水面に虹色っぽく光る「油膜のような膜」が出たとき、実際は油ではなく、鉄バクテリアが関与した“鉄の酸化皮膜”であるケースがあります。鉄バクテリアは、水中に溶けている二価鉄(Fe2+)を酸化する過程でエネルギーを得て増え、その結果として不溶化した鉄化合物が膜や沈殿として見える形で現れます。
自治体や教育機関の解説では、この膜の主成分として水酸化第二鉄(例:Fe(OH)3)が挙げられており、油膜と誤認されやすい典型例として「田んぼ周辺の水たまり・湧水地・流れの弱い場所」が紹介されています。
農業現場で重要なのは、「見た目=油」と決めつけないことです。油膜なら流出源の特定や拡散防止が優先ですが、鉄バクテリア由来なら“水質(鉄分)と環境(停滞・酸素)”が根本要因になり、対策の方向がまったく変わります。
また、鉄バクテリアは土壌中に広く存在し、鉄を多く含む地下水が湧き出す場所で繁殖しやすいことが報告されています。したがって、井戸水・湧水・暗渠排水が絡む圃場では「毎年同じ場所で出る」現象として出やすく、再現性がある点も油膜と違うヒントになります。
現場でまず試せるのが「臭い」です。油膜は油臭がすることが多い一方、鉄バクテリア由来の皮膜は油臭がしないと複数の公的資料・解説で説明されています。特に水路や取水口で発見したとき、最初に風下側で安全に確認するだけでも判断材料になります。
次に有名で確実性が高いのが「割れ方(つつき試験)」です。棒や指先で膜を軽くつついたとき、鉄バクテリア由来の皮膜は“パリッと割れて、元の連続した膜に戻りにくい”のが特徴です。逆に油膜は液体の薄膜なので、押し分けても再び寄ってきて膜状のまま保たれやすく、割れてもすぐ復元します。
この差は自治体の注意喚起や技術資料でも繰り返し紹介されており、油流出の通報前に落ち着いて行う一次判別として実用的です。
ただし、注意点もあります。農薬・機械油・燃料などが少量混ざると臭いが弱い場合があり、また有機物が多い止水だと“油膜+微生物膜”のように複合化して見えることもあります。一次判別で判断がつかない、あるいは近隣で機械作業・給油・工事があった場合は、通報や水質確認を優先し、無理に断定しない運用が安全です。
鉄バクテリア由来の膜が目立つのは、一般に「鉄を含む水が供給されるのに、流れが弱い(または滞留する)場所」です。技術資料では、鉄バクテリアは地下水に含まれる二価鉄が湧出する環境で繁殖しやすく、繁殖に伴って水面に光沢のある酸化鉄の皮膜を形成し、茶褐色の沈殿物も生じると整理されています。
農業従事者の視点で言い換えると、以下のような場所が要注意です(ただし“油の可能性”も同時に残るため、見分け方とセットで観察します)。
・田んぼの取水口・取水桝:流速が落ち、沈殿が溜まりやすい
・水たまり・圃場内の凹地:止水で膜が維持されやすい
・井戸水を一時貯留するタンク:鉄分が多いと赤水や沈殿が出やすい
・暗渠や湧水の出口付近:鉄を含む地下水が供給され続ける
さらに厄介なのは、鉄バクテリアが“見た目の膜”だけで終わらず、設備側にも影響を出すことです。井戸水や配管に鉄バクテリアが含まれると、付着・増殖していわゆる「錆こぶ(鉄の沈着物)」の形成を助長し、詰まりや腐食トラブルの一因になることが解説されています。水が出る・出ないのムラ、散水ノズルの目詰まり、ろ過器の圧損上昇など、農業用水の安定供給に直結する症状として現れるため、単なる“油膜っぽい見た目”で片付けないことが大切です。
鉄バクテリア由来の膜(酸化鉄の皮膜)だった場合、対策の主眼は「油を取り除く」ではなく「鉄が酸化・沈殿しても困らないように運用する」ことになります。実務では、沈殿が溜まる場所を把握して定期的に排泥・清掃する、取水口の滞留を減らす(流れをつくる/落差を見直す)、貯留タンクをこまめに洗浄する、といった“現場管理”が効きます。
設備面では、鉄バクテリアを含む微生物の働きを利用した除鉄(いわゆる生物処理・バイオフィルトレーション)に関する報告もあります。例えば、鉄バクテリアを利用したろ過池の除鉄効果や維持管理に関する資料では、鉄バクテリアが溶存鉄を酸化して不溶化し、結果として鉄が除去される原理が説明されています。こうした考え方は飲用・公園設備などの分野で整理されていますが、農業用井戸でも「鉄が多い原水」を前提に、前処理(曝気)やろ材を使った沈殿・ろ過を組み合わせる発想として参考になります。
一方で、油膜だった場合は話が別です。油は少量でも水面を広がりやすく、悪臭・作物や水生生物への影響、周辺への拡散リスクがあるため、見分け方で油が疑われた時点で関係各所への連絡・拡散防止を優先してください。特に農機具の給油場所、倉庫前の排水、軽油・潤滑油の取り扱いのある作業動線に近い水路で見つかった場合は、原因が現場内にある可能性もあるため、記録(場所・写真・時間)を残す運用が後々の再発防止に役立ちます。
ここは検索上位の「見分け方」から一歩踏み込み、農業に寄せた意外な視点です。鉄バクテリアの集積物には鉄化合物が多く含まれ、リン吸着能を持つため、自然水域におけるリン資源の循環利用に重要な役割を果たし得る、という研究成果報告が公開されています(KAKENの研究成果報告書)。つまり、鉄バクテリア由来の“鉄の沈殿”は、単に厄介者ではなく、条件次第でリン(肥料成分)の動きにも影響する可能性があるということです。
圃場の水管理で考えると、取水口・水路・沈殿池に鉄由来の沈殿が溜まっている環境では、リンが水中から沈殿側へ引き込まれる(吸着される)方向に働く場合があります。これは「リンを減らしたい水域」ではメリットになり得ますが、稲作や畑作で“効かせたいリン”まで想定外に固定されると、施肥設計や生育ムラの一因になりかねません。
現場でできる範囲の実践としては、鉄バクテリア膜が出やすい取水系統を把握し、①その系統だけ水質(鉄・pH)を簡易検査する、②沈殿物が溜まる箇所を定点観察して「増える季節」を掴む、③同じ圃場でも水口側と水尻側で生育差が出る場合に“鉄・リンの相互作用”を疑ってみる、といった“原因仮説の立て方”が役に立ちます。
肥料・土壌診断は多くの要因が絡むため断定は禁物ですが、「油膜と違って、鉄バクテリア由来の膜は“水質と養分動態”にも繋がる話題」と捉えると、単なるトラブル対応から一段上の管理改善に繋げやすくなります。
水酸化第二鉄や鉄の酸化皮膜の基礎:沖縄県:水たまりに油膜??実は鉄の酸化皮膜!!(鉄バクテリアと水酸化第二鉄の説明)
現場での簡易判別(臭い・割れ方・沈降法など):中部電力:油膜と鉄バクテリアの判別方法(現場判別の具体策)
農業の取水口での注意喚起:枕崎市:水路や河川に見られる茶褐色の沈殿物や油膜のようなもの(見分け方)
鉄バクテリア集積物とリン吸着の研究:KAKEN:自然水域の鉄バクテリア集積物はリン吸着能を持つ(研究成果報告書)

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