遊休農地固定資産税が1.8倍?農地中間管理機構と対策の全貌

あなたの土地は大丈夫?遊休農地の固定資産税が1.8倍になる仕組みと、農地中間管理機構を活用した具体的な回避策を徹底解説。意外な「雑種地課税」の落とし穴や相続リスクまで、今すぐ確認すべき対策とは?
遊休農地対策の要点まとめ
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1.8倍の増税リスク

遊休農地と認定されると評価額の補正係数(0.55)が適用外になり税額急増。

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農地中間管理機構

機構への貸付で課税軽減措置が適用。耕作放棄地の解消と節税を同時に実現。

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雑種地評価の罠

安易な資材置き場化は「宅地並み課税」&「原状回復命令」のダブルパンチ。

遊休農地の固定資産税

遊休農地の固定資産税が1.8倍になる仕組みと計算

 

多くの土地所有者が誤解している点ですが、「耕作していない=即座に増税」というわけではありません。しかし、適切な管理を行わずに放置された遊休農地には、通常の農地とは異なる厳しい課税ルールが適用されます。具体的には、固定資産税が約1.8倍に跳ね上がるリスクが存在します。この増額の背景には、日本の農地法と地方税法の改正が深く関わっています。

 

通常、農地の固定資産税評価額は、売買実例価額に「限界収益修正率」という係数を掛けて算出されます。この係数は通常「0.55」と定められており、農地は収益性が低い(宅地のように高い地代や収益を生まない)という前提のもと、評価額を約半分に抑える優遇措置がとられています。計算式で表すと以下のようになります。

 

  • 通常の農地評価額 = 売買実例価額 × 0.55(限界収益修正率)

しかし、平成29年度(2017年度)以降の税制改正により、農業委員会の調査によって「遊休農地」と認定され、かつ「農地中間管理機構との協議勧告」を受けた農地については、この「0.55」の係数を乗じることができなくなりました。つまり、評価額の割引が撤廃され、本来の土地価値(売買価格ベース)がそのまま評価額として反映されることになります。

 

参考)遊休農地の固定資産税が約1.8倍に?とるべき対策とは – R…

  • 勧告を受けた遊休農地の評価額 = 売買実例価額 × 1.0(修正なし)

数学的に見れば、0.55倍されていたものが1.0倍に戻るため、1 ÷ 0.55 ≒ 1.818... となり、税額が約1.8倍になるという計算です。これは単なる増税ではなく、「農地として活用しないなら、農地並みの低い税負担は認めない」という国からの強いメッセージと言えます。

 

具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。

 

仮に、通常の農地評価額が100万円の土地があったとします。これが遊休農地として勧告を受けると、評価額のベースとなる数字が0.55で割り戻され、約181万円に跳ね上がります。
固定資産税の標準税率は1.4%ですので、単純計算で税額は以下のように変化します(実際の税額計算には負担調整措置などが関わるため、あくまで概算です)。

 

区分 評価額(概算) 固定資産税額(税率1.4%)
通常の農地 100万円 14,000円
遊休農地(勧告後) 181万円 25,340円

この差額は毎年発生し続けます。特に、市街化区域内にある農地(生産緑地指定を受けていないもの)の場合、もともと宅地並み評価に近い高い税額が課されているケースがありますが、そこからさらに優遇が外れることで、所有者にとっては死活問題となりかねない負担増となります。

 

また、この「1.8倍」措置は固定資産税だけでなく、都市計画税にも影響を及ぼす可能性があります。都市計画税も固定資産税評価額を基に計算されるため、評価額自体が上昇すれば、当然ながら都市計画税も連動して上昇します。

 

重要なのは、この増税措置が「遊休農地になった瞬間」に適用されるわけではないという点です。農業委員会による毎年の「利用状況調査」があり、そこで「耕作されておらず、今後も耕作される見込みがない(1号遊休農地)」または「周辺の農地に比べて利用度が著しく低い(2号遊休農地)」と判定されることが第一段階です。その後、所有者に対して利用意向調査が行われ、それでも改善が見られない場合に「農地中間管理機構と協議しなさい」という勧告が出されます。この勧告が出された翌年度から、課税強化が実施されるのです。したがって、調査票が届いた段階で適切に対応すれば、まだ回避の余地は残されています。

 

参考)耕作放棄地の税金は高い?固定資産税と対策を解説

遊休農地の農業委員会による勧告と農地中間管理機構

前述の通り、増税のトリガーとなるのは農業委員会からの「勧告」です。このプロセスを理解し、適切に対処することが、遊休農地の所有者にとって最大の防御策となります。ここでは、勧告に至るまでのフローと、その過程で重要な役割を果たす「農地中間管理機構(通称:農地バンク)」の活用法について詳述します。

 

毎年1回、農業委員会は管轄内の農地を一斉にパトロールします(利用状況調査)。ここで雑草が繁茂していたり、長期間作付けが行われていないと判断された農地は、遊休農地リストに掲載されます。その後、所有者のもとに「利用意向調査書」が送付されます。この書類は単なるアンケートではなく、法的効力を持つ行政手続きの一環です。無視をして回答しない場合、それだけで「勧告」のリスクが高まるため、必ず回答する必要があります。

 

回答の選択肢には主に以下の3つがあります。

 

  1. 自ら耕作を再開する(または保全管理を行う)。
  2. 農地中間管理機構や他の農業者に貸し付ける。
  3. 農地以外へ転用する(現実的に可能な場合)。

ここで最も推奨される公的な解決策が、農地中間管理機構への貸付です。この機構は、都道府県が主体となって設置した公的な機関で、分散した農地を借り受け、担い手農家(認定農業者や大規模法人)にまとめて貸し出す「農地の集積・集約化」を目的としています。

 

農地中間管理機構を活用するメリットは、単に借り手を探してくれるだけではありません。税制上の大きな優遇措置が用意されています。
もし、所有している遊休農地を機構に10年以上貸し付けた場合、その期間中の固定資産税が2分の1(半額)に軽減される特例措置があります(※期間や条件は自治体や制度改正により変動するため要確認)。さらに、所有権を機構に移転して売却した場合には、譲渡所得から最大800万円または1,500万円の特別控除が受けられるケースもあります。

 

つまり、機構を活用することで、以下の「逆転現象」を起こすことが可能です。

 

  • 放置した場合: 固定資産税が1.8倍に増額。
  • 機構に貸した場合: 固定資産税が0.5倍に減額。

この差は3倍以上にもなります。また、機構を通じた貸借契約であれば、契約期間満了後に農地が確実に戻ってくるという安心感もあります。個人間で直接貸し借りを行う場合、離作補償の問題や、借地権が強力すぎて返還してもらえないといったトラブルが過去に多発しましたが、機構が間に入ることでこうした人間関係のトラブルを回避できる点も大きなメリットです。

 

参考)農地の課税強化・軽減について|鳥取市

ただし、注意点もあります。
農地中間管理機構は「どんな農地でも借りてくれる」わけではありません。担い手が付きにくい条件の悪い農地(重機が入らない、鳥獣被害が激しい、飛び地で管理しにくいなど)は、機構側から「借り受け不可」と判断されることがあります。この場合、制度上は「機構に貸そうとしたが断られた」という実績が残るため、直ちに1.8倍の増税対象にはならないケースが多いですが、根本的な問題(誰も耕作しない土地を持ち続けるコスト)は解決しません。

 

機構への貸付が難しい場合、次善の策として「農地利用集積円滑化団体(市町村など)」を通じた貸付や、近隣の農家への直接依頼を検討することになります。重要なのは、「貸し出す意思がある」ことを農業委員会に対して明確に示し続け、協議のテーブルに着き続けることです。行政側としても、協力的な所有者に対して強硬な「勧告」を行うことは避けたいのが本音であり、誠実な対応が課税強化を回避する鍵となります。

 

耕作放棄地の農地転用と解体による節税対策

農地中間管理機構への貸付も難しく、自ら耕作することも不可能な場合、最終的な手段として検討されるのが「農地転用」です。これは、農地を農地以外の地目(宅地、雑種地、駐車場、資材置き場など)に変更することを指します。しかし、これは単に「明日から駐車場にします」と宣言すれば済むものではなく、農地法に基づく許可(または届出)が必要です。

 

耕作放棄地(遊休農地)の解消策として転用を行う場合、まずはその土地が「農振農用地(青地)」か「それ以外(白地)」かを確認する必要があります。

  • 農用地区域内農地(青地): 原則として転用できません。農業専用地として守られているため、まずは市町村に「農振除外申請」を行い、認められれば転用許可申請に進めますが、除外のハードルは極めて高く、年単位の時間がかかります。
  • その他農地(白地): 比較的転用が認められやすいエリアです。立地基準と一般基準を満たせば、宅地や駐車場への転用が可能です。

転用による固定資産税への影響は複雑です。一般的に、農地から宅地や雑種地へ地目が変わると、評価額は跳ね上がります(数十倍になることも珍しくありません)。「節税対策」という文脈では、転用自体は増税要因になります。しかし、ここで言う「対策」とは、「将来的に売れない・貸せない負動産を持ち続けるリスク」を断ち切るための資産の組み換えという意味合いが強いです。

 

例えば、農地転用を行って「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」を導入するという選択肢があります。これは農地に支柱を立てて上部で発電し、下部で農業を継続する手法です。これならば、地目は農地のまま(一時転用許可)で済む場合があり、固定資産税の急激な上昇を抑えつつ、売電収入で税金や維持管理費を賄うことができます。特に、日当たりが良いが水利が悪く耕作に向かない放棄地などは、太陽光発電に適している場合があります。

 

また、市街化区域内の農地であれば、思い切って転用し、アパートや戸建て賃貸を建設することで、「住宅用地の特例(固定資産税が最大1/6になる)」を適用させる手法もあります。農地のまま放置して「宅地並み課税」を受けるより、建物を建てて特例を受けた方が、収益も生まれ、税負担感も納得できるものになる可能性があります。

 

一方で、既存の古い納屋やビニールハウスの残骸が残っているような耕作放棄地の場合、これらを「解体」して更地にすることで、管理コストを下げるという考え方もありますが、税務上は注意が必要です。建物(登記されているもの)を取り壊すと、その土地は「住宅用地」としての軽減措置を失い、更地評価となって固定資産税が上がることがあります。しかし、農地上の農業用施設(未登記の小屋など)を撤去して純粋な農地に戻す(復元する)場合は、農地としての評価を維持しやすくなり、農業委員会からの「非農地判断(農地ではないので農地法の保護対象外=雑種地課税への移行)」を回避するための有効な手段となります。

 

「転用」は諸刃の剣です。成功すれば収益物件に生まれ変わりますが、失敗すれば、高い税金がかかるだけのただの空き地(雑種地)になります。計画段階で、転用後の税額シミュレーションと、地域の需給バランス(駐車場にして借り手がいるのか?)を慎重に見極める必要があります。

 

遊休農地の『雑種地』評価リスクと資材置き場転用の落とし穴

遊休農地の対策において、検索上位の記事ではあまり深く触れられていない、しかし極めて危険な「落とし穴」が存在します。それが、「無断転用」による雑種地』評価と課税リスクです。

 

多くの土地所有者が陥りやすいのが、「どうせ耕作しないなら、砂利を敷いて資材置き場や駐車場として貸せば、少しは小遣い稼ぎになるだろう」という安易な考えです。正規の農地転用許可を取らずにこうした行為を行うと、農地法違反(無断転用)となりますが、問題は行政処分だけにとどまりません。税務上の評価において、恐ろしい事態を招きます。

 

固定資産税の評価は、登記簿上の地目(田・畑)ではなく、1月1日時点の「現況(実際の様子)」で判断されます(現況主義)。
もし、あなたが農地に砂利を敷き詰め、プレハブを置いたり車を停めたりできる状態にしていれば、市町村の税務課はパトロールや航空写真により、その土地を「農地」ではなく「雑種地」として認定します。

 

ここが最大の落とし穴です。

 

「雑種地」の評価額は、近隣の土地(多くは宅地)の価格を基準に算出されます(宅地比準方式)。地域にもよりますが、雑種地の固定資産税は、農地と比較して数倍〜数十倍、場合によっては100倍近くに跳ね上がることがあります。

 

前述した「遊休農地の1.8倍増税」などは、まだかわいいものです。1.8倍になっても、元が安い農地評価ベースの話です。しかし、雑種地認定されると、ベース自体が「宅地並み」の高額な評価額に切り替わります。しかも、更地の雑種地には「住宅用地の特例(1/6減額)」のような優遇措置が一切ありません。

 

参考)【初心者向け】雑種地の固定資産税はいくら、いつ、どのように払…

結果として、以下のような「地獄のサイクル」に陥る事例が後を絶ちません。

 

  1. 遊休農地をなんとかしようと、無許可で資材置き場にする。
  2. 税務課に見つかり、「雑種地」として認定され、固定資産税が激増する。
  3. 同時に農業委員会にも見つかり、「農地法違反(無断転用)」として、「工事中止命令」や「原状回復命令」が出される。

    参考)農地転用<資材置き場> 第5回|資材置き場の無断転用リスクと…

  4. 所有者は、高い税金を払いながら、自費で砂利を撤去し、土を入れ替えて農地に戻さなければならない。
  5. もし従わなければ、最大3年以下の懲役または300万円(法人は1億円)以下の罰金が科される可能性がある。

    参考)農地転用許可がおりない!その理由と農地の活用方法を紹介

「資材置き場なら建物も建ってないし、いつでも戻せるから大丈夫」という認識は致命的です。現況が農地でなくなった時点で、税制上の保護(農地評価)は消滅します。特に近年は、ドローンや衛星写真を使った行政の監視体制が強化されており、「隠れて転用」はほぼ不可能です。

 

また、一度「雑種地」として課税実績がつくと、将来的に農地に戻して耕作を再開しても、すぐに農地評価に戻してくれるとは限りません。「肥沃度や保水性が失われており、客観的に農地とは言えない」と判断されれば、高額な雑種地課税が継続するリスクすらあります。

 

遊休農地対策として「何か別の用途に」と考える際は、必ず正規の転用許可を取得することが大前提です。そして、転用許可が下りないような立地(農用地区域など)であれば、中途半端な現状変更は絶対に避け、あくまで「農地として維持管理(草刈りなど)」を行うか、前述の機構への貸付を模索するのが、最も経済的ダメージの少ない選択肢となります。

遊休農地固定資産税の納税猶予と生産緑地の活用

最後に、相続税と絡んだ固定資産税の問題、そして都市部の農地における「生産緑地」制度について解説します。これらは、資産価値の高い都市近郊の農地を持つ方にとって極めて重要です。

 

まず、「相続税の納税猶予制度」です。これは、農地を相続した人が農業を継続する場合、農地にかかる相続税の大部分を猶予(実質免除)するという強力な特例です。しかし、この特例を受けている農地が遊休農地となり、農業委員会から「耕作放棄地」として認定・勧告を受けてしまうと、猶予が打ち切られるリスクがあります。

 

猶予が打ち切られると、それまで免除されていた相続税額に加え、猶予期間に応じた「利子税」まで上乗せして一括納付しなければなりません。これは破産を招きかねないほどの莫大な金額になることがあります。したがって、納税猶予を受けている農地については、どんなにコストがかかっても耕作を継続するか、制度に適合した形での貸付(特定貸付など)を行う必要があります。「草刈りだけしていればいい」というレベルではなく、「農業経営を行っている」実態が厳しく問われます。

 

次に、三大都市圏などの特定市にある「生産緑地」です。生産緑地に指定されると、市街化区域内であっても農地並みの低い固定資産税で済みます。さらに、相続税の納税猶予も適用可能です。

 

しかし、生産緑地には「30年間の営農義務」があります。もし、主たる従事者が故障したり死亡したりして営農が困難になった場合、「買取申出」を行うことで指定を解除できますが、指定解除後は通常の「宅地並み課税」に戻ります。

 

ここで問題になるのが「2022年問題」以降の制度改正です。「特定生産緑地」への移行を選択しなかった場合、段階的に税優遇が縮小されます。また、生産緑地内にある遊休農地も、通常の農地と同様に勧告を受ければ1.8倍の課税強化の対象となり得ます(ただし、生産緑地は保全義務が強いため、放置すれば即座に買取申出や指定解除の議論になります)。

 

対策としてのポイントは以下の通りです。

  • 納税猶予適用地は絶対死守: 1.8倍の固定資産税どころか、数千万円単位の相続税追徴の恐れがあるため、シルバー人材センターへの委託や、農地中間管理機構を通じた貸付(特定貸付扱いになるか要確認)を最優先で行う。
  • 市民農園の開設: 都市部の遊休農地であれば、「市民農園(貸し農園)」として開設することで、自ら耕作しなくても農地としての利用実態を作り、高い税金を回避できる場合があります。特に「特定農地貸付法」や「市民農園整備促進法」を活用すれば、合法的に市民に貸し出し、利用料収入を得ながら、農地評価を維持できる可能性があります。

遊休農地の問題は、単に毎年の税金が数万円上がるかどうかの話に留まりません。無断転用による罰則、相続税猶予の打ち切り、雑種地認定による課税激増など、一つの判断ミスが連鎖的に財務状況を悪化させる構造になっています。「何もせず放置する」ことが、最も高コストな選択になる時代です。まずは手元の「固定資産税課税明細書」を確認し、自分の農地がどのような評価を受けているかチェックすることから始めましょう。

 

 


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