可変施肥システムとはスマート農業で収量を最大化する技術

可変施肥システムとは何か、仕組みや導入メリットをわかりやすく解説。肥料コスト25%削減・収量15%アップの事例も。あなたの農場に合った始め方とは?

可変施肥システムとはスマート農業で収量を底上げする精密技術

実は、均一に肥料をまくほど肥料コストが増えて収量が下がるほ場もあります。


この記事のポイント
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可変施肥システムとは?

ほ場内の地力・生育ムラに応じて施肥量を自動制御するスマート農業技術。場所ごとに最適な量を届けることで収量と品質を安定させます。

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導入効果の実績

収量15%アップ・肥料コスト25%削減・除草剤コスト50%削減の事例が報告されています(宮崎県 水稲農家 児玉氏の事例)。

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始め方はさまざま

高価な農機がなくても月額1,100円のアプリから始められます。衛星データ×AIが地力マップを自動生成するので専門知識不要です。


可変施肥システムとは何か:基本の定義と「均一施肥」との違い

「可変施肥(かへんせひ)」とは、ほ場内の場所ごとに地力や作物の生育状態が異なることを前提として、それぞれの状況に最適な量の肥料を自動的にコントロールして施す技術です。農林水産省の定義でも「作物の生育や土壌などのばらつきに合わせて、圃場の状況に応じた施肥を行う技術」とされています。


多くの農業従事者がこれまで実践してきたのは「均一施肥」です。これはほ場全体に一定量の肥料を均等に散布する方法で、作業がシンプルになる一方、大きな問題を抱えています。ほ場内の地力は、1枚の田んぼの中でも場所によって大きくばらつきがあるためです。


実際、農林水産省のスマート農業教育資料では、秋まき小麦の圃場を数十点サンプリングして分析したところ、1枚のほ場の中で窒素量換算10a(アール)あたり6〜7kgもの施肥量の差が必要だったことが確認されています。秋まき小麦の総窒素施肥量が10aあたり15〜16kgですから、6〜7kgのばらつきは無視できない量です。


均一施肥では、地力が高い場所は肥料が過剰になって品質低下・倒伏・コスト増を招き、地力が低い場所は肥料不足で収量が伸び悩みます。これがほ場全体の収量・品質の不安定につながります。可変施肥システムはこの問題を根本から解決する考え方です。


参考:農林水産省スマート農業人材育成・確保事業「可変施肥とは何か」
https://www.maff.go.jp/j/keiei/nougyou_jinzaiikusei_kakuho/attach/pdf/smart_kyoiku-44.pdf


可変施肥システムの仕組み:センサ・衛星・ドローンがほ場を「見える化」

可変施肥システムを動かす核心は「センシング(観測)」と「施肥量の自動制御」の2ステップです。まずほ場内の状態をデータで把握し、次にそのデータをもとに施肥量を場所ごとに自動的に調整します。


センシングの方法は大きく2系統に分かれます。「センサベース可変施肥」と「マップベース可変施肥」です。


センサベース可変施肥は、トラクターや田植機に搭載された生育センサが、走行しながらリアルタイムで作物の生育状態を観測し、その場で施肥量を制御します。たとえばトプコン社のCropSpecというレーザー式生育センサは、車両の走行中に1秒ごとに生育量を測定し、最適な追肥量を自動計算して施肥機に指示を出します。夜間も使用可能で、作業時間の自由度が高いことも特徴です。


マップベース可変施肥は、事前に「施肥マップ」を作成しておき、それをもとに施肥機が自動制御する方式です。施肥マップの作成には衛星データ・ドローン撮影・AIによる解析などが活用されます。GNSS(全地球航法衛星システム)で農機の位置を正確に把握しながら、マップどおりの施肥量を実現します。



  • 🛰️ 衛星データ活用:過去・現在の衛星画像をAIが解析してほ場ごとの地力マップや生育マップを自動生成。天候に左右されることもありますが、低コストで広いほ場にも対応できます。画像配信サービスを使えば施肥準備までの時間が最も短いとされています。

  • 🚁 ドローン活用:マルチスペクトルカメラを搭載したドローンで圃場を撮影し、NDVI(植生指数)などの指標から生育ムラを高解像度で把握します。解像度が高いため病害センシングなど他の用途にも応用が可能です。

  • 📡 センサ搭載農機:田植機トラクター・コンバインに各種センサを搭載することで、基肥・追肥・収量データまで一元的に管理できます。ヤンマーの可変施肥田植機はGNSSアンテナとタッチパネル操作で、誰でも熟練者レベルの施肥ができるように設計されています。


つまり「データで見る→マップを作る→機械が自動で散布する」という流れが基本です。


参考:アグリポート「リモートセンシング技術を利用した可変施肥体系の比較」
https://agriport.jp/field/ap-13415/


可変施肥システムの導入で期待できる効果:収量・コスト・品質のトリプル改善

可変施肥システムの導入効果は主に3つの側面から確認されています。収量の向上、肥料コストの削減、そして収穫物の品質安定化です。


宮崎県で水稲とサツマイモを6ha(水稲4ha)栽培する農家・児玉氏のケースでは、BASFのAI農業アプリ「ザルビオ フィールドマネージャー」の地力マップと生育マップを活用した可変施肥を実施した結果、肥料費用を25%削減し、除草剤コストを50%削減、さらに収量を15%アップさせることに成功しています。JA全農とちぎの実証データでも、可変施肥によって肥料コストを約10〜15%削減しつつ、収量のばらつきを抑えて全体の歩留まりを向上させる成果が報告されています。


これは使えそうです。


なぜ収量が上がるのかというと、地力の低い場所にしっかり肥料を届けることで生育不良区画がなくなり、ほ場全体の底上げが実現するからです。反対に、もともと地力が高い場所では施肥量を抑えることで倒伏を防ぎ、食味や品質のばらつきを減らす効果もあります。


































効果の種類 具体的な数値目安 主な作物
収量アップ 5〜15%増(事例により異なる) 水稲・小麦・馬鈴薯など
肥料コスト削減 10〜25%削減 水稲・秋まき小麦など
倒伏軽減 地力高ゾーンへの過剰施肥を防止 水稲・小麦
品質安定化 食味スコア・等級ムラを低減 水稲(食味米)
除草剤コスト削減 最大50%削減の事例あり 水稲


特に注目すべきなのは除草剤コスト削減の効果です。地力が高い場所は雑草も生えやすいという傾向があるため、地力マップを活用することで除草剤を必要なエリアにだけピンポイントで散布できるようになります。これは多くの農業従事者が見落としがちなメリットです。


参考:minorasu(ミノラス)「可変施肥の仕組みを解説!月額1,100円で収量15%の事例も」
https://minorasu.basf.co.jp/80986


可変施肥システムの始め方と費用:高額農機なしでも月1,100円から導入できる

「可変施肥システムは大規模農家や企業農場でないと使えない」と思っている農業従事者は少なくありません。しかしそれは過去の話で、現在は規模を問わず始められる選択肢が揃っています。


導入の選択肢は3段階で考えると整理しやすいです。


まず最もコストがかからないのは、農業者自身の経験と知識を活用する方法です。長年同じほ場を耕作していれば、どの区画の地力が高く、どの区画が生育しにくいかは経験的にわかります。ただし、経験が少ない方や新たに農地を引き継いだ場合には対応が難しく、精度面でも限界があります。


次の選択肢はJAなどの専門機関への土壌診断依頼です。JAでは土壌を自身で採取して提出すれば、1ヶ月程度で土壌成分の分析結果が得られます。ほ場を細分化して多点診断すれば地力ムラをある程度把握できますが、調査地点を増やすほど手間とコストがかかります。


そして近年最もおすすめとされるのが可変施肥ツール(アプリ・Webサービス)の活用です。衛星データをAIで解析して地力マップ・生育マップを自動生成するサービスは、初期費用ゼロ・月額1,100円程度から利用可能なものも登場しています。



  • 📌 ザルビオ フィールドマネージャー(BASF):水稲・大豆・麦に対応した地力マップ・生育マップ機能が年額13,200円(2ha以下)から。AIが衛星データを解析して自動でマップを生成するため、専門知識不要です。

  • 📌 ヤンマー 施肥設計システム+可変施肥田植機:リモートセンシングデータから施肥マップを作成し、USBメモリ経由で田植機に読み込んで自動可変施肥を実施。熟練者でなくても操作可能な設計です。

  • 📌 農研機構の実証プロジェクト採択事例:北海道・東北・関東など全国の農家が参加した実証事例が農研機構のサイトで公開されており、地域に合った導入イメージが掴めます。


農林水産省の試算によれば、センサベースの可変施肥システムをフルスペックで導入する場合は初期費用が約600万円かかり、採算規模は秋まき小麦のみの場合で70〜100haが必要とされています。ただし、ソフトウェアのみを活用したマップベースの方式を組み合わせることで、採算規模は24〜33haまで大幅に下げられることが示されています。小規模なほ場でも月額サービスであれば費用対効果を確認しながら始めることが可能です。


参考:農研機構「スマート農業実証プロジェクト 可変施肥システム」
https://www.naro.go.jp/smart-nogyo/seika_portal/gijutsu/portal14_1.html


可変施肥システムで失敗しないための注意点と、独自視点の「ほ場相性」問題

可変施肥システムには導入効果を高めるための重要な前提条件があります。すべてのほ場で同じように効果が出るわけではないという点は、農業従事者が事前に知っておくべき重要な知識です。


農林水産省の資料では、可変施肥の効果が小さくなるケースとして「土壌の腐植含量と生育に負の相関があるほ場」が挙げられています。つまり、黒くて有機物が多い場所ほど生育が悪いほ場では、センシングデータの読み方を誤ると施肥量の設定が逆効果になるリスクがあります。石や礫が多くて作物の生育後半に急激に生育が低下するほ場、排水性が悪くて収穫前に枯れ上がりが遅れるほ場なども同様で、肥料を増量しても無駄になるケースがあります。


「ほ場との相性を確認することが条件です。」


こうした問題を避けるためには、いきなりシステム全体に投資するのではなく、まず地力マップや土壌診断でほ場の特性を把握することが先決です。地力マップを活用することで「正の相関ほ場(地力が高い=生育が良い)」か「負の相関ほ場」かを事前に判断でき、投資対効果を見通した上で意思決定ができます。


また、可変施肥を実施するうえで農研機構がまとめている「事前検討チェックリスト」は非常に実用的です。



  • ✅ 施肥を可変する単位がほ場ごとなのか、ほ場内のメッシュ単位なのかを事前に意思決定しているか

  • ✅ 得られたデータをもとに施肥量を判断できる人材がいるか、または判断をサポートするシステムがあるか

  • ✅ 散布機器(ブロードキャスター等)への施肥マップのデータ反映方法を確認しているか

  • ✅ 導入予定システムのコストと可変施肥で得られる利益の費用対効果を試算したか

  • ✅ ドローンで生育情報を撮影する場合、オペレーターや画像処理ソフトの手配が整っているか


農研機構の実証プロジェクトでは「収量減を恐れて基準施肥量を高く設定しすぎたために、可変施肥を導入したのに総施肥量が前年より増えてしまい、売上は増えたが肥料代が増加して赤字になった」という失敗事例も報告されています。可変施肥の本来の狙いは「過剰施肥の削減」と「不足施肥の解消」の両立であり、どちらか一方に偏ると効果が半減します。


ヤンマーの技術資料でも指摘されているように、施肥量と収量の関係には最適点があり、一定ラインを超えると収量は横ばいになり、その後減少する性質があります。これが基本です。施肥量を増やし続ければ収量が上がり続けるという思い込みを修正することが、可変施肥システムを正しく活用するための第一歩です。


参考:ヤンマーテクニカルレビュー「ヤンマーの可変施肥の紹介〜熟練者レベルの肥料散布を、誰でも簡単に〜」
https://www.yanmar.com/jp/about/technology/technical_review/2022/08_12.html