キヒゲンは、農林水産省の農薬登録情報提供システム上「登録番号11784」「農薬の種類:チウラム水和剤」「農薬の名称:キヒゲン」として掲載されています。
このページの「適用表情報」には、作物名ごとに「適用病害虫名」「使用量(または希釈倍数)」「使用時期」「使用方法」「総使用回数」が並んでおり、ここを読めば“使ってよい作物・目的・やり方・上限”が一気に確認できます。
たとえば播種前に使うケースでは、だいず・えだまめは「乾燥種子重量の1%」「は種前」「1回」「種子粉衣」「チウラムを含む農薬の総使用回数1回」と示され、とうもろこし(飼料用とうもろこし含む)は鳥害対象(カラス・キジ・ハト)で同様に播種前の種子粉衣ですが、総使用回数が「2回以内」として別管理になっている点が重要です。
ここで誤解が多いのが「総使用回数」の扱いで、同一有効成分(チウラム)を含む別資材の使用があると、合算して上限に到達する可能性があります(資材を変えたから別カウント、ではありません)。
参考:最新の登録内容を検索できる(作物名・農薬名・病害虫名で確認できる)
農林水産省 農薬登録情報提供システム「キヒゲン(11784)」
キヒゲン(キヒゲン+識別剤)のメーカー資料では、作業は「乾燥した種子」を準備し、種子1kgに対して「キヒゲン10g+識別剤10ml」を用意し、粉→識別剤の順に混ぜ、最後にシート上に広げて乾燥させる流れが提示されています。
この“乾燥種子”が実務では意外に盲点で、湿った種子だと粉衣がダマになってムラが出やすく、ムラは「鳥害(食害・引き抜き)」「タネバエ」「紫斑病」のいずれも効きの不安定さにつながります(効かない場所が残るためです)。
また識別剤(赤色)は、資料上「手に付着すると色が落ちにくい」ため「不浸透性手袋」を必ず着用する注意が明記されており、現場では“色が付く=処理の目視確認になる”という利点と、“手や資材を汚しやすい”という欠点がセットで存在します。
さらにメーカー資料では「キヒゲンと識別剤の両方を必ず使用」「処理した種子は播種まで水や雨がかからないように」と明記され、処理後管理が効果維持の前提条件になっています。
参考:FAMICのQ&Aで、登録情報の確認やラベル遵守の考え方を整理できる(使用回数・登録変更時の扱いの考え方にも触れている)
FAMIC「農薬の使用についての質問(Q&A)」
キヒゲンの適用表では、だいず・えだまめは鳥害対象として「ハト」、とうもろこし(飼料用とうもろこし含む)は「カラス・キジ・ハト」が列挙され、いずれも播種前の「種子粉衣」として登録されています。
メーカー資料の「特長」には、播種時・発芽時の鳥害防止とタネバエ食害防止効果が高いこと、さらに“大豆・枝豆は出芽時に子葉が赤色に着色して出芽するので鳥類への忌避効果が高い”という、現場的にかなり使えるヒントが書かれています。
ここでの実務のコツは、鳥害のピーク(播種直後〜出芽期)に“効かせたい部位が土中の種子そのもの”である点を外さないことです。
鳥害対策はネットやテープ等の物理対策が先に思い浮かびますが、播種量が多い、区画が広い、獣害と鳥害が同時に来る、などの条件では「種子側に処理しておく」方が作業の段取りが読みやすいこともあります(ただし、必ず登録に従う前提です)。
キヒゲンは、だいず・えだまめの適用病害虫として「紫斑病」が明記され、使用は「は種前」「乾燥種子重量の1%」「種子粉衣」「本剤1回」「チウラム総使用回数1回」と整理されています。
紫斑病対策は圃場の“見た目の症状”が出る前から始まっていて、種子由来・初期伝染をどれだけ減らせるかが、その後の防除の難易度を左右します(種子粉衣はその入口対策の位置づけです)。
メーカー資料でも「大豆、枝豆の紫斑病に対する種子消毒効果が高い」と特長として明記されているため、鳥害目的だけでなく“病害の初期抑え”として理解しておくと、資材選定の説明が通りやすくなります。
注意点として、登録上はだいず・えだまめのチウラム総使用回数が1回なので、他のチウラム剤を組み合わせる計画がある場合は、体系防除の全体設計を先に固めてから投入可否を判断するのが安全です。
検索上位の解説は「使い方」「適用」「注意点」で止まりがちですが、メーカー資料には“天候等の影響で処理後すぐに播種できなくても、冷暗所で保存すれば処理後3か月程度たっても発芽率には影響ありません”という、段取りに直結する情報が明記されています。
これが効くのは、雨続きで播種日がズレる年や、作業者・機械の都合で処理日と播種日が一致しない経営体で、処理を前倒しできると「播種適期に畑へ入れる瞬間を逃しにくい」点です。
ただし同じ資料内で「処理した種子は播種まで水や雨がかからないように」と強く注意されているため、“冷暗所保存OK”を“屋外で多少濡れてもOK”に読み替えるのは危険です。
現場でありがちな失敗例としては、処理種子を育苗ハウスの出入口付近に仮置きして結露や雨の吹き込みで湿らせてしまう、処理袋を地面に直置きして吸湿させる、などがあり、これらは「ムラ」「付着不良」「効果のブレ」に直結します。
植物にとって「カルコゲン(酸素族)」の中で、農業現場で最も身近で確実に“必須”と言えるのが硫黄(S)です。植物が吸収できる形は基本的に硫酸イオン(SO4 2−)で、土壌中では有機態・無機鉱物態・硫酸イオンの形で存在し、作物の栄養として直接効くのは硫酸イオンだけ、と整理すると理解が早いです。硫黄は作物体内で「含硫アミノ酸」や各種含硫有機化合物の材料になり、タンパク質合成や体内機能に直結します。さらに、植物体内にはイオンの状態でもある程度存在し、酵素活性・電子伝達・酸化還元調節・外敵忌避など、作用は想像以上に広範囲です。
ここが現場で重要なのは、「硫黄=生育だけ」ではなく「品質」まで動かす点です。例えば、ニンニク・タマネギ・ダイコンなどの香りや辛味の主要成分は含硫化合物で、硫黄が足りないと“枯れる”より先に“風味が弱い”という形で損失が出ることがあります。つまり硫黄は“収量を守る元素”であると同時に、“商品価値を守る元素”でもあります。
参考)必須微量元素セレンの生理作用と代謝
また、土壌供給源の考え方もポイントです。自然土壌の硫酸イオンは大気由来(降雨で供給)もありますが、耕地では硫安・硫酸加里など硫黄を含む肥料も大きな供給源になります。有機態硫黄(腐植や遺体由来)が多い土壌では、分解(無機化)速度が硫酸イオン供給量を左右するため、「堆肥を入れているのに硫黄が効かない/効きすぎる」と感じる場合、分解のスピード(温度・水分・微生物活性)の影響を疑うと整理しやすくなります。
硫黄栄養を“施肥の話”として扱うとき、まず押さえるべきは「植物が吸えるのは硫酸イオンだけ」という一点です。硫酸イオンは土壌中で移動もしやすく、表層の硫酸イオンが下層へ移行する前に植物や微生物に取り込まれて有機態硫黄へ組み込まれる、という動きが起こります。つまり、硫黄は“ある/ない”だけでなく、“土の中でどの形で滞在しているか”が効き方を左右します。
施肥では硫安や硫酸加里のような硫酸根を持つ資材が扱いやすい一方で、副作用もセットで理解する必要があります。硫安・硫酸加里は生理的酸性肥料で、養分吸収後に残る硫酸イオンが土壌に残り、pHを下げて酸性化を進めることがあります。露地で酸性化が進むと、別の要因(微量要素の可給性や根傷みなど)まで連鎖し、硫黄不足の対策をしたつもりが別の不調を呼ぶケースがあるため、「硫黄を足す=pH管理も一緒に見る」が安全です。
水田の場合はさらに注意が必要です。冠水条件で硫酸イオンが還元されやすく、硫化水素ガスが出やすいので、鉄分の少ない老朽化水田ではイネに害を及ぼす可能性があり、いわゆる「秋落ち」の要因として問題になることがある、とされています。逆に言えば、硫黄が悪者なのではなく、“還元が進みやすい田んぼの体質”が事故を引き起こすので、排水性・鉄分・有機物投入のバランスを含めた総合管理が必要です。
参考:硫黄の存在形態(有機態・硫酸イオン)と植物の吸収、硫安施用による酸性化、水田での硫化水素(秋落ち)など現場の注意点
BSI 生物科学研究所「硫黄と植物(PDF)」
カルコゲンのもう一つの重要トピックがセレン(Se)です。セレンは硫黄と同じ第16族(カルコゲン)に属し、生物にとっては「必須だが毒にもなる」という二面性が強い元素として知られています。特に“必要量と中毒量の差が小さい”点が特徴で、扱い方次第でメリットにもリスクにも振れます。
ただし農業視点で押さえたいのは、「高等植物はセレンタンパク質をもたず、セレンを生存に必要としない」という基本です。一方で、微量セレンが酸化ストレスを軽減し、植物の生育を促す効果が報告されているため、「必須ではないが、条件次第で効く」領域が存在します。研究例として、低濃度セレン処理で解糖系酵素(NAD依存性GAPDH)が活性化し、生育促進につながる可能性が示された報告もあり、セレンが“栄養素”というより“代謝のスイッチに触れる微量因子”のように働く場面があることが示唆されます。
しかし、ここが落とし穴です。セレンは硫黄と化学的性質が似ているため、取り込み・同化が硫黄代謝と絡みやすく、過剰になると誤った置換(例:タンパク質中のメチオニンがセレノメチオニンで置き換わるなど)によりタンパク質機能が失われ、生育阻害につながることがある、とされています。さらに“セレン蓄積植物”と呼ばれる一部植物は高濃度セレン環境でも耐え、メチル化セレンアミノ酸に変換・蓄積したり、揮発性セレン化合物として放出したりして毒性を回避する、という特殊な戦略が知られています。
参考:植物はセレン必須ではないが微量で生育促進があり得ること、セレン蓄積植物の解毒戦略(メチル化・揮発)
化学と生物「必須微量元素セレンの生理作用と代謝」
硫黄の欠乏は、窒素ほど頻発しないと言われがちですが、発生しないわけではありません。硫黄は植物の必須元素で、欠乏すると生育できない一方、日本では火山活動由来の硫黄供給があること、火山灰土が硫酸イオンを吸着・保持しやすいことなどから、一般に硫黄欠乏症が起こりにくい、と整理されています。だからこそ現場では「欠乏で枯れる」よりも、「必要量は満たしているのに、品質が伸びない」という形で見逃されがちです。
品質面の具体例が分かりやすいのは、香り・辛味作物です。ニンニク、タマネギ、ダイコンなどは硫黄化合物が品質の核で、硫黄不足だと生育不良が目立たなくても、香り成分や辛味成分が不十分で品質が落ちることがある、とされています。これは“市場での評価”に直結するため、見た目の草勢だけで判断しないことが重要です。
施肥で硫黄を補う場合は、速効性の硫酸塩肥料だけでなく、土壌pHや水管理まで含めた「副作用の同時管理」が欠かせません。硫酸根資材は酸性化を進め得ること、水田では還元条件で硫化水素問題が起き得ることを前提に、圃場のタイプ別(露地・施設・水田)に“使いどころ”を決めるのが事故を減らす近道です。
検索上位の解説は「硫黄は必須」「セレンは微量で効く/過剰で毒」という整理で終わりがちですが、現場で本当に差が出るのは“リスクの形”の違いを理解しておくことです。硫黄のリスクは、欠乏よりも「酸性化」や「還元障害(硫化水素)」のように、土壌環境を通じて間接的に収量・品質へ効いてくることが多い点です。つまり、硫黄は“入れれば効く”より、“入れると圃場条件が動く”と捉えると管理が安定します。
一方、セレンのリスクは“元素そのものの扱いにくさ”です。セレンは必要量と中毒量の差が小さい特徴があり、過剰では植物側でも誤置換などで生育阻害につながり得ます。さらに、セレンを高濃度で蓄積できる植物(蓄積植物・高濃度蓄積植物)が存在し、メチル化して無毒化・揮発排出するなどの代謝戦略をとることが知られているため、同じ土壌でも「作物種の違い」で土壌中セレンの挙動やリスクが変わり得る、という視点が重要になります。
ここから導ける実務的な考え方は次の通りです。硫黄は「圃場の土壌反応と水管理」をセットで点検し、セレンは「入れない・増やさない」を原則に、どうしても関与するケース(汚染・資材由来・輪作による偏りなど)では“作物種と土壌診断”を優先する、という二段構えが安全です。カルコゲンという同じ族の元素でも、農業現場での“事故の起こり方”はまったく違うため、同列に扱わないのが最大のコツです。