普通の化成肥料を使うと年間5万円以上損します。
養液土耕栽培では、点滴チューブを使って灌水と同時に液体肥料を与える栽培方法です。この方法で使う肥料は、普通の土耕栽培で使う化成肥料とは大きく異なる特徴を持っています。
なぜ専用の肥料が必要なのでしょうか。
最も重要なのは、塩類集積を防ぐという点です。養液土耕栽培用の肥料は、窒素、リン酸、カリウムに加えて、カルシウム、マグネシウム、そして微量要素がバランスよく配合されています。
つまり全体設計ということですね。
さらに、土壌に蓄積しやすい塩化物などの不純物がほとんど含まれていません。
普通の化成肥料には、製造コストを下げるために塩化物などの成分が含まれていることが多いのです。これらは施設栽培で繰り返し使うと土壌表層に蓄積し、濃度障害を引き起こします。植物の根は浸透圧の作用で水分を吸収できなくなり、最悪の場合は枯死してしまいます。養液土耕専用肥料を使うことで、このリスクを大幅に減らせるわけです。
もう一つの違いは、溶解性の高さです。養液土耕では肥料を5~10倍に希釈した濃厚液肥を作り、それをさらに原水で希釈して使います。溶けにくい肥料では配管の詰まりや、濃度のムラが生じてしまいます。専用肥料は水に素早く溶ける高純度の成分で構成されており、安定した施肥が可能になります。
OATアグリオの養液土耕肥料シリーズでは、作物や生育ステージに合わせて窒素・リン酸・カリの比率が異なる6種類の製品が用意されています。このような専用製品を選ぶことが、養液土耕栽培成功の第一歩です。
養液土耕栽培に切り替えると、従来の土耕栽培と比べて施肥量を30~50%も削減できます。これは単なる理論値ではなく、全国各地の実証データで確認されている数字です。
どうしてこれほど減らせるのでしょうか。
根域だけに肥料を届けられるからです。従来の全面施肥では、肥料の多くが根の届かない場所に散布され、土壌に蓄積するか流亡していました。一方、養液土耕では点滴チューブから根域に直接、少量ずつゆっくりと液肥を供給します。株から30cm程度の範囲に設置したチューブから、20cm間隔の吐出口で点滴するため、ほぼすべての肥料が根に吸収されるのです。
島根県農業技術センターの調査では、ブドウの養液土耕栽培で窒素換算35%の削減効果が報告されています。栃木県のトマト養液土耕では、33.2t/10aの高収量を達成しながら、基肥を含む窒素施肥量が70kg/10aで済んだ事例もあります。従来なら100kg/10a以上必要とされる施肥量と比べると、かなりの削減です。
肥料の利用率が高まることで、コスト削減だけでなく環境負荷の低減にもつながります。流亡する肥料が減れば、地下水汚染や河川への影響も抑えられます。
結論は施肥効率の向上です。
ただし、これは適切な肥料を使い、土壌水分と肥料濃度を適正に管理した場合に限られます。
茨城県や福岡県の試験研究では、点滴チューブを用いた養液土耕でも、散水チューブを使った場合と比べて施肥効率が大きく異なることが示されています。点滴方式なら土壌中の無機態窒素量を低く保ちながら、高収量を維持できるのです。
養液土耕栽培を始める際、多くの生産者が最初に選ぶのが複合肥料です。複合肥料とは、窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の三要素に加えて、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、微量要素が一つの袋に配合された製品のことです。
複合肥料の最大のメリットは手軽さです。配合計算や計量の手間がなく、袋から取り出して水に溶かすだけで濃厚液肥が作れます。
初心者でも失敗が少ないということですね。
OATアグリオやホーグス、タキイなど、各メーカーから養液土耕専用の複合肥料が販売されており、作物や生育ステージに合わせた配合比率のものが選べます。
例えばトマトなら、生育初期にはリン酸が多めの「養液土耕3号(N-P-K=15-15-15)」を使い、着果期以降はカリウムが多い「養液土耕2号(N-P-K=14-8-25)」に切り替えるといった使い方ができます。ピーマンなら「養液土耕1号(N-P-K=15-8-17)」が標準的な配合です。このように作物別の選択肢が用意されています。
使用方法は、まず濃厚液肥タンクで5~10倍に希釈した原液を作ります。1液型なら1台のタンクで済みますが、カルシウムの補充が必要な場合は2液型で2台のタンクを使います。この濃厚液肥を液肥混入機でさらに80~100倍に希釈し、点滴チューブから作物に与えるのが基本です。
デメリットは肥料コストがやや高いこと、そして土壌分析結果に応じた細かな配合調整ができないことです。とはいえ、管理の省力化を優先するなら複合肥料が第一選択になります。
経営規模が拡大してくると、肥料コストの負担が大きくなります。この課題に向き合うための選択肢が単肥配合です。単肥とは、窒素、リン酸、カリウムなどの成分を個別に含む肥料のことで、これらを自分で配合して液肥を作ります。
単肥配合の最大のメリットは、複合肥料と比べて肥料コストを大幅に削減できることです。一般的に単肥の方が重量あたりの価格が安く、必要な成分だけを配合できるため無駄がありません。また土壌分析の結果、例えばリン酸やカリウムが十分に残留している場合、それらの投入量を減らして窒素を重点的に供給するといった調整が可能です。
配合の自由度が高いということですね。
養液土耕で使われる主な単肥は、硝酸カリウム(KNO3)、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2・4H2O)、第一リン酸アンモニウム(NH4H2PO4)、硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)などです。微量要素は計量が難しいため、市販の微量要素配合肥料やキレート鉄を別途使います。これらを作物別の配合処方に従って計量し、2液型のタンクに分けて溶かします。
ただし注意点もあります。計量ミスや配合ミスが栽培に直結するリスクがあるため、十分な知識と経験が必要です。各肥料をあらかじめバケツなどで溶いてから投入する手間もかかります。硝酸カルシウムは他の成分と反応して沈殿を起こすため、必ず別のタンクに入れなければなりません。
養液土耕栽培における液肥の選び方では、単肥配合の具体的な方法と注意点が詳しく解説されています。コストだけでなく、管理の手間も考慮して導入を検討しましょう。
養液土耕栽培で収量を安定させるには、EC値とpF値の管理が欠かせません。EC値は土壌溶液中の肥料濃度を示す指標で、pF値は土壌水分の状態を表す数値です。この二つをコントロールすることで、根にストレスを与えない環境を作れます。
土壌溶液のEC値は0.4~1.0mS/cm程度が適正範囲とされています。これより低いと肥料不足、高いと塩類濃度障害のリスクが出てきます。定期的にミズトールなどの簡易土壌溶液採取器で土壌溶液を採取し、ECメーターで測定します。EC値が高い場合は液肥の希釈倍率を上げて濃度を下げ、低い場合は濃くするといった調整を行います。
pF値は土壌水分の管理指標です。養液土耕では一般的にpF2.0~2.6の範囲で管理します。pF値が低すぎると過湿で根が酸欠状態になり、高すぎると乾燥ストレスがかかります。pFメーターやテンシオメーターを土壌に設置し、数値を見ながら灌水のタイミングと量を決めるのが基本です。
北海道のトマト養液土耕栽培マニュアルでは、pF2.0~2.6で管理した場合の具体的な施肥設計が示されています。定植前の基肥は最小限にとどめ、生育ステージに合わせて液肥で追肥していく方式です。これにより土壌中の肥料濃度を一定に保ちながら、過不足なく養分を供給できます。
測定は週に1~2回程度が目安です。特に天候の変化が大きい時期や、生育の切り替わり時期には注意深く観察します。数値管理だけでなく、葉色や生育の様子も合わせて判断することが大切です。
養液土耕栽培では、肥料の使い方を間違えると深刻なトラブルにつながります。実際の現場で起こりやすい問題と、その対策方法を知っておきましょう。
最も多いのが濃度障害です。液肥の希釈倍率を間違えたり、灌水量が少なすぎたりすると、土壌溶液のEC値が急上昇します。根が水分を吸収できなくなり、萎れや葉先の枯れが発生します。群馬県の蓮沼農園では、養液土耕でトマトの6割が枯れる壊滅的な土壌病害被害に見舞われた事例があります。このような場合、すぐに清水で土壌を洗い流し、EC値を下げる必要があります。
配管の詰まりも頻繁に起こります。溶けにくい肥料や、カルシウムとリン酸が反応して生じた沈殿物が点滴チューブの吐出口を塞ぐのです。予防策は吐出口に目詰まりしやすい点があります。高純度の養液土耕専用肥料を使うこと、2液型で硝酸カルシウムを分離すること、定期的にフィルターを清掃することが重要です。
肥料の過不足も見逃せません。土壌診断を行わずに標準的な施肥設計だけで進めると、前作の残肥や土壌の保肥力の違いで実際の供給量が適正からずれることがあります。作付け前には必ずJAや専門機関で土壌分析を行い、その結果に基づいて施肥設計を調整しましょう。
pF値の管理不足による水分ストレスもあります。灌水が不足すると根域が乾燥し、せっかくの液肥も効果を発揮できません。逆に過湿になると根腐れのリスクが高まります。pFメーターを活用し、適正範囲を維持することが基本です。