農業の被覆資材を徹底解説!種類や選び方と光質制御の最新技術

農業における被覆資材の重要性は高まっています。種類や選び方、コスト対効果、そして最新の光質制御技術まで、収益向上に役立つ情報を網羅しました。あなたの圃場に最適な資材はどれですか?
農業の被覆資材
🛡️
資材の多様性

農ビからPO、フッ素まで特性に応じた選択

💰
コストと寿命

初期投資と耐用年数のバランスが鍵

🌱
環境と技術

生分解性や光質制御など新技術の導入

農業の被覆資材

種類と特徴の完全比較

 

農業における被覆資材は、作物の生育環境を制御し、収量や品質を決定づける最も重要な要素の一つです。現在、市場には多種多様な資材が流通しており、それぞれの化学的特性や物理的耐久性を正しく理解することが、経営の安定化に直結します。主要な被覆資材は、その素材によって大きく「農ビ」「農PO」「硬質フィルム」の3つに分類されます。これらは単に価格が違うだけでなく、光線透過率、保温性、耐用年数、そして廃棄時の環境負荷において決定的な違いを持っています。

 

まず、長年日本の農業を支えてきた「農ビ(農業用塩化ビニルフィルム)」について解説します。農ビは、柔軟性が高く、展張作業(ハウスへの張り付け)が容易であるという大きなメリットがあります。特に、複雑な形状のパイプハウスや、頻繁に張り替えを行う小型のトンネル栽培においては、その扱いやすさが重宝されています。また、保温性が非常に高く、夜間の放射冷却を抑える効果において他の資材よりも優れている場合があります。しかし、農ビには重大なデメリットも存在します。それは「ベタつき」と「汚れやすさ」です。可塑剤が含まれているため、経年劣化とともに表面がベタつき、空気中の塵や埃を吸着してしまいます。これにより、光線透過率が急速に低下し、作物の光合成効率を落とす原因となります。耐用年数は一般的に1年から2年程度と短く、頻繁な張り替えによる労務コストが発生します。

 

次に、現在主流となりつつある「農PO(農業用ポリオレフィン系特殊フィルム)」です。農POは、農ビの欠点を解消するために開発された資材であり、ベタつきが少なく、長期間にわたって高い透明度を維持できるのが最大の特徴です。多層構造を持つ製品が多く、外側には防塵処理、内側には流滴処理(結露が水滴となって落ちるのを防ぐ処理)が施されています。耐用年数は製品の厚みにもよりますが、3年から5年、高機能なものではそれ以上使用可能です。農ビに比べて軽量であるため、大型ハウスでの展張作業も比較的スムーズに行えますが、素材が硬めであるため、展張時にシワになりやすいという特性もあります。しかし、一度張ってしまえば数年間はメンテナンスが少なくて済むため、長期的な視点で見れば省力化に大きく貢献します。

 

最後に「硬質フィルム(フッ素樹脂フィルムなど)」です。これは、ガラスに匹敵するほどの高い光線透過率と、10年から15年、あるいはそれ以上という圧倒的な耐久性を誇ります。初期導入コストは非常に高額ですが、張り替えコストや廃棄処理費用を長期的なスパンで計算すると、大規模経営においては最も経済合理性が高い選択肢となることがあります。特に、汚れが雨とともに自然に落ちるセルフクリーニング機能を持つ製品もあり、常に高い採光性を維持できる点は、冬場の光量不足が課題となる地域において強力な武器となります。

 

ビニールハウス用被覆資材の種類と特徴、耐用年数、最新の市場動向について解説されています。

 

ビニールハウス用ビニール徹底解説|主流素材の特徴・選び方

コスト対効果と選び方のポイント

被覆資材を選定する際、多くの生産者が「初期コスト(イニシャルコスト)」に目を奪われがちですが、真に検討すべきは「耐用年数を含めたトータルコスト」と「労務費の削減効果」です。農業経営において、資材費は経費の大きな割合を占めますが、それ以上に深刻なのが労働力不足です。安価な資材を頻繁に張り替えるスタイルは、資材代そのものは安く済むかもしれませんが、張り替え作業にかかる人件費、そしてその期間中の機会損失を考慮すると、決してコストパフォーマンスが良いとは言えないケースが増えています。

 

具体的な選び方のポイントとして、まずは「栽培期間」と「作型」を明確にすることが重要です。例えば、葉物野菜のように回転が速く、短期間で収穫が終わる作物であれば、安価な農ビや薄手のポリマルチで十分な場合があります。しかし、果菜類や果樹のように長期間にわたって栽培が続く、あるいは周年栽培を行う場合は、光線透過率の低下が収量に直結するため、初期投資が高くても農POや高機能フィルムを選ぶべきです。特に、光要求量の高いトマトやイチゴなどの施設園芸では、フィルムの汚れによる1%の光量ダウンが、収量の1%ダウンに直結すると言われることもあります。数年間の収量差をシミュレーションすれば、高価な資材の方が利益率が高くなることは珍しくありません。

 

また、コスト対効果を考える上で見落とせなのが「廃棄コスト」です。使用済みのプラスチック資材は産業廃棄物として処理する必要があり、その処分費用は年々高騰しています。耐用年数が長い資材を選ぶことは、単に買い替え頻度を減らすだけでなく、廃棄物の排出量を減らし、処分費用を圧縮することにも繋がります。さらに、近年では自治体によっては廃プラスチックの受け入れ基準が厳格化しており、汚れのひどい資材は受け入れを拒否される、あるいは追加料金を請求されるケースもあります。汚れにくい高機能素材を選ぶことは、こうした将来的なリスクヘッジにもなるのです。

 

さらに、地域の気候特性も選び方の重要なファクターです。強風が頻発する沿岸部や山間部では、破れにくい強度が求められます。農POの中でも、特に引き裂き強度を強化した「強靭タイプ」や、補強糸を入れた製品を選ぶことで、台風などの災害リスクを軽減できます。逆に、積雪地帯では、雪の滑りやすさが重要になります。表面が滑らかなフッ素系フィルムや、滑雪性能を高めた特殊なPOフィルムを採用することで、ハウスの倒壊リスクを下げることができます。このように、資材のカタログスペックだけでなく、自社の立地条件と照らし合わせた「実質的な耐久性」を見極めることが、賢い選び方の基本となります。

 

農業用フィルムの種類ごとの耐用年数や、コストと性能のバランスについて詳細なデータが示されています。

 

【保存版】ビニールハウスの対応年数まとめ

環境に優しい生分解性マルチの活用

近年の農業界における最大のトレンドの一つが、環境負荷低減と省力化を両立させる「生分解性マルチ」の活用です。従来のポリエチレン製マルチ(ポリマルチ)は、使用後に剥がして回収し、土や汚れを落としてから産業廃棄物として処理する必要がありました。この「剥ぎ取り・回収・廃棄」という一連の作業は、収穫後の疲労した体には極めて過酷な重労働であり、多くの農家にとって頭痛の種でした。生分解性マルチは、土壌中の微生物によって水と二酸化炭素に分解されるため、収穫後はそのままトラクターで土にすき込むだけで処理が完了します。

 

生分解性マルチの最大のメリットは、圧倒的な「省力化」です。研究機関のデータによると、例えばレタス栽培において、収穫後のマルチ除去作業にかかる時間を10アールあたり約4時間以上削減できたという報告があります。人件費に換算すれば、資材価格の差額を十分に回収できるだけの経済効果が見込める場合も多いのです。特に、高齢化が進む地域や、雇用型の大規模経営においては、労働時間の短縮は経営課題の解決に直結します。また、機械収穫を行う作物(タマネギやニンニクなど)においては、マルチが機械に絡まるトラブルを防ぐためにも、事前に分解が進む生分解性マルチの導入が進んでいます。

 

一方で、導入にあたっては「分解速度の制御」という課題も理解しておく必要があります。生分解性マルチは、地温、水分量、土壌の微生物活性によって分解のスピードが変化します。予想以上に早く分解が進んでしまい、栽培期間中に雑草抑制効果や保温効果が失われてしまう「早期崩壊」のリスクや、逆に分解が遅れて次の作付けに支障が出るリスクもゼロではありません。しかし、近年の技術開発により、これらの課題は大幅に改善されつつあります。メーカー各社は、作物の栽培期間に合わせて「3ヶ月タイプ」「5ヶ月タイプ」など、分解期間を調整した製品をラインナップしており、地域の気候や作型に合わせて最適な製品を選べるようになっています。

 

さらに最新の研究では、収穫後に特定の「酵素」を散布することで、任意のタイミングでマルチの分解を促進させる技術も開発されています。これが実用化されれば、栽培期間中はしっかりと機能を維持し、収穫が終わった瞬間に急速に分解させるといったコントロールが可能になり、生分解性マルチの利用シーンは飛躍的に広がるでしょう。環境配慮という側面だけでなく、経営合理化のツールとして、生分解性マルチはもはや「高いだけの資材」ではなく「利益を生むための戦略的資材」へと進化しています。

 

生分解性マルチのメリットである省力化の具体的な時間削減効果や、分解制御に関する最新技術について解説されています。

 

生分解性マルチのメリット・デメリットは? いよいよ普及期に突入!?

保温と防虫効果を最大化するべたがけ

被覆資材の中でも、作物の直上に直接被覆する「べたがけ」や、支柱を使って空間を作る「トンネル被覆」は、厳寒期の保温と、物理的な防虫対策において極めて高い効果を発揮します。特に不織布寒冷紗を用いたべたがけは、最も手軽でありながら、作物の生死を分けるほどの重要な役割を担っています。べたがけ資材の主な役割は、地表面からの放射熱を逃がさないことによる「保温・防霜効果」と、適度な通気性を保ちながら害虫の侵入を防ぐ「物理的防除効果」です。

 

保温に関しては、不織布の繊維構造が空気の層(デッドエア)を作り出し、外部の冷気を遮断すると同時に、地熱を閉じ込めます。これにより、外気温が氷点下に達するような朝でも、被覆内は作物が凍結しない温度を維持できることがあります。特に、発芽直後の幼苗や、低温に弱い葉物野菜にとって、この数度の温度差は決定的です。また、べたがけ資材は「吸湿性」も重要な機能の一つです。トンネル内や被覆下で結露が発生すると、水滴が作物に付着して病気の原因となりますが、吸湿性のある不織布であれば、余分な湿気を吸い取り、適度な湿度環境を保つことができます。これにより、灰色かび病べと病などの多湿を好む病害のリスクを低減させることができます。

 

防虫効果については、農薬の使用量を減らす「減農薬栽培」において中心的な技術となります。特に、アブラムシアザミウマ、コナジラミといった微小害虫は、ウイルス病を媒介するため、これらを物理的にシャットアウトすることは、農薬散布以上に効果的な防除手段となり得ます。最近では、赤色のネットや、光を乱反射する特殊な糸を織り込んだ資材も登場しています。これらは、害虫の視覚を攪乱し、忌避行動を誘発することで、単に網目で防ぐ以上の防除効果を発揮します。例えば、アザミウマ類は赤色を認識しにくい、あるいは嫌う性質があるため、赤色の防虫ネットを使用することで侵入率を大幅に下げることが確認されています。

 

しかし、べたがけやトンネル被覆には注意点もあります。それは「蒸れ」と「擦れ」です。日中の気温が急上昇する春先などには、被覆内が高温になりすぎて「蒸れ苗」や「葉焼け」を引き起こすリスクがあります。そのため、換気作業の省力化が課題となりますが、最近では形状記憶合金を用いて、温度が上がると自動的に裾が開くトンネル支柱や、通気性を大幅に高めた新素材の不織布なども開発されています。また、風によるバタつきで作物が傷つくのを防ぐために、資材をピンと張る技術や、適切な留め具の選定も、効果を最大化するための現場のテクニックとして重要です。

 

不織布などの被覆資材が持つ保温性や通気性の特徴、それが作物に与える好影響について動画で解説されています。

 

Non-woven fabric coverings are warm, highly breathable

光質制御による品質向上のメカニズム

被覆資材の最先端技術として注目されているのが、透過する光の質をコントロールする「光質制御(スペクトル制御)」です。植物は、光合成を行うために光の量(光量子束密度)を必要としますが、それと同時に、光の「色(波長)」をシグナルとして受け取り、形態形成や代謝活動を変化させています。従来の被覆資材は、いかに多くの光を通すかという「透明性」が重視されてきましたが、最新の資材は、特定の波長の光をカットしたり、あるいは蛍光発光によって特定の波長を増幅させたりする機能を持っています。

 

例えば、「赤色光(R)」と「遠赤色光(FR)」の比率(R/FR比)を調整する技術は、植物の徒長抑制や伸長促進に応用されています。太陽光に含まれる遠赤色光の割合が高いと、植物は「他の植物に遮られて影になっている」と錯覚し、光を求めて茎をひょろ長く伸ばす「徒長」という反応を示します。そこで、遠赤色光を選択的に吸収・カットする被覆資材を使用することで、R/FR比を高め、植物に「十分な光がある」と認識させ、茎が太く、節間の詰まったガッチリとした苗を作ることが可能になります。逆に、葉ネギやニラのように伸長させたい作物の場合は、遠赤色光を多く透過させる資材を使うことで、収穫量を増やすことができます。

 

さらに、独自の視点として注目すべきは、光質制御が作物の「栄養価」や「食味」といった内部品質に与える影響です。近年の研究では、紫外線をカットする資材を使用すると、植物のストレス反応が減少し、生育が早まる一方で、抗酸化物質であるアントシアニンやポリフェノールの生成が抑制される場合があることが分かってきました。逆に、特定の波長の紫外線を適度に取り入れることで、野菜の色づきを良くしたり、ビタミンCの含有量を高めたりする「機能性野菜」の栽培技術も確立されつつあります。また、光変換資材の中には、紫外線を有用な赤色光に変換して透過させる「波長変換フィルム」もあり、これは光合成に必要な光量を人工的に増やすのと同等の効果をもたらし、曇天が続く冬場の収量アップに貢献しています。

 

ただし、これらの光質制御資材は、経年劣化によってその機能が低下することに注意が必要です。研究報告によると、特殊な色素を練り込んだフィルムは、展張後2年程度でその効果が薄れ、通常のフィルムと変わらない透過特性になってしまうケースがあります。高機能資材は高価であるため、その効果が持続する期間と、それによる増収効果を天秤にかけ、適切な交換サイクルを見極めることが、技術を収益に変えるための重要なポイントとなります。単に「雨風をしのぐ」だけの被覆資材から、「積極的に作物をコントロールする」ための光学デバイスへと、被覆資材の役割は大きく進化しています。

 

光質変換フィルムの効果とその持続性について、赤色光の透過率変化や作物への影響に関する研究結果が詳細に報告されています。

 

光質変換フィルムとして開発された資材の効果の持続性

 

 


山本漢方製薬 青汁 30種類の国産野菜+スーパーフード 3g×64包