここで重要なのは、ナスで農薬を選ぶとき「農薬名」から入らず、「作物(ナス)に登録があるか」→「適用病害虫(例:コナジラミ類、アザミウマ類、灰色かび病等)」→「使用方法(茎葉散布、土壌灌注、植穴処理など)」の順で確認することです。特に施設ナスでは、同じ害虫名でも増殖スピードが早く、散布間隔が伸びた瞬間に密度が跳ねることがあるため、初期確認が甘いと後半の散布回数が足りなくなるケースが出ます。
また「普段使っているから大丈夫」が一番危険です。農薬の登録事項は新しい試験結果や知見によって変更されることがあり、使い慣れた農薬でも使用前にラベルを読む習慣が必要だと自治体も注意喚起しています。慣れによる思い込みを消すには、散布前に“今日の散布は、作物名・対象・希釈倍数・使用時期・回数が全部合っているか”を声に出してチェックするだけでも事故率が下がります。
参考:製品ラベルに書かれている必須項目(登録番号、適用病害虫、使用方法、最終有効年月など)の根拠
JCPA農薬工業会:登録・製品ラベル(記載項目と厳守の考え方)
「防除暦」は、現場の散布タイミングと薬剤選択を組み立てる“たたき台”として強力です。例えば、ナスの病害虫防除暦では、育苗期〜定植時〜定植後〜7〜9月の発生期といった生育ステージごとに、対象病害虫、登録農薬名、希釈倍数、水100L当たり薬剤量、使用時期、使用回数が並びます。これを読むだけで「今の時期に、何を、どの濃度で、何回まで使えるか」の枠が見えます。
意外に見落とされがちなのが「収穫前日まで」の解釈です。防除暦の注意書きには、“薬剤散布を終了した時刻より24時間を経過するまで収穫できない”という意味だと明記されています。つまり、前日の夕方に散布した場合、翌日の夕方まで収穫できない計算になり、朝どり出荷の作型では致命的な段取りミスになり得ます。
さらに、防除暦には「使ってはいけない」情報も混じります。例として、ある防除暦には“なすに使用できなくなりました。絶対に使用しないこと!”と明記された薬剤名が挙がっており、古い在庫や過去の経験で動くと違反リスクが跳ね上がります。防除暦は毎年改訂されることが多いので、手元のPDFや紙が“何年版か”“登録情報の参照日がいつか”を必ず確認してください。
参考:ナス病害虫防除暦の具体例(希釈倍数、使用回数、収穫前日まで=24時間の注意など)
JA庄内たがわ:なす病害虫防除暦(2024年版)
ナスは害虫・病気の種類が多く、同じ薬剤に頼ると抵抗性が出やすい作物の一つです。自治体の解説でも、一世代が短く年に何度も発生する虫や菌は抵抗性・耐性がつきやすい傾向があるため、いくつかの薬剤を組み合わせた「ローテーション防除」を心がけるべきだとされています。
ローテーションの組み方で使えるのがRACコードです。RACコードは作用機構分類(殺菌剤はFRAC、殺虫剤はIRAC、除草剤はHRAC)で、詳しい作用点を暗記していなくても「コードが違う=系統が違う」目安になります。さらに厄介なのが“商品名が違っても成分や作用点が同じなら同じ薬剤扱い”という点で、名前だけ変えて連用しているのに気づかないケースがあります。
現場で回る形に落とすなら、まずは次の3点を帳面(またはスマホメモ)に固定してください。
この管理をやっておくと、病害虫が急増したときでも「効く薬」探しではなく「使える枠の中で、次に何が打てるか」に判断が切り替わり、結果的に防除が安定します。
参考:RACコードとローテーション防除の考え方(抵抗性回避、商品名違いでも同系統扱い)
埼玉県:農薬は正しく使用しましょう(RACコード、ローテーション防除)
「同じ希釈倍数で散布したのに効きが違う」現象は、散布ムラが原因のことが少なくありません。自治体資料でも、病害虫は葉裏や芯葉、株元など散布しにくい場所にも生息するため、そこに薬剤がよくかかるようにする必要があるとされています。ナスは葉が大きく、葉裏が“影”になりやすいので、ノズル角度や歩く位置が少しズレるだけで命中率が落ちます。
ここで役に立つのが、散布の事前チェックリスト化です。例えば、下のように短くまとめると作業者が変わっても品質が揃います。
さらに“意外な落とし穴”が展着剤です。埼玉県の解説では、展着剤は表面張力の改善や固着性を高めて効力を増進する補助剤だが、相性が悪い農薬もあるためラベル確認が必要とされています。加えて、乳剤は一般的に展着剤不要、フロアブルも付着・分散性がよく基本不要、水和剤は作物によって展着剤が有効になる場合がある、という具体的な使い分けまで示されています。
ナスでの実務としては、「展着剤を入れた方が効く気がする」ではなく、①その農薬ラベルで加用可否、②混用順序、③散布面(葉のワックス量や葉齢)をセットで判断してください。効かせたい一心で加用して、薬害や果実汚れが出ると取り返しがつきません。
参考:葉裏・芯葉・株元を狙う、展着剤の考え方(乳剤・フロアブル・水和剤の違い)
埼玉県:農薬は正しく使用しましょう(散布の狙い所、展着剤)
検索上位でもあまり強調されにくいのに、現場で差が出るのが「防除器具の農薬残留」です。ナスの防除暦には、防除器具は前回散布後に十分洗浄したか確認し、散布当日も薬剤調整前にもう一度通水し洗浄すること、使用後は通水で3回以上洗浄することが明記されています。ここをサボると、前回薬剤が次回タンクに混ざり、意図しない混用になって薬害・沈殿・ノズル詰まりを起こす可能性があります。
この“残留の怖さ”は、作業が忙しいほど増えます。例えば、防除が続く時期は「洗浄の手間を減らす」誘惑が出ますが、実際には洗浄不足が原因の手戻り(詰まりの分解清掃、再散布、作業中断)の方が高くつくことが多いです。散布後洗浄を“片付け”ではなく“次の防除の準備”として扱うと、優先順位が上がります。
現場で回すコツは、洗浄工程を固定化することです。
この器具管理は、ナス農薬の“効かせ方”の一部です。薬剤選びや希釈倍数だけ完璧でも、器具が汚れていれば結果がぶれます。
参考:防除器具の残留対策(散布当日の通水、使用後は通水3回以上洗浄)
JA庄内たがわ:なす病害虫防除暦(器具洗浄の注意)