梅の施肥を「いつやるか」で一番軸になるのが元肥です。元肥は、次の作に向けて土づくりと樹体の基礎体力を作る意味合いが強く、休眠期に向かう秋~初冬に据えるのが基本線です。現場の作業暦でも、10月に元肥が入る例が示されています。
元肥の時期が秋寄りになるのは、単に“慣習”ではなく、根が動ける土温のあるうちに、肥料分が土に馴染み、翌春以降に効かせやすいからです。農林水産省の資料でも、基肥として10月上旬に全量の80%を施用し、残りを収穫後に礼肥として施す体系が示されています。つまり「元肥を厚く、礼肥で回復」という考え方は、公的な施肥体系の中にも位置づきがあります。
元肥でよく起きる失敗は2つあります。1つは「とにかく多く入れておけば安心」という過剰投入で、翌年の徒長や病気の誘発、樹勢のアンバランスにつながります。もう1つは「秋の作業が忙しくて先延ばし」による遅れで、土温が下がってからの施肥は効きが鈍りやすく、結局春先に“追い施肥で帳尻合わせ”になりがちです。
実務では、元肥は“基準量を守る”よりも、“園地差を把握して揃える”ことが効いてきます。土壌が乾きやすい園、草生が強い園、樹が老木化している園では、同じ施肥量でも出方が変わります。最低限でも、前年の着果量・収穫後の葉色・秋の新梢伸長(止まり方)を見て、翌年の元肥量を微調整する癖をつけると、樹勢が揃いやすくなります。
施肥作業としては、元肥は“根がいる位置”を意識します。株元に寄せ過ぎず、樹冠の外周(いわゆる雨落ち)寄りに散布して、浅く土と馴染ませる方が、吸収につながりやすいです。深く埋めると根域外になったり、酸素不足の層に入ったりして、狙い通りに効かないことがあります。
参考:基肥を10月上旬に80%施し、残りを収穫後に礼肥とする施肥時期の考え方(施肥体系の根拠)
農林水産省:施肥時期(基肥・礼肥)の記載がある資料
梅の肥料時期で、もっとも“遅れると損が出やすい”のが、お礼肥(礼肥)です。収穫直後の樹は、光合成で貯めた養分を果実生産に振り向けて消耗し、ここから来年実をならすための養分貯蔵期に入ります。だからこそ、収穫後はすぐ礼肥を施用して早期の樹勢回復と養分貯蔵を助長する、という整理が現場指導として示されています。
お礼肥で「有機か化成か」を迷う人は多いですが、礼肥は目的上、速やかに樹に養分を供給したいので、有機質肥料より化成肥料が適する、という考え方が提示されています。ここを逆にしてしまい、「礼肥=お礼の気持ち=有機でじわじわ」が先行すると、回復のスピードが落ちて、結果的に花芽の質が落ちやすくなります。もちろん有機物投入自体を否定する話ではなく、“礼肥の役割”に対しては即効性が合理的、という意味です。
礼肥の量も、ざっくりではなく「着果量・樹齢(成木か幼木か)」で目安が整理できます。指導例として、着果量の多い成木は10aあたり成分換算でN-P-K=3-0-3kg、着果量の少ない幼木(15年生未満)はN-P-K=1-0-1kgが目安とされています。ここでリン酸がゼロなのは、リン酸は種子形成など生殖活動期に必要で、元肥で十分量が入っているなら追肥で足す必要が薄い、という説明が付いています。
お礼肥は「いつ」「何を」だけでなく、「どう効かせるか」も重要です。収穫後に高温乾燥が続くと、肥料はあっても水がなくて吸えません。雨が読めないときは、散布後に軽く灌水できる条件(灌水設備・タンク・水源)を確保しておくと、礼肥の効きが安定します。特に砂質寄りや傾斜園では、乾きと流亡が同時に起きやすいので、“小分け”の発想も有効です(ただし回数を増やすほど作業負担も増えるため、園の規模に合わせます)。
参考:収穫後はすぐ礼肥、礼肥は化成肥料が適する、施用量目安(成分換算)、リン酸を追肥しない理由
JAいるま野:梅収穫後の管理(礼肥・施肥量・肥料種類)
梅の肥料時期は、元肥とお礼肥の“2本柱”だけで語られることが多い一方、実際の現場では追肥(実肥)をどう入れるかで、収量のブレが小さくなります。追肥は、樹勢が落ちやすい園、隔年結果が出やすい園、樹齢が進んで新梢発生が弱い園などで、春の伸長や果実肥大を支える意味で効きます。逆に樹勢が強い園で追肥を定型化すると、徒長枝が増えて受光が悪くなり、結果枝が弱り、翌年の花芽が減る、という“逆効果”にもなります。
追肥(実肥)を組むときの考え方は「樹の要求が高い時期に、吸える形で、吸える量だけ」です。和歌山県のウメ施肥基準では、実肥を2回に分け、1回目を4月上中旬、2回目を5月上中旬に、年間窒素施用量の各15%相当を施すことが奨励されている、と研究資料内で示されています。つまり、実肥は“春にまとめてドン”ではなく、“分施”が前提の設計です。
この分施設計が活きるのは、窒素が土壌中で動きやすく、雨や土質で効き方が変わるからです。実肥を早めると果実肥大後期の土壌中窒素レベルが低い状態になり得る、といった検討も示されており、時期の前倒し・後ろ倒しは単純に「早い方が良い」ではありません。重要なのは、あなたの園で“どの時期に不足が出るか”を、葉色・新梢伸長・落果の出方で掴み、実肥の回数と時期を合わせることです。
追肥の肥料選択は、礼肥ほど即効性一本槍ではありませんが、春先は根が動き始めるタイミングなので、効きが読める設計が必要です。有機質を入れるなら、元肥側に寄せて土づくりの役割として活かし、春の実肥は成分が読める配合で“狙った量を狙った時期に”入れる方が、結果が安定します。特に降雨が少ない春は、粒状肥料を撒いて終わりだと効きが遅れるため、雨前散布・軽い灌水・散布位置の工夫が効いてきます。
追肥の判断で迷ったら、まず「前年の着果が多かったのに、収穫後の葉色が薄い」「夏以降の枝止まりが早く、結果枝が細い」「冬芽が小さく、花芽が弱い」など、樹のサインを拾ってください。逆に「徒長が強く、枝が太いのに結果枝が少ない」園では、追肥よりも剪定・受光改善・草生管理の方が効くケースが多いです。肥料で解決しようとすると、ますます樹が暴れる、というのが梅でよくある落とし穴です。
参考:実肥を4月上中旬・5月上中旬の2回に分ける奨励、施肥時期を変えた場合の影響検討
和歌山県:ウメ‘南高’ 実肥施肥時期の検討資料(施肥基準の記載あり)
梅の施肥は、カレンダー通りにやっても失敗します。理由は、同じ地域でも土質・傾斜・排水・下草の量で、肥料の残り方と吸われ方が違うからです。だから「梅の肥料時期」を考えるときは、時期だけでなく、失敗パターンを先に知って潰すのが近道です。
よくある失敗例は次の通りです。
ここで効くのが、土壌分析と葉の観察です。土壌分析は「今年の正解を当てる」ためというより、「外しにくい範囲」を作るためにやります。例えば、pHが適正から外れているのに窒素だけ足すと、吸収効率が上がらず、結果として“もっと肥料を入れたくなる”悪循環に入りやすいです。分析が難しい場合でも、最低限、土壌の物理性(硬盤・排水・表層の乾きやすさ)を確認し、肥料が効きやすい土の状態を維持する方が、施肥時期の精度が上がります。
葉色を見るときは、単純に「濃い=良い」ではありません。濃すぎる葉色は樹勢過多のサインでもあり、結果枝が充実しない原因になります。逆に収穫直後に急に薄くなる園は、礼肥の遅れ・不足、または着果負担の大きさが疑われます。葉色は日当たりや葉齢でも変わるので、同じ樹の同じ位置(樹冠外周の中庸枝)で毎年見比べると、判断がブレにくくなります。
さらに意外と見落とされるのが「リン酸の扱い」です。礼肥の施用量目安でリン酸が含まれない理由として、リン酸は生殖活動期に必要で、元肥で十分量が入っているなら追肥で追加不要、という説明があります。つまり、礼肥でリン酸を足し過ぎると、コストだけが増えて効果が見えにくくなります。配合肥料を使う場合は、N-P-Kの数字を見て、礼肥の目的に合う設計かを必ず確認してください。
参考:礼肥の施用量目安(N-P-K)、リン酸を追肥しない理由(元肥で十分の場合)
JAいるま野:礼肥の成分設計と理由
検索上位の「梅の肥料時期」は、肥料の話だけで終わっていることが多いのですが、現場では“施肥だけ”で樹勢回復を狙うと失敗します。独自視点として強調したいのは、収穫後の管理を「礼肥+夏季剪定」でセットにして考えることです。礼肥は樹勢回復と養分貯蔵を助長する狙いですが、樹冠内部が混み合って受光が悪いと、そもそも光合成が伸びず、貯蔵が進みにくくなります。
収穫後管理の指導例でも、樹の養分貯蔵を助長するために夏季剪定も必要な管理のひとつ、と整理されています。さらに、夏季剪定の時期は8月下旬~9月中旬が目安で、ポイントは自発休眠が始まってから剪定すること、と具体的に示されています。8月下旬より前に枝を落とすと、樹は栄養成長期の真っただ中で、剪定で失った枝を補うために無駄な養分を消費しやすい、という説明は、施肥設計にも直結します。
つまり、礼肥で入れた養分を「回復と貯蔵」に回したいのに、剪定の時期が早すぎると「枝の作り直し」に持っていかれます。これが、礼肥を入れているのに樹勢が戻らない、枝が暴れる、秋芽が伸びて止まらない、といった現象の一因になります。肥料の量をいじる前に、“いつ剪定したか”を振り返る価値が高いポイントです。
夏季剪定で落とす枝の選び方も、施肥と相性があります。樹冠内部の主枝・亜主枝の背面に出た徒長枝、勢いが強く基部が茶色に変化した枝、重なって日陰を作っている枝を落とす、という具体例が示されています。これを実施すると、樹冠内部や下枝の受光が改善して内部枝が充実する、とされており、翌年の結果枝の質を上げる方向に働きます。肥料で無理に“勢い”を作るのではなく、光で“実力”を作る、という発想が、隔年結果を減らすうえで効いてきます。
礼肥→夏季剪定→元肥、という流れで一連の管理を組むと、施肥の効きが読みやすくなります。礼肥の後は、樹の回復具合を葉色と新梢で見て、8月下旬以降に剪定で受光改善し、秋の元肥で基礎を固める。こうすると、翌年春の追肥(実肥)を“足りない分だけ”に抑えやすくなり、コストと病害リスクの両方を下げられます。
参考:収穫後は礼肥、樹の養分貯蔵を助長する管理として夏季剪定が必要、夏季剪定の適期(8月下旬~9月中旬)と早すぎる剪定の注意点
JAいるま野:収穫後管理(礼肥+夏季剪定の実務)