農業において「土作り」は作物の出来を左右する最も重要な工程の一つですが、その土の中で働いている硝酸菌と亜硝酸菌の具体的な違いやメカニズムを深く理解している生産者は意外と少ないかもしれません。これらはまとめて「硝化菌(Nitrifying bacteria)」と呼ばれますが、実際には全く異なる役割を持つバクテリア(細菌)のチームプレーによって、有機肥料や化成肥料に含まれるアンモニアを植物が吸収できる形に変えています 。
参考)意外と知らない農業の立役者・土壌微生物 〜「硝化菌」について…
このプロセスは「硝化作用」と呼ばれ、2つの厳密なステップに分かれています。このリレーがスムーズに行われないと、土壌環境は劇的に悪化します。
土壌に施肥された尿素や硫安などの窒素肥料は、まず分解されてアンモニア態窒素($NH_4^+$)になります。このアンモニアをエサとして取り込み、「亜硝酸態窒素($NO_2^-$)」に変化させるのが亜硝酸菌(ニトロソモナス属など)です 。
参考)亜硝酸菌 - Wikipedia
第1ステップで作られた亜硝酸は、植物にとっては有害な物質です。この有害な亜硝酸を素早く「硝酸態窒素($NO_3^-$)」に変化させるのが硝酸菌(ニトロバクター属など)です 。
参考)https://pronet.w3.kanazawa-u.ac.jp/J/STUDY/nitrifer.html
このように、硝酸菌はリレーのアンカー(最終走者)であり、植物が最も好んで吸収する「硝酸」を作り出す重要な役割を担っています。一方で、亜硝酸菌は第一走者であり、肥料を最初に加工する役割を持っています。この二者がバランスよく存在して初めて、肥料が有効に機能します。
特に重要なのは、この反応には大量の酸素が必要であるという点です。水はけの悪い土壌や、踏み固められた硬い土壌では酸素不足になり、この硝化プロセスが停止してしまいます。そうなると肥料が効かないばかりか、後述する毒性の問題が発生します。
意外と知らない農業の立役者・土壌微生物 〜「硝化菌」について | カクイチ
※硝化菌の基本的な働きと、畑と水田での挙動の違いについて解説されています。
硝酸菌と亜硝酸菌は、単に土の中にいれば良いというわけではなく、働くためには特定の条件が必要です。特にpH(土壌酸度)と温度(地温)の管理は、これらの菌の活性を維持するために不可欠です。実は、この2種類の菌は環境ストレスへの耐性が異なります。ここが栽培管理上の大きな落とし穴になります。
一般的に、硝化菌が最も活発に働く条件は以下の通りです。
| 条件 | 最適範囲 | 注意点 |
|---|---|---|
| 温度 | 25℃〜30℃ |
15℃以下で活動が鈍り、5℃以下でほぼ停止する |
| pH | 6.8〜8.0 |
pH 5.5以下になると活性が急激に低下する |
| 酸素 | 十分な通気 | 酸素がないと脱窒(窒素がガス化して逃げる)が起きる |
ここで注目すべき違いは、硝酸菌(亜硝酸を酸化する菌)の方が、環境変化に対してデリケートであるという点です。
例えば、pHが酸性に傾きすぎたり、アンモニア濃度が急激に高くなりすぎたりすると、硝酸菌の活動が先に阻害されます。するとどうなるでしょうか。「亜硝酸菌は元気でどんどん亜硝酸を作るが、硝酸菌が働かないため亜硝酸を処理できない」という状態に陥ります。
これにより、土壌中に有害な亜硝酸態窒素が蓄積してしまうのです。冬場の低温時にハウス栽培で肥料を与えすぎた場合や、土壌消毒直後に硝化菌のバランスが崩れている場合によく起こる現象です。
また、硝化反応自体が水素イオン($H^+$)を放出するため、プロセスが進むほど土壌は自然と酸性に傾いていきます 。つまり、石灰などによる適切なpH矯正を行わない限り、硝酸菌の住処は徐々に破壊されていく運命にあります。定期的な土壌診断が必要な理由はここにもあります。
参考)茶園土壌から新しい硝化菌を発見
第3章 生物学的脱窒素処理技術・システム | 環境省
※硝化菌のpHや温度依存性についての詳細なデータが記載されています。
植物は窒素を主に「硝酸態窒素」または「アンモニア態窒素」の形で根から吸収します。しかし、その中間生成物である「亜硝酸」については、植物にとって猛毒であり、百害あって一利なしの物質です。
硝酸菌が正常に機能しているかどうかは、作物の健康に直結します。
硝酸菌が十分に働き、亜硝酸が速やかに硝酸へ変換されていれば、植物はスムーズに栄養を吸収し成長します。硝酸態窒素は土壌に吸着されにくく水に溶けやすいため、植物が素早く利用できる反面、雨で流亡しやすいという特徴もあります(地下水汚染の原因ともなります)。
参考)「硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素に係る土壌管理指針」について
一方で、バランスが崩れて亜硝酸が高濃度で蓄積すると、以下のような深刻な障害が発生します。
亜硝酸は根の細胞を直接傷つけます。根が褐変(茶色くなる)し、新しい根が出なくなります。これにより、水や養分が吸えなくなり、地上部が萎れたり黄化したりします。これを「根腐れ」と誤診してしまうケースがありますが、原因は微生物バランスの崩壊にあります 。
根が痛むことで、マグネシウムやカルシウムなどの吸収が阻害され、葉に欠乏症のサインが現れます。
特にトマトやピーマンなどの果菜類は、この亜硝酸の毒性に敏感です。土壌分析を行い、もし亜硝酸態窒素が検出されるようであれば、それは硝酸菌の活動が弱っている危険なサインです。この場合、追肥を一旦ストップし、水をやって亜硝酸を流す(リーチング)か、酸素を供給して菌を復活させる必要があります。
また、最近の研究では、茶園のような強酸性土壌(pH 3.0〜5.0)でも活動できる特殊な硝化菌(古細菌アーキアなど)の存在も確認されていますが 、一般的な野菜栽培においては、やはり中性付近のpH管理が硝酸菌を守るための鉄則です。
トマト 亜硝酸吸収害 - こうち農業ネット
※トマト栽培における亜硝酸過剰による具体的な症状と対策が写真付きで解説されています。
硝酸菌と亜硝酸菌を土壌中で元気に育てるためには、単に化学肥料を入れるだけでなく、彼らが住みやすい「団粒構造」を持った土を作る必要があります。ここで鍵となるのが有機肥料や堆肥の活用です。
有機物は、硝化菌そのもののエサにはなりませんが(硝化菌は無機化合物をエネルギー源とする独立栄養細菌です)、有機物を分解する他の微生物が増えることで土がフカフカになり、通気性が確保されます。酸素が豊富な環境は、好気性菌である硝化菌にとって最高の住処となります。
効果的な環境作りのポイントは以下の3点です。
完熟堆肥を施用することで、急激な分解を抑えつつ、微生物の多様性を維持します。未熟な有機物を大量に入れると、分解に伴って酸素が消費され、一時的に酸素欠乏状態になり硝化菌が死滅するリスクがあります。
一度に大量のアンモニア成分が入ると、前述の通り硝酸菌の活性が阻害されることがあります。ゆっくり効く肥料(被覆肥料や有機質肥料)を使うことで、アンモニアの供給量を調節し、菌のリレーをスムーズに保つことができます 。
硝化菌は水の中に溶けた酸素を利用します。乾燥しすぎても活動できませんが、過湿で水浸しになると酸欠で死滅します。畑の排水性を高める明渠・暗渠排水の施工は、物理的に酸素供給を助け、菌の活性を高める基本技術です。
「肥料をやる」ということは、単に化学物質を撒くことではなく、「硝化菌にエサを与えて働いてもらう」ことだと意識を変えるだけで、施肥のタイミングや量が変わってくるはずです。
施設園芸土壌の特徴と改良 | 農林水産省
※施設園芸における塩類集積やガス障害、土壌改良の具体的な指針が示されています。
最後に、一般的な検索結果ではあまり強調されないものの、現場レベルで非常に恐ろしい硝酸菌関連のトラブルを紹介します。それが「亜硝酸ガス($NO_2$ガス)」による被害です。これは土壌中の毒性だけでなく、空気中に放出されたガスが葉を焼く現象です。
通常、亜硝酸は土壌溶液中にイオンとして存在しますが、土壌のpHが5.0程度まで低下すると、亜硝酸が気化しやすくなります。これを化学的に「亜硝酸のガス化」と呼びます 。
参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/ntuti22.pdf
硝酸菌が機能不全に陥り、土壌中に亜硝酸が溜まっている状態で、さらに土壌が酸性化すると、この致死的なガスが発生します。特に密閉されたビニールハウス(施設栽培)では、逃げ場のないガスが充満し、一夜にして作物を全滅させることがあります。
この「目に見えないガス」の被害を防ぐ唯一の方法は、硝酸菌が常に働ける環境(適切なpHと温度)を維持し、亜硝酸を溜めないことです。もし発生してしまった場合は、換気を徹底し、有機石灰などでpHを急いで矯正する必要があります。
硝化菌のリレーは、単なる栄養供給だけでなく、こうしたガス害を防ぐための安全装置でもあります。
硝酸菌と亜硝酸菌という小さな主役たちの違いと特性を理解することは、作物を守るための最大のリスク管理といえるでしょう。
ピーマン・ししとう 亜硝酸ガス害 - こうち農業ネット
※pH低下により発生する亜硝酸ガス害の実際の被害写真とメカニズムが確認できます。

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