「ウツロイド 植物 病害」で混乱しやすいのは、ネット上で“ウツロイド”という語が別分野でも使われる一方、農業現場で本当に警戒すべきはウイロイド(Viroid)という点です。ウイロイドは、タンパク質を持たず、一本鎖の環状RNAだけで成立する“最小の植物病原体”として整理されています。日本植物防疫協会の解説でも、ウイロイドは250~400塩基程度の一本鎖環状RNAからなる病原体で、タンパク質をコードしないことが明記されています。
ウイロイド病害の厄介さは、「症状が出る/出ない」が作物・系統・環境で大きくぶれることです。国内でもトマトでTCDVd、PSTVdによる未発生ウイロイド病が確認された経緯があり、種苗を介した侵入の疑いが示されています。
参考)ナス科植物に重大な病害を引き起こす植物病原ウイロイドの新たな…
さらに、1つのウイロイド種の中に多数の変異体があり、無症状から矮化・枯死まで病原性の幅があることも、対策を難しくします。
参考)ウイロイド
現場の観察としては、ウイロイド“だけ”を疑うのではなく、同時に「似た症状」を作る別の病害(糸状菌など)を除外していくのが現実的です。たとえば灰色かび病は、病変部が灰色のカビに覆われる典型像があり、初期は水がしみたような斑点から急拡大し腐敗へ進むと解説されています。
参考)灰色かび病|症状の見分け方・発生原因と防除方法
つまり「カビが見える」「腐敗が急激」なら糸状菌疑いが強く、逆に「矮化・生育不良がじわじわ」「症状が曖昧」「株ごとの差が大きい」場合はウイロイドを視野に入れて検査へ、という切り分けが役立ちます。
参考:ウイロイドの定義・国内発生経緯(トマトのTCDVd/PSTVdなど)
日本植物防疫協会(植物防疫)「作物に発生するウイロイド病害」
ウイロイド対策で最重要なのは「畑の中で増やさない」よりも、まず「畑に入れない」「入ったら広げない」の二段構えです。近年の整理では、感染種子等の国際的な移動によって世界各地で発生が起きている、というリスク構造が明確にされています。
このため、導入苗・導入種子の段階(仕入れ先、ロット、検査体制、隔離栽培の有無)が、病害リスクを決める“上流工程”になります。
次に、圃場内での主役が「汁液伝染」です。農研機構の研究成果では、ウイロイドは汚染した農器具等を介した汁液伝染などにより様々な植物に伝染する、と説明されています。
ここから逆算すると、対策は薬剤よりも「作業の設計」と「衛生の運用」に寄ってきます。
実務のポイントは、次のように“作業動線で感染確率を下げる”ことです。
意外と見落とされるのが、「無病徴の株」が作業上の“汚染源”になりうる点です。農研機構は、PSTVdがトマトで無症状感染でも、他の植物種で発病するリスクがあるため、無症状で潜伏したウイロイドが汚染源となることを未然に防止する重要性を述べています。
つまり、見た目で問題がない株を触った後の作業ほど、衛生手順が効いてきます。
参考:汁液伝染・無症状感染のリスク(研究成果の概要がまとまっている)
農研機構「重要植物病原体ウイロイドの病原性を予測するアルゴリズム」
ウイロイドは「症状で確定」しにくいので、疑ったら検査設計が勝負になります。農研機構は、PSTVdについてマルチプレックスPCR法を用いた検出法を開発し、世界で発生したPSTVdの全系統を1回の操作で検出できる、と公表しています。
また、PSTVdと近縁で識別が難しかったTCDVdも識別可能になった、と説明されています。
現場で押さえるべき現実は、「検査は万能ではない」ではなく、「検査は設計しないと外す」です。ウイロイドは変異体が多く、病原性も様々なので、検査の前提として“対象(疑いのウイロイド)”をある程度絞り、検体(どの部位、どの株、どのタイミング)を戦略的に取る必要が出ます。
同じ圃場でも、症状株だけでなく、周辺の無症状株が潜伏している可能性を考えて検体を組む、という発想が重要です。
さらに、検査結果が出るまでの“待ち時間”が最大のリスクになることがあります。疑いが出た時点で、少なくとも次の暫定措置を同時に走らせると、拡大確率を落とせます。
参考:PSTVdの検出法(全系統検出、TCDVd識別)
農研機構「PSTVdの新たな検出法(マルチプレックスPCR)」
ウイロイド病害は、発生後の“治療”が期待しにくい前提で組み立てます。農研機構は、ウイロイドに感染した植物に対し有効な薬剤はなく、一度感染すると感染植物を全て廃棄処分しなければならない、と明確に述べています。
このため、対策の中心は「感染株を残さない」「汚染源を圃場に残さない」になります。
ただし廃棄は“最後の手段”というより、拡大を止めるための“初動セット”に近い位置づけです。特にPSTVdのように系統差・変異体差があり、症状の強度が無症状から枯死まで広い場合、症状が軽い=安全ではありません。
ここで判断を誤ると、翌作や隣作で一気に問題化し、結果として廃棄量が増えます。
再発防止では、「伝染経路のつぶし込み」を作業手順として固定化するのが効果的です。農研機構が示すように農器具等を介した汁液伝染が重要なら、次作からは“衛生が維持できる設計”に戻していきます。
また、糸状菌病害(例:灰色かび病)と同時に悩まされる現場では、換気・密植回避・枯れ葉除去など“多湿対策”を徹底し、カビ由来の腐敗とウイロイド由来の生育異常を分けて観察できる状態に整えると、診断精度が上がります。灰色かび病は多湿で多発し、枯れた下葉や花がら除去、風通し確保が予防として挙げられています。
検索上位の記事では「症状」「原因」「防除」の説明が中心になりがちですが、農業現場で実際に差が出るのは“記録の取り方”です。ウイロイドは無症状感染や変異体による病原性差があるため、発病してから原因究明を始めると、過去の作業が追えず、伝染経路の推定が曖昧になります。
そこで、病害そのものの知識に加えて、簡易な「作業ログ」を日常運用に組み込むのが意外に効きます。
おすすめは、紙でもスマホでも良いので、次の3点だけを“毎日”残す方式です。
このログがあると、もしPSTVd等が疑われた際に、検査の検体設計(どの区画から優先的に採るか)や、廃棄範囲の判断(どこまでを同一汚染系として扱うか)の“根拠”が作れます。さらに、農研機構が示すような病徴強度の予測(変異体差)という考え方とも相性がよく、「症状が軽い区画」を軽視しない運用に繋がります。
結果として、拡大を止めるまでの時間が短くなり、廃棄の総量・作業損失・信用損失を減らせる可能性が上がります。