暖房コストに悩む農業従事者必見の内容です。
設定温度を夜間一定で管理すると燃料を2割多く使います
変温管理とは、施設園芸において一日の時間帯ごとに設定温度を変化させる温度管理手法のことです。温室やビニールハウスでの加温栽培において、夜間の温度を一定に保つのではなく、作物の生理機能に合わせて時間帯別に温度を調整します。
この技術の核心は、植物の生理活動のリズムに合わせた温度管理にあります。日中に光合成で生成された糖などの同化養分は、夕方から数時間かけて果実や根に移動(転流)します。この転流は温度が高いほど促進されるため、夕方から前夜半は比較的高めの温度で管理するのです。
一方で、夜間後半から早朝にかけては呼吸による養分の消耗を抑えるため、低めの温度設定に切り替えます。植物は呼吸によってエネルギーを消費しますが、温度が低いほど呼吸量が減少するため、この時間帯の低温管理が効果的なのです。つまり植物の代謝に合わせた温度設定ということですね。
従来の恒温管理(一定温度管理)と比較すると、変温管理では燃料消費量を5〜20%削減できることが各地の実証試験で確認されています。さらに収量や品質も同等以上に維持できるため、コスト削減と生産性向上の両立が可能になります。
この技術を実現するためには、複数の温度設定が可能な多段サーモ装置が必要です。4段サーモなどの装置を既存の暖房機に取り付けるだけで導入できるため、大規模な設備投資なしで始められる点も魅力といえます。
変温管理では一日を4つの時間帯に分けて、それぞれ異なる温度を設定するのが一般的です。各時間帯の目的と温度設定の考え方を理解することが、効果的な変温管理の第一歩となります。
まず日中(午前9時頃から日没まで)は光合成が活発に行われる時間帯です。トマトであれば25〜28℃、きゅうりなら28〜30℃程度を目標に管理します。この時間帯は太陽光による自然な温度上昇があるため、暖房による加温は最小限で済みます。
次に転流促進時間帯(日没後から4〜5時間)では、日中に生成された光合成産物を効率よく果実や根に移動させるため、やや高めの温度を維持します。トマトの場合は15〜16℃程度、きゅうりでは16〜18℃程度に設定するのが標準的です。
高めの温度設定が基本です。
その後の呼吸抑制時間帯(夜半から早朝まで)は、植物の呼吸による養分消耗を最小限に抑えるため、最も低い温度設定にします。トマトでは12〜13℃、きゅうりでは13〜14℃程度まで下げることができます。ただし品種や生育ステージによって低温障害のリスクがあるため、各品目の限界温度を確認することが重要です。
最後に早朝加温時間帯(日の出30分〜1時間前から)では、日の出と同時にスムーズに光合成が開始できるよう、温度を徐々に上げていきます。この時間帯に15〜18℃程度まで昇温することで、朝から効率的に光合成が行われ、一日の生産性が向上します。
各時間帯の温度差は作物によって異なりますが、一般的には前夜半と後夜半で3〜5℃程度の温度差を設けることで、省エネ効果と生育促進の両立が可能になります。急激な温度変化は作物にストレスを与えるため、1時間あたり2℃以内の温度上昇に抑えることも大切なポイントです。
農林水産省の「施設園芸省エネルギー生産管理マニュアル」では、各品目の詳細な温度設定指針が示されています
トマトの変温管理では、冬春作型で日中を25〜28℃、転流促進時間帯(日没後4〜5時間)を15〜16℃、呼吸抑制時間帯(夜半から早朝)を12〜13℃に設定するのが標準的です。この温度設定により、恒温管理と比較して10〜15%の燃料削減が期待できます。
特に注目すべきは夜温15〜16℃が省エネと品質確保の両立における鍵の温度帯となる点です。この温度帯であれば、産地の出荷基準を満たす収量と品質を維持しながら、暖房コストを大幅に抑えられることが愛知県などの実証試験で明らかになっています。それ以下に下げると収量低下のリスクが高まります。
トマトの生育適温は昼間25〜30℃、夜間10〜15℃とされていますが、夜間温度が低すぎると生育遅延や着果不良を招きます。特に開花期や果実肥大期には最低夜温を12℃以上に保つことが重要で、この温度を下回ると花粉の機能が低下し、着果率が悪化する可能性があります。
変温管理を行う際には、果実への結露防止も考慮する必要があります。早朝の温度上昇を急激にすると、気温と果実温の温度差により果実表面に結露が生じ、灰色かび病などの病害発生リスクが高まります。そのため段階的な加温ができる多段サーモを使い、1時間に2℃以内の昇温に抑えることが推奨されます。
さらに変温管理とCO2施用を組み合わせることで、相乗効果が得られることも分かっています。農研機構の研究によると、変温管理下でCO2を施用すると商品果収量が33〜55%増加する事例も報告されており、投資対効果の高い組み合わせといえます。
10アール当たりの暖房費が年間50万円のトマトハウスで15%の燃料削減を実現すれば、年間7万5千円のコスト削減になります。これは小規模な農家でも十分にメリットを感じられる金額です。多段サーモの導入費用は6〜7万円程度のため、1年程度で投資回収が可能になる計算です。
きゅうりの変温管理では、日中を28〜30℃、転流促進時間帯を16〜18℃、呼吸抑制時間帯を13〜14℃に設定するのが基本です。特に冬春作型では、活着後に早朝加温や転流促進のための夕刻以降の温度維持を行わない2段変温管理(9時〜16時:18℃、16時〜9時:13℃)にすることで、慣行の4段変温管理と比較して燃料消費をさらに削減できます。
きゅうりは果菜類の中でも特に温度感受性が高い作物です。生育適温は昼間25〜30℃、夜間15〜18℃とされ、最低限界温度は8℃前後となります。この限界温度を下回ると生育が停止し、長時間続くと低温障害が発生するため、後夜半の設定温度には特に注意が必要です。
近年のワックス系品種(果実表面の光沢が優れる品種)は、従来品種に比べて1〜2℃高めの温度管理が適しています。このため品種特性に応じた温度調整が収量や果実品質に大きく影響します。
品種カタログで推奨温度を確認しましょう。
変夜温管理の実証試験では、前夜半16℃・後夜半10℃の変温管理を収穫開始後から実施した場合、定夜温管理(14℃一定)に対して同等の収量・品質を維持しながら燃料を約2割削減できたという報告があります。これは年間の燃料費が40万円のハウスであれば、8万円のコスト削減に相当します。
ただし極端な低温管理は禁物です。特に子づるを1本仕立てにする栽培体系では、低温による生育遅延が収穫開始時期を大きく遅らせる可能性があります。市場の出荷タイミングを逃すと価格が下落するため、栽培スケジュールとの兼ね合いも考慮した温度設定が求められます。
循環扇を併用することで、変温管理の効果をさらに高められます。きゅうりは葉が大きく茂るため、ハウス内に温度ムラが生じやすい特性があります。循環扇で空気を撹拌することで均一な温度分布が実現し、10%程度の追加的な燃料削減効果が期待できると佐賀県の試験結果が示しています。
いちごの変温管理では、ハウス内の最低夜温を慣行の8℃から5℃に下げ、日の出30分〜1時間前より早朝加温で13℃に上げる設定が基本となります。日中は慣行より3℃高めの28℃管理とすることで、12月以降の収量を確保しながら燃料コストを大幅に削減できます。
いちごの生育適温は18〜25℃で、比較的冷涼な気候を好む作物です。気温が30℃を超えると極端に生育が衰え、花芽分化にも悪影響を及ぼします。そのため夏季の高温対策として、換気や遮光資材、循環扇の活用が不可欠です。
高温は大敵ということですね。
いちごの高設栽培では、根域温度管理と組み合わせた変温管理が効果的です。根域温度を従来の15℃一定管理から、夜間10℃・早朝4時頃から15℃に上げる変温管理に切り替えることで、ハウス内温度を低く設定しても生育や収量への影響を最小限に抑えられます。冷温水製造装置と2連チューブを組み合わせた装置では、約4割の光熱費削減が実証されています。
クラウン温度制御技術を導入すれば、さらなる省エネ効果が期待できます。冬の低温期にいちごの生長点が集中する株元(クラウン部)を局所的に20℃前後に維持することで、温室内の夜間管理温度を大幅に下げることが可能です。テープヒーターなどの加熱器を使う方法もあり、装置導入コストはかかりますが収量増加と燃料コスト低減により所得向上が見込めます。
いちごで注意すべきは、低温による花芽分化への影響です。第2花房を適期に分化させるためには、育苗期から定植後の温度管理が重要になります。特に夏季の高温期に育苗する場合、夜間冷房を活用して温度を下げることで、花芽分化を促進し安定した収量確保につながります。
病害管理の面でも変温管理は有効です。いちごの灰色かび病や菌核病は多湿環境で発生しやすいため、適切な温度管理と換気により湿度をコントロールすることが重要です。早朝加温により結露を防ぐことで、これらの病害発生リスクを低減できます。
防除コストも抑えられます。
多段サーモ装置とは、24時間を複数のステップに分割し、各時間帯で異なる温度設定ができる制御装置のことです。4段サーモが最も一般的で、1日を4つの時間帯に分けて希望する温度を保つよう暖房機を制御します。植物生理に合わせた温度管理を自動で行えるのが最大の利点です。
装置選びの第一のポイントは、既存の暖房機との互換性です。多くの多段サーモは既設の温風暖房機やボイラーに後付けできる設計になっていますが、機種によっては対応していない場合もあります。購入前にメーカーや販売店に確認することで、無駄な出費を避けられます。
温度センサーの設置位置も重要な要素です。センサーは作物の生育点付近に設置することが推奨されますが、直射日光や冷気の吹き出し口に近い場所は避ける必要があります。誤った位置にセンサーを設置すると、実際の作物周辺温度と設定温度に大きな差が生じ、変温管理の効果が半減してしまいます。
設置場所の選定が成功の鍵です。
日射演算機能付きの環境制御装置を選ぶと、さらに高度な管理が可能になります。晴れの日と曇りや雨の日で転流促進時間帯の温度を自動で変化させることで、光合成の促進とさらなる省エネ効果が期待できます。初期投資は4段サーモより高くなりますが、大規模経営や高収益作物の栽培では投資対効果が十分に見込めます。
価格帯は製品によって幅がありますが、基本的な4段サーモであれば6〜7万円程度で導入可能です。これに対して日射演算機能や遠隔監視機能を備えた高機能な環境制御装置は数十万円以上になります。自分の経営規模や栽培品目、管理の手間を考慮して、適切な機能レベルの装置を選ぶことが大切です。
導入後のサポート体制も確認しておきたいポイントです。設定方法や故障時の対応について、メーカーや販売店が十分なサポートを提供しているかを事前に確認しましょう。特に初めて変温管理に取り組む場合、導入初期の設定調整や使い方の指導が受けられるかどうかが、成功の可否を左右します。普及センターやJAの営農指導員に相談するのも有効な方法です。
EOD加温技術とは、温度や光に対する感受性の高い日没後の時間帯(End of Day : EOD)に短時間(3〜4時間程度)温室内の設定温度を高め、その後の夜間を慣行よりも低温で管理できる技術です。花き生産で特に効果が高く、栽培期間中の燃料使用量を大幅に削減できます。
この技術の科学的根拠は、植物が日没後の温度に強く反応する生理特性にあります。日没直後の数時間に高温処理を行うと、その後長時間低温管理しても生育や開花が促進される現象が確認されています。これにより夜間全体を高温に保つ必要がなくなり、大幅な省エネが実現するのです。
仕組みが理にかなっています。
スプレーギクやトルコギキョウでの実証試験では、EOD加温処理により慣行の温度管理と同等の切り花収量・品質を確保しながら、重油や電力の消費量を30%程度削減できることが確認されています。和歌山県や鳥取県の試験結果がこれを裏付けており、開花促進効果による栽培期間の短縮も期待されています。
シャインマスカットの加温栽培では、さらに劇的な効果が報告されています。宮城県の実証試験によると、変温管理により40%のコスト削減、EOD管理により53%のコスト削減が可能であることが示されました。年間の燃料費が100万円のブドウ園であれば、EOD管理で53万円の削減になる計算です。これは経営に大きなインパクトを与える金額といえます。
ただし全ての品目で効果があるわけではありません。シクラメンでは温度を下げることで相対湿度が高まり、好湿性病害が発生するケースも報告されています。品目や品種によって適否が異なるため、導入前に普及センターやJA等の営農指導機関に相談することが重要です。
事前の情報収集が必須です。
EOD加温の設定は既存の4段サーモで実施可能なため、新たな大型投資は不要です。日没後の3〜4時間を慣行より2〜3℃高めに設定し、それ以降の夜間を慣行より3〜5℃低めに設定するのが基本パターンです。この手軽さが普及を後押ししており、全国各地で導入事例が増えています。