安定剤種類一覧で見極める!農業用展着剤の最適解

農薬の効果を最大化する「安定剤(展着剤)」の種類を一覧で解説。一般展着剤から機能性、固着剤まで、それぞれの特徴と使い分けを網羅しました。水質との相性や薬害リスクなど、プロ農家も意外と知らない独自視点も紹介します。今の散布、本当に効いていますか?

安定剤種類一覧と農業における展着剤の重要な役割

農業用安定剤(展着剤)の3大分類
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一般展着剤

表面張力を下げ、葉への「濡れ性」を改善する基本タイプ。安価で汎用性が高い。

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機能性展着剤

「浸透」「拡展」などの特殊機能を付与。シリコーン系やアジュバントが含まれる。

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固着剤(パラフィン)

耐雨性を高め、成分を葉に留める。予防剤や残効性を重視する場合に最適。

農業現場において「安定剤」という言葉が使われる際、それは単に薬剤の分解を防ぐ化学的な安定化剤だけでなく、散布液の物理的な性状を安定させ、対象作物への付着や浸透を確実にする「展着剤(アジュバント)」を指すことが一般的です。農薬登録上は補助剤に分類されますが、その役割は主剤の効果を「安定」させ、最大化することに他なりません。特に近年の高温多湿や局地的な豪雨といった不安定な気象条件下では、薬剤を散布してもすぐに流れ落ちてしまったり、害虫の隠れる葉裏まで届かなかったりするケースが増えています。こうした課題に対し、適切な安定剤(展着剤)を選択することは、薬剤費の無駄を省き、防除の確実性を高めるための最も費用対効果の高い投資となります。

 

参考)農薬の効果を安定させる「展着剤」の種類、使い方のポイントを徹…

tmpの一般展着剤と界面活性剤の基礎知識

 

一般展着剤は、最も古くから使用されている基本的な安定剤であり、その主成分は界面活性剤です。水は表面張力(水分子同士が引き合う力)が非常に強く、そのままでは水を弾く性質を持つキャベツやネギ、イネなどの作物表面には付着せず、球状になって転がり落ちてしまいます。一般展着剤に含まれる界面活性剤は、この表面張力を劇的に低下させることで、散布液を葉の表面に薄く均一に広げる役割(濡れ性)を果たします。

 

参考)agazine/minds/pdf/vol108_11.pd…

  • エステル型ノニオン系: 一般的な展着剤の多くがこれに該当し、水の硬度やpHの影響を受けにくく、他の薬剤との混用性が高いのが特徴です。
  • エーテル型ノニオン系: 浸透性が比較的高いタイプもあり、低温時でも性能が低下しにくい特性があります。
  • アニオン配合系: 起泡性(泡立ち)があるものの、洗浄力と再付着防止力に優れ、果樹などの汚れ軽減にも寄与します。

一般展着剤の使用倍率は通常5,000倍〜10,000倍と非常に薄く設定されています。これは、必要以上に濃度を上げると、逆に薬剤が葉から流れ落ちる「ランオフ」という現象を引き起こしてしまうためです。このタイプは、あくまで「付着を助ける」という受動的な役割に留まり、薬剤の効果自体を増強する作用は限定的です。しかし、安価であり、薬害のリスクも比較的低いため、日常的な防除においてベースとなる重要な資材です。特に、治療剤よりも予防剤(保護殺菌剤)のように、葉の表面全体を膜で覆う必要がある薬剤との相性が抜群です。

 

参考)展着剤とは?農薬の効果を引き出す機能性展着剤の選び方 - 丸…

成分系統 主な特徴 代表的な用途
ポリオキシエチレン系 最も標準的で安価。濡れ性を改善する。 野菜全般、水稲
リグニンスルホン酸塩 分散性に優れ、粉剤や水和剤の懸濁を安定させる。 果樹、濃厚散布
ポリナフチルメタンスルホン酸 固着力は弱いが、汚れが少ない。 花き、収穫前作物

tmpの機能性展着剤とシリコーンの驚異的効果

近年、プロ農家の間で急速に普及しているのが、単なる濡れ性以上の効果を持つ機能性展着剤(アジュバント)です。これらは、薬剤の分子を葉のワックス層や気孔から強制的に内部へ浸透させたり、害虫の油膜を破壊して殺虫成分を直接到達させたりする能動的な働きを持ちます。中でもシリコーン系の展着剤は、従来の界面活性剤とは次元の違う拡展能力を持っています。

 

参考)https://www.greenjapan.co.jp/driver.htm

シリコーン系展着剤の最大の特徴は、超低表面張力による「スーパーウェッティング(超濡れ性)」です。通常の展着剤では弾かれてしまうような微細な毛が密集した葉や、水を極端に弾く害虫(アブラムシやカイガラムシなど)の表面であっても、瞬時に液膜が広がり、対象を包み込みます。さらに、気孔からの速やかな浸透を促すため、浸透移行性のある殺菌剤や除草剤と組み合わせることで、その効果を数段引き上げることが可能です。

 

参考)展着剤を使って農薬の効果を引き出そう

  • 浸透促進効果: 薬剤有効成分をクチクラ層(ワックス層)を通過させて植物体内に送り込むため、治療効果のある殺菌剤(EBI剤など)や、根まで枯らす除草剤(グリホサート系)の効果が劇的に安定します。
  • 到達性の向上: 表面張力が極めて低いため、散布液が自ら広がり、直接かかっていない葉の裏側や、密集した葉の隙間まで薬剤を行き渡らせることができます。
  • 速乾性: 薄く広く広がるため、散布後の乾きが早く、散布直後の降雨による流亡リスクを低減できます。

参考:機能性展着剤の選び方とプラスアルファ機能の解説(MBC開発)
ただし、機能性展着剤は「諸刃の剣」でもあります。浸透力が強すぎるため、高温時や作物が弱っている時に使用すると、薬剤が過剰に吸収され、薬害(葉焼けや萎縮)を引き起こすリスクが高まります。また、ブルーム(果粉)を溶かしてしまい、キュウリやブドウなどの商品価値を損なう可能性もあるため、使用時期と対象作物の選定には慎重な判断が求められます。

 

参考)農薬の効果を上げる「展着剤」のススメ。展着剤とは?使用上の注…

tmpのパラフィン系安定剤と固着性のメカニズム

雨の多い日本において、散布した農薬をいかに雨で流されないようにするかは、防除暦を組む上での最大の課題です。ここで活躍するのが、パラフィン系や樹脂系に代表される固着性の高い展着剤です。これらは、散布液が乾燥する過程で、葉の表面に耐水性の高い被膜を形成し、農薬の有効成分を物理的に「糊付け」する役割を果たします。

パラフィンとは、ロウソクのロウと同じような疎水性(水を弾く性質)の物質です。パラフィン系展着剤を加用すると、薬剤の粒子がパラフィンの膜でコーティングされた状態で葉に固着します。一度乾燥してしまえば、後から雨が降っても再溶解しにくく、長期間にわたって薬剤が葉の上に留まり続けます。これを「耐雨性(レインファストネス)」と呼びます。

 

  • 予防効果の最大化: 保護殺菌剤(銅剤やTPN剤など)は、病原菌が侵入するのを表面で防ぐバリアとして機能するため、雨で流れてしまっては意味がありません。パラフィン系展着剤で固着させることで、次の散布までの期間、バリア機能を維持し続けることができます。
  • 有機JAS対応: パラフィン自体は天然由来の成分として扱われる製品も多く、有機栽培特別栽培農産物でも使用しやすい点がメリットです。
  • 混用順序の注意: パラフィン系は乳剤に近い性状を持つため、混用する際は水によく溶かしてから他の薬剤を入れるなど、特に「ママコ(ダマ)」にならないような注意が必要です。

固着剤にはパラフィン系の他に、天然樹脂(松脂など)を利用したものや、ポリアクリル酸塩を利用したものがあります。樹脂系は特に物理的な固着力が強く、強風による薬剤の剥離も防ぐ効果が期待できます。ただし、これら固着剤は「浸透性」はほとんどないため、浸透移行性殺虫剤や除草剤との相性は必ずしも良くありません。あくまで「表面に残す」ための安定剤であると理解して使い分ける必要があります。

tmpの独自視点:水質硬度と安定剤の隠れた相性

多くの農業従事者が農薬の種類や展着剤の銘柄にはこだわりますが、意外と見落としているのが「希釈に使う水」の質です。実は、日本の水は一般的に軟水と言われていますが、地域や水源(特に地下水)によっては、カルシウムやマグネシウムを多く含む「硬水」である場合があります。そして、この水質硬度が、特定の農薬や展着剤の安定性を著しく阻害することがあるのです。

 

独自のリサーチによると、特にグリホサート系の除草剤などは、水中のカルシウムイオンやマグネシウムイオンと結合(キレート結合)してしまい、効果が大幅に低下することが知られています。また、一部の界面活性剤(アニオン系)は、硬度成分と反応して不溶性の沈殿物(金属石鹸)を作り、展着効果を失うだけでなく、ノズルの詰まりの原因にもなります。

 

  1. pHの影響: 有機リン系やカーバメート系の殺虫剤の多くは、アルカリ性の水溶液中では「加水分解」を起こしやすく、散布タンクの中で混ぜてから時間が経つと、有効成分が分解されて効果が落ちてしまいます。地下水がアルカリ性に傾いている地域では、pH調整機能を持つ安定剤(酸性化剤)を添加することで、薬液を弱酸性に保ち、効果を安定させることができます。
  2. 硫酸アンモニウムの活用: 硬水対策として、硫酸アンモニウム(硫安)を添加剤として少量混ぜる技術があります。硫酸イオンがカルシウムイオンと先に結合することで、農薬成分が不活性化されるのを防ぐ「犠牲試薬」としての役割を果たします。これを製品化した特殊な機能性展着剤も存在します。
  3. 確認の重要性: 自分の圃場で使っている井戸水のpHやEC(電気伝導度)を一度測定してみることをお勧めします。もし高硬度や高pHであれば、どれだけ高価な薬剤や展着剤を使っても、そのポテンシャルを半分も発揮できていない可能性があります。

このように、安定剤(展着剤)の選定は、単に「くっつける」だけでなく、「水質の悪影響を無効化し、薬剤の化学的安定性を保つ」という視点を持つことで、防除のレベルを一段階引き上げることができます。これは検索上位の一般的な記事ではあまり触れられていない、現場レベルの重要な知見です。

 

tmpの薬害リスクを回避する混用順序の鉄則

どれほど優れた安定剤や展着剤であっても、その使い方は一歩間違えれば作物に甚大なダメージを与える薬害の引き金となります。特に、複数の農薬をタンクで混ぜ合わせる「混用」の場面では、展着剤を入れるタイミング(順序)が非常に重要です。誤った順序で投入すると、成分が凝固したり、乳化が破壊されたりして、濃度ムラによる薬害が発生します。

 

基本的な混用順序の鉄則は、「製剤の溶けにくい順」です。しかし、展着剤に関しては製品のタイプによって投入タイミングが異なるため、ラベルの確認が必須です。一般的には以下の順序が推奨されます。

 

投入順序 剤型 理由
1 展着剤(一部) 多くの展着剤は最初に水に溶かし、界面活性効果で後の薬剤を溶けやすくする。※ただし、最後に加えるタイプもあるので注意。
2 乳剤・フロアブル 水に分散しやすい液体製剤を先に拡散させる。
3 水和剤・顆粒水和剤 粉末状のものは、少量の水で溶いてからタンクに投入する。
4 液剤 完全に溶解するタイプは最後に入れる。

特に注意が必要なのは、機能性展着剤(シリコーン系など)と「乳剤」や「拡散性のある薬剤」との混用です。乳剤には元々、乳化剤として強力な界面活性剤が含まれています。そこに浸透力の強い機能性展着剤を加えると、界面活性剤の濃度が過剰になり、植物の細胞膜を破壊して「染み状」の薬害(リングスポットなど)を発生させることがあります。

 

  • 高温時の回避: 夏場の日中など、高温乾燥時に浸透性の高い展着剤を使用すると、急激な乾燥と吸収により薬害リスクが倍増します。朝夕の涼しい時間帯を選びましょう。
  • 幼苗・軟弱徒長苗への配慮: 組織が柔らかい苗の時期は、クチクラ層が未発達です。ここに強力な浸透性展着剤を使うと、防御壁を突破して内部組織を傷めます。苗の時期は、浸透性のない「一般展着剤」に留めるのが無難です。
  • 予備テストの実施: 初めて使う展着剤や、新しい混用パターンの場合は、必ず少数の株でテスト散布を行い、数日後に異常がないか確認してから全面散布を行う習慣をつけましょう。

安定剤(展着剤)は、あくまで「黒子」の存在です。しかし、その黒子の選び方一つで、主役である農薬の効果は0にも100にもなります。あなたの圃場の作物、使用する薬剤、そして水質に最適な一本を見つけることはできましたか?

 

 


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