果樹の「元肥」は、発芽・生育前に土の中へ“貯金”を作る施肥で、基肥・芽出し肥として扱われます。元肥の狙いは、春先の根の動きと新梢の立ち上がりに向けて、土壌中に養分を前もって配置することです。
現場でよく使われる大枠の目安は、元肥を10〜12月に有機質肥料、あるいは少し遅らせて3月に化成肥料という考え方です(有機はゆっくり、化成は狙った時期に効かせやすい)【page:2】。この「10〜12月 or 3月」の分岐は、気温と土壌水分で肥効の出方がズレるためで、冬に入るほど分解が進みにくく、春先にまとめて効き始めることがあります。
ただし、元肥=冬に窒素を入れる、を機械的にやると失敗が出ます。ニホンナシでは、冬季に窒素肥料を施用すると開花率が低下することが示され、さらに休眠期は樹体にほとんど吸収されず溶脱の懸念もある、と整理されています【page:3】。つまり「元肥は必要」でも「窒素を冬に入れることが最適とは限らない」というのが、押さえるべき重要ポイントです。
元肥を設計する時の実務チェックは次の通りです(園地ごとにブレるので、毎年固定にしないのがコツです)。
参考リンク(施肥基準を都道府県別に確認でき、元肥・追肥・秋肥など時期の指針を探す起点になる)
都道府県施肥基準等(農林水産省)
追肥(実肥え)は、果実肥大とその年の生育を直接支える施肥で、時期の基本は5〜6月と整理されることが多いです【page:2】。この時期は新梢伸長と果実の肥大が重なりやすく、窒素・カリが不足すると肥大が鈍ったり、葉色が抜けたりして後追いの修正が難しくなります。
追肥を「何で、どう入れるか」は、速さとロスのバランスで決めます。化成肥料を追肥に使うと扱いやすい、という整理があり【page:2】、雨前に表層へ散布するのか、軽く混和するのか、草生栽培か(雑草草生を基本に刈り取り、株元に敷きわら・敷草をする提案もあります)で効き方が変わります【page:2】。草生だと表層の有機物循環が作りやすい一方、乾燥期は肥料が溶けにくいので、降雨・かん水とのセットで考えるのが安全です。
追肥の「やり過ぎ」は、品質面で裏目が出ます。成熟前に土壌をやや乾燥気味に保つと糖度が上がりやすく、花芽形成も促進されるという考え方が示されており【page:2】、追肥を遅らせて効かせ過ぎると“糖度を上げたい時に肥料が残る”状態を作りやすいからです。追肥は「効かせる」だけでなく「切り上げる」タイミングまで含めて設計します。
現場での具体的な当て方の例として、窒素施用量の目安を「収量の100分の1」とし、収量2t/10aなら窒素20kg、リン酸は2割少なめの16kg、カリは窒素と同じ20kg、といった計算例が提示されています【page:2】。このように“収量→成分量→製品量”へ落とすと、追肥の量が感覚から数字に変わり、過不足の検討がしやすくなります。
お礼肥は、収穫で消耗した樹の回復と、翌年へ向けた養分貯蔵の側面が大きい施肥です。一般的な目安として8〜10月に施用する、収穫が11月以降になるカキやカンキツ類、キウイフルーツは収穫前の10月にお礼肥を施用する、という整理が紹介されています【page:2】。
配分の考え方として、元肥1/2・追肥1/4・お礼肥1/4という比率の目安が示され、樹齢・樹勢・着果量で加減する、とされています【page:2】。この「比率」は万能ではありませんが、初めて園を任された人が年間設計を崩さないための“骨格”として有効です。
お礼肥でありがちな落とし穴は、秋に窒素を効かせ過ぎてしまい、樹がいつまでも栄養成長モードになってしまうことです。肥料を切らせたい局面(成熟前の糖度上昇など)がある、という指摘があり【page:2】、お礼肥の成分選び(窒素偏重にしない、カリや有機質の使い方を見直す)と、施用後の水分管理が効いてきます。
また、お礼肥は「翌年の花芽」を意識して入れますが、“冬に窒素を置けばいい”に戻ってしまうと、ニホンナシのように冬季窒素が開花率低下に関係する可能性も示されているため【page:3】、樹種別に施肥時期の常識を更新する姿勢が重要です。
参考リンク(元肥・追肥・お礼肥の時期目安、施肥量配分、土壌診断や土づくりの考え方が一通りまとまっている)
果樹園の施肥・土づくり(JA尾張中央)
同じ「果樹の肥料 時期」でも、園地が違えば正解が変わります。だから独自視点として強調したいのは、施肥の時期をカレンダー固定にせず、土壌診断と基準データで毎年アップデートする運用です。
まず、現場の入口は土壌診断です。元肥施用前に土壌診断を依頼し、診断結果に基づいて苦土石灰などの土壌改良資材や堆肥を投入する、という流れが具体的に書かれています【page:2】。ここを飛ばすと、窒素だけを追いかけてリン酸過剰・カリ不足・pH不適などが放置され、「時期は合っているのに効かない」状態が起きやすくなります。
次に、都道府県の施肥基準を“確認できる仕組み”を持つことが大切です。農研機構には、都道府県の施肥基準値や堆肥の施用基準値などをデータベース化した取り組みがあり、施肥成分の総量推計や回収養分量の試算などに使えるとされています【page:1】。この考え方を現場へ落とすと、「うちの園の実績収量・施肥量・土壌診断の推移」を最低限の台帳で残し、翌年の元肥・追肥・お礼肥の“時期と量”を微調整する、という改善サイクルが回せます。
意外と効く小技は、「施肥の量」より先に「施肥の目的」を言語化することです。例えば、追肥は果実肥大、成熟前は糖度と花芽、収穫後は回復と貯蔵…というように、効かせたい・切らせたい局面が明確になると【page:2】、時期の微調整(数週間の前後)に根拠が生まれ、上司や指導員に説明もしやすくなります。
最後に注意喚起として、冬季の窒素は“慣行だから”で入れないことです。ニホンナシでは冬季窒素が樹体にほとんど吸収されず、溶脱が懸念され、さらに開花に影響する可能性が示されています【page:3】。この事実は、他樹種でも「休眠期に窒素を置く」ことを一度疑い、春肥・夏肥・秋肥の配分や資材選びを再設計するきっかけになります。
参考リンク(冬季窒素と開花率の関係という“見落としやすい論点”が短くまとまっている)
冬季の窒素施肥によってニホンナシの開花率が低下する(農研機構)