かぼちゃの栽培において、収穫直前の日焼け防止対策は、秀品率を維持し売上を確保するために避けては通れない作業です。特に近年の猛暑により、露地栽培では短時間の直射日光でも果実温度が急上昇し、深刻なダメージを受けるケースが増加しています。物理的な遮光資材として代表的な「新聞紙」と「専用テープ」には、それぞれ明確なメリットとデメリットが存在します。農場の規模や労働力に応じてこれらを適切に使い分けることが、経営効率を高める鍵となります。
1. 新聞紙による被覆(コスト重視)
古くから行われている新聞紙を使う方法は、資材コストがほぼかからない点が最大のメリットです。しかし、単に被せるだけでは風で飛ばされるリスクがあるため、正しい巻き方を習得する必要があります。
2. 日焼け防止専用テープの活用(効率・品質重視)
近年、プロの農家の間で導入が進んでいるのが「日焼け防止テープ(例:かぼちゃまもるテープなど)」です。これは表面が白色、裏面が遮光性のある素材で作られた粘着テープで、果実の上面に貼り付けるだけで対策が完了します。
以下の表は、両者の特徴を比較したものです。
| 比較項目 | 新聞紙 | 専用テープ |
|---|---|---|
| 資材コスト | 非常に安い(ほぼ0円) | 有償(1玉あたり数円〜) |
| 作業時間 | 長い(包む手間) | 短い(貼るだけ) |
| 耐水・耐風性 | 低い(破れ・飛散あり) | 高い(安定している) |
| 温度抑制効果 | 中程度(遮光のみ) | 高い(遮光+反射) |
| 推奨規模 | 家庭菜園〜小規模 | 中規模〜大規模 |
菊水テープ株式会社:かぼちゃまもるテープ(製品詳細と遮光・放熱のメカニズムについて解説されています)
効果的な対策を講じるためには、なぜかぼちゃが日焼けを起こすのか、その生理的なメカニズムを深く理解しておく必要があります。「日焼け」と一言で言っても、その症状には段階があり、軽度の品質低下で済むものから、出荷不能となる腐敗まで様々です。
1. 葉の枯れ上がりによる急激な環境変化
かぼちゃの日焼け(高温障害)の多くは、収穫間近になってうどんこ病などで葉が枯れ上がり、それまで葉の陰にあった果実がいきなり直射日光にさらされることで発生します 。人間の肌と同様、植物の果皮も徐々に光に慣れればある程度の耐性を持ちますが、急激な紫外線と熱の暴露には耐えられません。
参考)https://www.shuminoengei.jp/?m=pcamp;a=page_qa_detailamp;target_c_qa_id=13338
2. 「白化(クリスタル)」のメカニズム
日焼けの初期症状としてよく見られるのが、果皮の一部が白く変色する現象です。これは専門的には「クリスタル」とも呼ばれ、果肉中の水分が急激な高温により蒸発し、糖質やデンプン質が結晶化したものです 。
3. 組織壊死と腐敗への進行
さらに高温にさらされ続けると、果皮の細胞そのものが死滅(壊死)し、茶色く変色します。この状態になると、壊死した部分から細菌が侵入しやすくなり、二次的な腐敗を招きます。
このように、日焼けは単なる「変色」ではなく、果実の生理機能を破壊する深刻な障害です。葉が健全に保たれている間は葉自体が最良の日傘となりますが、葉が衰え始めた瞬間からリスクが跳ね上がることを認識しておきましょう。
日焼け被害を最小限に抑えるためには、物理的な遮光だけでなく、「いつ収穫するか」というタイミングの判断と、収穫後の「追熟(キュアリング)」の管理が極めて重要です。日焼けのリスクを恐れるあまり早獲りしすぎると味が乗らず、逆に畑に置きすぎると日焼けによる廃棄ロスが増大します。
1. 積算温度と葉の状態を見極める
かぼちゃの収穫適期は、一般的に開花後45日〜50日程度、あるいは積算温度(日平均気温の合計)が1000℃〜1100℃に達した頃とされています。しかし、猛暑の年は葉の老化が早く進み、果実が露出する時期が早まる傾向にあります。
2. 収穫後の追熟と日焼け果の選別
収穫したかぼちゃは、風通しの良い日陰で1週間〜2週間ほど乾燥(キュアリング)させることで、デンプンが糖に変わり甘みが増します。しかし、すでに軽度の日焼けをしてしまった果実の扱いは慎重に行う必要があります。
農研機構・鹿児島県:粘着テープによるカボチャ果実の日焼け防止法(収穫前の具体的な日数と被害発生の相関について詳細なデータがあります)
ここまでは物理的な「遮光」に焦点を当ててきましたが、栽培技術の視点から一歩踏み込み、「日焼けしにくい強い果実を作る」というアプローチを紹介します。これは検索上位の一般的なまとめ記事にはあまり詳しく書かれていない、プロ向けの土壌肥料学的な視点です。日焼けは物理的な熱ダメージですが、それに耐える細胞壁を作ることで、被害を軽減できる可能性があります。
1. カルシウムによる細胞壁の強化
カルシウムは植物の細胞壁(ペクチン)を構成する重要な要素で、細胞同士の結合を強くする「セメント」のような役割を果たします。果皮のカルシウム濃度を高めることで、組織が緻密になり、外部からの物理的ストレス(熱や光)に対する耐性が向上します 。
2. ケイ酸(シリカ)による耐暑性の向上
イネ科作物でよく使われるケイ酸ですが、近年ではウリ科野菜でもその効果が注目されています。ケイ酸は植物の表皮細胞に蓄積し、「クチクラ層」を強化します。
3. 窒素過多を避ける
逆に、窒素肥料が効きすぎていると、葉は茂りますが細胞壁が薄く、水っぽい軟弱な組織になります。こうなると、葉が枯れて果実が露出した瞬間に、あっという間に重度の日焼けを起こしてしまいます。収穫後半に向けて窒素を切り、リン酸・カリ・カルシウム主体の肥培管理に移行することが、結果的に最強の日焼け防止策となります 。
最後に、個々の果実を守る対策と並行して行うべき、圃場全体あるいは株全体での管理テクニックについて解説します。理想的なのは、資材を使わずに「自らの葉」で日陰を作ることですが、それが難しい場合のバックアッププランも必要です。
1. ツル引き(ツル直し)による天然の日傘作り
かぼちゃ栽培の基本テクニックですが、着果が確認された段階で、親ヅルや子ヅルを意図的に配置し直す「ツル引き」が有効です。
2. 遮光ネット(寒冷紗)の展張
広範囲にわたって葉が枯れてしまった場合や、異常な猛暑で個別の対策が追いつかない場合は、遮光ネットの使用を検討します。
3. 敷き藁(わら)による地温抑制と照り返し防止
日焼けは上からの太陽光だけでなく、マルチや地面からの「照り返し」によっても発生します。特に果実の底面や側面が焼けるのはこのためです。
生活協同組合おおさかパルコープ:かぼちゃの白変(クリスタル)現象についての詳細解説(消費者向けですが、現象の理解に役立ちます)
これら複数の対策を、気象条件や作物の生育状況に合わせて組み合わせることで、猛暑の中でも高品質なかぼちゃを収穫することが可能になります。まずはコストのかからない「葉の管理」と「肥料バランス」を見直し、その上で必要に応じて「テープ」や「新聞紙」という物理的な盾を用意する、という二段構えの戦略で挑んでください。