遊休農地を持っているのに、それが「地域の財産」になることを知らずに損しています。
コミュニティガーデンとは、地域住民が主体となって花・野菜・ハーブなどを栽培する「地域の庭」のことです。公園や空き地、農地などに設けられ、場所の選定から管理・運営まで地域の人たちが自主的に担うことが最大の特徴です。
似た仕組みに「市民農園」がありますが、この2つには明確な違いがあります。市民農園は区画ごとに利用者が割り当てられ、それぞれが個別に管理する形です。一方、コミュニティガーデンは「みんなで1つの農地を耕し、収穫もみんなでシェアする」というコミュニティ重視の運営スタイルです。つまり農地の使い方そのものが異なります。
農業従事者にとってポイントになるのが、この違いが「農家との関係性」にも直結するという点です。市民農園では農家が土地を貸して終わりになりがちですが、コミュニティガーデンでは農家がノウハウを提供する「指導者」「共同運営者」として関わる形が多く見られます。これは農家の専門知識が地域コミュニティに直接貢献できる仕組みです。
農業従事者が関わる代表的な国内の事例を見てみましょう。
| 事例名 | 所在地 | 特徴 |
|---|---|---|
| 今宿コミュニティガーデン | 神奈川県横浜市 | 残土置き場だった市有地を市民自らが整備。給食用ジャガイモを近隣小学校に提供 |
| たもんじ交流農園 | 東京都墨田区 | 江戸野菜「寺島なす」を活用した地域活性化プロジェクトが起点 |
| 釜ヶ渕コミュニティガーデン | 富山県立山町 | 遊休農地を活用した市民農園としてジャガイモ・サツマイモを栽培 |
| 街区公園コミュニティガーデン事業 | 富山県富山市 | 2013年にスタート。使われなくなった公園に花壇・畑を設置し老人クラブも参加 |
横浜市の今宿コミュニティガーデンは特に印象的な事例です。当初は不法投棄ごみが溢れ、ソバしか育たないほど土壌が貧しかった市有地が、住民による継続的なコンポスト活動と有機的な土づくりによって、現在は農薬が不要なレベルまで土質が改善されました。農業従事者がサポートに入ることで、素人でも安全で豊かな農地づくりができることを示している好例です。いいことですね。
参考:コミュニティガーデンの国内外事例を横断的にまとめた解説記事
コミュニティガーデンとは・意味 | ideas for good
農業従事者にとって「遊休農地をどう活用するか」は切実な問題です。農林水産省のデータによると、基幹的農業従事者は2000年の240万人から2023年には116万人へと約20年で半減しており、担い手不足による遊休農地の増加が各地で深刻化しています。この状況でコミュニティガーデンは有力な選択肢の一つになります。
貸し農園・コミュニティガーデンとして農地を活用した場合の収益の目安は、月額5,000円〜1万円/区画程度が相場です。たとえば100㎡(東京ドームの約50分の1の広さ)の農地を10区画に分けて運営した場合、月5万〜10万円、年間60万〜120万円の収入が見込めます。維持管理費を差し引いても、遊休地のままにしておくよりはるかに有利です。これは使えそうです。
さらに収益を伸ばすには、コミュニティガーデンを「6次産業化」の入口として活用する視点が重要です。体験農業イベントや収穫祭を定期開催するだけでなく、収穫物を加工品として販売したり、直売所と連携したりすることで、農地単体の賃料収入を超えた収益モデルを構築できます。
たとえば東京都墨田区のたもんじ交流農園では、栽培した江戸野菜「寺島なす」を地域の飲食店に提供することで、農園の認知度を高めながら収益化を実現しています。資金調達にはふるさと納税を活用したクラウドファンディングも導入しており、農家単独では難しい資金面をコミュニティの力で補っている点が参考になります。
注意しておきたいのは、農地をコミュニティガーデンに貸し出す際の法的ルールです。令和7年4月から農地の貸し借りは「農地バンク(農業経営基盤強化促進法)」を経由する形に一本化されました。農家同士の直接の相対貸借は原則できなくなっているため、農地バンクへの相談が最初のステップになります。農地バンクを通じることが条件です。
参考:農地の貸し借りに関する最新ルールと手続きについて
荒廃農地解消の優良事例集(農林水産省 令和7年3月)
コミュニティガーデンを実際に立ち上げるには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか?ここでは農業従事者が関わる場合の基本的な流れを整理します。
まず最初に行うのは「目的の明確化」です。農地を貸して収益を得るのか、地域交流を深めるのか、農業体験を提供するのか、目的によって運営形態が変わります。横浜市の今宿コミュニティガーデンは「まちづくりサロン」での住民提案から始まり、2004年に提案が受理されて活動が本格化しました。地域の合意形成が土台になっています。
次に必要なのが、土地の確保と整備です。自治体や地域のまちづくり団体と連携し、遊休農地や未利用地を活用できるか確認します。
立ち上げの主なステップをまとめると次のようになります。
農業従事者が担う最も重要な役割は「農業技術の提供と土地管理の監修」です。コミュニティガーデンは地域住民が主体ですが、土づくりや作物選定、病害虫対策などで農家の専門知識は欠かせません。農家がコーディネーター的な役割を担うことで、ガーデンの持続性が格段に高まります。農業技術が条件です。
参考:農業従事者と地域が連携したコミュニティ農園の活用方策
都市部未利用地のコミュニティ農園活用方策検討調査(国土交通省)
コミュニティガーデンには魅力が多い一方、運営を継続する中でいくつかの典型的な課題も生じます。失敗パターンを事前に知っておくことで、長続きする運営が実現します。
最も多い課題が「参加者の離脱とモチベーション低下」です。最初の熱量が持続せず、1〜2年で参加者が減少するケースは少なくありません。対策としては、定期的な収穫祭やワークショップ、SNSでの情報発信で「参加することの楽しさ」を継続して演出することが有効です。
次に多いのが「区画の境界問題と作物のはみ出し」です。市民農園でも同様のトラブルが頻発しています。農家側としては、区画を明示するためのフェンスや杭を整備し、利用規約の中で明確に「区画の範囲と管理責任」を定めておくことが必要です。
また、資金不足も深刻な課題です。運営の初期段階では参加者からの会費や区画利用料だけでは赤字になりやすく、行政や財団からの助成金に依存するケースが多く見られます。持続的な収益モデルを最初から設計しておくことが大切です。
さらに農業従事者に特有の注意点として、「農地転用」の問題があります。農地法では農地を農業以外の目的で使用する場合、農地転用許可が必要です。コミュニティガーデンが農作物を栽培する形であれば原則として農地転用不要ですが、イベントスペースや駐車場を農地の一部に設ける場合は転用手続きが求められることがあります。農業委員会への事前確認が必須です。
参考:コミュニティガーデン運営における組織管理と課題の研究
コミュニティガーデンにおいて組織に縛られず参加者の自由な活動が確保される条件(世田谷区)
国内の事例だけでなく、海外の先進的なコミュニティガーデンから農業従事者が参考にできるユニークな仕組みがあります。国内ではあまり知られていない視点ですが、収益化や地域連携に直接役立つヒントが含まれています。
ニューヨークのクリントン・コミュニティガーデン(1978年設立)は、マンハッタンのヘルズキッチン地区の28年間放置された空き地を活用して作られました。110区画の個別庭区画に加え、公共芝生・ハーブエリア・ミツバチの飼育スペースも設けており、現在は60種類以上の野鳥の生息地にもなっています。農業生産と生物多様性の保全を同時に実現している点が参考になります。
オランダのデ・グルーネ・ゾン(ハーグ)はパーマカルチャーの原則に基づき運営されており、収穫物は「通りすがりの人でも必要なら持ち帰れる」という完全開放型の設計です。農産物の価値を「販売」以外のかたちで地域に還元するモデルです。意外ですね。
そして最も農業従事者に参考になるのが、アムステルダムのフードソルタイン・エイプライン(2012年設立)の事例です。約3,000㎡(東京ドームのグラウンド約3分の2に相当)の敷地で有機農業を実践し、食育・環境教育・地域イベントを組み合わせながら、移民世帯や学生など多様な参加者を巻き込んでいます。運営はボランティアが担い、複数の財団から助成を受けることで、農家に過度な負担が集中しない体制を構築しています。
これらの海外事例から農業従事者が学べる共通点は3つです。
国内では農業従事者が「土地を貸すだけ」の関与にとどまるケースが多いですが、海外の事例では農家が積極的に運営に参画することで、地域ブランドとして農産物の付加価値が高まる好循環が生まれています。農業従事者が主体になることが原則です。
参考:ニュージーランドのコミュニティガーデンが地域社会で果たす役割の解説
コミュニティガーデンの魅力とは?「友情」も「癒し」も育む事例(LIFULL HOME'S)